不動産売却益は、売って得たお金からさまざまな支出金を差し引いて残った金額のことを指します。売却し収益として入ってきたお金には税金が課せられます。この税金は「分離税」といい、給与所得などとは別に計算されるというのが特徴です。
また、税金以外にも売却するために必要な費用や購入時にかかった金額なども引かれるため、売却して得たお金がすべて収入として手元に残るわけではありません。
よく「不動産売却益が出た場合にのみ確定申告をすれば良い」と考えている人もいますが、そんなことはありません。売却益がない場合でも損益通算によって節税対策につながることがあります。
具体的には以下の2つの特例が使える可能性があるのです。
【譲渡損失が出た場合に使える特例】
それぞれの適用条件に合致している場合には節税に繋がるので、確定申告をしておきましょう。
【譲渡損失が出た場合の特例詳細】
不動産売却益を計算するためには、不動産の売却価格、さらにそれぞれ引かれる費用について正しく把握する必要があります。
まずは、ここでお伝えする内容を確認し、不動産売却益を計算するための情報を深く理解しておきましょう。
売却価格は、実際に不動産が売れ、支払われた金額を指します。
不動産の価格には、上記のようにさまざまな種類があるため、それぞれを正しく認識し誤りがないように注意してください。
売却価格から引かれる費用の1つが、この「取得費」です。取得費とは、売却する不動産を購入した際にかかった金額で、下記のようにいろいろな費用が合計されたものを指します。
その他、購入時にかかった費用がすべて取得費となりますので、すべて合算していくらになるのかを明確にしておきましょう。
不動産の取得費を考える際には減価償却費についても理解しておく必要があります。
減価償却とは、取得費(購入金額)を一定年数に分けて、毎年の経費として計上するための計算方法のことです。不動産を売却した際には、物件の法定耐用年数を基準に減価償却費を必要経費とすることが認められています。
これにより、譲渡所得を抑えることができるのです。
なお、土地は減価償却費として計上できないことには注意しましょう。
減価償却は、以下の計算式で算出されます。
【減価償却費の計算方法】
減価償却費=建物の購入価格×0.9×償却率×経過年数
この時の償却率は、以下の通り建物の構造や耐用年数によって変わってきます。
【償却率の一覧】
引用:nta.go.jp
建物の構造や耐用年数はあらかじめ確認できるので、確定申告前に計算しておくことをおすすめします。
購入した際にかかった取得費用とは逆に、譲渡費用とは不動産の売却時にかかった金額です。
上記が、主な譲渡費用の内訳です。取得費とともに、売るためにかかった費用の合計を出して売却価格から差し引くことで売却益が出ます。
課税対象となる譲渡所得から引くことができる金額を、控除金額といいます。課税される所得税は売上の大きさにより異なるため、不動産売却益が低いほど課税額も少なくなるのがポイントです。
定められた要件を満たすことで控除が受けられる特例がありますが、勝手に適応されることはないため注意しておきましょう。特例を活用するためには確定申告で申請しなければいけません。
不動産売却益には税金が課税されます。課税対象となるのは、上記でお伝えした売却価格からさまざまな費用を差し引いて出します。計算式は、以下の通りです。
売却価格(買主が支払った金額)-(所得費+譲渡費用)-控除金額
上記計算して算出された売却益にかかる税金は、所得税と住民税があります。譲渡所得税に関する情報をはじめ、その計算方法や税率などについて理解しておきましょう。
譲渡所得税は、以下の3種類にわけられます。
復興特別所得税は、2037年12月31日までに支払うべき税金で、所得税額は2.1%となります。また、譲渡所得税は2つに分類されます。それぞれを下記で詳しくお伝えします。
不動産売却の時点で、所有期間が5年未満の場合「短期譲渡所得税」が課税されます。5年以上の所有期間となった場合は、短期譲渡所得税の課税はありません。
所有期間が5年以上の場合、長期譲渡所得税が課税されます。
この2つは保有期間によってどちらが課税されるか異なるのが特徴です。
譲渡所得税の計算式は、下記の通りです。
このように、短期譲渡所得税のほうが、税率が高く、長期譲渡所得税のほうが低いのがポイントです。
上記でお伝えしているように、5年以内の所有期間、5年以上の所有期間のどちらかで税率は異なります。短期譲渡所得税では、住民税が9%、住民税と復興特別所得税で30.63%かかります。長期譲渡所得税の場合、住民税が5%、住民税と復興特別所得税が15.315です。
少しでも税率を低くしたい場合、保有期間が5年以上となった際に検討することをおすすめします。住民税、所得税は必ず課税される税金となるため、どちらの税率が適応されるのか事前に調べておきましょう。
税金がかかる不動産売却益ですが、税金を抑える特例・控除は、以下の4つが挙げられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
売却する不動産が居住していたマイホームであれば、最大で3,000万円の特別控除が受けられます。まずは下記の計算式をして、算出された3,000万円に満たない場合、その金額分が控除される特例です。
売却価格-(取得費+譲渡費用)
今現在住んでいない場合でも適用対象となりますが、住まなくなってから3年経過する12月31日までに売却しなければいけないという期限があるため注意が必要です。
上記のようなケースは、3,000万円の特別控除が受けられません。細かな要件などをしっかりと確認し、適応されるかどうかチェックしておきましょう。
売却年の1月1日の時点で保有期間が10年を超えている不動産であれば、先ほど紹介した長期譲渡所得の税率をさらに下げられます。
課税長期譲渡所得金額は、下記の計算式で求められます。
売却金額-(所得費+譲渡費用)-特別控除
