【離婚時の不動産売却ガイド!】ローンの有無で異なる売却の流れとコツを解説

【離婚時の不動産売却ガイド!】ローンの有無で異なる売却の流れとコツを解説

「離婚したら、住んでいる家の処分はどうなるのか」「離婚しても、今の家に住み続けられるのか」「離婚後の住宅ローンの返済は誰がするのか」など、離婚後の家についてさまざまな疑問を持っている人もいることでしょう。

離婚しても生活をしていくために、財産分与の問題は気になる大切な問題です。特に、持ち家など不動産の問題は複雑なので、慎重に検討しなければなりません。

今回は、離婚時の不動産売却について解説します。住宅ローンの有無によって変わる対処法についても説明しますので、最後までお読みください。

不動産は離婚時に財産分与の対象となる

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結婚後に購入した不動産は、離婚時の財産分与の対象となります。そもそも不動産に限らずに以下のような資産はすべて財産分与の対象です。

【離婚時に財産分与の対象となる資産】

  • 現金
  • 預貯金
  • 有価証券
  • 自動車
  • 不動産
  • 年金
  • 退職金
  • 生命保険解約返戻金

ただし、上記のいずれも結婚前から持っていた財産は、対象外となる点には注意が必要です。

財産分与では、別れた夫婦のどちらの所有資産かを明確にし、ときには現金に変えてわけ与えます。どちらがローンを払ったかではなく、婚姻中の財産についての手続きです。「旦那が住宅ローンを払ったから旦那のもの」ではなく、「どちらのものか、あるいは折半するのか」を明確にする必要があるのです。

ここでは、財産分与の具体的な種類と不動産の分与方法について解説します。

財産分与の種類

財産分与には、以下の通り4種類存在しています。

【財産分与の種類】

清算的財産分与 婚姻中に形成した財産を分配すること
扶養的財産分与 他方の配偶者に生活保障の趣旨で財産を分配すること
慰謝料的財産分与 他方の配偶者に慰謝料の趣旨で財産を分配すること
過去の婚姻費用の清算としての財産分与 他方の配偶者が未払いとなっている婚姻中の生活費を分配すること

通常、「財産分与」は、2人で均等に分ける清算的財産分与を指します。しかし、慰謝料が発生する場合やどちらかに十分な収入がない場合には、財産分与の方式を変える必要が出てきます。

財産分与の種類によって分配する割合が変わる可能性があるので、離婚時にはしっかりと確認しておきましょう。「離婚するだけで精神的に疲弊しているため、話をするのも嫌」というケースもありますが、大切な財産の話です。2人で、しっかりと協議する必要があるのです。

不動産を財産分与する方法

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不動産は他の財産分与の対象となる資産とは違い、分割することが困難な資産です。話し合いで、夫婦どちらのものかが明確となればそれで良いですが、「この不動産は双方のものだから」分ける、となると現金のように簡単にはいきません。

そこで、双方のものであるとなり、分けるとなれば、以下の3つの方法のいずれかにて財産分与をおこないます。

【財産の分与方法】

分与方法 メリット デメリット
不動産を売却して分ける 不動産を現金化して分けるのでわかりやすい 住み慣れた家に住み続けられない
どちらか片方が、半額なりを出して、買い取る そのまま住み続けられる まとまった資金が必要
不動産をもらう代わりに他の財産を渡す 売却が不要で、資産価値が下落しない 分与分をまかなえない場合あり

これら3種類の方法について、順に解説していきます。

不動産を売却する

不動産を財産分与する方法として、最も簡単でトラブルが少ないのは、不動産そのものを売却して現金化することです。

一筆の不動産を分割するのは物理的に難しい場合がある一方、複数の不動産を分与するにも資産価値や好みにより困難が生じる場合があります。

このような場合は、不動産を現金化して2人で分けるほうがわかりやすいです。

ただし、不動産を売却してしまうと住み慣れた家に住めなくなります。引き続き住みたい方には向いていない点には注意しましょう。

どちらか片方が買い取る

住み慣れた家に引き続き住みたい場合には、相手の持ち分をどちらかが買い取る方法があります。

他人に売却する必要がないので、売買までの時間が不要で、一方がそのまま住み続けられるのがメリットです。

ただし、買取にはまとまった現金が必要なので、十分な資金を用意する必要があります。

資金を用意するには、新たな融資を受けたり、預貯金の取り崩しや有価証券の売却などしたりする方法が考えられるでしょう。

不動産をもらう代わりに他の財産を渡す

住んでいる家をもらう代わりに、相手に他の財産を渡す方法も考えられます。

不動産をもらう際には、相手の持ち分の資産価値を算出して分与に見合うほかの財産を渡さなければなりません。不動産を複数所有している場合や、不動産以外にすぐに渡せる財産がある場合に活用できる方法です。

この場合は、住んでいる家を急いで売却する必要がないので、時間の手間が省け、資産価値の下落も防げます。

ただし、分与分に相当する適当な財産が不足する場合には、現金などでまかなう必要があるかもしれません。

離婚時の不動産売却の流れ

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この章では、離婚時の不動産売却の流れについて説明していきます。

