自宅を売却したときにかかる税金には、さまざまな種類があります。この章では、必ず発生する税金と、場合によってかかる税金にわけて説明します。
自宅を売却する手続きにおいて、必ず発生する税金は以下2種類あります。
それぞれについて、詳しく解説します。
自宅を売却するには、売買契約書の作成が必要です。この売買契約書の作成にかかる税金を、印紙税といいます。
売買契約書に記載されている金額に応じて、200円~48万円と納める印紙税が異なるので注意してください。
印紙税の納付は、郵便局などで購入できる収入印紙を使います。売却金に応じた収入印紙を売買契約書に貼り付け、税務署に提出すれば納付完了です。なお、電子契約の場合は、不要です。
自宅の売却時、消費税の納税義務がある人を「課税事業者」といいます。納税義務のない個人は「免税事業者」です。
したがって、土地を売却するときと、売却と事業者ではない個人が建物を売却した場合には、消費税が発生しません。しかし、課税事業者である不動産会社から購入した物件には、消費税がかかります。
課税事業者に適用されるには、売上が1,000万円以上などの条件が必要です。経営者やフリーランスの人は、自分が課税事業者なのか、免税事業者なのかを事前に確認しておく必要があります。
ただし、売却する際に不動産会社に払った仲介手数料などには、すべてのケースにおいて消費税がかかる点に注意してください。
自宅の売却には、さまざまなケースがあります。売却時の状況によって発生する税金は、以下の2種類です。
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
抵当権を抹消するために必要な手続きを、抵当権抹消登記といいます。
抵当権とは、住宅ローンを組んだ時に設定される権利です。ローンの返済が滞ったときに、金融機関が不動産の差し押さえができます。
抵当権がついている不動産は、売却できません。売却するためには、ローンを完済する必要があります。または、売却金をローン返済にあてる方法も可能です。
抵当権は、住宅ローンを組んだ人しか抹消できない仕組みですので、抹消する手続きの際に登録免許税がかかります。個人では難しい手続きですので、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
自宅を売却した利益分が、譲渡所得です。売却後におこなう確定申告で、譲渡所得に応じた所得税、住民税、復興特別所得税の納税額が決まります。
ただし、譲渡所得がマイナスの場合は、税金がかかりません。譲渡所得をなくす対策としては、各種の特別控除の活用や、自宅を購入時より安い金額で売る方法があります。
譲渡所得税とは、不動産を売却した際の利益にかかる税金です。この譲渡所得税の計算を通じて、絶税や控除の使い方のポイントがわかります。
【譲渡所得税の計算方法】
計算方法について、順番にみていきましょう。
まずは、自宅の売却で得た利益(譲渡所得)を計算します。
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用) 取得費=土地代+(建物代-減価償却費)
収入金額とは、自宅を売ったときに買い手から受け取った金額です。
減価償却費を差し引いた建物代に、土地代を合わせた金額を取得費といいます。しかし、購入時の書類を紛失したり、相続した家だったりと、購入金額が不明なケースが多いのではないでしょうか。その場合は、収入金額の5%を取得費に設定します。
減価償却費とは、固定資産の価値の低下を使用機関にしたがって見積もった費用です。住宅の種類や築年次によって、金額が設定されています。
譲渡費用とは、家を売却するために直接かかった費用です。不動産会社への仲介手数料や測量費などが該当します。
次に、譲渡取得税を計算します。
譲渡所得税=(譲渡所得-特別控除額)×税率
税率は、不動産の所有期間によって大きく変わります。所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり税率は39.63%です。5年を超える所有は長期譲渡所得では、20.315%の税率が適用されます。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の税額を、以下の表にまとめました。参考にしてください。
<短期譲渡所得の税額早見表>
<長期譲渡所得の税額早見表>
大切な自宅を売却したからには、なるべく税金をかけずに売却金を有効利用したいものです。以下に、自宅売却で発生する税金を抑える方法をまとめました。
それぞれについて、詳しく説明します。
自宅を売却した際に、利益が出た場合は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」が活用できます。この特例は、所有期間の長さに関わらず、譲渡所得から最高3,000万円の控除が受けられる制度です。
特例の適用を受けるには、いくつかの条件があります。
たとえば、5,000万円で購入した家を3,000万円で売却した場合、2,000万円の利益分は譲渡所得であるため、税金が発生します。