また、ここで適用される税率でも、2037年までは住民税とあわせて復興特別所得税の2.1%を納税する必要があるため、注意しておきましょう。また、軽減税率の特例は先にお伝えした3,000万円の特別控除と併用が可能です。3,000万円を控除しても譲渡所得が0にならなければ申請しておきましょう。
相続しても、住む予定がなければそのまま空き家となってしまいます。管理が難しかったり、所有していても意味がなかったりする場合は、売却を検討する方も多く、その際に利用可能となる特例控除です。
相続が始まった日から3年が経過する日が属する年の12月31日までに売却が成立すれば、売却益から最大で3,000万円が控除されます。
主な要件は、上記の通りです。他にもさまざまな要件があります。空き家の売却を検討している方は一度詳しくチェックしてみてください。
マイホームを売却して新たに買い換える場合には、売却益にかかる税金を、新居を売却するまで繰延できる制度があります。それが「マイホームの買い替え特例」であり、新居を売却して譲渡益があがるまで支払いをしなくてよいため、積極的に活用したい特例です。
なお、以下の条件があるので注意しましょう。
【マイホームの買い替え特例の条件】
ここまでで紹介した特例や控除を利用した場合の譲渡所得のシミュレーションを確認しておきましょう。ここでは、以下の条件で売却したこととします。
【条件】
所有期間15年の居住用財産を売却 売却価格2億円 取得費7,000万円 譲渡費用500万円
この条件の場合、「3,000万円の特別控除の特例」と「居住用財産の軽減税率の特例」が利用できるため、以下の通りの税額となります。
【計算式】
譲渡益:2億円-(7,000万円+500万円)-3,000万円=9,500万円 所得税:6,000万円×10.21%+(9,500万円-6,000万円)×15.315%=1,148.625万円 住民税:6,000万円×4%+(9,500万円-6,000万円)×5%=415万円
特例や控除を活用して、節税対策をしましょう。
不動産売却した場合、譲渡所得は分離税となるため確定申告をする必要があります。ここで、不動産売却益における確定申告の時期ややり方などについて詳しくお伝えします。確定申告を忘れてしまうと、後々税務署から通知がきて、遅延金を支払わなければいけなくなることもあるため、なるべく早く済ませておくようにしてください。
上記3つの流れをそれぞれ詳しく解説しますので、しっかりと把握しておきましょう。
確定申告は、売却が成立した翌年の期限内におこないます。たとえば、2022年12月31日に売却した場合、確定申告の期限は2023年、2023年中に売却であれば、2024年の確定申告となります。確定申告の期限は毎年2月16日から3月15日です。
曜日や祝日の関係から若干ずれることもありますが、基本的にはこの日付となるため、忘れないようにしてください。もしも納付時期を過ぎてしまった場合、遅延金が課せられて税負担が大きくなってしまうケースもあるため、必ず確定申告の期限内に手続きしておきましょう。
確定申告にはさまざまな方法があり、期限内に完了できるのであれば、どれを選んでも構いません。主な方法は、以下の通りです。
また、確定申告の時期は税務署などで相談会を実施していることもあります。無料で話を聞けるため、書類の作成だけでなく、確定申告に関する疑問点などがあれば、一度相談してみましょう。
税金は複数の方法で支払いができます。好きな方法で支払いが可能なため、以下から選んでください。
クレジットカードでの支払いを選択すると、クレジットカードのポイントも貯めることが可能です。
不動産売却益に関する質問はいろいろありますが、そのなかでも特によくある質問をピックアップしました。それぞれの内容を正しく把握し、より不動産売却益について深く理解していきましょう。
相続した物件は、不動産を購入した際にかかった取得費で利益を計算します。譲り受けた不動産を相続した人が売却する場合には、その不動産を購入した際の費用に対して、どの程度の利益が出たかによって計算されます。
そのため、被相続人に取得費用について詳しく聞いておきましょう。
相続物件の場合、代々受け継いできた不動産などは取得費用(購入金額)がわからない場合もあるでしょう。そのようなケースでは、売却金額の5%を取得費用として計算します。
たとえば、3,000万円で売却した不動産の取得費用が分からないときには、5%である150万円を取得費用として計算可能です。
中古物件の売却益は、取得費用に対する利益で計算します。
上記のような流れの場合、2,500万円から2,000万円を引き、残りの500万円が売却益となります。
仕事の都合で海外に転勤となるなど、急に日本を離れてしまうこともあります。このような場合、国内における税金は一部抹消することが可能となり、納付する必要がなくなります。
しかし、不動産売却益の場合は譲渡所得の税金は抹消されずに残るため、納付しなければいけません。海外に住んでいる場合でも納税は必須となるため、必ず忘れないように注意しておきましょう。
法人と個人では売却益の求め方に違いがあります。法人の場合には個人のように売却益が給与とは別計算されるわけではありません。ほかの事業の経費や損失などと合算することとなります。
そのため、売却益を抑えることにつながり、結果として譲渡所得税の節税につながる可能性があります。
売却益が増えれば、当然税額も増えていくので、その点では法人の方が有利といえるでしょう。
売却益に消費税はかかります。しかし、それは建物の売却価格だけに対してです。つまり、土地には消費税がかからないのです。
土地だけを売却して売却益が発生した場合には、消費税の心配は必要ありません。
本記事では、不動産売却益についてのさまざまな情報をお伝えしました。かかる税金や税率はもちろん、どうすれば税額を低くしてお得に売却益を得られるのか、「相続物件の取得費用がわからない」「海外在住の売却益」などの疑問を解消できるよう、本記事で紹介している情報をぜひ参考にしてください。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。