不動産を相続しても、今後住居や賃貸として活用する予定がなかったり、遠方で管理が難しかったりする場合、1つの方法として売却する手があります。
そこで重要になるのが、相続した不動産を売却した際にかかる税金です。不動産は売却することで生じる税金があり、それぞれを正しく理解しておかなければ、手元に残るお金が予想以上に少なくなってしまうこともあります。
不動産を売却することで課せられる税金は、下記の4種類です。
印紙税 譲渡所得税(所得税・住民税) 登録免許税 消費税
まずはそれぞれに対しての理解を深めておきましょう。
不動産を売却する際には、売買契約書を作成して契約をおこないます。その文書にかかる税金が、印紙税です。印紙税は、規定の金額の印紙を購入し、売買契約書に貼ることで納めることになります。
税額は契約金額により異なるため、下記の表でチェックしてください。また、契約金額が10万円以上で、2024年3月31日までに作成された売買契約書に対しては軽減措置の対象となるので、こちらも併せて確認しておきましょう。電子契約の場合は不要です。
引用:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
引用:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」
不動産を売却して得た譲渡所得は収益とみなされ、住民税と所得税の2種類を合算した譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有期間によって以下のように変化し、2037年までは所得税に対して2.1%の復興特別所得税が加わります。
所有期間は、不動産を売却した年の1月1日時点で判断されるので、注意が必要です。たとえば、2020年4月に購入した不動産を2025年8月に売却した場合、2025年1月1日の時点で判断されるので短期譲渡所得になります。
短期譲渡所得と長期譲渡所得では税率が約20%も異なるので、不動産を売却する前に所有期間の計算をしておきましょう。
土地や建物などの不動産は、権利関係をつねに明確にしておくため、登記簿に所有者の名義を記載しなければいけません。売却して所有者が変われば、もちろん登記簿も変更することになります。
所有者を変更させるためには「所有権移転登記」が必要です。しかし、所有権移転登記に関する費用は基本的に買い主が負担します。
売主は、売却する不動産に残っているローンを売った収益によって一括返済し、抵当権を外す際にかかる登録免許税を負担します。抵当権抹消の登録免許税は土地や建物のそれぞれに必要となり、値段は1筆につき1,000円です。
抵当権抹消の登記は自分自身でおこなうには複雑すぎるため、司法書士への依頼が一般的です。その報酬に生じるのが消費税です。
そのほか、売買の仲介手数料・建物の解体費用・土地の測量費用など、さまざまな項目で消費税がかかるので、消費税率をかけて合計金額を算出する必要があります。
消費税は国税で、時代によって課税率が変わることもあるため、売却時のタイミングで適用される税率で計算してください。
ただし、土地そのものには消費税はかかりません。土地は非課税です。
譲渡所得税の計算は、相続した不動産の場合でも通常と変わりません。計算方法は、以下の通りです。
先ほども紹介しましたが、この税率は不動産の保有期間で変わります。被相続人が不動産を取得した日からカウントされるため、保有期間に関しては相続した人は関係ありません。
保有期間が長いほど税率が低いため、売却する前に確認しておきましょう。
相続した不動産を売却する際には、前述のような税金がかかります。しかし、実はこうした税金を安くする特例・控除があることをご存じでしょうか。
種類により定められた要件がありますが、クリアすれば税金を抑えてお得に売却することが可能です。
ここからは、不動産の売却で活用できる3つの特例・控除について紹介するので、ぜひチェックしてください。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」は、一般的に「3,000万円の特例」や「3,000万円特別控除」と呼ばれています。住んでいる家を売却する際に、最高3,000万円の控除が受けられる特例で、主に下記の要件を満たさなければいけません。
売却する相手が親・子どもなどの特別な関係ではない 売主が住居としていた不動産である 売却の前年や前々年に買い替えや交換による控除を受けていない
ほかにもさまざまな要件が細かく決められていますが、仮にすべてをクリアできたとしても、下記のいずれかが認められてしまった場合は適用されません。
3,000万円控除の特例を受けるためだけに住居とした 一時的な仮住まいとして住んでいた 別荘や保護を目的とした施設として所有していた
簡単に言えば、生活の軸となる住居として住んでいない場合は認められないということなので、「別荘を売りたい」などと考えている方は注意しておきましょう。
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」では、相続税申告期限から3年以内に売却が成立すれば、譲渡所得税額をさらに抑えられます。この特例を受けるための要件は、以下の通りです。
相続・遺贈によって財産を取得した者である 取得して相続税が課税される者である 相続開始日から相続税申告期限の翌日3年以内に譲渡契約が成立している
上記を満たすと、以下のように課税対象になる譲渡所得の金額を少なくできます。
3,000万円の特例では住居として住んでいる必要がありましたが、この特例ではそのような制約はありません。上記の3つのポイントがクリアできれば適用されます。
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」は、相続した不動産が空き家になってしまう場合に適用可能な特例です。
2016年4月1日から2023年12月31日の期間で、相続した空き家を売却し、定められた要件をクリアすることによって、譲渡所得金額から最高で3,000万円まで控除できます。
主となる要件を下記で確認してみてください。
相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいない 相続開始日から3年経過する年の12月31日までに売却 売却代金が1億円以下であること 1981年5月31日以前の建築物で区分所有建物登記されている
必要な確定申告を怠ってしまった場合、通常の税金とは別に延滞税や重加算税が課されてしまうため、支出が多くなってしまいます。
しかし、相続した不動産の売却後の確定申告に対して、どのようにすれば良いのか悩んでいる方は少なくありません。
ここでは、売却益が出た場合と譲渡所得がマイナスで収益にならないケースの確定申告について詳しく解説します。
売却益が出た場合は確定申告が必須 譲渡所得がマイナスの場合は確定申告が不要
相続した不動産を売却して利益が出た場合は、必ず確定申告をする必要があります。利益があるにもかかわらず確定申告をしないままだと、売却における税金を正しく納税できません。
確定申告をしなければ税務署から指摘が入り、重加算税や延滞税など通常以上に多額の税金を支払う必要が出てきてしまいます。また、納税しなければ特例や控除を受けることもできないので、忘れずにおこなうようにしてください。
譲渡所得がマイナスになり利益がない場合、原則として確定申告は必須ではありません。所得税が発生するのはあくまで収益がプラスになった場合のみです。
しかし、給与所得や事業所得などで所得税の支払いをしている場合、確定申告をして損益通算すれば所得が減るため、税金の支払い額が減額されるケースもあります。
確定申告をするべきか自分で判断が難しい場合は、税務署や税理士に状況を説明し、どのようにすべきか確認することをおすすめします。
今回は、相続した不動産を売却した際にかかる税金の種類や譲渡所得税の計算方法、利用できる特例・控除について解説しました。
譲渡所得税は相続した不動産の場合も通常と同じで、保有期間で税率が変わります。保有期間は被相続人がその不動産を取得した日からカウントされるので、売却前に確認しておきましょう。また、相続した不動産の売却にかかる税金は特例・控除を利用することで減額できます。ぜひ特例・控除を活用して減税をしましょう。
多くの情報を持っていることでムダな出費を抑え、正しく税金を納めることができます。この記事を参考に、相続した不動産の売却に関する知識を集めてください。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。