匿名で受けられる不動産査定とは、個人情報いらず、または必要最低限の個人情報を提供することで、不動産の査定を受けられるサービスです。例えば、番地を除く住所(都道府県、市区町村、町名)、築年数、延床面積、土地面積、マンションの場合はマンション名、メールアドレスを入力して査定を受けられるのが匿名査定です。
一般的な不動産査定では、不動産会社に住所や氏名、電話番号などの個人情報を提供します。不動産会社は提供された情報に基づいて査定をおこないます。これまでの取引事例や市場動向などを参考にしつつ査定をおこなう机上査定では、不動産会社の担当者による現地確認をおこないません。一方、訪問査定では、机上査定の内容に不動産会社の担当者による現地訪問・調査が加わります。
両者の違いをまとめると以下の通りです。
【不動産査定の種類】
このうち、匿名での不動産査定が可能なケースは、インターネット上で依頼する机上査定サービスのうちの一部です。近年では、不動産査定を一括でできるサイトなどがありますが、そのようなサービスの一部のみでおこなえるのが匿名査定であることを知っておきましょう。
また、匿名査定が可能なケースは、かなり珍しいことです。
そもそも不動産会社が査定をおこなっている理由は、将来的な売主を探すためです。査定を無料でおこない、最終的に自分たちを選んで売却活動をおこなってもらうことで、初めて不動産会社は利益を得ることができます。
そのため、匿名で査定をしてくれるサービスは存在しますが、限りなく少ないことは覚えておきましょう。
そんな数少ないサービスだけでおこなわれている匿名の不動産査定ですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。一般的には、以下の2点がメリットとして挙げられているようです。
【匿名で不動産査定をするメリット】
それぞれのメリットについて確認した上で、本当に自分に向いているのかを確かめておきましょう。
最初のメリットは、不動産会社からの営業がメールのみである点です。 通常、不動産査定をおこなう際は、メールアドレスだけではなく電話番号・氏名などの個人情報を問い合わせフォームに入力することが求められます。主な入力事項は、以下の通りです。
【問い合わせフォームへの入力事項例】
FAXや住所などは任意であることが多いため、必ず入力する必要はありません。
しかし、電話番号は必ず入力することが求められているため、無料査定の依頼を受けた不動産会社は自社で仲介の契約を結ぼうと営業電話がしつこくかかってくる可能性があります。多い場合だと1週間に何度もかかってくるなど、その頻度に嫌気がさしてしまうことも少なくありません。
その点、匿名での不動産査定は入力内容がメールアドレスだけで済むので、電話がかかってくるストレスを感じなくて済みます。
匿名査定が可能なサイトの問い合わせフォームへの入力事項は、主に以下の通りです。
【匿名査定の問い合わせフォームの入力事項例】
これらはあくまで一例ではありますが、個人情報に関する入力フォームがメールアドレスのみというのが特徴です。そのため、通常の不動産査定をおこなった後のように、営業電話に対応しなくても良いという点は匿名であるメリットと言えるでしょう。
2つ目のメリットは、売り気がなくても気軽に依頼できる点です。
一般的な不動産査定の場合は、不動産会社に査定に必要な書類を提出する、売却予定の不動産に関する情報を細かく伝えなくてはならず面倒です。 しかし、匿名の不動産査定では、大まかな地域や築年数などの情報を入力すれば査定結果が出るので手間を大幅に減らせます。スマホやパソコンからいつでも依頼できるほか、結果もすぐにわかるため、気軽に利用できる点が大きなメリットと言えるでしょう。
また、訪問査定の場合、不動産会社の担当者とスケジュールを調整しなくてはならず、部屋の隅々まで調査されるので訪問日までに部屋を片付けなくてはなりません。さらに訪問から査定結果が出るまで1週間程度の時間がかかり、すぐに査定結果を知ることができないという欠点があります。 しかし、匿名での不動産査定は、現地訪問の必要な机上査定がベースとなっています。査定の立ち合いが不要で、しつこい営業もなく、査定結果がすぐわかるので、おおよその不動産の価値を知りたい方でも気軽に依頼しやすいでしょう。
匿名の不動産査定は必要以上に情報を提供する必要がないため、多くのメリットがありました。
一方で、以下のように匿名だからこそのデメリットや注意点も存在します。
【匿名の不動産査定の注意点】
それぞれメリットだけではなく、デメリットも知ることで自分に適しているのかを判断しましょう。
匿名の不動産査定で導き出された査定額は、若干信憑性に欠ける可能性があります。当然、通常の査定と比較すると、査定基準となる情報が少ないためです。
匿名の査定で必要とされる情報は、以下の通りです。
【匿名の不動産査定で必要とされる不動産情報】
通常の査定であれば、上記以外にも以下のような情報を共有する必要があるため、より精度の高い査定額を受け取ることができます。
【通常の査定で共有する情報】
気軽に匿名で依頼ができる分、精度が落ちることはデメリットと言えるでしょう。匿名での査定はあくまで、おおよその金額を知ることができるサービスだと認識しておくことが大切です。
実際に不動産を売却するとなると、結局は通常の査定を受ける必要があります。その際には、いずれにしても個人情報や不動産情報の共有は不可欠である点には注意しましょう。
当然ですが、匿名の査定では売却するために必要な情報が少なすぎるので、不動産会社も売却をすることができません。そのため、一度匿名で不動産会社に査定依頼をして、良いと思った会社に通常の査定を依頼するようにしましょう。
