店舗や事務所などの事業を始めようとした場合、必ず必要になってくるのがテナント代です。テナント代は規模によってさまざまですが、毎月かかってくる固定費であるため、できるだけ抑えたい方は多いでしょう。
戸建てを所有している場合には「店舗兼住宅」がおすすめです。所有する住宅の一部を店舗として利用できるので、固定費を抑えるために大変有効的な方法と言えます。
当記事では、所有する戸建てを店舗兼住宅にするメリット・デメリットや建築の際のポイントを詳しく解説していきます。現在、店舗兼住宅の建築を検討している方はぜひ参考にしてください。
それでは早速、店舗兼住宅のメリットとデメリットについて見ていきましょう。店舗兼住宅には、事業にかかる家賃などの固定費が削減できるなどのメリットが挙げられます。
しかし、メリットばかりに着目してデメリットの確認を疎かにしてはいけません。メリットとデメリットの双方をしっかりと理解して、自身に適しているかを精査しましょう。
はじめに、メリットから解説していきます。所有する戸建てを店舗兼住宅にする代表的なメリットは以下の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
店舗兼住宅の最大のメリットと言っても過言ではないのが、自宅を所有している場合は店舗の家賃がかからないことです。店舗兼住宅とは、その名の通り住宅の一部を店舗として使用できます。
そのため、事業を始める上でのコストとして大きな割合を占める家賃を支払う必要はありません。もちろん、住宅ローンを組んで建設する場合は、月々の返済はおこなう必要があります。
しかし、ローンの返済さえ終われば、ランニングコストをほとんどかけずに店舗経営をすることができるでしょう。
2点目に挙げられるメリットは、通勤のストレスから解放されることです。
テナントを借りて店舗や事務所を運営する場合には、多かれ少なかれ通勤時間が必要になります。借りるテナントにもよりますが、場合によっては毎日満員電車に揺られて店舗まで通勤する必要があるでしょう。
しかし、店舗兼住宅の場合は通勤にかかる時間がありません。通勤時間の短縮は朝やアフターファイブの時間の充実につながり、毎日満員電車に揺られるストレスからも解放されるでしょう。
最後に挙げられるメリットは、建築費の一部を経費として計上できることです。店舗兼住宅は住宅も兼ねているため、経費として計上できないのではないかと不安に思う方もいるかもしれません。
しかし、店舗兼住宅の店舗部分は減価償却費として経費計上できます。また、確定申告で住宅ローンの利息分も計上可能です。
これらは大きな節税になるので、毎年必ずおこなうようにしましょう。
所有する戸建てを店舗兼住宅にする場合、メリットだけでなくデメリットも存在します。下記にデメリットをまとめたので、ぜひ参考にしてください。
それぞれ詳しく確認していきましょう。
建築予定地の周辺が繁華街の場合あまり気にならないかもしれませんが、住宅街に店舗兼住宅を建築する際は近隣への配慮が必要になります。
具体例を挙げると、騒音問題や路上駐車などです。近隣住民に迷惑がかからないように工夫をする必要があります。
店舗兼住宅の最大のデメリットといえるのが、一般的な戸建てと比較すると売却が難しくなる点です。店舗兼住宅は住宅内に店舗の設備が搭載されているので、戸建て物件の中では特殊な部類に分類されます。
店舗と住居を探している方がいれば決まりやすいですが、基本的には売却が難しいということを念頭に置いておきましょう。
続いて、戸建ての店舗兼住宅を建てる際の間取りのポイントについて紹介します。今回は、飲食店や美容院として店舗を構えることを想定し、解説していきます。店舗兼住宅の建築を成功させるためには、下記のポイントを押さえておく必要があるでしょう。
【戸建ての店舗兼住宅を建てる際の間取りのポイント(飲食店や美容院の店舗を構える場合)】
それぞれ詳しく解説していきます。
店舗兼住宅の建築を考える際、原則として店舗部分は一階に配置するようにしましょう。なぜなら、店舗は一般的に視認性が良い一階の方が集客につながりやすいからです。
