離婚で不動産売却を行った場合、夫婦間の財産分与は原則2分の1ずつとなります。しかし、不動産が財産分与の対象になるのは以下のようなケースに限られています。
親から相続した不動産や独身時代に購入した不動産は財産分与の対象にならないので注意してください。財産分与の対象の場合でも、夫婦間の収入格差が大きいケースでは、財産形成の貢献度合いに応じて2分の1以外の割合が適用される可能性があります。
また、夫婦間の話し合いで双方が合意した場合、財産分与で2分の1以外の割合が適用される可能性もあることを覚えておきましょう。
財産分与とは、夫婦が協力して婚姻期間中に築いた財産を離婚時に分け合うことです。どこまでが財産分与の対象か気になっている方も多いと思います。財産分与の対象になる財産とならない財産を以下にまとめました。
結婚後に購入した不動産のように、夫婦が協力して築いた財産は離婚時の財産分与の対象ですが、結婚前に築いた財産は財産分与の対象外です。
財産分与では、別れた夫婦のどちらの所有資産かを明確にし、分けるのが困難なものは現金に変えて分け与えます。「旦那が住宅ローンを払ったから旦那のもの」ではなく、「どちらのものか、あるいは折半するのか」を明確にする必要があるのです。
ここでは、財産分与の具体的な種類と不動産の分与方法について解説します。
財産分与には、以下の通り4種類存在しています。
【財産分与の種類】
通常、「財産分与」は、2人で均等に分ける清算的財産分与を指します。しかし、慰謝料が発生する場合やどちらかに十分な収入がない場合には、財産分与の方式を変える必要が出てきます。
財産分与の種類によって分配する割合が変わる可能性があるので、離婚時にはしっかりと確認しておきましょう。「離婚するだけで精神的に疲弊しているため、話をするのも嫌」というケースもありますが、大切な財産の話です。2人で、しっかりと協議する必要があるのです。
不動産は他の財産分与の対象となる資産とは違い、分割することが困難な資産です。話し合いで、夫婦どちらのものかが明確となればそれで良いですが、「この不動産は双方のものだから」分ける、となると現金のように簡単にはいきません。
そこで、双方のものであるとなり、分けるとなれば、以下の3つの方法のいずれかにて財産分与をおこないます。
【財産の分与方法】
これら3種類の方法について、順に解説していきます。
不動産を財産分与する方法として、最も簡単でトラブルが少ないのは、不動産そのものを売却して現金化することです。
一筆の不動産を分割するのは物理的に難しい場合がある一方、複数の不動産を分与するにも資産価値や好みにより困難が生じる場合があります。このような場合は、不動産を現金化して2人で分けるほうがわかりやすいです。
ただし、不動産を売却してしまうと住み慣れた家に住めなくなります。また、住宅ローンの残債があるケースでは、残債が売却代金を上回るオーバーローンの状態だと、不足分を現金で補わないと不動産を売却できません。
そのため、離婚後マイホームに住み続ける予定がなく、残債が不動産の売却価格を下回るアンダーローンの状態の方におすすめします。
住み慣れた家に引き続き住みたい場合には、相手の持ち分をどちらかが買い取る方法があります。
他人に売却する必要がないので、売買までの時間が不要で、一方がそのまま住み続けられるのがメリットです。
ただし、買取にはまとまった現金が必要なので、十分な資金を用意する必要があります。資金を用意するためには、預貯金や有価証券の売却代金を充てるほか、新たな融資を受けるという方法もあります。しかし、融資を受けた場合、返済負担が生じることになるのであまりおすすめしません。
そのため、夫婦のどちらかがマイホームに住み続けたいと考えていて、その方に持ち分を買い取る資金が十分にある場合におすすめします。
住んでいる家をもらう代わりに、相手に他の財産を渡す方法も考えられます。
不動産をもらう際には、相手の持ち分の資産価値を算出して分与に見合うほかの財産を渡さなければなりません。不動産を複数所有している場合や、不動産以外にすぐに渡せる財産がある場合に活用できる方法です。