【離婚時の不動産売却の流れ】

  1. 不動産の名義確認
  2. ローンの名義確認
  3. 不動産の価値とローン残債を確認
  4. 財産の分配方法を検討
  5. 公正証書を作成

事前に全体の流れを知って、スムーズな売却をおこないましょう。

不動産の名義確認

不動産を売却する際には、不動産の名義を必ず確認しましょう。不動産の名義は、法務局で取得できる「全部事項証明書」で確認できます。

売却する不動産が夫婦の名義になっている・第三者の名義が含まれる場合は、共有名義人全員分の同意を得なければなりません。

また、土地の所有者と家屋の所有者が異なる場合もあるため、注意が必要です。

「夫の名義で買った」が、「財産分与で妻に家は渡すことになった」という場合は、当然、名義変更が必要となります。

ローンの名義確認

不動産の名義を確認したら、住宅ローンの名義人も併せて確認しておきましょう。誰が名義人になっているか不明瞭な場合は、売却前に一度はっきりさせておかなければなりません。

ローンの名義人は、ローン借り入れ時の契約書などで確認できます。夫婦でペアローンを組んでいたり、連帯債務や連帯保証でローンを組んでいたりする場合は、離婚後も返済義務が継続されるため、注意が必要です。

不動産の価値とローン残債を確認

不動産を売却する前に、不動産の価値とローン残高を確認しておきましょう。不動産価値が判明したら、住宅ローンの残高と比較し、ローン完済可能かどうかチェックしておく必要があります。

不動産の価値を確かめるには、不動産会社に査定を依頼するのが良いでしょう。無料で査定してくれる業者もあるので、可能であれば複数業者に査定してもらう「相見積もり」をとるようにしてください。

見積もり金額を比較することで相場感が把握できるので、売りたい不動産のおおまかな価値を確認できます。

財産の分配方法を検討

財産の分配方法は、「住宅ローンが完済できるかどうか」によって左右されます。以下は、不動産の価値とローン残債の関係を比較したものです。

【不動産の価値とローン残債の関係】

種類 関係 財産分与
アンダーローン 不動産価値>ローン残債 対象となる
オーバーローン 不動産価値<ローン残債 対象とならない

不動産の価値よりもローン残債が大きい「オーバーローン」の場合は、不動産を売却してもローンを完済できません。ローンを完済できないと、財産分与の対象とならないので注意が必要です。

そのため、財産分与の目的で不動産を売却する場合は、まずローン完済を目的にしなければなりません

不動産の売却益でも完済できないケースでは、自己資金でまかなうなどの対策が必須です。

公正証書を作成

離婚時に財産分与をおこなう際は、離婚協議書を作成してください。

離婚協議書の作成義務はありませんが、相手側からの支払いが滞るなどのトラブルが発生した場合に証拠にできるメリットがあります。

また、離婚協議書は、法的に有効な書類である「公正証書」です。もし裁判所に訴えて強制執行する際には、公正証書があるとスムーズに手続きできます。

のちのトラブルで不利にならないよう、協議内容は公正証書に残しておくべきです。

不動産を売却

不動産の売却には、それなりの時間が必要です。スムーズに進行できるよう、売却の流れを把握しておきましょう。「仲介」で売却する際の流れは、次の通りです。

【不動産を仲介で売却する流れ】

  1. 不動産会社に査定を依頼
  2. 売却を依頼する不動産会社を決定
  3. 媒介契約の締結
  4. 販売活動
  5. 売買契約の締結
  6. 代金の決済と不動産の引き渡し
  7. 事前に決めた財産分与の方法で分配
  8. 確定申告

なお、不動産の売却方法は「仲介」だけではありません。不動産会社へ直接買い取ってもらう「買取」という方法もあります。仲介と買取の違いは、以下の通りです。

【仲介と買取の違い】

仲介 買取
内容 不動産会社に依頼して買い手を見つける 不動産会社に直接買い取ってもらう
メリット 相場に近い価格で売却できる 売却までの時間がかからない
デメリット 買い手を見つける時間がかかる 売却価格は相場の7割程度

それぞれメリットとデメリットがあるので、状況に応じて使い分けましょう。

離婚時に住宅ローンが残っている場合の対処法

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まず、不動産会社に見積もりを依頼し、売却価格で住宅ローンが完済できるかを確認しましょう。

不動産の売却金額で完済が難しそうな場合は、別途借り入れをおこなうなどして資金不足を補う必要があります。返済資金が調達できなければ、原則として不動産の売却はできません。

ただし、どうしても売却しなければならない場合は、ローンを組んだ金融機関と相談して「任意売却」をおこなう方法も選択できます。任意売却が認められれば、不動産売却後もローン残債を計画的に返済し続けていくことになるでしょう。

しかし、任意売却は、売却後も金銭的負担が残り、信用情報にも傷がつく可能性が高い方法です。「本当におこなう必要があるかどうか」は、不動産会社と相談しながら慎重に判断しましょう。

離婚時の不動産売却の注意点

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離婚時の不動産売却に失敗しないためには、以下のポイントを押さえておく必要があるでしょう。

