マイホームの売却を行った際に受けられる税制上の控除の中に、「居住用財産の3,000万円特別控除」があります。住宅の売却が初めての人は見逃してしまいがちですが、支払う税額を大幅に抑えられるのでとても重要な特例です。
ここからは、居住用財産の3,000万円特別控除がどのような制度なのか解説します。適用要件や計算方法についても紹介するので、マイホームの売却を考えている人はチェックしておきましょう。
不動産を売却した際には、発生した譲渡所得に対して税金を支払わなくてはなりません。譲渡所得によって税額は変わりますが、いずれにしても大きな負担になります。居住用財産の3,000万円特別控除が適用されれば、譲渡所得額から最高3,000万円を控除することが可能です。
ただし、居住用財産の3,000万円特別控除は全ての不動産売却で適用されるわけではありません。居住用の不動産の売却でのみ適用されます。
居住用財産の3,000万円特別控除の適用要件は以下のとおりです。
【居住用財産の3,000万円特別控除の適用要件】
適用要件は決して少なくありませんが、一般の人が自分の住んでいた家を売却する場合はほとんどクリアできます。ただし、数年以内に住宅系の特例を受けている場合は注意しましょう。
譲渡税を安くするために重要な居住用財産の3,000万円特別控除ですが、適用できない場合もあります。具体的には以下の2つのパターンです。
【居住用財産の3,000万円特別控除を適用できない場合】
居住用財産の3,000万円特別控除の適用・非適用によって、支払わなければならない税額に大きな差が出るため、住宅の売却の予定がある人は必ずチェックしておきましょう。
居住用財産を譲渡した個人と購入者が特別な関係にある場合、居住用財産の3,000万円特別控除は適用されません。特別な関係と聞くと曖昧でわかりにくいですが、具体的には以下のような場合が該当します。
【特別な関係の具体例】
特別な関係に当てはまるかどうかは、譲渡した時の状況で判断されます。
住宅の売却では多くの特例が用意されていますが、その全てが併用できるわけではありません。他の特例の適用を受けている場合、居住用財産の3,000万円控除の対象外となることがほとんどです。具体的には以下のような特例を受けている場合に対象外となります。
【居住用財産の3,000万円控除と併用できない特例】
ここからは、居住用財産の3,000万円特別控除の手続きについて詳しく解説します。手続きの際に注意するのは以下の2つのポイントです。
【手続きの際の注意ポイント】
それぞれ具体的に解説するのでぜひ参考にしてください。
居住用財産の3,000万円特別控除の申請期間は、不動産を売却した翌年の2月16日~3月15日の間です。確定申告として申請をすることで特別控除を受けることができます。
また、譲渡所得は分離課税に該当するため、年末調整などと合わせて控除を受けることはできません。別で確定申告をする必要があり、3,000万円控除を受けて納税額が0円になる場合でも申告は必須なので注意してください。
家を売却した人が居住用財産の3,000万円特別控除を受ける場合、以下の書類が必要となります。
また、売買契約の締結日の前日の時点で、物件の住所と住民票に記載されている住所が異なる場合は、住んでいたことを証明する書類が別途必要です。
居住用財産の3,000万円特別控除の対象になるかどうかはパターンによって異なります。よくある以下の7つのパターンについて紹介するので、自分に当てはまるかチェックしておきましょう。
【不動産譲渡のよくあるパターン】
空き家を譲渡する場合は、その物件がなぜ空きになったのかが重要なポイントとなります。個人的理由による引越し・災害が原因の場合は、その住宅に住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却していれば3,000万円控除の対象です。この時期を過ぎると対象外となるので売る時期には注意しましょう。
相続によって空き家を取得した場合は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却したものが該当となります。相続の場合にはその他の条件もあるため、後の項で詳しくみていきましょう。
居住用財産の3,000万円特別控除は、物件を他人に貸していた場合でも一定期間受けることができます。その期限は、所有者が住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までです。
「将来的に売却するけど、一旦は賃貸として貸出したい」という場合は、この時期を過ぎないように定期借家契約を締結するなどの工夫をしましょう。人に貸していて誰かが住んでいても所有者が3年以内に住んでいなければ意味がないので十分注意してください。
