さまざまある土地活用方法のなかでも、駐車場経営は近年注目を集めています。実際、以下の国土交通省のデータからもわかる通り、年々駐車場台数は増加傾向にあります。
(出典:国土交通省「駐車対策の現状(平成31年2月1日)」)
駐車場経営が人気である理由は、何といってもその手軽さで、以下のように始めるハードルが非常に低いという特徴があります。
【駐車場経営が気軽に始められる理由】
近年では、駐車場の管理を代行する企業の数も増えています。そのため、多少の初期コストを支払うことができれば、管理に時間を取られることなく毎月安定した収益を得ることができるのです。
人気の土地活用方法である駐車場経営ですが、当然メリットがあればデメリットも存在します。実際に活用をする前に良い面・悪い面のそれぞれを確認しておきましょう。
最初に、メリットは以下の通りです。
【駐車場経営のメリット】
参入する敷居も低ければ、辞める際のコストも時間も少ないのが魅力です。
その他の土地活用方法である賃貸経営では、建設費や管理コスト、解体コストなどさまざまなコストがかかるため、初心者には経営が難しい傾向にあります。そのことを考えると、駐車場経営は初心者に適した土地活用方法といえるでしょう。
【駐車場経営のデメリット】
駐車場経営の最大のデメリットは、収益性です。そもそもの売上が賃貸経営と比較して少ないだけでなく、固定資産税や相続税が高いため、利益として得られる収入は少ない傾向にあります。
ただし、メリットでも紹介したように参入障壁の少なさや管理しやすさを考えれば、「ただ土地を放置しておくよりはマシ」と考えて駐車場経営に参入している人も多いようです。
しかし、厄介なのが「利用者同士のトラブル」です。この問題だけは、事前に想定するのが難しく、想定外の事態に陥ることもあります。
そこで、駐車場経営をおこなう前に将来的に起こりうるトラブルを把握し、事前に対策を立てることが非常に重要になります。
駐車場では故意的なものからそうでないものまで、さまざまなトラブルが発生します。トラブルの内容は、主に次の5つです。
【駐車場で頻発するトラブル例】
ここでは、それぞれについて説明します。
駐車場内でのトラブルとして最も多いのが、車両・物損事故です。特に駐車場内が狭かったり、視界が妨げられていたりすると頻発してしまいます。基本的には当人間での解決が求められますが、駐車場内の物損などによって当面の間営業ができなくなった場合には収益に影響するでしょう。「当人間の問題だから関係ない」と言えないため、注意が必要です。
駐車場内で起こる車両のトラブルの代表的な事例としては、次のようなものがあります。
【車両のトラブルの代表的な事例】
このなかでも特に、駐車場の出入口のポールバーやロック板が正常に作動する前に無理に発進して破損するケースは、頻発するトラブルです。 月極駐車場ではなくコインパーキングの場合はその間営業ができなくなるので、収入がゼロとなり駐車場経営の収支にも大きく影響します。事前の対策が必要といえるでしょう。
では、このような事故が起きた際には、どのように解決すれば良いのでしょうか。基本的には対策として以下を検討することが最適です。
【駐車場内の事故に対する対策の例】
まず、防犯カメラに関しては、事故が起きた際の責任の所在を明確にすることにつながります。
例えば、物損事故が発生したが犯人がわからないとなると最終的に修繕費用をオーナーが支払う可能性があります。その場合、利益が減ってしまい、安定した経営が危ぶまれる可能性まであるのです。このような事態を防ぐためにも、必ず赤外線機能付防犯カメラはつけておきましょう。
またその際に、カード式の媒体に画像を録画するものなどは、事故により保存された画像が読み取れないといった問題も発生します。出来ればネット回線などを使って、クラウド上に一定期間自動録画できるものなどを採用すると良いでしょう。
さらに、駐車場内のレイアウトを見直すことも対策となります。物損事故や車両事故が短期間に複数回起きている場合には、駐車場内の見晴らしが悪い可能性があるためです。
地方自治体によっては、「駐車場設備計画」などの名前でレイアウトに関するルールや指針についてまとめられています。駐車場経営をしている方は確認しておきましょう。出口など特定の場所で見通しが悪く事故が多い場合には、ミラーを設置するなどの配慮もときには必要です。
駐車場を経営していると、料金にまつわるトラブルも頻発するでしょう。料金トラブルは、月極めの駐車場とコインパーキングとでそれぞれ異なるトラブルが発生します。この項目では、それぞれの事例と解決策について解説しているので参考にしてください。
まずは、トラブルの具体的な事例について確認していきましょう。月極駐車場とコインパーキングでよく発生するトラブルは、以下の通りです。
【駐車場トラブルの事例】
まず、月極駐車場の場合に最も多く起きるのが料金の滞納問題です。当然、駐車場の1区画分の収益がなくなってしまうため、売上減少につながってしまいます。物件の賃貸などと違い、駐車場の契約では保証会社を使わない場合が多いために、このようなトラブルが起きてしまうのです。