【離婚時の不動産売却の注意点】

  • 財産分与のタイミングは離婚後
  • 財産分与の請求は離婚から2年が期限
  • ペアローンや連帯保証になっているケース
  • 離婚前に住宅ローンの完済をしておく
  • 名義人の確認と同意をしておく

上記の注意点についてそれぞれ理解しておかないと、思いがけないトラブルに発展してしまう可能性もあります。

また、よく考えずに不動産売却をしてしまうと、後悔することになるかもしれません。事前に対処法について把握しておくと安心です。

財産分与のタイミングは離婚後

売却のタイミングは、大きく離婚前と離婚後に分かれます。

【離婚前と離婚後の違い】

離婚前に売却すべきケース 離婚後に売却すべきケース
  • 早く離婚したい
  • 離婚後に連絡を取りたくない
  • 安くなってもいいから早く財産分与したい
  • 離婚するまでまだ時間がある
  • 離婚後に連絡を取ることに抵抗がない
  • 希望する価格で売却したい

どちらのタイミングが適しているかは、「売却にかけられる時間」や「連絡を取り合う煩わしさ」によって判断するとよいでしょう。タイミングによる違いを理解したうえで、いつ売却するのか協議してください。

ただし、離婚前に売却する場合でも、財産分与は離婚後にしたほうが良いです。

離婚前に不動産の名義を変えると「贈与」として扱われるため、贈与税や不動産取得税の対象となってしまいます。必ず離婚届を提出してから、財産分与するようにしましょう。

財産分与の請求は離婚から2年が期限

財産分与の請求期間は、離婚したときから2年間という制限があります。この期間を過ぎてしまうと請求できないため、注意しましょう。

離婚する際に、財産分与の方法が決まっていれば問題はありません。しかし、離婚前に財産分与の方法を決めておかなかった場合は、離婚後に連絡が取りづらくなってしまう可能性があるのです。

とはいえ、離婚はデリケートな問題なので、まずは離婚届の提出が最優先となるケースもあるでしょう。

どうしても離婚前に決められない場合は、必ず2年以内に財産分与の請求をしてください。

ペアローンや連帯保証になっているケース

住宅ローンの契約時にペアローンを組んでいる、あるいは連帯債務・連帯保証を設定している場合は注意が必要です。

上記のケースでは、離婚したとしてもローンの返済義務が継続されます。

「ペアローン」は、それぞれが債務者となっているので、離婚後も個々に返済を続けなければなりません。また「連帯債務者」になっている場合は、離婚してもその責務を負う必要があります。

さらに、住宅ローンで「連帯保証」をしている場合も注意が必要です。何かしらの理由で相手方の返済が滞ると、連帯保証人に一括返済が請求されることもあります。

ペアローンや連帯債務・連帯保証は、実際に抵当権の設定されている家に住んでいなくても、ローンの返済義務が発生するので十分注意しましょう。

離婚前に住宅ローンの完済をしておく

不動産を購入したときには住宅ローンを購入資金に充てていることが多いため、売却時には住宅ローンの完済が必要です。

金融機関から借り入れした場合、ローンの貸し付けにあたって対象となる不動産に抵当権が設定されています。抵当権を抹消しておかないと、抵当権がついたまま第三者に売却されてしまうこともあり得るので、注意が必要です。

もし、売却後に抵当権が実行されると、関係のない購入者が立ち退きを求められるなど、購入者は著しく立場が不安定になります。

これにより、抵当権がついている物件には買い手がつきづらくなってしまうのです。

不動産を売却する際には、必ず抵当権を抹消しておくようにしましょう。

名義人の確認と同意をしておく

不動産の名義が売却者と同一で単独であれば何の問題もありませんが、共有名義であれば共有者に事前の確認と同意を得ることが必要です。

特に、婚姻中に住宅を購入している場合には、住宅ローンなど購入資金を手配するために夫婦で共有するなど、複数の所有者がいることがあります。

共有名義となっている場合は、1人の意思だけでは売却できません。必ず共有相手と話をして、同意を得ておいてください。

名義が不安な場合は、法務局で登記事項証明書を取得して正確な名義人を確認しましょう。

まとめ

今回は、離婚時に所有する不動産を売却する考え方について解説しました。

不動産を財産分与する方法には、次の3つがあります。

  • 不動産を売却する
  • どちらか片方が買い取る
  • 不動産をもらう代わりに他の財産を渡す

また、財産を分与する際には、まず「土地の名義やローンの支払い義務が誰にあるか確認する」ことが必要です。

住宅ローンの未返済分が不動産の売却価格より大きい場合には、売却してもローンは完済できません。その場合は「どのように資金を調達してローンを完済するのか」を慎重に判断する必要があります。

さらに、財産分与の手順を理解して、合意事項をきちんと公正証書にしておけば、のちのトラブルも防げるでしょう。

今回取り上げた内容が、財産分与で不動産を円滑に売却する際の参考となれば幸いです。

プロフィール
上野典行(プリンシブル・コンサルティング・グループ株式会社)
上野典行(プリンシブル・コンサルティング・グループ株式会社)
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員
「プリンシプル 住まい総研」所長
住宅情報マンションズ初代編集長

1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。

プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。