当然ですが、お客さんが集まらなければ飲食店や美容院の経営は難しくなります。よほどの事情がない限りは、一階に店舗を配置しましょう。
2点目のポイントは、住居部分と店舗部分の動線を別にすることです。それぞれの動線を分けておけば、将来的に賃貸として貸し出せます。
しかし、第一種低層住居専用地域と呼ばれる土地に店舗兼住居を建築する場合には、店舗と住居を行き来できる設計であることが求められるので注意しましょう。
店舗部分が道路側から見やすいことも、集客をおこなう上で重要なポイントです。お客さんの心理からすると、営業しているか混雑しているか一目見てわからない店舗への入店は、躊躇してしまいます。
そのため、道路に面している店舗の入り口は、中の様子がわかるようにしておきましょう。具体例を挙げると、店内の様子がわかりやすい大きな窓を採用するなどが効果的です。
続いて挙げられるポイントは、従業員用のバックヤードを設置しておくことです。バックヤードとは、店舗運営に使用する備品の保管・管理をおこなう倉庫のような場所で、従業員の休息スペースにもなります。
効率的な業務をおこなう上で重要な役割を担うスペースですが、場所を大きくとりすぎると客席や陳列棚の減少につながります。限られたスペースのなかでどの程度をバックヤードとするか、入念な計画をした上で決定しましょう。
子連れや高齢者の集客を増やしたいのであれば、バリアフリーを意識した設計も重要です。 店内にトイレを設けた場合、どうしても段差や勾配ができやすいのでスロープを設置するなどの対処をおこないましょう。
業種や地域に応じて、駐輪場や駐車場を作ることも視野に入れておきましょう。駅から近い店舗兼住宅の場合は必ずしも必要ではありませんが、駅から遠い場合には駐輪場・駐車場があるほうが好ましいです。
また、美容室やネイルサロンなどの滞在時間の長い業種であれば、駐車場の確保は欠かせません。駐輪場・駐車場は、近隣の月極を確保するという手もあります。
次に挙げられる間取りのポイントは、業種に応じてセキュリティ面も考慮することです。
店舗兼住宅の場合、一般家庭にはない備品や在庫、釣り銭などの金品が数多くあります。これらの盗難リスクを最小限に抑えるためにも、防犯カメラを設置するなどの配慮は必要でしょう。
しかし、店舗の業種が書道教室などの小規模なお稽古場などであれば、そこまでの配慮は必要ないともいえます。
経営する業種に応じたセキュリティ方法を選ぶことが大切です。
昨今では、店舗作りをおこなう際にSNS映えを意識することも重要となっています。なぜなら、急速なSNSの普及により、可愛い店内やメニューを目的に来店する顧客が増加傾向にあるからです。
なかには写真映えするメニューやフォトスポット等を作成し、自由に撮影ができる店内環境を整えている店舗もあります。ユーザーのニーズに応えるためにも、SNS映えを意識した店舗作りをおこなうようにしましょう。
最後に挙げられるポイントは、店舗と賃貸経営の両立も視野に入れてみることです。店舗兼住宅の住宅部分は、必ずしも自宅である必要はありません。
このため、賃貸経営も並行しておこないたいと考えている場合には、店舗と賃貸マンションを両立した店舗兼住宅も検討してみましょう。賃貸マンションを店舗に併設する場合、初期費用は高くつきますが、その分家賃という大きな収益が毎月得られます。
所有している戸建てを店舗兼住宅にする際には、いくつかの注意点があります。下記に注意点をまとめたので、参考にしてください。
後悔することのないよう、それぞれの注意点をしっかり確認しておきましょう。
1点目の注意点は、店舗兼住宅を建てたい立地が展開したい事業に適しているとは限らないという点です。具体例を挙げると、駅から遠い住宅街に店舗兼住宅を建築する場合、来店方法が限られ集客に悪影響を及ぼします。
また、好立地であっても、その土地に住む人々のニーズに合った事業でなければ意味がありません。学生が多いエリアに高級サロンや単価の高い飲食店をオープンしても、思ったような利益につながらないでしょう。