この場合は、住んでいる家を急いで売却する必要がないので、時間の手間が省けるほか、資産価値の下落も防げます。ただし、分与分に相当する適当な財産が不足する場合は、現金などでまかなう必要があるかもしれません。
そのため、夫婦どちらか一方がマイホームに住み続けたいと考えていて、その方に持ち分の資産価値をカバーできるほどの他の財産がある場合におすすめします。
離婚時の不動産の売却方法は1つだけではありません。状況に応じて売却方法を選び分ける必要があるので注意が必要です。離婚時の不動産の売却方法は、以下の2つの場合で選び分けます。
どのような違いがあるのか詳しく見ていきましょう。
住宅ローンの返済がない場合、以下のいずれかの売却方法を選択します。
不動産を仲介または買取によって売却した後は、売却代金を夫婦間で分け合います。
仲介とは、不動産会社と媒介契約を締結して不動産の売却活動を行ってもらう方法です。市場相場に近い価格での売却が期待できますが、すぐに買い手が見つからない可能性がある点に注意してください。
買取とは、買取に対応している不動産会社に不動産を買い取ってもらう方法です。仲介と比べて現金化までの時間を短縮できますが、買取価格が市場相場よりも2~3割程度低くなる点に注意してください。
現金化を急いでいる場合は買取、時間に余裕がある場合は少しでも高く売れる仲介といったように状況に合った方法を選びましょう。
住宅ローンの返済がある場合には、まず売却価格で残債を完済できるかどうかを確認する必要があります。その理由は、アンダーローンの場合とオーバーローンの場合で売却方法が違うためです。
アンダーローンとは、住宅ローンの残債が不動産の売却代金を下回っている状況です。売却代金で住宅ローンの残債を完済できるため、抵当権を抹消することが可能です。
そのため、住宅ローンの返済がない場合と同様、以下のいずれかの売却方法を選びます。
売却代金から残債を差し引いた残額が財産分与の対象となります。
買取は売却価格が仲介より2~3割程度低くなる傾向があります。住宅ローンの残債が不動産の売却代金を上回ると売却代金だけでは抵当権を抹消できず、残債を現金や借り入れでカバーしなくてはなりません。
トラブルを防ぐためにも、買取を選択する場合は買取価格と残債をしっかり確認しましょう。
オーバーローンとは、住宅ローンの残債が不動産の売却代金を上回っている状況です。不動産を売却しても売却代金は住宅ローンの残債の返済に充てるため、不動産の売却代金は財産分与の対象からは外れます。
オーバーローンの状況で不動産を売却することは容易ではありません。その理由は、不動産を売却するには、不動産に設定された抵当権を抹消する必要があり、抵当権を抹消するには残債を完済しなくてはならないためです。
つまり、残債を現金または借り入れなどで補う必要があり、補うことができない場合には不動産を売却できません。ただし、どうしても売却しなければならない場合は、ローンを組んだ金融機関と相談して「任意売却」を選択することも可能です。
任意売却とは、金融機関に抵当権を抹消してもらって不動産を売却し、残債を引き続き返済していくという方法です。
しかし、任意売却では、売却後も金銭的負担が残り、信用情報にも傷がつく可能性が高いので注意してください。「本当におこなう必要があるかどうか」は、不動産会社と相談しながら慎重に判断しましょう。
この章では、離婚時の不動産売却の流れについて説明していきます。
【離婚時の不動産売却の流れ】
事前に全体の流れを知って、スムーズな売却をおこないましょう。
不動産を売却する際には、不動産の名義を必ず確認しましょう。不動産の名義は、法務局で取得できる「全部事項証明書」で確認できます。
売却する不動産が夫婦の名義になっている・第三者の名義が含まれる場合は、共有名義人全員分の同意を得なければなりません。
また、土地の所有者と家屋の所有者が異なる場合もあるため、注意が必要です。
「夫の名義で買った」が、「財産分与で妻に家は渡すことになった」という場合は、当然、名義変更が必要となります。
