消費税は、商品やサービスの販売に対して課税されるもので、消費者が負担し、事業者が納付する税金です。しかし、すべての消費に対してかかるわけではなく、消費税法に記載されている以下4つの取引に関してかかります。
【消費税の対象】
一方で、以下のような取引に関しては、さまざまな観点から非課税取引とされています。
【非課税の取引】
1〜8に関しては、「消費」の概念とはそぐわないという理由で、消費税の対象でないと想定されています。9〜17については、社会福祉や社会保証に関わる取引であるため、非課税対象となっているのです。
不動産売却においては、売却した人が「個人」か「事業者」かによって、消費税の対象・非対象が変わります。ここでいう個人とは一般消費者のことで、事業者は個人事業主や法人のことを指します。よって、住宅として使っている不動産を「個人」が売却する際には、消費税を支払う必要はありません。
ただし、「個人」の定義や不動産売却にかかる各種費用に対する消費税については、より深く理解しておく必要があります。
この章では、個人が不動産売却をした場合の消費税について解説していきます。
前述の通り、個人がおこなう不動産売却は非課税です。そのため、基本的には居住用の不動産を売却する場合には、消費税がかかりません。
しかし、ここには注意点があります。個人と言えど、前々年の課税売上高が1,000万円を超えた場合には「課税事業者」となってしまうのです。「課税事業者」とは、消費税の課税対象となっている組織や個人のことを指します。
また、会社員であったとしても、事業用テナントの賃料や月極駐車場などからの収入は、消費税がかかります。前前年のこの収入が1,000万円を超えていれば、課税事業者となります。現在申告が義務づけられようとしているインボイス制度で、個人事業主として、課税事業者の登録をすれば、1,000万円を超えていなくても、課税事業者となります。
個人による不動産の売却代金に関しては非課税ですが、不動産会社に支払う仲介手数料には、消費税が課税されます。
厳密には、不動産会社が納付するのであって、売主の義務ではありません。しかし、不動産会社からの請求には消費税分の金額が含まれているため、実質支払いをしていることになります。
なお、不動産会社に支払う仲介手数料は、以下のように上限が決まっています。
【不動産会社に対する仲介手数料の上限】
例えば、4,000万円の不動産を売却した場合は、「4,000万円×3%+6万円=126万円」が仲介手数料の上限となります。
この仲介手数料に対して消費税10%が適用されるため、4,000万円の不動産を売却した場合には、最大で12.6万円の消費税が課せられることになります。
また、不動産会社への仲介手数料だけではなく、以下のような取引にも消費税はかかるので覚えておきましょう。
【不動産売却時の消費税対象範囲】
すべての取引に対する消費税が、非課税であるわけではありません。注意しましょう。
法人や個人事業主などの課税事業者が不動産売却をした場合、消費税がかかります。
しかし、例外的に非課税になることもあります。そこでこの章では、課税になる取引とならない取引の違いに焦点を当てて解説していきます。
課税事業主が不動産売却をした場合には、消費税がかかります。しかし、厳密には「建物部分」が課税対象であり、後述する土地部分は非課税となります。
例えば、4,000万円の不動産のうち、建物部分が2,000万円の戸建てを売却したとします。このとき、消費税の課税対象となるのは4,000万円ではなく、2,000万円の建物部分のみです。消費税率は10%なので、200万円が消費税となります。
不動産の売却価格が4,000万円であるため、税込価格は4,200万円となるのです。
土地の売却には、消費税がかかりません。国税庁の「No.6201 非課税となる取引」でも記載がある通り、不動産売却時に課税対象となるのは建物部分のみです。
これは、「土地は消費されないため、建物とは異なる」という消費税の性質から由来しているためです。
また、貸付の場合でも、消費税は非課税となります。ただし、駐車場などの運用をしている場合には、消費税の課税対象となるので気をつけましょう。ただし、月極駐車場は課税対象です。また、飲食店・オフィスなどテナント物件は、課税対象となります。
個人の売却と同様で、不動産会社に対する仲介手数料や司法書士への報酬などは、課税の対象です。
前述の通りですが、不動産会社に対する仲介手数料は以下のように上限が決まっているため、事前に計算しておきましょう。
法人や個人事業主は、原則課税対象であることは解説しました。しかし、法人・個人事業主でも消費税の対象外となるケースがあります。それは、「前々年の課税売上が1,000万円を超えていない場合」です。
ただし、個人事業主と法人で計算方法や条件に違いがあります。詳しくは、以下の通りです。
【個人事業主の場合】
【法人】
自分が課税対象であるかは、事前に計算でおおよそ予想がつきます。上記に当てはまるかを確認しておきましょう。
不動産売却における消費税は、単に10%をかければ良いわけではありません。実際に支払う金額は、以下のように計算していきます。
【不動産売却にかかる消費税の計算方法】
売上にかかる消費税(預かった消費税)-(消費税がかかった仕入れ+消費税がかかった経費)
例えば、1990年に4,000万円(土地2,000万円・建物2,000万円)で購入した戸建て物件を売却したとします。仮に、現在の価値が3,000万円(土地2,000万円・建物1,000万円)であるとすると、以下のような計算になります。
売上にかかる消費税:100万円(現在の建物価値1,000万円×10%) 消費税がかかった仕入れ:60万円(購入時の建物価値2,000万円 × 1990年当時の消費税率3%) 消費税額:40万円(100万円ー60万円)
仕入れ金額(購入時の価格)に対する消費税は、購入時の消費税率に合わせることを忘れないようにしましょう。
続いて、不動産売却時の消費税の納税方法についても事前に把握しておきましょう。この章では、消費税の納税方法を解説していきます。
消費税の納付は、確定申告後におこないます。
確定申告の期日は、個人事業主と法人で以下のように異なります。
【確定申告の期日】
また、注意しなくてはいけないポイントとして、「中間申告」と「中間納付」があります。これは、直前の課税期間の消費税額が48万円を超えている場合に、以下のように期の途中で申告と納付をしなくてはいけないルールです。
【中間申告と中間納付】
中間申告と中間納付をおこなわないと、加算税や延滞税というペナルティが課せられてしまいます。不動産を売却したら、できるだけ早い内に申告と納付の準備をしておきましょう。
消費税の納付方法は、以下のようにさまざまなサービスを利用できます。
【消費税の納付方法】
不動産売却時の消費税は、帳簿上で「仮受消費税」という勘定科目で記載します。土地と建物の両方を売却したときには、課税対象となっている建物部分のみ計上することを忘れないようにしましょう。
ただし、売却益が生じている場合は、その売却益を「固定資産売却益」として土地と建物の両方を計上しなくてはいけません。注意しましょう。
不動産売却をした際に課税対象となるのは、「不動産売却代金そのもの」だけではありません。以下のような費用もすべて消費税の対象となります。
【消費税の課税対象となる不動産売却の諸費用】
それぞれ費用だけでなく、消費税も鑑みた上で、依頼するべきかを判断しましょう。
この記事では、不動産売却時の消費税について解説してきました。基本的に、個人が売却をおこなう場合には消費税はかかりません。しかし、この記事をきっかけに改めて本当にかからないのかを確かめてください。
また、計算方法もただ10%をかければ良いわけではありません。仕入れ代金を差し引いた課税売上を算出する必要があり、購入時での消費税率を考慮する必要もあります。
売却や購入をした際には、税理士に相談し、確定申告などをきっちりおこなうことをおすすめします。
この記事を読んであなたの不動産売却がうまくいくことを願っています。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。