まずは、家を相続する際にかかる費用について説明します。頻繁に耳にするのが相続税だと思いますが、手続きにかかる諸費用もあるのでしっかり確認しておきましょう。
家の相続にかかる主な費用は以下の通りです。
家の名義をはじめ、不動産に関する様々な情報は法務局に登録されています。相続登記とは、現在登録されている家の名義を、亡くなった方から相続する方へと変更する手続きのことです。
この相続登記の手続きをおこなう際にかかるのが、登録免許税です。その金額は家の評価額によって変わります。
計算方法は以下の通りです。
登録免許税=不動産価格×0.4% (100円未満は切り捨て)
ここで言う不動産価格とは、「固定資産評価証明書」に記載されている不動産の評価額のことです。ただし、1,000円未満は切り捨てるので、例えば相続した家の評価額が2,386,540円なら、不動産価格は2,386,000円として計算します。
例として、上記の家と合わせて不動産価格が7,527,000円の土地を相続する場合の登録免許税を計算してみましょう。計算式は以下の通りです。 (2,386,000+7,527,000)×0.004=39,652円 100円未満は切り捨てるので、登録免許税としての支払い額は39,600円です。
次に、相続に必要な書類の取得にかかる諸費用について表にまとめました。
上記の書類を1通ずつ取得したとして、かかる金額は2,000円〜3,000円程度です。しかし、相続する家の数や人数、転籍をした数によってはさらに費用がかかります。
被相続人の戸籍に関する証明書は、本籍地の役所で取得する必要があります。役所が遠方にあり書類を送ってもらう必要がある場合は、郵送費や時間もかかるので早めに準備しましょう。
相続登記は難しい手続きなので、基本的には司法書士に依頼します。費用を抑えるために自分でおこなうという方もいますが、手間がかかるのでそれなりの覚悟が必要です。
特に遺産分割協議にアドバイスを求めたい場合や分割方法が複雑化しそうなケースでは、司法書士にお願いした方がスムーズに進められます。
料金の相場は、書類が揃っており手続きのみを依頼する場合は6〜8万円程度と言われています。書類集めからお願いするなら15万円ほどかかると考えておくと良いでしょう。
ここでは、家の相続税がいくらになるのか計算する方法を解説します。 ただし、相続税がかからない場合もあるので、まずは課税対象かどうかを確認しましょう。
相続税は、遺産の総額が一定の基礎控除額を超えない限りは支払う必要がなく、実際に支払うのは10人に1人程度と言われています。基礎控除額の計算方法は以下の通りです。
基礎控除額=3,000万円+(法定相続人×600万円)
法定相続人とは遺産を相続する権利のある人のことで、民法によって定められています。遺産総額が基礎控除額以下であれば、相続税は発生しません。
例えば、合計4,000万円の財産を3人で相続したとしましょう。上記の式に当てはめて計算すると、基礎控除額は3,000万円+3人×600万円で4,800万円です。4,000万円の遺産総額は基礎控除額以下なので、相続税を支払う必要はありません。
相続人には、子・親・兄弟姉妹の順で優先順位があります。配偶者は常に相続人になるので特に順位付けされません。以下の表で相続可能な金額の割合を確認してみましょう。
子が複数いる場合は、その中で頭割りの計算がされます。被相続人の親族関係が複雑な場合は、早い段階で弁護士に相談してトラブルを避けましょう。
相続税を計算する際は、まず以下の計算式によって課税価格を求めましょう。
課税価格=遺産の総額−基礎控除額
基礎控除額は先述のように3,000万円+(法定相続人×600万円)で求められ、遺産総額から引いた額が課税価格になります。
課税価格によって税率と控除額が異なるので、以下の表で確認しておきましょう。
【税率早見表】
では、実際に相続税を計算してみましょう。 例として、8,000万円の遺産総額を妻と子1人で相続する場合で考えます。
まずは基礎控除額を計算しましょう。 今回の法定相続人は2人なので、3,000万円+2×600万円=4,200万円です。
次に、課税価格を求めます。 遺産総額から基礎控除額を引くので、8,000万円−4,200万円=3,800万円となります。3,800万円を法定相続通りに分配すると妻と子それぞれが1/2ずつ受け取ることになるので、どちらも1,900万円です。
