相続した不動産の売却に3,000万円控除は利用できる?申請の流れも解説

相続した不動産の売却に3,000万円控除は利用できる?申請の流れも解説

マイホームの売却では、「3,000万円控除」を適用して大きく節税できる仕組みがあります。では、相続で取得した家はこの控除を適用できるのでしょうか?

結論をいえば、相続した空き家でも条件を満たすことで3,000万円控除できます。しかし、条件が厳しく、適用のハードルが高い点には注意が必要です。

この記事では、相続した空き家で利用できる3,000万円控除の基礎知識や申請の流れ・注意点を詳しく解説します。併せて、3,000万円控除以外で検討できる節税対策についても紹介するので、相続時の参考にしてください。

相続した不動産の売却に3,000万円控除は利用できる?

相続した不動産の売却で3,000万円特別控除を利用できるかは、売却する不動産などの条件によって異なります。相続した不動産が空き家であり、「空き家の3,000万円控除の特例」の要件を満たせば、3,000万円の控除が可能です。

親の実家など不動産を相続するケースは珍しくありません。しかし、遠方にある実家やすでに自分はマイホームを持っているなどで使う見込みのない場合、売却を検討することになります。

売却する場合に注意が必要なのが、税金です。とはいえ、すべての売却で税金がかかるわけではありません。税金がかかるのは、売却で利益が出るケースです。売却の利益は譲渡所得と呼ばれ、次の計算で求めます。

譲渡所得=売却額-(取得費+譲渡費用)

譲渡所得は、売却額から不動産の購入費や仲介手数料など取得にかかった費用である取得費と、売却にかかった費用である譲渡費用を差し引いた額です。計算の結果、譲渡所得が発生すると譲渡所得に対して「譲渡所得税」が課税されます。

譲渡所得税は、譲渡所得額×20~40%と高い税率で課せられるため、税額も大きくなりやすいものです。仮に、1,000万円の利益が出て、20%の税率がかかると200万円を譲渡所得税として納めなければなりません。

この譲渡所得税の負担を抑えるために利用できる控除の一つが、「3,000万円控除」なのです。3,000万円控除を利用できれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。

上記の例の場合、譲渡所得1,000万円から3,000万円を控除することで、譲渡所得が0円となり税金も発生しなくなるのです。

しかし、この控除はすべての不動産売却で利用できるわけではないので、自分の相続であてはまるかは要件などをしっかりと確認する必要があります。

そもそも3,000万円控除とは?

3,000万円控除とは、不動産売却時の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例のことです。譲渡所得税は、譲渡所得額に税率を乗じて算出するため、控除を適用して譲渡所得額を減らせるこの特例で大きな節税が期待できます。

不動産売却では、次の2つの3,000万円控除があります。

「居住用財産の特別控除」は、マイホームの売却時に利用できる控除です。自宅用として利用していた家を売却する際に活用できるため、被相続人が生前に自分の家を売却した場合や被相続人と同居していた相続人が相続後に家を売る場合に利用できます。

ただし、特例適用のために入居した、仮住まいなどの一時的な利用では適用できません。相続後に特例を利用するため、一時的に入居しても適用できないので注意が必要です。

一方、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」は、空き家を相続した場合に利用できる特例です。遠方の実家(空き家)を相続で引き継いだという場合に適用できます。

しかし、適用のための条件は「居住用財産の特別控除」よりも厳しいため、条件をしっかり確認する必要があります。適用条件や申請方法について、以下で詳しく解説していきます。

参照:国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例

参照:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

相続した不動産の売却における3,000万円控除の適用条件

相続した空き家の3,000万円特別控除の適用条件を以下でみていきましょう。

【相続した不動産の売却における3,000万円控除の適用条件】

  • 相続又は遺贈により取得した居住用家屋・敷地の売却
  • 相続に開始直前において被相続人の居住のための家屋であること
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋
  • 区分所有建築物(マンションなど)以外の家屋
  • 相続開始直前において被相続人以外に住んでいる人がいない家屋
  • 相続開始時から譲渡までの間、事業や貸付・居住の用に提供されていない

また、売却についても次のような要件があります。

  • 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却
  • 売却代金が1億円以上
  • 売却相手が親子や夫婦など特別な関係のものではない
  • 家屋を売る場合は一定の耐震基準を満たすもの

