不動産の売却益には、所得税や住民税がかかってきますが、税率は不動産の所有期間により異なります。
不動産を売却して得た利益のうち、売却した年の1月1日現在で、所有期間が5年以内のものを「短期譲渡所得」、5年以上のものを「長期譲渡所得」といいます。
不動産の所有期間によって住民税と譲渡所得税の税率は大きく2つにわけられています。
不動産の所有期間が5年以下のものを短期譲渡といいますが、不動産の取得から売却までの期間を指すのではなく、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下のものを指します。取得日については、基本的に引渡し日と定義されています。
反対に、不動産の所有期間が5年を超える場合を長期譲渡といいます。例として、2022年の年末までに不動産を譲渡した場合は、取得が2017年1月1日以降であれば短期譲渡、2016年12月31日以前であれば長期譲渡となります。
譲渡所得税は、課税譲渡所得に税率をかけたものです。
譲渡所得税=課税譲渡所得×税率
課税譲渡所得は、以下の計算式で算出できます。
課税譲渡所得=譲渡価格(不動産の売却代金)-【取得費(購入費用)+譲渡費用(売却費用)】
譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって変化するので注意が必要です。短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率の違いは、以下の通りです。
出典:国税庁ホームページ「短期譲渡所得の税額の計算」「長期譲渡所得の税額の計算」
表の通り、短期譲渡所得の税率が合計で19%も高くなります。一見、長期譲渡の方が得なように見えますが、短期譲渡のメリットもありますので次の章で詳しくみていきましょう。
短期譲渡が長期譲渡よりも優れているポイントとして、以下の4つが挙げられます。
譲渡所得税の税率から見ると、長期譲渡のほうが得なように感じますが実際は短期譲渡ならではのメリットもたくさんあります。
ここからは、短期譲渡のメリットについて詳しく紹介します。税率が下がるからといって所有期間を引き延ばすのは本当に得策なのかどうか検討してみましょう。
多くのケースで土地と家屋をまとめて売却しますが、土地部分と家屋部分の税金は別々に処理されます。土地部分にかかる税金は、短期譲渡であっても控除することができますので、忘れずにチェックしましょう。
<土地の部分に使える5つの特例控除>
出典:国税庁ホームページ「譲渡所得の特別控除の種類」
不動産は、基本的に築年数が浅いほど高く売れます。築年数が5年以内であれば高値で査定され、立地や設備などの条件が良ければさらに高額で売ることも可能です。
反対に、築年数が10年以上経過した物件になると不動産としての価値はどんどん下がってしまいます。建物以外の部分でよほどの好条件がない限り、高値での売却は難しくなるでしょう。築年数は、不動産の価格を決定する最重要の要素とされています。
特に使用することもなく所有しているだけの不動産であった場合でも、固定資産税や都市計画税は支払い続ける必要があります。
仮に、固定資産税評価額1,000万円の物件であった場合には、年に14万円の固定資産税を毎年支払わなければいけません。
それに加えて、都市計画税の支払いや管理費や維持費もかかってきます。長期譲渡で所得税や住民税が節約できても、固定資産税や都市計画税の支払いで結局高くつくということも十分に考えられます。
売却する不動産が相続したものである場合には、税負担が軽くなる可能性があります。相続した日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡している場合には、「取得費可算の特例」が適用されますので、該当する方は確認しておきましょう。
前章でも触れましたが、課税譲渡所得の計算方法は以下の通りです。
課税譲渡所得=譲渡価格(不動産の売却代金)-【取得費(購入費用)+譲渡費用(売却費用)】
「取得費加算の特例」では取得費や譲渡費用のほかに、売却した不動産に対する相続税額を引くことができ、譲渡所得を低く抑えることができます。
課税譲渡所得=譲渡価格(不動産の売却代金)-【取得費(購入費用)+譲渡費用(売却費用)+売却した不動産に対する相続税額】
この章では、短期譲渡の際の税金の計算方法について、詳しくみていきます。物件売却時に思った通りの金額が手元に残せるよう勉強しておきましょう。
得た所得に対して、納税額の決め方には2種類の課税方式があります。
原則的には、給与所得や株の配当金などすべての所得を合計して税額の計算をする総合課税方式がとられています。
しかし、不動産は高額な取引になることが多いので、総合課税で計算すると税負担が例年よりも大きくなってしまいます。このように、一時的に大きな所得を得た場合などには、「分離課税」という課税方式をとります。
短期譲渡の税額は、課税短期譲渡所得金額に、短期譲渡所得の税率をかけて求められます。
税額=課税短期譲渡所得金額×30%(住民税9%)
課税短期譲渡所得金額は、次のように求めます。
課税短期譲渡所得金額=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除
さらに、東日本大震災の被災地復興財源確保として、特別措置法が施行されたことにより、2013年から2037年まで、復興特別所得税として所得税の2.1%を納税することになっています。
では、具体的な計算例を見てみましょう。課税短期譲渡所得金額が800万円の場合、所得税が240万円、復興特別所得税が5万400円、住民税が72万円で、合計317万400円納税する必要があります。
出典:国税庁ホームページ「短期譲渡所得の税額の計算」
短期譲渡の税金に関する注意点は、以下の3つが挙げられます。
ここまでは不動産を短期譲渡することのメリットを見てきましたが、いくつか注意しておきたい点もあります。思わぬ落とし穴で損をしないように、しっかり確認しておきましょう。
譲渡所得を計算する際に、居住用財産の特例として次の5つが使える可能性があります。控除を受ける際には、適用条件を確認して自分のケースが該当するかどうか見ておきましょう。
譲渡所得特例控除の中で、最も該当するケースが多いのは3,000万円特別控除の特例です。マイホームを売却する際に一定の条件を満たしていれば、譲渡所得から最高で3,000万円が控除されます。
不動産を安価で購入して、すぐに売却する行為は「反復継続」という罪に問われることがあります。年に何回転売をすると罪に問われるといった明確な規定はありませんが、一般的には年に1回より多いと反復継続とみなされることが多いようです。
刑罰の対象になってしまってからでは遅いので、悪気なく違法の取引をおこなってしまうことがないよう十分に注意しましょう。
不動産を売却する理由は人それぞれですが、離婚などが原因で新居を早々に手放してしまうこともあるでしょう。
築浅の不動産は、建物の劣化も少なく高値で取引されていますが、あまりに築浅での売却は、買主に欠陥住宅を疑われてしまうことも少なくありません。仲介業者に相談してデメリットを解消できるよう対策をとってもらいましょう。
この記事では、不動産の短期譲渡によるメリット、デメリットを詳しくご紹介しました。不動産の売買は高額の取引になるので税額も大きくなります。
適用される特例控除もあるので損をしないようにしっかり確認しておきましょう。ご自身のケースでは、短期譲渡と長期譲渡のどちらの方が得になるのか見極めて、効率的な資産形成を目指しましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。