インスペクション(inspection)とは、英語で「検査」「調査」という意味に当たりますが、不動産用語としてのインスペクションは「建物状況調査」「住宅診断」を意味します。
具体的には、既存住宅を売却したり購入したりするにあたって、検査員が公平な立場から動作確認や目視、ヒアリングなどにより既存住宅を検査することです。
インスペクター(住宅診断士)と呼ばれる建築士などの有資格者が担当します。
2018年(平成30年)4月1日に改正された宅地建物取引業法により、インスペクションの重要性はますます高まりました。
具体的には、不動産の売買取引のフローが以下のように変更になったことが影響しています。
すなわち、既存住宅を売買する際、インスペクションをおこなう・おこなわないにかかわらず、宅建業者はインスペクション業者のあっせんの可否を示すことが必要になったのです。
その背景として、現在の既存住宅流通事情があります。
国土交通省の「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」概要によりますと、日本の既存住宅流通シェアは、欧米諸国のおよそ70〜90%と比べて極めて低い水準にある(14.7%)点を指摘しています。
この改正により、以下が実施できるようになりました。
参考:国土交通省「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」(平成28年6月3日公布)概要
このような観点からインスペクションの重要性はますます高まってきているのです。
2013年(平成25年)6月に、国土交通省より「既存住宅インスペクション・ガイドライン」が策定されました。
そこには、ガイドライン策定の目的や考え方、策定に至った背景・目的など監督官庁としての考え方が明記され、以下についての指針が記されています。
(出典:国土交通省「既存住宅インスペクション・ガイドライン」別紙 戸建住宅において共通的に検査対象とすることが考えられる項目)
このように、インスペクションを取り巻くルールや規制は徐々に明確化されてきているのです。
インスペクションは、住宅の設計及び施工のプロフェッショナルである建築士が第三者の立場、そして専門的な見地により住宅の状況を検査します。 検査内容は非破壊検査(目視、動作確認、計測など)であり、検査の項目についてはおよそ60の項目ほどを約2時間かけておこないます。
60項目全てを知っておく必要はありませんが、重要な検査ポイントは以下の通りです。
※配管設備及びシロアリ検査においてはオプション対応とする検査会社もあります。
検査方法については目視及び計測が一般的で、屋根や床下は目視が可能である範囲のみの検査です。
また、床や壁は目視に加えて水平・垂直の計測を行い、ゆがみや傾きの有無を確認することもあります。 ドリル等を使用して壁の一部を壊すなどの検査は、一部の例外を除いては通常おこなうことはありません。
インスペクションを申し込んでから支払いをするまでには、おおよそ「2週間程度」をみておけば問題ないでしょう。
インスペクション自体は1~2時間程度の時間で終わりますが、見積もりや書類の準備期間などがあるため実際の検査以外に多少の時間がかかるのです。
具体的なステップとそれぞれにかかる期間は状況に応じて変わりますが、以下が代表的な例となります。
何にどれくらいの時間がかかるのかを事前に知っておくことで、余裕を持ったスケジュール管理ができるでしょう。
インスペクションにかかる費用は、大きく分けて以下の3通りがあります。
基本料金は、耐久性、雨漏り、水漏れ、水回りに関しての箇所を検査するための金額です。 基本料金に関しては業者により前後しますが、おおむね5~7万円が相場でしょう。
オプション料金は物件により検査が不要な箇所、例えば床下や屋根裏などを検査依頼する時に発生する料金となります。 検査箇所が特殊であるため、加えて時間がかかる箇所であることから比較的高くなるのが一般的で、1.5~3万円程度です。
最後に報告書については基本料金に含まれているケースもありますが、1万円前後が相場とされています。 基本料金に一部含まれる場合もあるので、申込の際に業者に確認するとスムーズに手続きができるでしょう。
インスペクションを業者に依頼する際、注意すべきポイントが2つあります。
スムーズなインスペクションを実現するためにも、しっかりとこの2点を押さえておきましょう。
インスペクションの業者選びで失敗する人の典型的な例として「圧倒的に低価格な業者に依頼する」という傾向があります。
もちろん安いに越したことはないのですが、安いということにはそれなりの理由があるはずです。 「インスペクション」を安く請け負い、その先にあるサービスでより多くの売り上げを立てようとする業者などは要注意。
