マンションを売却するためには、売却時にローンを完済できている状態でなければなりません。これは、マンション購入時に担保として設定されている抵当権を抹消しないとローンを受けている所有者の都合でマンションを売却できないからです。
この「抵当権」とは、金融機関等融資をおこなった人(債権者)がお金を借りた人(債務者)に対して行使できる権利です。債務者が返済不能となった場合を想定して、通常債権者が債務者の土地や建物などを担保とします。ローンが滞り、返済ができなくなった場合、債権者である金融機関は設定されている抵当権を行使するかもしれません。
抵当権を行使することで、金融機関は不動産を差し押さえたり、場合によっては競売(けいばい)にかけたりすることで、貸し付けた金額を回収します。抵当権を抹消されていないマンションは、名義変更ができないため、買い手が見つかっても引き渡しの手続きができません。この場合、マンションの売却益からローン残債を支払うことで、抵当権を抹消する手続きをおこないます。
しかし、必ずしもマンション売却価格がローン残債を上回るとも限りません。
そこで、この章では以下の2ケースごとにローン残債がある場合のマンション売却について解説していきます。
それぞれのケースごとに確認していきましょう。
マンション売却価格がローン残債を上回る場合、マンション売却代金でローン利息を含めた残債の一括返済が可能です。つまり、マンション売却価格でローン残債をゼロにでき、抵当権の抹消および引き渡しが可能になります。
ただし、売却価格が当初マンションを取得した費用に売却にかかった諸費用を加算した金額より大きい場合には、譲渡所得が発生してしまう点には注意しましょう。
譲渡所得とは、以下の計算式で算出されるいわゆる「不動産売却時の儲け」です。
【譲渡所得の計算式】
ローン残債の方が売却価格よりも多い場合にはこの儲けは出ませんが、少ない場合には儲けが発生します。そして、その儲けには所得税を支払う必要があるのです。
この所得税は、譲渡所得に以下の税率を掛け合わせることで計算されます。
【マンション所有期間ごとの税率】
(参考:nta.go.jp)
マンション売却により譲渡所得が発生した場合、確定申告を行い、納税が必要となるので忘れないようにしましょう。確定申告は通常売却した翌年の2月中旬から3月中旬に申告します。
ローン残債をマンションの売却価格が下回る場合、抵当権の抹消が不可能なためマンション売却を売却できません
しかし、次の3つの方法を実行することで抵当権を抹消し、マンション売却が可能です。
【抵当権抹消をしてマンション売却する方法】
マンション売却代金でローン残債がゼロとならない場合、自己資金で差額分を補いローンを完済します。ローンが完済されると抵当権を抹消できるため、マンション売却が可能です。
事前に引き渡し日時点でのローン残債および未払い利息を金融機関に確認し、ローン残債不足分がいくらであるかを把握し、準備する必要があります。
新しいローンに残債分を上乗せして組める「住み替えローン」を活用することも一つの方法となります。このローンを活用して残債の返済をすれば、抵当権の抹消ができ、マンション売却が可能になるのです。
住み替えローンの概要 住み替えローンとは、現在保有しているマンションを売却しても住宅ローンが残る場合において、次に購入するマンションの購入に当てる資金と、現在の住宅ローンを完済するために必要な資金を合わせて借り入れることができるローンのこと。三井住友銀行・みずほ銀行・りそな銀行などの大手銀行などが提供しており、さまざまなプランや条件が用意されている。
たとえば、以下のような条件を見てみましょう。
【住み替えローンの活用例】
この時、住み替えローンを使えば、マンション売却価格からローン残債を差し引いた金額である500万円を新しいローン3,500万円に上乗せした4,000万円を住み替えローンとして組むことができます。
このように住み替えローンを活用することも残債がある場合の対処法の一つです。
ただし、住み替えローンには以下のようなデメリットがあります。
特に、2つ目の審査に関しては、新しい住まい以外の金額がローン元金に上乗せされるため、厳しく見られます。活用する際には事前に以下の要素を確認しておきましょう。
【住み替えローンの審査で考慮されること】
また、マンション売却と新しい住まいの購入とを同時進行しなければいけないため、引っ越しを含めタイトなスケジュールとなることが想定されるでしょう。
マンションのローン残債を支払えない、また新しい住まいのローンの審査をクリアできない場合には、「任意売却」を検討しましょう。「任意売却」とは、ローンを組んでいる銀行などの金融機関から特別な許可を得て、一般市場で不動産を売却する方法です。これにより抵当権を解除してもらえ、ローンが完済できない場合でも不動産の売却が可能になります。
