遺産相続のトラブルを避けるためにも、相続した不動産は必ず査定しなければなりません。理由は、以下の通りです。
【相続した不動産を査定すべき理由】
遺産の相続人が自分だけであれば、相続登記をおこなうだけで手続きが完了します。しかし、相続人が複数名いる場合は、どのように遺産を分配するのかについて協議しなければなりません。
不動産は、査定するまでその価値がわからないものです。そのため、利益が出る遺産かどうかを把握できなければ、相続の公平性が保たれません。
さらに、売却が見込めない場合などは、相続せず「相続放棄」を選択したほうが良いケースもあります。まずは、上記2つの理由について詳しく見ていきましょう。
相続した不動産を査定すべき理由は、遺産の時価価値を把握できるためです。不動産の遺産価値は、現金のように一目で価格がわかるものではありません。
そのため、素人が「大体このくらいだろう」と勝手に判断してしまうと、相続後のトラブルを招きかねないのです。
同等に相続を分配したつもりでも、予測した価値と実際の不動産価値が異なっていたときに、不平等になってしまいます。結果、相続した人同士の人間関係に亀裂が入ってしまうかもしれません。
基本的に、一度相続が成立してしまうと再分配は難しいです。相続人全員の合意があれば不可能ではありませんが、協議の上再度分配しなければならず、さらに贈与税がかかってしまうというデメリットが発生します。
遺産相続のトラブルを避けるためにも、相続した不動産を査定して時価価値を把握しておくことが大切です。
現金・有価証券・不動産など経済的な価値があるものには、全て相続税が課せられますが、土地や建物などもその対象となります。不動産を相続した時点で、翌年の相続税の計算をする必要があり、その算出のためには査定をしなければいけません。
中には「取得費(購入金額)が分かれば相続税も計算できるのでは?」と認識している人もいますが、不動産の相続税は相続した時点での資産価値が計算の対象となります。
これは、市場の状況や建物の経年劣化などで不動産の資産価値は減少していくとされているためです。
このように相続税の算出をするためにも相続した不動産は必ず査定しておきましょう。
相続した不動産を査定しておくことで、遺産分割協議をスムーズに進められるというメリットもあります。
対象不動産が、相続したとしても利益にならない「マイナス財産」である場合は、「相続放棄」を選択したほうが良いケースもあります。
特に、対象不動産が住宅ローンなどの借金の担保になっている、または抵当権が設定されている場合には、売却益でその借金が完済できるかが重要になります。
そのため、不動産会社の査定結果によって、売却益が借金の残債を下回る「オーバーローン」となることが判明した際には、相続人全員が相続放棄を選択することもあり得るでしょう。
一方で、現金などの相続が多い場合は、相続税も多くなります。しかし、一般に現金よりも土地のほうが、相続税が安くなり、かつ土地の上に建物が建っていればさらに相続税評価は安くなります。借金があれば借金も相続することになるため、全体として相続税は安くなります。つまり、賃貸物件などは「マイナス財産である」ため、相続税が軽減されるというケースもあり、その後の家賃収入を考えるとメリットもあります。
また、遺産分割協議は、相続人全員の同意が得られるまで継続されるものです。不動産の売却見込み額がわからないと、相続するメリット・デメリットも把握できないので、協議がダラダラと長引いてしまいます。その心的負担から揉めごとへと発展するケースも少なくないでしょう。
不動産査定をおこなうことで、残された不動産を相続すべきか・放棄すべきかの判断がつくため、協議もスムーズにおこなえるメリットがあるのです。
相続した不動産に住宅ローンが残っていた場合には、そのままあなたの負債となってしまいます。団体信用生命保険に加入している場合には、住宅ローンの残債は全額返済されるため安心です。
もし加入をしていない場合には、売却した場合の価格との差分が相続人の負債となってしまいます。
そのため、できるだけ早く査定額を調べて、売却した際に残る住宅ローンがいくらになるのかを調べておく必要があるのです。
