マンションを相続した際には、以下の手順で売却をおこないます。
それぞれのステップごとに何をすればよいのか、確認していきましょう。
最初におこなうことは、遺産分割協議書を作成することです。遺産分割協議書とは、被相続人の間で財産の分割について話し合い、書面にまとめたものです。
財産を公平にわけて、被相続人が複数いる場合にはトラブルを回避するための重要なステップとなります。このとき、遺言書がある場合には、遺言の指示通りに分割をしましょう。
この遺産分割協議書は証拠として残しておく目的もありますが、相続登記をするステップでも必要になるので、必ず作成しておきます。
遺産分割協議書を作成する際には、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
【遺産分割協議書の作成ポイント3つ】
一般的には、行政書士や司法書士・弁護士などに依頼をしますが、専門知識がある場合には自分で制作することも可能です。
次は、相続登記をおこないます。相続登記とは、相続した不動産の所有者(所有権)を相続人へ変更する手続きです。
この相続登記における注意点は、以下の3つです。
マンションを売却することがすでに決まっている場合にも、相続人に登記を移す必要がある点に注意しましょう。
相続登記をおこなうためには、以下の書類をすべて揃える必要があります。
なお、最初の所有権移転の登記申請書は、法務省のホームページに記載されている「手続き不動産の所有者が亡くなった」のページから入手できます。指示通りに記載をおこなうだけなので、できるだけ早く準備しておきましょう。
相続登記の手続きが完了した後に不動産会社を訪れて、売却の依頼をおこないましょう。
不動産会社では、司法書士を紹介してもらうことも可能です。そのため、先ほどのステップ①と②に関して不安がある場合には、最初から不動産会社に相談しても構いません。
不動産会社に依頼してマンションを売却する流れは、以下の通りです。
この流れ自体は一般的なマンション売却と変わりませんが、念のため依頼する際には不動産会社に相続した旨を伝えておきましょう。書類の準備などでのサポートを受けられる場合があります。
なお、不動産会社は複数社に依頼することをおすすめします。1社だけに依頼した場合、査定額が適正かの判断ができないためです。複数社に依頼をすれば、査定の相場を判断することができ、より高値での売却ができる可能性が上がります。
不動産会社に売却依頼をして、購入者が決まれば、契約を結び、決済と引き渡しをおこないます。契約が成立し、頭金の入金が確認できた時点で売却が完了となります。
なお、マンションに欠陥などがある場合には、引き渡しをする前に購入者に伝えておきましょう。事前に知らせていない場合には、損害賠償を請求される可能性があるので注意してください。
最後に、現金を相続人同士で分割しましょう。
相続人が1人だけの場合には不要なステップですが、複数人いる場合にはステップ1で決めた遺産分割協議書に記載されている通りに分割する必要があります。
ちなみに、この相続したマンション売却で得た現金は、所得税などの税金がかかります。場合によっては確定申告が必要になるので、事前に確認しておきましょう。具体的な税金や売却にかかる費用に関しては、次の章で解説します。
相続したマンションの売却にかかる費用や税金は、以下の通りです。
【相続したマンションの売却にかかる費用】
それぞれ解説していきます。
まずは、マンションを相続する各種手続きにかかる費用からです。具体的には、各種証明書の取得費用のことを指します。これらを司法書士に依頼をする場合には、司法書士への報酬の支払いも必要です。
書類の入手にかかる費用は、1書類あたり数百円なので、合計しても数千円ほどです。
しかし、司法書士に依頼する場合には、おおよそ10万円がかかることを理解しておきましょう。内訳は以下の通りです。
【司法書士に依頼する際の相場】
専門知識や工数がかかることを考慮して、司法書士に依頼するかを決めましょう。
マンションを売却した場合には、さまざまな税金がかかることも把握しておきましょう。具体的な税金は、以下の通りです。
【相続したマンションの売却にかかる税金】
登録免許税とは、法務局で登記簿に土地や建物の所有権を記録する際に国に納める税金のことです。以下のように課税標準額に税率をかけることで金額が算出されます。
【課税標準額の算出方法】
登録免許税 = 課税標準額 × 税率
課税標準額とは固定資産税課税標準額ともいわれ、基本的には市町村役場で管理している固定資産課税台帳に記載されている価額のことです。例外的に掲載されていない場合がありますが、このときは登記官が認定した価額が採用されます。
また、税率は以下のように国税庁によって定められています。
【所有権の移転登記にかかる登録免許税の税率】
相続による中古マンションの登記変更の場合には、相続の税率である0.4%が適用されます。相続を受けたらまず、金額を確認しておきましょう。
