不動産の売却を正しくおこなうためには、まず「不動産査定書」の意味や種類について明確にしておく必要があります。
土地や物件など、不動産の売却をおこなう際には、事前に「不動産査定」を受けるものです。不動産査定書とは、この不動産査定を受けた際に受け取る、「査定結果を記した書類」のことを指します。
また、不動産査定書は、不動産の価値を証明するために発行される書類です。大きく分類すると「不動産査定書」と「不動産鑑定書」という2つの査定書が存在します。
まずは、2つの査定書の特徴・費用について解説していきますので、混同しないよう理解を深めておきましょう。
「不動産査定書」とは、査定価格とその根拠をまとめて記した書類で、不動産会社の査定を受けたあとに取得できるものです。
主に、不動産の価値や市場価格を把握し、売却活動の準備をする、あるいは媒介契約を結ぶ不動産会社を探す際に使われています。
また、不動産の査定には、異なる2つの査定方法と査定書が存在します。以下は、2つの査定方法の比較表です。
不動産査定書と不動産鑑定書は異なる性質を持っており、金額や利用目的もそれぞれ異なります。混同しないよう、しっかり区別しましょう。
不動産会社による土地・物件の査定結果が記されているのが、「不動産査定書」です。この書類は、次に解説する「不動産鑑定書」の簡易版のようなもので、公的な効力は持っていません。
簡単に言うと、不動産査定書は、不動産会社が「うちで仲介するとこの相場で売れますよ」ということを記した見積書になります。不動産を売りたい場合や、所有する不動産の市場価格を確認するために、利用するものです。
一般的に、不動産会社がおこなう不動産査定は無料であることが多く、不動産査定書の発行は、ほとんどの場合で費用がかからないという特徴があります。
不動産会社にとって、査定依頼者は見込み顧客となります。査定依頼者に仲介契約を結んでもらえれば、その会社の利益につながるのです。そのため、不動産会社の査定は営業的側面が強く、不動産会社が物件・土地の何を重視するかによって、査定額は変動する傾向があります。
不動産鑑定士による査定書は、「不動産鑑定書」とも呼ばれます。不動産鑑定士は、公式な鑑定評価基準のもとで不動産の評価をおこなうため、不動産鑑定書は公的信頼性が高いのが特徴です。
また、不動産鑑定書は、どの不動産鑑定士に依頼しても同じ内容になるよう記述項目が法律で定められています。そのため、「土地が適正価格で取引されていること」を証明する公的書類として、裁判・税務署・銀行などに使われる書類です。
不動産鑑定書が使われる場面には、以下のようなものがあります。
不動産鑑定書の作成費用は、20万円ほどです。主に、相続や財産分与で資産価値を測るために作成されるもので、鑑定評価額や対象不動産の表示などの項目が表記されています。
そのため、売却価格を知りたい場合には、不動産会社に無料の査定書を作成してもらうのが良いでしょう。
ここからは、「不動産査定書」に書かれている内容について、掘り下げていきましょう。不動産会社によって形式は異なりますが、共通して記載されている項目には、以下のようなものがあります。
不動産査定書の冒頭には、住所・面積・接道状況や駅までのアクセスなど、「査定不動産の概要」が記されています。物件であれば住宅構造や設備、土地であれば建ぺい率や容積率など、査定対象の基本となる情報です。
不動産査定書では、上記の2~4の項目にしっかり目を通しておく必要があります。それぞれ詳しく解説していきますので、内容をきちんと理解しておきましょう。
物件概要の次に記されているのが、「不動産の査定価格」です。不動産の価値を金額で表したもので、土地価格・建物価格・流通性比率から算出されます。
計算方法は、以下の通りです。
また、不動産の査定方法は、以下の3種類があります。一般的な中古の不動産取引には、「取引事例比較法」が用いられることが多いようです。
ただし、この算出された査定額は、あくまでも不動産会社の予測売却価格になります。不動産会社によって参照データや評価方法が異なるため、査定額も変動するのが特徴です。
また、査定書によっては「上限価格・標準価格・下限価格」と幅を持たせた3種類の査定価格が記載されていることもあります。以下の表は、それぞれの価格を簡単に説明したものです。
上限価格は、標準価格より高く設定される「売り出し価格」で、購入希望者に広く告知するために使われます。