例えば、リフォーム会社と癒着があり、インスペクションを安くおこなった先にリフォームをすすめてくるケースなどがあります。 インスペクションを実施する際には一級建築士が必要で、その人件費やかかるコストを考えると5万円以下で実施できるケースはほとんどありません。
一つの目安として、基本調査で5万円以下の見積もりであった場合は、警戒することをおすすめします。
ホームインスペクションは実績が豊富な業者を選ぶことをおすすめします。
実は、インスペクションは2000年代になって普及し始めた最近のサービスです。 そのため経験が豊富な業者は少なく、業者自身もマニュアルが整っていないケースなども多い現状があります。
実績が少ない業者に依頼してしまうと、インスペクションの質が下がることにもなりかねません。 そのため、目安として1,000件以上の実績がある業者を選んでおいた方が良いでしょう。
インスペクションをおこなうことには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
結論から言うと以下の通りです。
【インスペクションのメリット】
【インスペクションのデメリット】
メリットとして主に以下の3点があげられます。
購入(売却)前に売主・買主双方がインスペクションにより確認することで、引き渡し後に発生するかもしれないトラブルを未然に防止することができます。
買主にとって、購入した途端にさまざまな不具合を見つけることはどうしても避けなければなりません。その点、インスペクションをおこなうことで売買前に不具合があれば発見できるので、購入後も安心して居住できますし、売主も気持ちよく引き渡せるメリットがあります。
インスペクションにより、他の物件との差別化がはかれます。 もしインスペクションをおこなわずに購入(または売却)して、引き渡し後にさまざまなトラブルが表面化すると、売主・買主双方にとって気分の良いものではありません。 インスペクションを事前におこなうことで物件の状況を明確にできるため、他の物件との差別化をはかることができます。
買主にとって、購入後における居宅の維持及び管理のプランが立てやすくなります。 インスペクションがおこなわれていれば、維持についての費用などの段取りについても事前に予測できるためです。
購入した後に予想外の欠陥や問題点が出てきてしまうと、痛い出費が重なってしまうでしょう。 インスペクションによって、将来を見越したプランが立てやすくなるのは非常に嬉しいですね。
一方で、デメリットとして以下の3点があげられます。
インスペクションは費用及び時間がかかります。 検査費用として、検査事業者や建物の規模にもよりますが、約5〜7万円を想定しておく必要があります。
また、一戸建てはマンションに比べて検査項目(床下や屋根、小屋裏・屋根裏など)が増えるため、割高(6〜12万円くらい)となります。
そして、いずれの場合も期間が2週間近くかかることを想定しておかなくてはなりません。 早く売却したい売主や、購入費用をできる限り抑えたいと考えている買主であれば、インスペクションにかかる費用や期間がネックとなる可能性があります。
インスペクションをおこなったとしても、物件の全てが分かるわけではありません。 なかには目視による検査もあるので、引き渡し後に不具合が生じるケースも起こりえます。
また、設備に関しては依頼人の意向がない箇所は検査しない業者もあるため、未検査の箇所がトラブルにならないとも限りません。 あくまで「100%分かるわけではない、避けられるリスクを事前に見つけやすくするもの」として認識しておきましょう。
インスペクションによって欠陥が見つかった場合、値引きを迫られる・補修を求められる場合があります。
万一、補修不能であることが分かれば、値引きでなく売却不可能となるリスクもあるため、事前に補修をすることにより最悪の事態を避けることも考えておかなければなりません。
一方、インスペクションをおこなわずに欠陥が放置された状態で売買契約を結んだとしても、将来的なトラブルにつながるケースもあります。 値引きや売買不可となっても物件の現状だと受け入れていくことが必要です。
2018年(平成30年)4月の宅建業法の改正により、インスペクションの役割はより一層重要になりました。 インスペクションには時間も期間もかかり、面倒に感じる人もいるかもしれませんが、おこなわないことによるリスクは非常に大きいと言えます。 買手・売手の双方にとって後悔しない売買取引をするためにも、インスペクション等の理解を深めて万全な体制を整えておきましょう。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。