印紙税とは、契約書や領収書などの課税対象となる文章に対して課せられる税です。税額は、国税庁のホームページにも記載されていますが、以下のように契約金額によって変わります。
【印紙税の金額一覧表】
(参照:nta.go.jp)
マンションを売却する際の価格に応じて変わるので、事前に把握しておきましょう。
譲渡所得税とは、マンションを売却した際に出た「利益」に対してかかる所得税で、以下の計算式で求められます。
【譲渡所得の計算方法】
それぞれの言葉の定義や指している費用は以下の通りです。
【譲渡所得税の算出に使う用語一覧】
また、譲渡所得にかける税率は不動産の保有年数によって、以下のように変動します。
【譲渡所得の税率】
こちらも売却価格が決まれば算出できる税金なので、事前に想定をしておきましょう。
住民税とは、住んでいる地域(市区町村または都道府県)の行政サービスの活動費に充てる目的で、それぞれの役場に納める税金です。マンション売却時にも住民税を納める必要がありますが、税率は以下のように不動産の保有期間によって変動します。
【住民税の価格】
例えば、相続してすぐ(5年以内)に売却し、譲渡所得が1,000万円だった場合は90万円が住民税として課税されます。
復興特別所得税とは、2011年の東日本大震災の復興に必要な財源の確保を目的とした税金です。その税率は、譲渡所得の0.63%または、0.135%です。
この税率も以下のように物件の保有期間によって変わります。
【復興特別所得税の税率】
相続したマンションを売却する際には、前章で触れた通り費用や税金が課せられます。その負担を少しでも軽くするために、以下のようにさまざまな特例が存在しています。
【活用できる特例】
それぞれについて解説していきます。
相続により取得したマンションの売却時には、一定期間内に売却すると相続税額のうちの一定額を取得費に加算することができます。
そもそも取得費は、所得税の計算において以下のように計算されています。
【譲渡所得税の計算方法】
つまり、「相続税額のうちの一定額を取得費にできる」ということは、譲渡所得税の金額が軽減されるということです。
ただし、以下のように条件があるので注意しましょう。
【相続税を取得費に加算する特例の適用条件】
相続したマンションを売却し、以下の要件に当てはまる場合、譲渡益から最高3,000万円まで控除されます。
【相続した空き家を売却した場合の特別控除の条件】
昭和56年5月31日以前に建築されたこと。 区分所有建物登記がされている建物でないこと。 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
もし、上記の要件に当てはまる場合には、課税所得がゼロになる、つまり譲渡所得税の課税がなくなる可能性もあるのです。
ちなみに、譲渡益が3,000万円に満たない場合の特別控除額は、譲渡益の金額が限度となります。つまり、課税所得がマイナスになることはありません。
最後に相続したマンションを売却しようとしているあなたが注意しておくべきことを解説します。
【相続したマンションの売却時の注意点】
それぞれしっかりと理解し、トラブルを防ぎましょう。
相続したマンションの被相続人が複数人いる場合には、しっかりと話し合いをおこないましょう。十分に話し合ったとしても、不十分であればトラブルの元になってしまいます。
不動産の相続でよくあるトラブルは、以下の通りです。
いずれのトラブルも事前に話していれば避けられるものです。複数人で相続する場合には上記のポイントを押さえて話し合いましょう。
不動産会社で査定をする際には必ず複数社に依頼をしましょう。1社のみだと、相場感がわからず、適正価格での売却ができない可能性もあります。
最低でも3社に査定をしてもらうことで、極端に高い査定や低い査定を避けることができます。
また、近年では、インターネットから複数の不動産会社に対して一括で査定依頼ができるサービスも存在しています。積極的に活用して適正価格での売却を実現しましょう。
契約不適合責任とは購入者が見つかり、契約を交わした後に不動産に関する欠陥(瑕疵)が見つかった場合の売主側の責任のことです。
もしこのような状況になった場合には、金銭での補償をしなくてはいけないケースも存在しています。
そのような責任を回避するためにも、不動産会社の専門家などに依頼をして不動産の調査を念入りにおこなってもらうとよいでしょう。また、瑕疵保険という賠償金の保険も存在しています。万が一のトラブルに備えて入っておきましょう。
今回は、相続したマンションを売却する際に知っておかなければいけない内容についてまとめてきました。
相続したマンションを売却する際には、通常の売却よりも工数やお金がかかります。しかし、この記事の内容をしっかりと頭に入れておけば、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
この記事があなたの不動産売却の参考になることを願っています。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。