この特例を適用するには、昭和56年5月31日以前に建てられた不動産に耐震リフォームを施すか、解体して更地で売却する必要があります。

また、売却時までに活用していないことも条件であり、相続してから他人に貸したり自身で更地にして駐車場利用などすると適用できなくなるので注意しましょう。

チェックシートも活用しよう

相続空き家の3,000万円特別控除の適用条件は複雑なので、判断が難しいケースもあります。適用できるかは国税庁が提供するチェックシートを活用して判断できるので、まずはチェックシートで調べてみましょう。

適用条件に沿った項目に「はい」「いいえ」で答えていくだけで適用できるかがわかります。

より詳しく確認したい場合は、税理士などの専門家に相談してみるのもおすすめです。専門家であれば、3,000万円特別控除以外で活用できる特例や確定申告などもアドバイスしてもらえるので、不安がある人は相談してみるとよいでしょう。

3,000万円控除の申請期間

相続空き家の3,000万円控除を適用するには、確定申告の際に同時に申請手続きが必要です。確定申告時期は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの期間です。この期間に、確定申告書と申請書類を添えて、管轄の税務署に申告するようにしましょう。

なお、現時点では適用できる期限が2027年12月31日までという点には注意が必要です。相続空き家の控除特例は、2016年に時限的措置として制定され、2019年に2027年までの延長が決定されました。

2027年以降に延長される可能性もゼロではありませんが、全時点では延長に関する情報はありません。また、延長決定時には適用条件の緩和が実施されるなど、内容にも変化がありました。

適用を検討している人は、今後の動向についても注視しておくようにしましょう。

3,000万円控除申請の流れ

ここでは、相続空き家の3,000万円控除を申請する流れを解説します。大まかな流れは、次の通りです。

  1. 空き家の売却
  2. 「被相続人居住用家屋等確認書」を入手する
  3. 確定申告書の作成と必要書類の収集
  4. 必要書類を揃えて確定申告で申請

被相続居住用家屋等確認書とは、売却した不動産が特例の対象であることを証明する書類です。空き家を管轄する自治体の役所に交付申請することで入手できます。

必要書類を揃えて確定申告書を作成したら、確定申告時期に税務署に確定申告して申請完了となります。

3,000万円控除申請に必要な書類

必要な書類を一覧で確認しましょう。ますは、被相続人居住用家屋等確認書の交付申請時に必要な書類です。

必要書類 取得にかかる日数の目安 取得方法 重要度
被相続人の住民票除票 1~3日 自治体の窓口に申請 必須
相続人の住民票 1~3日 自治体の窓口に申請 必須
売却した物件の売買契約書 すでに取得済み 家に保管されている 必須
閉鎖事項証明書 1週間程 法務局で交付してもらうかオンライン申請 必須
電気・ガスなどの中止が分かる書類 1~3日 使用廃止届の控えなど書類 必須
取り壊しから売却までの状況が変わる写真 1~3日 自分で撮影 必須
申請書 1~3日 国土交通省のホームページや自治体のホームページで入手 必須

上記のような書類を揃えて自治体の窓口に申請します。申請時に必要な書類は、売却時の状態や申請する自治体によって異なるので、事前に確認しておくようにしましょう。

次に、確定申告での申請で必要書類を見ていきましょう。必要書類は下記の通りです。

必要書類 取得にかかる日数の目安 取得方法 重要度
被相続人居住用家屋等確認書 1か月ほど 自治体の窓口に申請 必須
確定申告書(譲渡所得の内訳書) 1~3日程 国税庁のホームページや税務署で入手 必須
物件の登記事項証明書 1週間ほど 法務局で交付してもらうかオンライン申請 必須
売買契約書 すでに取得済み 売買契約後に保管している書類 必須
耐震基準適合証明書 1か月程 国土交通省指定の診断業者に依頼 必須

必要な書類は、解体して売る場合と耐震リフォームをして建物も売る場合では異なるので注意しましょう。また、取得に時間がかかる書類もあるので早めに準備しておくことが大切です。

3,000万円控除を受ける際の注意点

注意点として、次のようなことが挙げられます。

  • 適用には確定申告が必要
  • 土地と建物両方を相続している必要がある
  • 取得費がわからないと概算取得費になる
  • 相続開始前に取得した空き家は適用できない