不動産の名義を確認したら、住宅ローンの名義人も併せて確認しておきましょう。誰が名義人になっているか不明瞭な場合は、売却前に一度はっきりさせておかなければなりません。
ローンの名義人は、ローン借り入れ時の契約書などで確認できます。夫婦でペアローンを組んでいたり、連帯債務や連帯保証でローンを組んでいたりする場合は、離婚後も返済義務が継続されるため、注意が必要です。
不動産を売却する前に、不動産の価値とローン残高を確認しておきましょう。不動産価値が判明したら、住宅ローンの残高と比較し、ローン完済可能かどうかチェックしておく必要があります。
不動産の価値を確かめるには、不動産会社に査定を依頼するのが良いでしょう。無料で査定してくれる業者もあるので、可能であれば複数業者に査定してもらう「相見積もり」をとるようにしてください。
見積もり金額を比較することで相場感が把握できるので、売りたい不動産のおおまかな価値を確認できます。
財産の分配方法は、「住宅ローンが完済できるかどうか」によって左右されます。以下は、不動産の価値とローン残債の関係を比較したものです。
【不動産の価値とローン残債の関係】
不動産の価値よりもローン残債が大きい「オーバーローン」の場合は、不動産を売却してもローンを完済できません。ローンを完済できないと、財産分与の対象とならないので注意が必要です。
そのため、財産分与の目的で不動産を売却する場合は、まずローン完済を目的にしなければなりません。
不動産の売却益でも完済できないケースでは、自己資金でまかなうなどの対策が必須です。
離婚時に財産分与をおこなう際は、離婚協議書を作成してください。
離婚協議書の作成義務はありませんが、相手側からの支払いが滞るなどのトラブルが発生した場合に証拠にできるメリットがあります。
また、離婚協議書は、法的に有効な書類である「公正証書」です。もし裁判所に訴えて強制執行する際には、公正証書があるとスムーズに手続きできます。
のちのトラブルで不利にならないよう、協議内容は公正証書に残しておくべきです。
不動産の売却には、それなりの時間が必要です。スムーズに進行できるよう、売却の流れを把握しておきましょう。「仲介」で売却する際の流れは、次の通りです。
【不動産を仲介で売却する流れ】
なお、不動産の売却方法は「仲介」だけではありません。不動産会社へ直接買い取ってもらう「買取」という方法もあります。仲介と買取の違いは、以下の通りです。
【仲介と買取の違い】
それぞれメリットとデメリットがあるので、状況に応じて使い分けましょう。
離婚時の不動産売却に失敗しないためには、以下のポイントを押さえておく必要があるでしょう。
【離婚時の不動産売却の注意点】
上記の注意点についてそれぞれ理解しておかないと、思いがけないトラブルに発展してしまう可能性もあります。
また、よく考えずに不動産売却をしてしまうと、後悔することになるかもしれません。事前に対処法について把握しておくと安心です。
売却のタイミングは、大きく離婚前と離婚後に分かれます。
【離婚前と離婚後の違い】
どちらのタイミングが適しているかは、「売却にかけられる時間」や「連絡を取り合う煩わしさ」によって判断するとよいでしょう。タイミングによる違いを理解したうえで、いつ売却するのか協議してください。
ただし、離婚前に売却する場合でも、財産分与は離婚後にしたほうが良いです。
離婚前に不動産の名義を変えると「贈与」として扱われるため、贈与税や不動産取得税の対象となってしまいます。必ず離婚届を提出してから、財産分与するようにしましょう。
財産分与の請求期間は、離婚したときから2年間という制限があります。この期間を過ぎてしまうと請求できないため、注意しましょう。
離婚する際に、財産分与の方法が決まっていれば問題はありません。しかし、離婚前に財産分与の方法を決めておかなかった場合は、離婚後に連絡が取りづらくなってしまう可能性があるのです。
とはいえ、離婚はデリケートな問題なので、まずは離婚届の提出が最優先となるケースもあるでしょう。
どうしても離婚前に決められない場合は、必ず2年以内に財産分与の請求をしてください。
住宅ローンの契約時にペアローンを組んでいる、あるいは連帯債務・連帯保証を設定している場合は注意が必要です。