住宅の一部を賃貸として貸出していた場合は、居住用として使用しているスペースの売却益にのみ3,000万円の特別控除を受けることができます。
例えば、売却益が4,000万円で居住スペースが60%・賃貸スペースが40%の場合、売却益のうち2,400万円のみが3,000万円控除の対象になるので、居住用部分に対して税金はかかりません。しかし、賃貸スペースである1,600万円分の売却益に対しては税金がかかります。
店舗併用住宅の場合も、居住スペースのみが3,000万円特別控除の対象です。売却時には店舗と居住の空間を分けて売却金額が決まるわけではないため、利用面積の比率によって居住用の価格を出しましょう。
また、店舗の面積が少なく全体の10%に満たない場合は、全て居住用スペースとして特例を受けることが可能です。間取り図などを参考に広さを出して計算してみてください。
相続によって所有者となった場合は、以下の条件を満たす必要があります。
【相続で所有者になった場合の条件】
上記のように、相続の場合は細かい条件が設けられています。空き家になってから売却すると3,000万円控除の対象にならないので、相続したらすぐに行動しましょう。
物件の所有者が亡くなり、その相続人が老人ホームに入所している場合は特別控除が受けられないことがあります。例えば夫婦で老人ホームに入所しており、所有者である夫が先に亡くなりマイホームを売却する場合だと、相続の後に一度居住しなくてはなりません。
老人ホームに入所したまま不動産を売却してしまうと、居住していないので3,000万円の控除を受けることは不可能です。ただし、配偶者の税額軽減などもあるため、3,000万円の控除を受けるために一度居住することが必ずしも正解とは言えません。
売却する土地・建物を複数人で共有している場合は、その持ち分の割合によって譲渡益が計算され、1人につき3,000万円の控除を受けることが可能です。
例えば、夫婦で共有している物件の売却益が5,000万円で、その持ち分が夫60%・妻40%の場合は以下のように計算します。
譲渡益5000万円×60%-特別控除3,000万円=課税される譲渡所得金額0円
譲渡益5000万円×40%-特別控除3,000万円=課税される譲渡所得金額0円
夫婦2人とも3,000万円の控除が受けられるため、1人で所有している時よりもお得になるのが特徴です。
居住用財産の3,000万円控除は「10年超所有の軽減税率の特例」との併用が可能です。10年超所有の軽減税率が適用されない場合は、所得税と住民税は以下のように計算されます。
10年超所有の軽減税率が適用されると、譲渡益のうち6,000万円までの所得税率が10%・住民税率が4%になります。
3,000万円の特別控除は、この軽減税率と併用できるので、課税対象になる譲渡益自体を少なくすることが可能です。 ただし、売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないことが条件になるので注意してください。
居住用財産の3,000万円特別控除が適用されることで、支払う税額は大きく異なります。不動産の売却をする人なら、なんとかしてこの特例を受けたいと思うことでしょう。具体的な内容について解説しましたが、まだまだ疑問がある人もいると思います。
ここからは、居住用財産の3,000万円特別控除に関するよくある質問を紹介します。少しでも疑問点をなくしておきましょう。
居住用財産の3,000万円特別控除は、建物の取り壊し後1年以内に売買契約を締結していれば、土地のみでも適用されます。
解体後から1年を超えてしまうと控除の適用外となってしまうため、買主が決まってから古家を解体するという条件をつけるなど、売り方に工夫が必要です。また、その土地を賃貸していない場合のみに適用されるので気をつけましょう。
居住用財産の3,000万円特別控除には以下の書類の添付が必要です。
【居住用財産の3,000万円特別控除に必要な添付書類】
購入時の書類に関しては、なくしてしまっていても控除を受けることが可能です。ただし、購入価格を証明することができないので、売却価格の5%で計算されてしまいます。
今回は、居住用財産の3,000万円特別控除について紹介しました。居住用財産の3,000万円特別控除が適用されると、譲渡所得額から最高3,000万円を控除することが可能で、支払う税額を大きく減らせます。
一生のうちに何度も不動産を売却する人は少なく、この控除の適用を初めて受ける人も多いです。適用条件があるので難しいと感じるかもしれませんが、条件をしっかりと確認して正しく控除を受けましょう。また、できるだけ支払う税額を抑えられるように、利用できる控除を適切に選択してください。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。