ただし、以下のポイントに注意しましょう。
【任意売却を行う場合のハードル】
上記さえクリアできれば、任意売却金でローン残債が減っているので、毎月の返済金額を抑えることができます。
「競売」との違い 競売とは、ローンが滞った債務者から債権回収が見込めないと判断した債権者である銀行等金融機関が、裁判所に申し立てをおこない、不動産の買取希望者を募集する手法です。 任意売却とは異なり、市場価格より大きく下回る価格(6~7割程度)で強制的に売却するのが一般的です。債権者が競売を申し立てると裁判所は、競売物件として一般公開し、不動産が売却されると債務者である所有者は強制退去を強いられ、明け渡さなければなりません。
「競売」との違い
競売とは、ローンが滞った債務者から債権回収が見込めないと判断した債権者である銀行等金融機関が、裁判所に申し立てをおこない、不動産の買取希望者を募集する手法です。 任意売却とは異なり、市場価格より大きく下回る価格(6~7割程度)で強制的に売却するのが一般的です。債権者が競売を申し立てると裁判所は、競売物件として一般公開し、不動産が売却されると債務者である所有者は強制退去を強いられ、明け渡さなければなりません。
マンションのローン残債を一括返済するには事前に必要な手続きがあります。不動産会社の担当者から連絡があるかもしれませんが、通常、マンション売却は以下の流れでおこないます。
【ローン残債を一括返済する流れ】
それぞれについて解説します。
マンションの売買が決まると、マンション所有者は借入先である金融機関に連絡をします。
この時点では日時の詳細については必要ありません。金融機関も2ヶ月前に連絡があれば、1ヶ月後、所有者に進捗状況を確認する金融機関もあるので、引き渡しが決まれば連絡するのがよいでしょう。
購入者が決定し、引き渡し日が確定すれば、マンション所有者は金融機関に引き渡し日を連絡しましょう。引き渡し日には、マンションのローン残債の一括返済、および抵当権抹消が必要だからです。
抵当権の抹消には、抵当権設定契約書等必要な書類を借入先の銀行等金融機関が準備する必要があります。住宅ローン完済のため、借入先の金融機関は住宅ローンの保証会社に抵当権設定契約書等抵当権抹消に必要な書類を依頼します。
取り寄せるのにおおむね1〜2週間程度かかるのであるため、余裕をもって連絡しましょう。
また、買主が住宅ローンを予定している場合、買主の住宅ローンに伴う抵当権の設定、および売り主の抵当権の抹消を同時におこないます。
住宅ローンは通常、購入する不動産に抵当権等が設定されていないことを条件とされているのが一般的です。引き渡し日が確定すれば、売主は必ずローン利用している金融機関に連絡が必須となります。
引き渡し日を確定することで、売主は借入先の金融機関に、引き渡し日現在の未払い利息を計算してもらい、引き渡し日現在の返済金額を確定させます。
また、ローン完済時において、銀行等金融機関は1~3万円ほどの完済手数料が必要です。最近では、ネットから手続きすると手数料が無料となる金融機関もあるので、早めに確認して手続きをおこないましょう。
引き渡し日当日は通常、売り主の取引金融機関の応接室等の一室で、売主・買主および不動産会社の担当者を交えて売却代金の支払い、およびマンションのローンの返済をおこないます。
買主がローンを組んでマンションを購入する場合、引き渡し日の取引前に買主は取引金融機関でローンを実行し、売主の預金口座に振り込みを完了しているのが一般的です。
売主は振り込まれた資金でローンの残債の完済手続きをおこない、金融機関がローン残債をゼロになったことを確認すると、売主に抵当権設定契約書等の抵当権抹消書類が渡されます。
司法書士に抵当権抹消の手続きを依頼する場合、売主は抵当権設定契約書等の抵当権抹消書類を司法書士に手渡し、抵当権抹消や所有権の移転等登記内容の変更を司法書士に委任します。
ローン残債が残っているマンションを売却する際に知っておくべきことについて解説しました。
マンションを売却するにはローン残債をゼロにする必要があります。マンション購入時に、債権者である銀行等金融機関が設定している抵当権を抹消しないと売却ができないからです。
また、マンション売却金額がローン残債より小さい場合には、以下のいずれかによって対応する必要があります。
【マンション売却金額がローンよりも小さい場合】
この記事を参考に住宅ローン残債があるマンションの売却が問題なくおこなえることを願っています。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。