連絡をすることによって支払いが再開されれば被害は少ないのですが、厄介なのが連絡をしたにも関わらず滞納が続く場合です。この場合、売上が減少するだけではなく、以下のような工数がかかってしまいます。
【滞納の場合におこなわなければいけないこと】
売上減少だけではなく手間もかかるため、できるだけリスクを事前に防ぎたいトラブルとなります。
また、居室と一緒に月極駐車場の契約をしているケースで、居室側は退去申請があり退去し募集をかけていたのに、月極駐車場側はなにも処理しておらずデータ上はずっと借りられていたままで収入が得られていなかったり、逆に前入居者が退去申請して使っていなかったのに、ずっと駐車場料金は引き落としたままにしていて、後々クレームになったりすることがあります。 契約・入金の管理をこまめにしていくことが必要です。
続いて、コインパーキングでよく起こるトラブルは、看板と実際の値段が異なることによるクレームです。一般的なコインパーキングであれば、駐車場内に利用料金が明記されています。しかし、少しでも利用者を増やすために文字のサイズを変えたり、複雑な料金体系にしたりして安く見える工夫をしすぎてしまうと、このようなクレームが頻発するでしょう。
管理会社に任せていれば、そのようなクレーム対応はおこなってくれるので手間はかかりません。 しかし、「想像よりも高い」と感じた利用者は、その後利用を控えてしまうかもしれません。その結果、長期的な売上が下がってしまう可能性があるので、注意が必要です。
駐車場内での料金トラブルが発生した際に検討すべき点は、次の2点です。
【料金トラブルに対しての解決策・対策】
月極駐車場・コインパーキングのどちらにおいても、管理会社を利用することは売上や運営の手間を削減する上では効果的です。駐車場の運営に特化した管理会社であれば、トラブルに対するノウハウがあるので、共有してもらえるでしょう。
多少の費用はかかりますが、トラブルによる売上減少などを考慮すると、結果的にはお得になる場合が多いです。積極的に活用することをおすすめします。
不正駐車に悩んでいる駐車場のオーナーも非常に多いです。このトラブルも料金トラブル同様、月極駐車場とコインパーキングとは具体的な事例が異なります。それぞれの事例と解決策をみていきましょう。
不正駐車はその名の通り、料金を払わずに不正に駐車をする行為ですが、その手口は月極めとコインパーキングでは異なります。具体的には以下の通りです。
【不正駐車の具体的な事例や手口】
まず、月極駐車場において最も頻発する問題が、契約車両以外の車が止められていることです。常に監視できるわけではないので、契約者が駐車しようとした際に問題が発覚することが多いでしょう。この場合、管理会社を挟んでいれば、クレームや問題対応はすべて代行してもらえます。 しかし、個人で運営している場合には、その都度対応を求められますので手間がかかるでしょう。
また、契約者自身が利用しているが、車両以外のものが置かれているというトラブルもまれに発生します。例えば、一時的におく場所が必要な大きい荷物(家具やタイヤなど)や自転車・バイクなど、本来の用途ではないものなどです。
当然、駐車場を契約する際に、「車両以外のものを置かない」と明記していることが一般的なので、このような場合には契約違反となります。強風や地震などでそれらの荷物が周辺の車両を傷つけてしまうこともあるので、避けなければいけない事案です。
加えて、契約者自身が許可して、友人や家族の車を停めているというケースもあります。この場合は許容するケースが多いのですが、防犯カメラで車両番号がわかっても、それが友人や家族のものかどうかは瞬時にわかりません。同様に「隣の車が間違えて停めていただけ」など、悪意のあり・なしも判断は難しいこともあります。
続いて、コインパーキングにおいて最も多いトラブルは、放置車両問題です。通常通り料金は加算されますが、数日単位となると「放置(あるいは放棄)」されているのか、「駐車」されているのか判断がつきづらいため、厄介な問題といえます。
もし、放置車両である場合には、警察に情報提供をするなどの対応で手間がかかってしまいます。また、最悪の場合には料金が支払われないこともあるでしょう。この場合、売り上げにも影響するので、対策が必要になります。
また、ロック板のセンサーに反応しないように止めている車両もトラブルにつながる事案です。防犯カメラから車両を特定できたとしても、料金の請求をするなどの工数がかかり、手間となってしまいます。
不正駐車のトラブルは、以下のように解決しましょう。
【不正駐車の解決策】
不正駐車はなかなか減らないトラブルのひとつです。完全に防ぐことは困難ではありますが、上記のような対策をとることで、少しでも発生件数を減らす努力が必要となります。
地域住民からのクレームもよくあるトラブルです。具体的なよくあるクレームやそれぞれの解決策に関して解説していきます。