下限価格は、「ここまでなら譲歩できる」という下限値を記したものです。中古住宅の売買では、買主から値引き交渉されることも多いため、「法外な値段を要求されていないか」を判断できるというメリットがあります。
特に、下限価格は売却の最終段階で役立つため、売買契約成立まで査定書は捨てずに持っておくと良いでしょう。
不動産査定書には、査定額とともに「査定額の根拠」も明記されています。以下は、評価対象となる項目・条件の一例です。
査定書の中には、査定額を算出した計算式を記載するなど、「どのような要因で加点・減点したのか」がわかりやすいよう表記されているものもあります。
しかし、掲載内容に不明点がある、知りたい情報が明記されていないなどの場合には、そのままにせずに担当者へ確認しておくべきでしょう。査定根拠が明らかな査定書でなければ、その金額は信頼できないかもしれません。
また、査定額の根拠のほかに、査定時に参照した「事例地情報」が記載されていることもあります。
事例地とは、周辺エリアにおける類似不動産の売買事例のことです。最新の地価や実勢価格のグラフなどといった参考資料が添付されているケースもあります。
不動産会社などの「宅地建物取引業者」は、基本的に公益財団法人不動産流通推進センターの「価格査定マニュアル」に則った査定をおこなっています。
このマニュアルには、「対象不動産と類似した不動産の実勢価格をもとに、対象不動産の価格を求める」ことが定められているのです。そのため、中古不動産の査定価格決定には、事例地の情報が大きく影響します。
事例地として参照するのに適した条件には、以下のようなものがあります。
例えば、対象不動産が良い条件の物件であったとしても、事例地の実勢価格とかけ離れた金額が算出されることはほとんどありません。周辺地との価格差がありすぎると、良い物件でも売れづらくなってしまうためです。
不動産会社の中には、わざと高い金額を提示して契約を取ろうとする悪質な会社も存在します。そのため、不動産査定書が信頼できるものかどうか、見極める術を身につけておかなければなりません。
不動産査定書の確認事項は、以下の2点です。
不動産会社に査定を依頼して不動産査定書を受け取ったら、上記のポイントに着目して信頼性をチェックしてください。
まずは、査定金額を算出した根拠が適切なものか、チェックしましょう。
査定額が、「2,000~3,000万円」などといった、ざっくりした幅のある価格である場合は、明確な根拠ではなく概算で査定結果を出している可能性があるため、注意が必要です。
不動産が売れやすいかどうかを測る数値に、「流通性比率」というものがあります。1.00(100%)を基準とし、売りにくいと判断されるものは、マイナスで評価されるのが特徴です。
もし、表記されている流通性比率が基準値(1.00)でなかった場合は、その根拠を担当者にヒアリングしておくことをおすすめします。また、査定書に明記されていない場合は、直接問い合わせて聞いておきましょう。
流通性比率が低くなった根拠を明確に答えられる、あるいは物件のマイナス要素を正確に教えてくれる不動産会社なら、十分信頼できます。
査定書が見やすくわかりやすいかどうかも、ポイントです。一見すると、査定の精度とは関係ないように感じられますが、査定書のセンスは、不動産会社が集客力に優れているかどうかを判断する重要な手がかりになります。
不動産会社の提示する査定書が読みづらい、読んでもよくわからない内容だった場合、その会社の作成する販促物も同様に見づらい可能性があるのです。
販促物作成のセンスがなければ、せっかく物件をサイト掲載・チラシ配布などで広く宣伝したとしても、情報がうまく買い手に伝わらないかもしれません。
また、査定書にある不動産評価のコメントにも着目すると良いでしょう。不動産を評価した根拠を、素人である依頼者にわかりやすく伝えてくれている親切さがあるかどうかも、重要なチェック項目です。
不動産査定書は、フォーマットの存在しない書類なので、その会社のセンスが出やすい傾向があります。その不動産会社の手腕が査定書にあらわれるものと考え、あまりにもセンスに欠く場合は依頼するのを避けたほうが良いでしょう。
不動産査定書の見方がわかったら、次は入手する方法について把握しておきましょう。不動産査定書を入手する流れは、以下の通りです。
不動産の売買で失敗しないためには、業者選びがポイントになります。