ここに上記の表の税率を掛けて控除額を引きます。1,900万円の場合の税率は15%、控除額は50万円で、計算式は1,900万円×0.15−50万円=235万円となり、妻・子それぞれの相続税は235万円です。
ただし、「配偶者の税額軽減」という制度があり、配偶者の相続税は1.6億円または法定相続分のいずれか高い金額までが非課税になるので、妻の相続税は0円となります。
したがって、今回のケースでは、妻の相続税が0円、子の相続税が235万円です。
家を相続すると不動産取得税と固定資産税も支払う必要があります。「登録免許税や相続税を納めたから安心」というわけではないので注意しましょう。
ここではそれぞれの税金がどのようなものか詳しく解説します。
不動産取得税は、基本的には土地や家の購入・建築などによって不動産を取得した方に課される税金であり、相続によって手にした場合はかかりません。しかし、以下のよう場合には支払う必要があるので注意しましょう。
【不動産取得税が課される条件】
不動産取得税は固定資産税評価額の3%と決まっています。例えば固定資産税評価額が7,000万円で、上記のような条件で相続するなら不動産取得税は7,000万円×0.03=210万円です。
固定資産税は毎年1月1日に課税対象の土地や家の持ち主に課され、所有している限りは毎年納めなければいけません。相続で家を取得した場合も翌年の1月1日から固定資産税が発生します。
固定資産税の金額は、固定資産税評価額に税率を掛けて計算します。標準税率は1.4%ですが、市町村によって違いがあるので役所で確認しましょう。
複数人で家を相続する場合は遺産を分割する必要があります。分割する方法は以下の4つです。
【複数人で相続する場合の分割方法】
それぞれの分割方法がどういったものか詳しく解説していきます。
現物分割とは、家や土地を物理的に分割してそのまま相続する方法です。例えば兄弟で相続する際には、家は兄・車や株は弟が相続するというような形になります。広い土地なら複数人で分筆して各法定相続人が取得することも可能です。
そのまま現物を引き継ぐので手続きが簡単というメリットがある一方、不公平になりやすいというデメリットもあります。
家を相続する方が、他の法定相続人に代償として見合った額の現金を支払うのが代償分割です。不動産を分割するのが難しい場合や、現物よりも現金で相続したいという方がいる時に有効な方法と言えます。
ただし、遺産分割時協議書に代償分割により代償金を支払う旨を記載しないと、家の代わりに受け取った現金が遺産としては扱われず、相続人の財産となってしまいます。その場合、贈与税が課されてしまうので注意しましょう。
換価分割は、相続した土地や家を売却して得た代金を相続人で分ける方法です。現金が手に入るので納税資金を用意することができ、相続税が払えず困ることがありません。
1円単位で公平に分けられ現物も残らないため、他の方法に比べてトラブルになりにくいですが、家の売却価格に全員が納得できるかが課題です。
また、家の売却が前提になるため、相続した家に住みたいという人がいる場合は選択できません。
複数の相続人が共有名義で家を相続するのが共有分割です。公平な遺産分割ができ、名義人を変更するだけで簡単に済ますことができます。
ただし、大規模なリフォームや売却の際に全員の同意を得る必要があり、将来的に権利関係が複雑になってしまうなどの理由で揉めやすいという側面があります。
後々のことをよく考えず、遺産分割協議を早く終わらせたいという気持ちから安易に選択するのはおすすめできません。
ここからは、家を相続する際の流れや必要な手続きを紹介します。大まかな流れは以下の通りです。
【家を相続する際の流れ】
それぞれのステップで必要な手続きについて解説していきます。
まずは遺言書があるか確認しましょう。遺言書の有無によってその後の相続手続きが変わってきます。
遺言書の具体的な効力は以下の通りです。
【遺言書の効力】
ただし、遺言書は押印や日付などの規定を満たしていないと無効になってしまいます。内容の前にまずは残された遺言書が効力を持つのか確認しましょう。
有効な遺言書が残されている場合は、内容に従うだけなのでスムーズに遺産を分けることが可能です。
しかし、遺言書が存在しない・無効である場合には法定相続分で分けることになります。相続人全員で財産をどのように相続するか話し合って決めるのが遺産分割協議です。