相続した不動産を査定する方法は以下の2種類が該当します。
【相続した不動産の査定方法】
よく「自分でも査定できる」と解説されていますが、専門的な知識がない状態での査定額には信憑性がありません。そのため、先ほど解説したような相続税の算出や遺産分割協議の際に適用できる金額にはなりづらいでしょう。
査定はできるだけプロに任せることをおすすめします。
不動産鑑定士に鑑定評価を依頼し、「不動産鑑定評価書」を発行してもらうこともできます。不動産鑑定士に依頼するメリット・デメリットは、以下の通りです。
不動産鑑定士による鑑定結果を記した「鑑定評価書」は、公的書類としての効力を持っています。不動産鑑定士は、公式な鑑定評価基準に沿って鑑定をおこなうためです。
さらに、評価書の記述項目は法律で定められていることから、「土地が適正価格で取引されている」ことを公式に証明できるメリットがあります。信頼性の高い書類のため、相続人間の不公平感も生じにくくなるでしょう。
一方、デメリットは依頼費用がかかることです。鑑定額は鑑定する不動産の種類によって変動します。以下は、主な不動産鑑定の費用目安です。
上記はあくまでも目安になりますが、不動産鑑定士に依頼する場合は、おおよそ20~30万円の費用がかかります。
決して安くない金額なので、誰がその金額を負担するのかという問題が発生します。また、鑑定評価額は市場価格と異なるものであるため、必ずしも同じ金額で売却できるわけではありません。
しかし、不動産評価書は、裁判・銀行・税務署などで必要になった際に資料として提出できるものになります。そのため、トラブルに発展しそうな場合は、公平性を重視して不動産鑑定士に依頼する方法を選択するのが良いでしょう。
3つ目は、不動産会社に査定を依頼する方法です。不動産会社に依頼する際のメリット・デメリットは、以下をご覧ください。
不動産会社に依頼するメリットは、「査定が無料で受けられること」と「不動産を売却したい場合はそのまま依頼できること」です。そのため、将来的に売却を検討している人におすすめです。
ただし、不動産会社の査定結果を記した「不動産査定書」は、公的書類としての効力を持っていないので、裁判資料などには利用できません。
不動産会社の査定額は、不動産の市場価格を算出するものになります。つまり、不動産会社が「自社と契約して仲介した場合はこのくらいの金額で売り出せます」という予測価格を算出した「見積書」の役割を持っているのです。
不動産会社によって査定時に重視する項目が異なり、査定金額が変動しやすい特徴があるため、公的には使えないものになります。必要があれば、不動産鑑定士に依頼しましょう。
ここからは、主な不動産査定に活用されている「不動産会社の査定」の手順について見ていきましょう。不動産会社の査定方法は、以下の流れでおこないます。
【不動産会社に査定を依頼するステップ】
また、不動産会社のおこなう査定方法は以下の2種類です。
不動産査定は、「机上査定→訪問査定」の順で両方受けることで、効率的に信頼できる不動産会社を選定することができます。さらに、優良業者の見極め方についても紹介しますので、実際の査定依頼時に役立ててください。
まずは、不動産会社に「机上査定」を依頼し、おおまかな売却相場を見積もってもらいましょう。
机上査定は「簡易査定」とも呼ばれる査定方法で、売却したい不動産の物件情報と、過去取引の類似物件をデータ上で比較し、価格を算出します。無料で対応しているところが多く、即日~2日程度で結果が出るのが特徴です。
先述した通り、不動産会社による査定は金額が変動しやすい特徴があります。業者によって得意な物件・土地が異なるので、査定時に重視される項目もさまざまであるためです。
また、不動産会社にとっては、査定依頼者が見込み顧客となることから、営業的側面が強くなることも挙げられます。
そのため、見積もり額を相場よりもわざと吊り上げて提示し、その先の媒介契約を獲得しようとする不動産業者もいるかもしれません。査定金額が高すぎる業者は、むしろ警戒するべきでしょう。
不動産会社が出した査定結果が相場通りのものかどうか判断するためには、最低でも3社程度の複数業者へ査定を依頼することをおすすめします。