依頼する不動産会社を間違ってしまうと、不動産の価値が正しく評価されず、スムーズに売却できない・相場より安く買い叩かれるなどといった損をしてしまうかもしれません。
ここからは、不動産会社に査定を依頼する際に気をつけることや、優良業者の見極め方について解説していきます。
まずは、依頼する不動産会社の選定をおこないます。直接、不動産会社の店舗へ来店し、依頼する方法もありますが、簡単に複数の不動産会社から査定が受けられる、「不動産一括査定サイト」を利用するのがおすすめです。
不動産一括査定サイトでは、売却を予定している不動産の所在地・面積などの基本情報と、依頼者の連絡先を入力するだけで、相場を概算してくれる「簡易査定」が受けられます。ただし、簡易査定は「机上査定」とも呼ばれており、あくまでも過去取引データから判断した概算相場金額を算出するものになるので、注意しましょう。
そのため、正確な査定額を把握するためには「訪問査定」を依頼し、不動産査定書を取得する必要があるのです。一括査定サイトで気になった不動産会社をいくつかピックアップして、訪問査定の依頼先を決定しましょう。
依頼先が決定したら、訪問査定の日取りを決定します。基本的には、売主の立ち合いが必要になるため、時間に余裕がある日にちを指定すると良いでしょう。
訪問査定当日は、不動産会社の担当者が実際に物件へ訪問し、詳細な現地調査をおこないます。大体2~3時間ほどかかるため、立ち会う際は十分に時間を確保しておきましょう。
また、当日は現地調査のみがおこなわれ、不動産査定書を取得できるのは後日になります。実際に現地で得た情報と、過去取引などの情報をしっかり吟味した上で価格を決定するので、金額算出に時間がかかるためです。
その場で不動産査定書が貰えることはほとんどないため、必要になるタイミングに備えて早めに依頼しておくことをおすすめします。
詳細査定の結果は、現地調査から3日~1週間で届きます。送付方法はメール・郵送など、不動産会社によってさまざまなので、事前によく確認しておきましょう。
また、査定書を入手したら、先述した「確認するべきポイント」をチェックしてください。さらに、「なぜその価格になったのか」という根拠が明らかになっているかも確認します。
万が一、査定書に不明点・疑問点がある場合は、早めに担当者に連絡を取ってヒアリングしておきましょう。真摯に対応してくれるかどうかや、訪問査定当日の対応なども含めて、信頼できる業者か見極めてください。
不動産査定書を入手するためには、査定に必要な書類を揃えておかなければなりません。必要になる書類の種類とその重要度は、以下の通りです。
最低限必要なものを「必須」、あると便利な書類を「推奨」、用意しておけば査定精度が上がるものを「任意」に分類していますので、必要に応じて準備をおこなってください。
また、査定対象となる不動産の状態によっても求められる書類が異なるため、詳しくは査定依頼時などに不動産会社へ確認しておくことをおすすめします。
「登記簿謄本」とは、登記事項証明書とも呼ばれる不動産の登記情報が記載されている書類のことです。不動産の売却時には、建物と土地それぞれの登記簿謄本が必要になるので、覚えておきましょう。
また、登記簿謄本には不動産の所在地・建物の坪数・所有者・担保の有無などが記載されており、不動産が所在する市区町村の法務局にて発行可能です。ただし、取得には500円の発行手数料がかかります。
自身で取得することもできますが、不動産会社に発行を依頼することも可能です。以前取得したものがある場合は「その書類が現在も有効かどうか」を不動産会社にヒアリングしておきましょう。
土地の図面を記した「公図」も、必要書類のうちの1つです。土地の形状・地番・道路・水路・隣接地の位置などの土地の実態が明記されている書類なので、査定時の参考資料になります。
公図は法務局の窓口で取得できますが、インターネットからも取得可能です。
また、不動産の所在地が把握できる地図も用意できると良いでしょう。必須ではありませんが、売却予定地がわかりにくい場所にある場合には、地図を提出したほうが良いケースもあります。
不動産査定では、身分証明書や住民票などの身分証明書の提示を求められる場合があります。登記簿謄本に記載されている所有者と査定依頼者が同一人物かどうかの本人確認をおこなう必要があるためです。
また、不動産の所有者が複数名の「共有名義」である場合は、人数分の本人確認書類が必要になるので、注意してください。本人確認に必要な書類は、以下の通りです。
