不動産の売却には、基本的に以下の4つの税金がかかります。
【不動産売却にかかる税金】
それぞれの税金の役割や支払うタイミングなど、詳しく見ていきましょう。
印紙税は、売買契約時に必要な税金です。不動産契約では売買金額に応じた印紙税がかかり、契約書に収入印紙を貼付する形で支払います。
下記に、売買金額に応じた印紙税額をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
上記の表からもわかるように、印紙税は契約金額によって異なります。具体例を挙げると、売却した不動産の価格が4,000万円であった場合、その印紙税は2万円です。
一般的な不動産であれば、売却額は1,000〜5,000万円なので、印紙税としてかかる費用は2万円前後と見積もっておけば良いでしょう。
なお、2022年5月からは、電子契約が解禁されています。電子契約の場合は、印紙税はかかりません。
次に挙げられる税金は、登録免許税です。登録免許税とは、不動産の所有者を明らかにする登記手続きに発生する税金のことを指します。納めるタイミングは、登記申請時です。
登録免許税の税率は、登記の種類によって異なります。下記に登記の種類ごとの税率をまとめたので、参考にしてください。
上記の表からもわかるように、中古マンションを売却する場合には、評価額の2%の登録免許税が発生します。戸建てを売却する場合には、土地と建物のそれぞれに登録免許税が発生するので、注意しましょう。
最後に挙げられる税金は、所得税と住民税です。これらの税金は譲渡所得税とも呼ばれ、不動産の売却によって利益を得た場合にのみ発生します。
不動産を売却して利益が出なかった場合には支払う必要のない税金なので、覚えておきましょう。
譲渡所得税は、売却の条件によって税率が大きく異なります。譲渡所得税の税率の計算方法については、次の項で詳しく解説していきます。
不動産売却における譲渡所得税の計算方法について解説していきます。譲渡所得税を求めるためには、まず売却価格から不動産の取得費用と売却にかかった経費を差し引いて譲渡所得を算出します。
この算出した譲渡所得に税率をかけることで譲渡所得税が求められます。下記に計算式をまとめたので、参考にしてください。
【譲渡所得の計算式】
譲渡所得=売却価格-取得費用-譲渡費用
【譲渡所得税の計算式】
譲渡所得税=(譲渡所得-特別控除額)×税率
ここからは、それぞれの項目にどのような意味があるのか詳しく解説していきます。
売却価格はその名の通り、売却した不動産が売れた際の金額のことです。つまり、6,000万円で売れた不動産の売却価格は6,000万円ということになります。
売却価格は、正式には譲渡価格と呼ばれます。
取得費用は、売却した不動産を取得した際にかかった費用のことです。具体的には、以下の項目が取得費用に含まれます。
【取得費用に含まれる項目】
相続した不動産などで取得費用が不明な場合には、譲渡価格の5%が概算取得費用となります。
また、不動産が建物の場合は、「減価償却」について考える必要があります。下記の計算式を使って減価償却費を求め、取得費用の合計金額から差し引きましょう。
【減価償却費の計算式】
減価償却費=取得費用×0.9×償却率×経過年数
償却率は、建物の構造によって異なります。下記に、構造ごとの償却率をまとめたので、参考にしてください。
譲渡費用は、不動産売却にかかった費用のことです。具体的には、下記のような費用を指します。
【譲渡費用に含まれる項目】
売却した不動産が貸家の場合には、売却に伴い発生した立退料も譲渡費用として計上できます。
特別控除額とは、国が定めている特例の条件を満たすことで、譲渡所得から控除できる額のことを言います。代表的な特例として、マイホームの3,000万円特別控除などが挙げられるでしょう。
特別控除の特例については次の項で詳しく解説しているので、そちらを参考にしてください。
譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有期間によって異なります。下記に、所有期間に応じた税率をまとめたので参考にしてください。
ここで言う所有期間は、売却した年の1月1日の時点で判断されます。例えば、2014年4月1日に購入した不動産を2020年の4月1日に売却した場合、暦の上で計算すると所有期間は丸6年となります。
しかし、2020年の1月1日時点での判断となるので、残念ですがこの場合の所有期間は5年です。
所有期間が5年と6年では税率が大きく異なるため、不動産売却の際には所有年数における税率をしっかりと把握しておきましょう。
不動産売却をおこなう場合、いくつかの要件を満たすと、以下の譲渡所得の特例や特別控除を受けられます。
【譲渡所得の特例・特別控除】
それぞれ詳しく確認していきましょう。
自宅を売却する場合、以下の要件を満たすことで譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。 (注)住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件すべてに当てはまることが必要です。 (イ)その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。 (ロ)家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。 売った年の前年および前々年にこの特例(「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。 売った年、その前年および前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと。 売った家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
(引用:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」)
この控除は、不動産の所有期間に左右されません。所有期間が短期間でも適用できるので、ぜひ利用しましょう。
マイホームを売ったときの軽減税率の特例は、所有期間が10年を超える自宅を売却した方を対象とした特例です。条件を満たせば、譲渡所得の6,000万円以下の部分の税率が14.21%まで軽減できます。
条件の詳細は、以下の通りです。
日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。また、これらの家屋が災害により滅失した場合には、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。 (注)住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の3つの要件すべてに当てはまることが必要です。 (イ)取り壊された家屋およびその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。 (ロ)その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。 (ハ)家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。 売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること。 売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと。 売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと。ただし、マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます。 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと。