これらの理由から、店舗兼住宅を建築する前に必ず地域調査をおこなっておいた方が良いといえます。
店舗兼住宅は、店舗と自宅の配分が難しいという注意点もあります。店舗を広くすればその分住居が手狭になり、住居を広くすれば店舗で思うような収益を得られないかもしれません。
店舗と自宅の配分については、経験・実績豊富なハウスメーカー等に相談することが効果的です。費用対効果やプライバシー確保できる配分をしっかりと相談しておきましょう。
最後に挙げられる注意点は、初期費用が大きいことです。店舗兼住宅ではトイレやキッチン等の水回りを複数設ける必要があり、通常の住宅よりも専有面積が広いため建築にかかる初期費用が高くなります。
そのため、事前に入念な市場調査をおこない、収益プランをしっかりと見直すことが大切です。充分な収益が見込めない場合には、店舗兼住宅が最善の方法なのかを再検討してみましょう。
店舗兼住宅は通常の住宅よりも初期費用がかかります。このため、多くの場合で金融機関からの借入をおこなう必要があるでしょう。
しかし、店舗が併設されている店舗兼住宅では住宅ローンは使えるのでしょうか。結論から言うと、要件を満たせばほとんどの場合で可能です。
ここでは、店舗兼住宅で住宅ローンを利用する要件について解説していきます。
店舗兼住宅で住宅ローンを利用するための要件は下記の通りです。
これらはあくまで一例になりますが、一般的には上記の要件を設定している金融機関が多く見られます。住宅ローンを組めれば最長で35年という長期間の融資が受けられるので、月々の返済額を抑えられるでしょう。
住宅ローン控除が適用される条件
店舗兼住宅の場合でも、一定の条件を満たすことで住宅ローン控除が適用されます。住宅ローン控除とは、返済期間が10年以上になる住宅ローンを組んで、住宅を購入した方を対象とした制度です。
下記に、住宅ローン控除の条件をまとめました。
【住宅ローン控除が適用される条件】
一定期間、所定の額が所得税から控除される税金特例なので、ぜひ活用してみてください。
店舗兼住宅のみではなく、不動産を所有すると必ずかかってくるのが固定資産税です。店舗兼住宅の場合、一般住宅よりも固定資産税が高くなる傾向にあります。
ここでは、店舗兼住宅にかかる固定資産税について詳しくみていきましょう。
一般住宅の場合、建物部分にかかる固定資産税は新築から3年以内は半額と定められており、これを軽減措置といいます。しかし、店舗兼住宅の場合、建物の2分の1以上が住居でない限り、軽減措置の対象とはなりません。
店舗の割合が建物の2分の1以上である場合には、新築当初の軽減措置が受けられないので注意しましょう。
次に、土地部分の固定資産税についてみていきましょう。一般的な住居の場合、土地の上に住宅を目的とした建物を建設すると軽減措置の対象になります。
店舗兼住宅を土地の上に建設した場合にも、軽減措置の対象にはなります。しかし、自宅部分の床面積によっては、住宅用地としてみなされる割合が異なるので注意が必要です。
土地にしても建物にしても、店舗兼住宅で固定資産税の軽減措置を受ける場合、住居部分を建物の2分の1以上にすることが大きなポイントです。軽減措置を受けたい方は、建築プランを相談する段階で、住居部分が2分の1以上になるように注文しておきましょう。
店舗兼住宅のような事業用の不動産を所有している場合、固定資産税の他に償却資産税もかかります。償却資産税とは、事業に供する機械や器具、備品等の有形固定資産のことです。
下記に償却資産の例をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
上記の有形固定資産が償却資産税として課税されるので、店舗兼住宅にかかる税金は一般住宅よりも高くなることを覚えておきましょう。
店舗兼住宅は通常の住宅とは異なり、法律上の規制が設けられています。今検討している土地には店舗兼住宅が建てられないというケースもあるので、あらかじめ法律上の規制について確認しておきましょう。