先述したように、3,000万円控除は、確定申告しなければ適用されません。適用すれば税金がかからないというケースでも、そもそも申告しなければ適用されていない状態となるので注意が必要です。売却利益が3,000万円以下であっても、忘れずに確定申告するようにしましょう。

また、相続人は、建物・土地両方を相続している必要があります。建物と土地が別の相続人という場合は適用できないので注意しましょう。

譲渡所得を計算する際に計上する取得費を証明するには、売買契約書や領収書が必要です。しかし、相続した家の場合取得がかなり昔で、費用がわからない、領収書がないというケースも珍しくありません。取得費を証明するものがない場合、概算取得費として売却額の5%を計上することになります。概算取得費は、本来の取得費よりも大きく下回るため、利益が出やすくなるので注意しましょう。

この特例は、相続した空き家が対象です。被相続人の生前中に贈与などで受け取った不動産では適用できません。

3,000万円控除以外でできる節税対策

空き家を相続した場合、3,000万円控除以外にも節税できる特例として、「小規模住宅等の特例」があります。小規模住宅等の特例では、一定の要件を満たす宅地などの評価額を最大80%下げられ、相続税の節税が可能です。

この特例が適用できる面積と減額割合は、次のようになります。

相続開始前の利用区分 要件 限度面積 減額割合
居住用 特定居住用宅地等 330㎡ 80%
特定事業用宅地等 特定事業用宅地等 400㎡ 80%
特定事業用宅地等 特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

被相続人が居住用として使っていた宅地を相続した場合、330㎡以下の部分は評価額が80%減額されます。

また、事業用に利用していた土地でも50~80%の減額が可能です。仮に、居住用に利用する250㎡の土地で評価額5,000万円であれば1,000万円まで評価額を下げられるので、相続税の大幅な節税ができるのです。

また、この特例を相続時に受けた場合でも、3,000万円特別控除を適用できます。ただし、配偶者以外の相続人が相続税の申告期限前に売却してしまうと、小規模宅地等の特例が受けられないので注意が必要です。

両方の適用を検討している場合は、適用条件はしっかりと確認するようにしましょう。

3,000万円控除に関するよくある質問

最後に、3,000万円控除に関するよくある質問を見ていきましょう。

Q.売買契約書がない場合はどうなる?

購入時の売買契約書がない場合、取得費は概算取得費として売却額×5%を計上することになります。売却時の売買契約書は売却額の証明で必要です。

3,000万円控除は、売却額1億円以下でしか適用できないため、売買契約書や領収書での証明が必要になります。売買契約書がない場合は、不動産会社に連絡してコピーを貰うなどで対応しましょう。

Q.空き家相続の3,000万円控除はいつまで?

2023年10月時点では、空き家相続の3,000万円控除が適用できるのは2027年12月31日までです。しかし、今後再延長する可能性もゼロではありません。

また、期限延長時に適用条件なども変わる可能性があるので、適用を検討する場合は最新情報をチェックするようにしましょう。

Q.被相続人が老人ホームに入居している場合はどうなる?

相続開始前に被相続人が老人ホームに入所していた場合でも、一定の条件を満たせば控除が適用できます。その場合は、以下の3つの条件を満たす必要があります。

  • 介護保険法に規定する要介護認定等を受け、相続開始直前まで老人ホーム等に入所していた
  • 老人ホームの入所時から相続開始直前まで、被相続人の一時滞在や家財道具保管などで継続使用されていた
  • 老人ホームに入所していた場合は、2019年4月1日以降の売却

また、申請時には老人ホームの入所証明書も必要になります。

Q.3,000万円控除を受けた場合は必ず確定申告が必要?

確定申告しなければ適用できません。利益が3,000万円を下回り適用すれば税金が発生しない場合でも、確定申告が必要です。

確定申告時期に申告できるように、早めに用意しておくようにしましょう。

まとめ

相続した空き家の売却では、一定の条件を満たすことで譲渡所得から3,000万円を控除でき、譲渡所得税の大幅な節税が可能です。

ただし、相続空き家の控除を適用するには、建築年数や相続後活用していないことなど細かな適用条件があり、適用のハードルが高い点には注意しましょう。

適用できる条件がそろっていれば大きな節税が見込めるので、積極的に利用することをおすすめします。この記事を参考に、相続空き家の特例を利用して賢く節税できるようにしてください。

不動産売却の基礎知識や不動産会社選びについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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