印鑑証明書と住民票は有効期限があるため、取得するタイミングを不動産会社に確認してから用意するのが良いでしょう。また、印鑑証明書は実印がないと発行できないため、実印もあわせて用意する必要があります。ただし、不動産会社と電子契約で契約を締結する場合は、実印・印鑑証明書は不要となります。
不動産の売却時には、「土地の境界の明示義務」が課せられています。そのため「地積測量図」などの土地面積が明記されている書類や土地の測量図を用意しておけると良いでしょう。
地積測量図は、土地面積・測量方法・土地の形状などがわかる書類のことで、法務局で取得できるものです。
また、「境界確認書」と呼ばれる、隣接地との境界線について相互合意したことを証明する書類もあります。これは、隣接する土地の所有者との確定測量に立ち会った際などに取得するものです。
売却予定地の面積や境界線が明確でないと、売却後のトラブルを引き起こす可能性があります。そのため、正確な測量図がない場合は、販売活動と並行して土地の境界線を確定する「確定測量」をおこなう必要があるでしょう。
「固定資産税納税通知書」は、固定資産税の正確な金額を把握するための書類です。
主に、不動産登記で税金を計算する際に参照されるもので、不動産の売買においてはあくまでも参考資料の扱いになりますが、念のため提出しておけると良いでしょう。
固定資産税納税通知書は、毎年5月毎に自宅に送付されます。万が一紛失した場合は、役所・都税事務所などで取得できる「固定資産税評価証明書」で代用することもできるため、覚えておいてください。
所有権取得登記が完了した際に発行されるのが、「登記済権利証」です。
不動産売却時の名義変更手続きや、新たに不動産に抵当権を設定する際などは、なりすましによる悪用を防止するために、この書類を法務局に提出することが義務付けられています。
現在、登記済権利証はコンピューターに登録されている「登記識別情報」に変更されています。
登記識別情報は、書面ではなく英数字を組み合わせて暗号化された情報で、キャッシュカードの暗証番号のような方式で本人確認をおこなうものです。
登記済権利証や登記識別情報は、登記簿上の所有者を買主に変更する際に必要になる書類です。そのため、査定書を作る段階ですぐに必要なわけではなく、いずれ必要になる書類だと認識しておいてください。
「建物確認済証」は、建築基準法に従って正しく建築されている物件であることを証明するための書類です。特に、一戸建てを売却する際には、用意できると良いとされています。
新築時に建築業者から取得できるものなので、所持しているか一度確認しておくことをおすすめします。
また、建築設計図書・設計図書・工事記録などは、その物件をどのように設計・工事したかが把握できる書類のことです。
買主が将来リフォームをおこなう際に参考にできるというメリットがあるため、提示できる情報として持っておくと良いでしょう。
分譲マンションの売却時には、不動産会社と仲介契約を締結する前に、「マンションの管理組合規約」や管理費・修繕費積立金などの関連書類を準備しておかなければなりません。
査定時までに用意する必要はありませんが、買主にとっては重要になる書類です。特に、管理費・修繕費積立に関する書類は、買主のローン返済などの資金計画に役立つものになります。
そのため、売却活動時に提示できるよう、事前に準備しておけると良いでしょう。
購入した不動産を売却する場合は、契約時の「売買契約書」や「重要事項説明書」なども用意できると良いでしょう。これらの書類には、物件の面積や告知事項が記載されているため、有力な情報として活用できます。
さらに、間取り図や建物の図面は不動産の見取り図として活用できるので便利です。新築時のパンフレットなども残っていれば、併せて活用しましょう。
不動産査定書は、所有している不動産の市場価格を把握できる書類です。不動産鑑定士に依頼する有料の「不動産鑑定書」とは異なり、不動産会社に「訪問査定」を依頼することで取得できる査定書になります。
また、不動産査定書を活用して、実際に仲介を依頼する不動産会社を選別することも可能です。査定額の根拠が明らかになっているか、査定書の見やすさはどうかなどをチェックして、信頼できる不動産会社を見つけてください。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。