いつまでにおこなわなければいけないという決まりはありませんが、相続税の申告には被相続人が亡くなってから10ヶ月という期限があるので早めに開始するようにしましょう。
全員で直接会って話し合うのが難しい場合は、Web会議システムを利用するのもおすすめです。
無事に遺産分割協議で全員の合意が得られたら、その内容を書面にまとめます。この書面が遺産分割協議書です。遺産分割協議書は、遺産の相続に関して相続人全員が納得していることを証明する法的に有効な書類になります。
手書き・パソコンのどちらで作成しても構いません。また、法律で定められた書式もないので、インターネット上のフォーマットを参考にしても良いです。
ただし、全員が内容に納得している旨を示すために、直筆の署名と実印の押印が必要になります。
最後に、相続登記をおこなって家の名義を相続人に変更します。相続人が決まったら必要な書類や費用を準備し、なるべく早く手続きをおこないましょう。
相続登記をおこなう場所は法務局です。法務局は全国各地にあり、営業時間は平日8時30分から17時15分までが基本で、土日は開いていません。また、各法務局は管轄範囲が決まっているので、自分でおこなう場合は相続する家がどこの管轄か調べておきましょう。
郵送でも手続きは可能ですが、修正箇所があってもすぐに対応できないので窓口に行く方が無難です。
家の相続は放棄することも可能です。財産を相続する場合、家や預貯金などプラスになるものだけでなく、負債や借金などマイナスなものも引き継ぐことになってしまうため、放棄する方が身のためになることもあります。
相続放棄がおすすめのケースは、以下の2つです。
【相続放棄がおすすめのケース】
それぞれのケースについて詳しく説明していきます。
1つ目のケースは被相続人が資産より多くの借金を残した場合です。
相続した家が1,500万円で負債が4,000万円だった場合、相続人の手元に残るのは2,500万円の借金です。この負債は完済するまで返済し続けなければなりませんが、相続破棄をすれば支払う必要はありません。
借金があるか分からない時は通帳や郵便物を確認したり、信用機関に問い合わせたりして確認しましょう。全てを相続しても負債が上回ってしまうケースでは、相続を放棄することを強くおすすめします。
被相続人が生命保険に加入していたなら、相続放棄する方が良いケースもあります。
例えば、被相続人が1,000万円の家と1,500万円の負債を残し、2,000万円の生命保険金を受け取れるとします。この場合、相続すると手元に残るのは1,000万円+2,000万円−1,500万円=1,500万円です。
一方、相続放棄すると家も負債も引き継ぎませんが、生命保険金は受取人の固有財産になり、相続放棄の影響を受けずに済みます。したがって、生命保険金の2,000万円のみが手元に残ることになるのです。
こういったケースでは相続放棄した方がお得になりますが、被相続人が受取人となっている場合には、相続放棄をしてしまうと保険金を受け取ることが出来ませんので注意が必要です。相続内容や生命保険の契約を確認し、よく検討しましょう。
相続した家に住む予定がない方には、売却がおすすめです。主なメリットは以下の2つになります。
【相続した家を売却するメリット】
それぞれのメリットを詳しく紹介します。
家を維持するには、住んでいなくともそれなりにお金がかかります。遠方に住んでいる場合、手入れに来るのに手間がかかるのも課題です。
近年では空き家の増加が問題視されるようになり、平成27年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。
適切な管理がされず老朽化が進むことにより、周辺地域に影響を及ぼす状態になってしまった空き家は指導や刑罰の対象になります。そのため、家の安全面・衛生面に気を配り、良い状態を維持しなければなりません。
家を売却してしまえば、そのような心配をせずに維持費を削減できます。
家を所有していると、固定資産税や都市計画税などを毎年納める必要がありますが、家を売却すればそのような税金や費用を払わずに済むだけでなく、売却資金を手元に残すことができるのです。
相続した家に誰も住む予定がなく、また土地活用なども面倒でおこないたくない方にとっては、売却してしまうことが一番良い選択になる場合もあります。不動産会社に査定をしてもらい、どれくらいの資金が手元に残るのかを計算しましょう。