(引用:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」)
以上の5つの条件をすべて満たすと、軽減税率の特例が受けられます。また、この特例はマイホームを売ったときの特例とも併用して利用可能です。
相続で譲り受けた空き家の場合でも、条件を満たすことで最大3,000万円の控除が可能です。下記に条件をまとめたので、ご確認ください。
特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるもの(主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります。)をいいます。 (イ)昭和56年5月31日以前に建築されたこと。 (ロ)区分所有建物登記がされている建物でないこと。 (ハ)相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。 なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(以下「従前居住用家屋」といいます。)は被相続人居住用家屋に該当します。 特例の対象となる「被相続人居住用家屋の敷地等」とは、相続の開始の直前(従前居住用家屋の敷地の場合は、被相続人の居住の用に供されなくなる直前)において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地またはその土地の上に存する権利をいいます。
(引用:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)
上記の条件を満たし、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却を完了すると、譲渡所得から最高3,000万円までを控除できます。
土地収用法に認められている公共事業のために土地建物を売却した場合、下記の条件を満たすと最大で5,000万円の譲渡所得の控除ができます。
売った土地建物は固定資産であること。 その年に公共事業のために売った資産の全部について収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用を受けていないこと。 最初に買取等の申出があった日から6か月を経過した日までに土地建物を売っていること。 公共事業の施行者から最初に買取等の申し出を受けた者(その者の死亡に伴い相続または遺贈により当該資産を取得した者を含みます。)が譲渡していること。
(引用:国税庁「No.3552 収容等により土地建物を売ったときの特例」)
最後にご紹介するのは、低未利用土地などを譲渡した場合の特別控除です。この特別控除は、令和2年7月1日から令和4年12月31日までの期間内で個人が一定の条件を満たし、都市計画区域内にある低未利用を譲渡した場合に適用されます。
売った土地等が、都市計画区域内にある低未利用土地等である。 (注)低未利用土地等とは、居住の用、事業の用その他の用途に利用されておらず、またはその利用の程度がその周辺の地域における同一の用途もしくはこれに類する用途に利用されている土地の利用の程度に比し、著しく劣っている土地や当該低未利用土地の上に存する権利のことをいいます。 売った年の1月1日において、所有期間が5年を超えること。 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。特別な関係には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。 売った金額が、低未利用土地等の上にある建物等の対価を含めて500万円以下であること。 売った後に、その低未利用土地等の利用がされること。 この特例の適用を受けようとする低未利用土地等と一筆であった土地から前年または前々年に分筆された土地またはその土地の上に存する権利について、前年または前々年にこの特例の適用を受けていないこと。 売った土地等について、収用等の場合の特別控除や事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど、他の譲渡所得の課税の特例の適用を受けないこと。
(引用:国税庁「No.3226 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」)
上記の条件を満たせば、最大で100万円の譲渡所得が控除されます。
それでは、2つの例を挙げて、不動産売却の税金シミュレーションをおこなっていきましょう。この項では、新築で購入したマンションを売却したケースと、土地を売却したケースの2パターン見ていきます。
それぞれのシミュレーションをご自身が所有する不動産に照らし合わせて、税金を計算する参考にしてください。
以下の条件のマンションを売却した場合のシミュレーションをおこなっていきます。
はじめに、マンションの減価償却費を計算し、現在のマンション価格を算出します。取得費用5,000万円×0.9×償却率0.015×経過年数10年=675万円が償却した費用なので、現在のマンション価格は4,325万円です。
次に、売却価格から取得費用と譲渡費用を差し引いて、譲渡所得を求めていきましょう。上記の場合は、6,000万円-4,325万円-300万円-200万円=1,175万円が譲渡所得となります。
最後に、譲渡所得税を算出していきます。譲渡所得税の計算式は(譲渡所得-特別控除)×税率です。
このマンションの場合は、マイホームの3,000万円特別控除が適用となります。
つまり、(1,175万円-特別控除3,000万円)×長期保有税率20.315%=約-370万円となり、譲渡所得税は発生しないことがわかります。
次に、下記の条件の土地を売却した場合の譲渡所得税を算出していきましょう。
土地の場合は、減価償却の計算の必要はないので、はじめから譲渡所得を計算していきます。2,000万円-1,000万円-100万円-100万円=800万円が譲渡所得です。
これに、長期保有税率20.315%をかけた、162万5,200円が譲渡所得税となります。
最後に、不動産売却における税金に関するよくある質問をまとめました。
【不動産売却における税金に関するよくある質問】
それぞれの税金は納税のタイミングが異なるので、しっかりと把握しておきましょう。下記に、納税のタイミングと納税方法をまとめたので、参考にしてください。
譲渡所得がマイナスの場合、原則として確定申告は必要ありません。しかし、特例を受ける場合には確定申告をおこなう必要があります。
また、不動産売却で損益が出た場合も確定申告をおこなうことで税金を抑えられる可能性があります。ぜひ確定申告を忘れずにおこないましょう。
「マンションの売却だから税金がかからない」ということはありません。マンションでも戸建てでも売却した際に売却益が発生すれば、譲渡所得税が発生します。
また、売却益が出ないケースでも登録免許税はかかります。「マンション売却では税金がかからない」は間違いです。
当記事では、不動産売却における税金について詳しく解説していきました。不動産売却には4種類の税金がかかるので非課税ではありません。また、売却損が発生した場合でも印紙税と登録免許税が必ずかかります。
しかし、特例を利用することにより不動産売却にかかる譲渡所得税を最小限にすることは可能です。税金の計算方法や特例の要件をよく理解し、賢く節税をおこないましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。