上記のケースでは、離婚したとしてもローンの返済義務が継続されます。
「ペアローン」は、それぞれが債務者となっているので、離婚後も個々に返済を続けなければなりません。また「連帯債務者」になっている場合は、離婚してもその責務を負う必要があります。
さらに、住宅ローンで「連帯保証」をしている場合も注意が必要です。何かしらの理由で相手方の返済が滞ると、連帯保証人に一括返済が請求されることもあります。
ペアローンや連帯債務・連帯保証は、実際に抵当権の設定されている家に住んでいなくても、ローンの返済義務が発生するので十分注意しましょう。
不動産を購入したときには住宅ローンを購入資金に充てていることが多いため、売却時には住宅ローンの完済が必要です。
金融機関から借り入れした場合、ローンの貸し付けにあたって対象となる不動産に抵当権が設定されています。抵当権を抹消しておかないと、抵当権がついたまま第三者に売却されてしまうこともあり得るので、注意が必要です。
もし、売却後に抵当権が実行されると、関係のない購入者が立ち退きを求められるなど、購入者は著しく立場が不安定になります。
これにより、抵当権がついている物件には買い手がつきづらくなってしまうのです。
不動産を売却する際には、必ず抵当権を抹消しておくようにしましょう。
不動産の名義が売却者と同一で単独であれば何の問題もありませんが、共有名義であれば共有者に事前の確認と同意を得ることが必要です。
特に、婚姻中に住宅を購入している場合には、住宅ローンなど購入資金を手配するために夫婦で共有するなど、複数の所有者がいることがあります。
共有名義となっている場合は、1人の意思だけでは売却できません。必ず共有相手と話をして、同意を得ておいてください。
名義が不安な場合は、法務局で登記事項証明書を取得して正確な名義人を確認しましょう。
離婚時の不動産売却は、一般的な不動産売却とは異なる点が多いので注意が必要です。不動産売却と財産分与をスムーズに行うためにも、離婚時の不動産売却に関する理解を深めることが大切です。
最後に離婚時の不動産売却に関するよくある質問と回答を見ていきましょう。
離婚した場合、婚姻中に購入した家は財産分与の対象となるので夫婦で分け合うことになります。
財産分与の方法は不動産売却で現金化してから分けるほか、夫婦の一方が不動産を取得して他方の持ち分に応じて現金や他の財産を渡して補うといった方法が挙げられます。
財産分与の対象となるのは、あくまでも婚姻後に夫婦で協力して築いた財産です。そのため、親に出してもらった頭金は夫婦で協力して築いた財産には該当しません。そのため、財産分与の対象から外れます。
離婚後の住宅ローンの返済義務は住宅ローンの名義人にあります。
例えば、住宅ローンの名義人は夫、住んでいるのが妻の場合は、いくら住んでいるのが妻であっても名義人は夫なので、夫が住宅ローンを返済する義務を負います。
離婚時における不動産売却でも一般的な不動産売却と同じ税金がかかります。例えば、譲渡所得税、登録免許税、印紙税などです。
譲渡所得税は不動産売却によって利益が生じた際にかかる税金、登録免許税は抵当権を抹消する手続きでかかる税金、印紙税は売買契約を交わす際にかかる税金です。
離婚時には、婚姻後に夫婦で築いた財産を分け合います。財産分与の対象はあくまでも婚姻後に築いた財産なので、婚姻前に築いた財産や親から相続した財産などは対象から外れます。
婚姻中に購入した不動産がある場合には、財産分与の対象です。そのため、不動産売却で現金化してから分与する、夫婦の一方が不動産を取得し、他方に持ち分に応じた現金や財産を渡して補うといった方法で財産分与を行います。
しかし、住宅ローンの返済中で、不動産の売却価格が残債を上回るようなオーバーローンの状況にある場合、抵当権を抹消できないので不動産を売却できません。
状況によっては財産分与がスムーズに進まない可能性があるため、弁護士や不動産会社などの専門家に相談しながら財産分与を進めましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。