はじめに、用途地域について解説していきます。用途地域とは、住居・商業・工業等の用途を適正に配分した土地のことです。住環境の保護や商工業の利便を目的とした制限で、13種類もの地域に分けられています。
わかりやすく解説すると、どの土地にどのような建物を建てて良いかを決める制限です。 店舗を建築する場合、建築可能なエリアと店舗の専有面積の上限があらかじめ決まっているので注意しましょう。
住宅街の場合、「第一種低層住居専用地域」では原則として店舗は建てられません。しかし、例外として「住居に付随する店舗・事務所など」であれば、建築が可能とされています。
つまり、店舗兼住宅は要件さえ満たせば第一種低層住居専用地域に建築可能ということです。下記に店舗兼住宅を第一種低層住居専用地域に建築する要件をまとめたので、参考にしてください。
しかし、要件を満たした場合でも、地区計画や建築協定などの街づくりのルールにより、店舗の建設を禁止しているケースもあります。後から「店舗が運営できない土地だった」と後悔することのないよう、土地の制限について詳しく調べておきましょう。
店舗兼住宅を建てる場合、下記のような手順で進めていきます。
基本的な流れは、一般住宅の建設と変わりません。まずは、どのような建築プランが自身に合っているか把握するためにも、建築会社に問い合わせをおこないましょう。
店舗兼住宅を建てる場合、どのような場所に相談すれば良いのでしょうか。相談先は大きく分けて下記の3つあります。
それぞれの相談先の特徴を詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてください。
ハウスメーカーでは、一般住宅以外に店舗兼住宅の相談もおこなっています。自宅として使用する住宅はもちろん、賃貸タイプの建物も提案してくれるので、方向性が決まっていない方はまずハウスメーカーに相談しても良いでしょう。
一口にハウスメーカーと言っても、会社によって提案するプランが大きく異なるので、まずは複数の建築プランを取り寄せてみてください。
工務店では、自分好みの理想の店舗兼住宅を注文できます。具体的なプランが定まっている場合には工務店に依頼しましょう。
工務店はハウスメーカーとは異なり、規定のプランを用意していないため、自由な設計が可能です。しかし、ある程度は自分で考える必要があるので提案力を求める方には不向きといえるでしょう。
最後に挙げられる相談先は、デベロッパーです。デベロッパーは、大規模な店舗兼マンション住宅を建築したい方におすすめの相談先です。
もちろんハウスメーカー等にも、大規模な店舗兼住宅の相談ができます。しかし、10階以上の店舗兼マンション住宅を建設する場合には、実績の多いデベロッパーに依頼した方が良いでしょう。
最後に、店舗兼住宅に関するよくある質問をまとめました。
店舗兼住宅は経費になります。下記に、経費として計上できる項目をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
店舗兼住宅の中古物件は、決して数は多くないもののゼロではありません。実際に中古の店舗兼住宅を調べたところ、全国で200件・東京都では16件の情報がヒットしました。
中古物件は新築物件と比較すると、自分で間取りを考えられるという利点は失われます。しかし、価格を抑えて店舗兼住宅を手に入れられるというメリットもあるので、新築と併せて検討してみましょう。
当記事では、所有する戸建てを店舗兼住宅にするメリットやデメリットについて解説していきました。店舗兼住宅にはたくさんのメリットが挙げられます。
しかし、売却しにくい・固定資産税が一般住宅よりも高いなどの注意点もあるので、メリットとデメリットの双方を理解してから建築を依頼しましょう。
店舗兼住宅を建築する際には、デベロッパーやハウスメーカー、そして工務店に依頼すると良いです。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。