よくある近隣住民からのクレームは以下の通りです。
【近隣住民からのクレーム】
音やにおい、明るさに関してのクレームです。特に、都心部のような密集地帯だと、このようなクレームが入ることが多いでしょう。なかには訴訟問題にまで発展したケースも過去にはありました。このような駐車場のトラブルは、このように近隣の住民などを巻き込むこともあるので注意が必要です。
近隣住民からのクレームに関して、予防策や解決策は以下の通りです。
【近隣住民からのクレームトラブルの解決策】
まずは、利用者に対しての注意喚起やルールの整備をおこないましょう。深夜の騒音や排気ガスの臭いに関しては、アイドリングストップの禁止をすることで、ある程度抑えることができます。当然、車の外での話し声を抑えてもらうなどの利用者側の協力を仰ぐことも大切な対策です。
また、利用者だけではなく、近隣の方に理解をしてもらいましょう。何も対策をせずに「駐車場なのである程度は許してください」といっても効果はありません。上記のような対策を最大限おこなっていることを伝えつつ、声かけなどを通して注意喚起をしていくことが必要となります。
駐車場におけるゴミのトラブルも大きな問題です。ポイ捨てなどの小さいゴミもあれば、まれにタイヤなどの大きなゴミの不法投棄なども起こり得ます。具体的な事例と解決策を確認しておきましょう。
駐車場で捨てられるのは、以下のように多種多様です。
【駐車場に無断で捨てられるゴミの例】
空き缶やペットボトルは、多くの場合ゴミ箱にしっかりと捨てられていることが多いです。しかし、そのようなゴミ箱が満杯になっている場合には、場内にポイ捨てされるケースもあります。 また、悪質なケースとしては、家庭ゴミや粗大ゴミなどを意図的に放置するゴミもあるようです。
いずれにしても以下のように、さまざまな問題につながることもあるので対策が必要となります。
【ゴミトラブルが与える影響】
ゴミのトラブルは、以下のような対策や解決策を持って対処しましょう。
【ゴミトラブルへの対策・解決策】
注意喚起や掃除は当然、真っ先におこなうべきでしょう。 意外と見落としがちな対策として、場内を明るくすることが挙げられます。家庭ゴミを捨てるなどの行為は、深夜の人目につかない時間帯におこなわれることが多いです。そのため、場内を明るくすることで、行為がより目立ちやすくなり、一定の抑止力となるでしょう。
駐車場内でトラブルが発生した場合の相談先も確認しておきましょう。自分で対応できる範囲のトラブルであれば問題ありませんが、万が一の場合に備えて、プロに連絡できる状況を作っておくことも重要となります。
結論から言うと、主な相談先は「管理会社」か「警察」です。
コインパーキングの場合は、管理会社に運営を委託していることが大半です。そのため、どのようなトラブルであっても真っ先に管理会社に連絡しましょう。
管理会社はトラブルに対応すべきノウハウを持ち合わせています。そのため、オーナーが自ら対応するよりも確実に解決できるでしょう。
多くの管理会社は、24時間対応しているコールセンターを持っています。深夜のトラブルなども解決してくれるため、駐車場内のわかりやすい場所に電話番号を記載しておくことがおすすめです。
駐車場内で車上荒らしや人身事故に遭ったなど、事件あるいは事故が発生した場合、警察に通報しなければなりません。当事者間でトラブルを解決することは止めるべきで、警察に相談し、対応してもらうことが得策です。
ただし、警察は民事に不介入であるため、積極的に関わってくれないトラブルがあることは知っておきましょう。具体的には、以下のようなトラブルは民事扱いになります。
【民事扱いになる駐車場内のトラブル】
一方、当て逃げや車上荒らしなどの犯罪行為に関しては、刑事事件の扱いとなります。このような場合には、積極的に警察に連絡をしましょう。
この記事では、駐車場で起こりがちなトラブルについてまとめてきました。
さまざまなトラブルが起こる駐車場ですが、それらを放置してしまうと手間がかかるだけではなく、収束にも影響を与えてしまう場合があります。事前に起こりうるトラブルを想定した上で、できるだけ対策をとっておくことが重要です。 また、トラブルが起きてしまった状況も想定しておき、しかるべき対策がすぐに取れる環境作りを進めておきましょう。
駐車場におけるトラブルを懸念して、経営そのものに手を出すか迷っている方も沢山いると思います。土地の活用方法は駐車場経営だけではありません。賃貸経営や土地そのものを貸し出す人も増えてきているようです。
考え方によっては、「駐車場経営で得られる利益」と「その土地を売却することによる利益」を比べると、売却益の方が大きい可能性もあります。 「土地活用」「土地売却」などさまざまな選択肢がありますが、最終的にいつまでにどの程度の利益が上がっている状態が理想かを見極めて判断することがおすすめです。
この記事を参考に、トラブルの少ない駐車場運営をしていきましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。