ここまで、家を相続する際の流れ・手続き・必要な費用などを解説してきました。
ここからは、家を相続する際に注意すべきポイントを2つ紹介します。
【家を相続する際の注意点】
うっかりすると損をしてしまうこともあるので、しっかり確認しましょう。
家を相続すると決まったら、住むにしても売却するにしてもなるべく早く相続登記をおこないましょう。
相続登記が完了して初めて、その家は名実ともに相続人の所有物として認められます。他人名義のままでは売却できないので、いざ売ろうと思った時には、まず相続登記から手をつけなければなりません。
自分が相続人になったとしても、被相続人名義のままだと法的な縛りがなく、別の法定相続人が勝手に売ることもできてしまいます。また、他の法定相続人が負債を抱えており、財産差し押さえに発展した場合は、相続権利のある家も差し押さえられてしまう可能性が高いです。
相続税申告の期限が相続開始10ヶ月と決まっているので、それまでに登記も一緒に済ませておきましょう。
相続した家に誰も住まず空き家になる場合は、状態を維持するために責任を持って管理し続けましょう。管理を怠って「特定空家」の対象となると、通常の6倍の固定資産税を払う義務が生じることもあります。
借家として人に貸すという手段もありますが、借り手が見つからなかったり定期的なメンテナンスが必要になったりと、それなりに手間・費用がかかることは覚悟しなければいけません。
早めに相続登記を終え、住む予定がないなら複数の不動産会社に査定をおこなってもらい、最も良い条件で売却するのがおすすめです。
家を相続する際は、誰でも多くの疑問が湧いてくるものです。家の相続に関するよくある質問を3つ紹介します。
【家の相続に関するよくある質問】
結論としては可能です。ただし、誰かひとりでも反対することがあれば遺言書に従わなければなりません。
遺言書を残す場合、被相続人が望めば家族だけでなく愛人や友人に遺産を残すこともできます。遺言によって相続人以外が遺産を受け取ることを「遺贈」と言い、遺贈の受取人は「受遺者」と呼びます。
遺言書に従わない場合は受贈者の同意も必要です。なお、あらかじめ受贈者が遺贈を拒否した場合は同意を取らなくても良いとされています。
したがって、相続人・受贈者の全員が「遺言書には従わずに相続を進めましょう」という意見で一致した場合は、遺産分割協議で相続処理について話し合い、そこで決定した内容に従うことになります。
「突然のことでそんな大金は払えない…」と困ることもあり得ます。特に家を売却せず他の遺産もあまりないケースでは、現金が手元に残りません。
相続税を払うのが難しい場合は、以下の3つの手段によって納税します。
延納や物納には条件があり、簡単に選択できるわけではありません。申告後に審査がおこなわれ、認められた場合のみ選択することができます。
被相続人が生前に家の名義を子供に変更しておくことで、相続税を払わずに済みます。しかし、それよりも高い税率の贈与税を支払うことになる可能性が高いです。
贈与税は基本的に相続税ほど多額の基礎控除はありません。「贈与税よりも相続税の方がお得」と一般的にも言われています。
ただ、必ずしも相続の方が良いとは限らず、制度等を活用すると贈与税を納めた方がお得になるケースもあります。
自分がどのケースにあたるのかを調べたうえで、贈与の検討もしてみてください。
今回は、家の相続について紹介しました。 相続の手続きは予期せぬタイミングでしなければなくなる場合があります。まだ必要ないと思っている方でも、今のうちから流れや費用、注意点をしっかり押さえておきましょう。
「話し合いがなかなか進まない」「手続きができそうにない」など困った時は、弁護士・司法書士・税理士等の専門家に相談することもできます。
この記事を参考に相続についての知識を深め、いざという時に落ち着いて対応できるようにしましょう。
家業の眼鏡店経営、訪問販売会社立ち上げ・運営、司法書士助手等の仕事を経て、1部上場グループに所属する管理会社で賃貸仲介、賃貸管理部門で社員から管理職まで約15年程経験。
その後、空室対策・シニアの住まいに関する総合サービス・不動産・リノベーション工事の会社を仲間と起業・経営。
現在はフリーランスで賃貸経営や終活に関してのコンサルティングやアドバイスを行う。