また、自分で業者の選定が難しい場合は、WEB上の「不動産一括査定サイト」などを利用するのが良いでしょう。
不動産一括査定サイトは、依頼者の連絡先と、査定したい不動産の基本情報を入力するだけで、簡単に複数社へ一括査定が依頼できるメリットがあります。
サイトによって対応エリアや提携不動産会社が異なるので、複数サイトを利用するとさらに効果的です。
次に、実際に土地の詳細調査をおこなう「訪問査定」を依頼する業者を選定しましょう。
机上査定で見積もりを出してもらった業者の中から、「結果が良かった・説明が丁寧だった」など、好印象だった会社をピックアップして3社ほどに絞り込むのがおすすめです。
1社だと比較検討できず、また多すぎると時間・手間などのコストがかかりすぎてしまうので、3社程度が適当でしょう。
不動産売却時に結ぶ「仲介契約」は、契約方法によっては1社にしか依頼できない場合もあります。そのため、売却を予定しているなら、なおさらしっかりと業者の見極め、絞り込むことが必要です。
また、「訪問査定」とは、不動産会社の担当者が直接現地に赴き、物件・土地の状況・条件を詳細に調査した上で価格決定する査定方法です。実際の売却相場に近い正確な価格知ることができます。
訪問査定をおこなう流れは、以下の通りです。
【訪問査定の流れ】
訪問査定当日の現地調査は、ほとんどの場合で立ち合いが必要です。調査は2~3時間かかるため、十分に時間が確保できる日にちを指定しましょう。
また、当日は現地調査のみで終了となるケースが多く、結果は後日送付されます。現地で得た情報をもとに、過去取引などのデータも吟味した上で、価格決定をおこなうためです。
結果送付までは、現地調査から3日~1週間かかることを留意しておきましょう。
現地調査後に届く訪問査定の結果を記した書類は、「不動産査定書」と呼ばれています。不動産査定書のチェック項目は、以下の通りです。
【不動産査定書の確認ポイント】
不動産査定書が手元に届いたら、まず「査定結果の根拠」をチェックしましょう。根拠が明確でない場合や、金額算出の不明点がある場合は、なるべく早めに問い合わせておくことをおすすめします。
例えば、不動産の売れやすさを判断する数値として「流通性比率」というものがあります。この流通性比率がマイナス評価である場合やきちんと明記されていない場合には、その理由について聞いておけると良いでしょう。
価格算出の根拠を明確に答えられる、あるいは物件のマイナス評価となった要因を正確に答えてくれる場合は、信頼性の高い業者だといえます。
また、査定書の見やすさ・わかりやすさなどのセンスがあるかも、併せてチェックしておく必要があるでしょう。査定書のセンスがない場合は、その業者が作成する販促物も同様に見づらく、効果的に買い手がつかない可能性があります。
上記のポイントに留意して、信頼できる不動産会社かどうかしっかり見極めてください。
相続した不動産を査定する際には以下の4つの点に注意しましょう。
【相続した不動産を査定する際の注意点】
それぞれ解説していきます。
不動産を相続した際には相続税の申告が必要となります。これには期限があり、相続をした翌日から数えて10か月以内の申告が必須となるのです。
10か月以内での申告ということは、それまでには査定額が明確になっている必要があるということです。
仮に10か月の期限内に申請ができないと、延滞税や無申告加算税という追加課税(ペナルティ)が課せられてしまいます。
そのため、不動産を相続したらできるだけ早く査定をおこないましょう。
瑕疵を確認しておくことも非常に重要なポイントです。不動産における瑕疵とは、物件や土地の欠陥のことを指します。
【不動産の瑕疵の例】
これらの瑕疵は、普段から居住している不動産であれば気が付きやすいでしょう。ただ、相続した不動産は、空き家になっていることも多く、瑕疵に気がつけないパターンも多いようです。
この瑕疵は、査定額に大きな影響を与えます。そのため、瑕疵を認知せずに(報告せずに)査定を依頼してしまうと後々トラブルになってしまう可能性があります。