しかし、特別控除を利用すれば、3,000万円までの利益分に関しては控除されるので税金がかかりません。売却金を有効活用するためにも、翌年の確定申告での申告が必要です。
住宅ローンを利用して新居を購入する場合、一定の条件を満たしていれば控除を受けられます。
住宅ローン控除とは、年度末の住宅ローン残高の1%が所得税から控除され、還付が受けられる制度です。住宅を購入した翌年から10年間にわたって控除されます。
控除を受けるための条件は、以下の通りです。
購入1年目は確定申告にて適用され、2年目以降は年末調整での申告が可能です。
マイホームの売却時、軽減税率の特例を活用すると、譲渡所得の税率が下がります。譲渡所得が3,000万円を超えた場合、特別控除を適用した残りの金額に、軽減税率をかけられる特例です。
制度の適用には、以下の条件にすべてあてはまる必要があります。
軽減税率の特例を活用すると、税率が大幅に下げられます。長期譲渡所得が6,000万円以下の場合と、それを超える金額で税率の計算方法が異なるので注意してください。
6,000万円以下→長期譲渡所得×10% 6,000万円を超える→(長期譲渡所得-6,000万円)×15%+600万
この特例は、翌年の確定申告で適用でき、3,000万円の特別控除とも併用が可能です。納税で損をしないためにも、売却時の利益の金額をよく考慮しましょう。
自宅を売却する手続きでは、さまざまな税金が発生します。節税に効果的な特別控除や、正しい計算方法について知っておくと役立つのではないでしょうか。
自宅売却で発生する税金についての注意点は、以下の通りです。
それぞれの注意点について、詳しく見ていきましょう。
自宅を購入してから長期間経っていたり、相続した家だったりすると、不動産の取得費用が不明なケースは少なくありません。売買契約書が残っていないと、取得費用を確認するのは困難です。
このようなケースでは、自宅の売却金額の5%を取得費として計算できます。たとえば、4,000万円で自宅を売った場合、取得費は200万円です。
取得費が不明な場合は、計算方法が異なると覚えておきましょう。
自宅を売却した際に活用できる特例の中には、住宅ローン控除と併用できない種類があります。併用できない特例は、以下の通りです。
住宅ローンを組んで新居を購入した場合、入居の前々年〜翌々年に譲渡所得の控除を適用すると、住宅ローン控除は受けられません。
一般的には、10年と長期間にわたる住宅ローン控除のほうが、節税効果が期待できます。しかし、特例や控除を活用する判断は、とても難しいものです。迷ったときは、税理士などの専門家に相談するのをおすすめします。
自宅の売却には、税金以外にも費用がかかります。売却するまでの手続きは非常に煩雑で、個人では難しい作業も含まれているためです。
たとえば、不動産会社に支払う仲介手数料の支払いがあります。仲介手数料の上限は法律で決められており、計算式は以下の通りです。
仲介手数料の上限=売却金額の3%+6万円+消費税
さらに、抵当権の抹消や登記など、個人でするのが難しい手続きは、司法書士に依頼するのが一般的です。その際の報酬も費用に含まれます。
自宅の売却には、税金だけでなく他の費用もかかることに注意しましょう。
なお、400万円以下の売買価格の場合には、売主側から最大で18万円受け取ることができるようになりました。
自宅の売却で利益が出た際は、確定申告の必要があります。
なぜなら、所得税と住民税の納付義務を果たす必要があるためです。不動産を売却した際の利益は、譲渡所得として計上し納税金額を算出します。
さまざまな特別控除の特例を活用するためにも、確定申告は必要です。特例を使用すると、譲渡所得にかかる税金が節約でき、利益が増えるメリットがあります。
たとえば、譲渡所得が2,000万円あった場合、3,000万円の特別控除を活用すれば、所得がなくなり税金は発生しません。自宅の売却で利益が出た場合は、確定申告を忘れないようにしましょう。
自宅の売却額より、新居の購入額が多くなった場合、一定の要件を満たせば、売却による損失を給与所得などから控除できます。そのため、確定申告をすれば還付金が受け取れるかもしれません。
この特例を「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といいます。ただし、2023年12月31日までが期限です。
マイホームであることや、5年以上の所有期間などの条件があります。
この記事では、自宅売却で発生する税金や計算方法、節税対策や注意点について解説しました。
自宅売却にかかわる税金について知ることで、どのくらいの納税額が必要か、だいたいの目安がついたのではないでしょうか。計算方法や条件などは確かに複雑ですが、正しい手続きを踏めば、かなりの節税効果が期待できます。
税金に対する不安を減らし、気持ちよく自宅の売却をすすめましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。