匿名査定では、不動産の専門家に疑問や懸念点を相談できない点においてデメリットがあります。通常の不動産査定では、営業からの電話がかかってくるなど、専門家の人に相談できる機会に恵まれます。
しかし、匿名である以上、こちらから不動産会社に連絡を試みない限り、専門家から連絡をしてくれることはありません。
「やりとりが必要ない」ということをメリットと捉えることはできますが、人生のうちで何度もあるわけではない不動産売却についての疑問や悩みを不動産会社に相談できない点はデメリットになるといえるでしょう。
とはいえ、「売却するとしたいくらくらいになるのか概算だけ知りたい」という方にとっては、 匿名査定の手軽さは大きなメリットであることに変わりはありません。
不動産の匿名査定サイトは、個人情報を提供せずに済む、最低限の情報だけですぐに査定結果が出るため、しつこい営業を避けたい方や気軽に不動産価格を知りたい方におすすめです。しかし、不動産の匿名査定サイトは数多くあり、サイトごとに特徴が異なるため、目的に合ったサイトを選ぶためにもポイントを押さえた上で利用することが大切です。
【不動産の匿名査定サイトを利用する際のポイント】
不動産の匿名査定サイトの査定方法は、不動産会社による査定とAIによる査定の大きく2種類に分けられます。
不動産会社による査定とは、机上査定のことで、不動産会社がこれまでの取引事例や市場動向などを参考にしながら査定をおこないます。一方、AIによる査定とは、人工知能を活用した不動産の価格を瞬時に出す査定システムです。登録されている膨大な取引データからおおよその不動産の価格を算出します。
不動産会社による査定は、不動産会社の担当者の見解も加わるため、査定の精度がAIによる査定よりも高めです。一方、AIによる査定は、人間では不可能な膨大なデータの処理を瞬時に完了できるため、数秒~数分で査定結果を算出できます。
査定の精度を上げたい方は不動産会社による査定、瞬時に査定結果を知りたい方はAI査定のように、目的によって使い分けましょう。
不動産査定サイトは、必ずしも全国の不動産の査定に対応しているわけではありません。不動産査定サイトによっては、取引が活発な主要エリアの査定にしか対応していない場合もあります。そのため、不動産査定サイトを利用する際には、査定を依頼したい不動産が対象エリアに含まれているのか確認してから利用しましょう。
また、対象エリアに含まれている場合でも、査定を依頼できる不動産会社の数が少ない場合、査定結果の精度が低い可能性があります。対象エリアとともに依頼できる不動産会社の数も確認しておきましょう。
不動産査定サイトによって、査定に対応している不動産の種類が異なります。例えば、マンションのみ、戸建とマンションの両方などさまざまです。種類が限られている不動産査定サイトよりもさまざまな種類を対象としている不動産査定サイトが一概に良いというわけではありません。
特定の分野に特化したサイトであれば精度の高い査定結果が期待できるかもしれません。売却予定の不動産の種類に対応しているか確認し、可能であれば複数のサイトを比較しても良いでしょう。
また、売却予定の不動産が居住用の不動産だけでなく、倉庫や店舗、田・畑、山林などの場合、査定に対応している不動産査定サイトが居住用の不動産と比べて限られるので注意してください。
匿名の不動産査定を依頼する際には、以下のステップを踏むことになります。
【匿名の不動産査定の依頼ステップ】
全体の流れを理解して、トラブルのないスムーズな査定をおこないましょう。
匿名査定では通常の査定とは異なり、詳細な不動産情報は求められません。
しかし、サービスによりますが、不動産の種類ごとに以下のような情報の共有を求められる可能性があります。
【匿名の不動産査定で求められる情報】
基本的には事前に情報を収集しなくても入力できるような基本的な内容がほとんどです。しかし、面積などは正確な数字を把握していない人も多いでしょう。
そのため、不動産の種類に応じて上記のような情報は事前に確かめておくと、スムーズに査定をおこなうことができます。
入力が必要な情報を集めたら、続いて匿名の不動産査定をおこなっているサービスを選びましょう。 サービスに登録して査定依頼をすると、査定額がわかります。 サービスによって査定額がわかるまでの期間は異なりますが、原則その場ですぐにわかることが多いです。
査定結果が出て実際に売却をすることが決定したら、不動産会社に問い合わせをしましょう。その際に不動産会社を選ぶポイントは、以下の通りです。
【不動産会社の選び方】
特に、最後のポイントである「査定額の根拠ははっきりしているか」は、匿名の査定を受けた段階で判断することができます。匿名査定で提示された金額の根拠を一切説明せずに金額を提示しているサービスがあれば、その時点で避けておいたほうが無難です。
また、明らかに高すぎる査定額を提示している、反対に低すぎる査定額を提示しているといった不動産会社は、避けたほうが良いでしょう。
上記のポイントを一つずつ比較して、自分に合っていると感じた不動産会社を選ぶようにしましょう。
この記事では、匿名の不動産査定について解説してきました。
匿名の不動産査定では、個人情報や物件情報が外に漏れる心配が少ないため、ニーズが一定数あります。電話番号などの個人情報が不動産会社に漏れてしまうと、営業の電話が鳴り止まないなどの事態に陥ることも考えられます。そのような心配がある場合には、匿名で依頼するのが得策かもしれません。 ただし、査定額の信憑性が薄いなどの懸念点があるのは事実です。そのため、実際に売却をする際には、必ず通常の査定を受けるようにしましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。