トラブルを避けるためにも、検査や改修をしてくれる不動産会社に相談をしてみましょう。
相続した不動産の中には、隣地との境界線が明確でない場合もあるようです。
隣地との境界が明確でない不動産は査定ができないため、境界線の確認はしておきましょう。
基本的には権利書などに記載がありますが、もし手元にない場合は測量を依頼することをおすすめします。
測量とは、土地の形状や面積を明確にするために業者に依頼して、測ってもらうことです。これを通して、正確な境界線を明確にしておくことで適切な金額を知ることができるのです。
不動産にまつわる書類をできるだけ集めておきましょう。査定の際にも使いますし、将来的に売却をする際にも多くの書類が必要です。
査定や売買の際に必要となる書類は、以下の通りです。
【相続した不動産に必要な書類】
登記簿謄本 公図 土地の測量図あるいは建物の図面 登記権利証または登記識別情報 身分証明書 印鑑証明書
また、絶対になければいけないわけではありませんが、より正確な査定やトラブルのない売買取引をするためには、以下の書類もあれば安心です。
【あれば尚良い不動産の書類】
主に最新の鳥瞰図など 購入時の売買契約書 建築確認済証または検査済証 建築設計図書または工事記録書 境界確認書 住宅性能評価書 耐震診断報告書・アスベスト使用調査報告書 固定資産税納税通知書または固定資産税評価証明書 リフォームの契約書・報告書 管理費・修繕積立金の記載書類
もし、手元にない場合は集めておきましょう。
相続した不動産を査定したあとに、相続人同士で分割する方法を解説します。
【不動産の分割方法】
それぞれの分割方法を理解し、トラブルのない遺産分割協議をおこないましょう。
まずは、現物分割からです。
現物分割とは、遺産分割の方法のひとつで、不動産は息子に・株式は配偶者に相続するなど、現物で分割する方法です。一般的に最も広く行われている分割方法となります。
この現物分割であれば、不動産の価値を明確にする必要はないため、不動産査定をしなくても良い唯一の分割法です。
換価分割とは不動産を売却し、得られた売却金を元に法定相続人の間で分配する方法です。例えば、法定相続人が5人いて不動産を1,000万円で売却できた場合、1人当たり200万円を分配するという方法がこれに当たります。
換価分割の場合、不動産の売却できる価格を事前に知っておくことが必要であるため、査定は必須です。
代償分割とは、法定相続人のうちの1人が財産を取得して、他の相続人には代償金を支払うことによって生産する遺産分割方法です。
例えば、3,000万円の価値がある不動産を相続人2人(Aさん・Bさん)で分割するとします。この場合、Aさんが不動産を取得して、Bさんに1,500万円を支払う形で分割するということです。
これは、現物分割ができない不動産の場合に行われることが多い分割方法で、査定額に応じて分割します。そのため、代償分割の場合には査定が必須となります。
共有分割とは不動産の一部または全部を具体的相続分による物権法上の共有取得する方法です。つまり、ひとつの不動産の権利を共有する、または不動産の割合を決めて権利部分を分ける分割方法です。
これは現物分割と同じで、売却する必要や金額を明確にする必要がないため、査定は不要となります。
ただし、複数人でひとつの不動産を保有することになるので、所有権が複雑になるというデメリットがあります。
よくある例として、相続人の一人が売却をしたいと思っても、それに反対する相続人がいれば売却はできなくなるのです。
このように共有分割は複雑な分割方式であるため、一般的にはあまり選択されません。
相続した不動産は査定を受けて、その時価価値を把握しておく必要があります。遺産分割協議をスムーズに進め、相続人間のトラブルを生まないためにも、不動産会社に査定を依頼しましょう。
また、不動産会社に査定を依頼する際は、まず簡易査定で業者の絞り込みをおこなってください。その後、訪問査定で実際の対応や査定書の内容をチェックして、信頼できる不動産会社の見極めをおこないましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。