台風によって受ける家への被害は、屋根や外壁などの目に見えるものから、基礎に影響が出てくるようなものまでさまざまです。目に見えないからといって放置しておけば、大きな欠陥につながる危険性も秘めています。
【台風による家への被害例】
この章では、まず台風による家への被害・影響について解説します。自然災害による家へのダメージにどのようなものがあるのかを知っておくと、早めの対応が取れます。
台風の強い風によって、屋根・外壁が破損する恐れがあります。屋根部分は自分では確認できない部分なので、実は屋根の一部が剥がれて雨漏りや虫の被害に合ってしまうケースもあるようです。
また、窓ガラスが割れることによって、中にいる住人や家具・内装に被害が及ぶこともあります。
落雷によって起こる火災も問題です。また、落雷が直撃しなくても、近くに落雷したことで一時的に周辺地域の電圧・電流が過剰となり、家電・パソコンが故障するなどの「雷サージ」の被害も起こっています。
台風シーズンになると、大雨・洪水による広範囲の浸水被害が毎年ニュースでも話題になっています。床上浸水では家具・家電・内装にまで被害が及びます。床下浸水なら、見た目には被害を確認できないかもしれません。しかし、実際に確認すると物件が損傷している場合もあります。
床下浸水によって建物基礎部分が傷む被害も起こり得ます。また、浸水によりシロアリ施工の効果がなくなり、シロアリが発生してしまうという二次被害もあるようです。
マンションでも、被害がまったくないとは言い切れません。地下駐車場や地下に電源設備があれば、浸水によってエレベーターなどの電気機器がストップする可能性もあります。
なお、浸水があった場合は、床上であれ床下であれ、売却時に相手に伝える義務があります。不利な情報を隠して高く売ろうとすると「善管注意義務違反」となるので、注意しましょう。
台風の強風・大雨の影響で、土砂崩れの被害を受ける地域もあります。山や崖付近の住宅では、土砂崩れによって家が全壊・半壊被害にあうケースもあり、家ごと土石流で流されるなどの被害もありました。住人が巻き込まれる危険も大いにあります。
自分の住まいが、土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域などのリスクのあるエリアかどうかは、国土交通省が提供するハザードマップで確認できます。避難場所も事前に知っておきましょう。
なお、家を売却する際には、ハザードマップでの説明も必要です。いざ、重要事項説明の際に「ここは土砂災害の恐れがあります」となると、契約が不成立となることもあります。あらかじめ、不利な情報も説明して、売却交渉に臨みましょう。
どんなに備えていても、突発的な自然災害による住宅被害は避けられないこともあります。そんなときのための救済措置として、公的機関からの支援があることを知っておきましょう。
【台風で家が被害を受けたときの公的保証・支援制度】
ここからは、自宅が台風被害を受けた際の補償・支援制度について解説します。被害のすべてが補償されるわけではありませんが、知っておくと万が一のときに安心です。
台風によって住宅が損壊した場合は、まずは最寄りの自治体で罹災証明書の発行を申請してください。公的支援を受けるためには、罹災証明書(被災証明書)が必要となります。罹災証明書は、災害による実際の被害内容・程度を証明するものです。
【罹災証明書申請に必要な書類】
罹災証明書申請には、実際の被害の状況を写真で証明する必要があります。被災後は「まずは片づけなきゃ」と体が動いてしまいますが、正しく被害状況を報告して保障を受けるためにも、片づける前に写真撮影を忘れないようにしてください。
住んでいる住宅が台風被害を受けた場合は、その被害の度合いによっては生活に大きな影響が出ます。安全に暮らすためにも、法律による緊急対応やその後の支援制度など、さまざまな制度が用意されているので知っておきましょう。
【被災のときに受けられる支援制度・措置】
以下で詳しく解説します。
台風被害で住宅が半壊となった場合は、一刻も早く対応して生活ができるような救済措置が必要です。応急処理によって生活を続けられる住宅であれば、災害救助法による制度を利用できます。
【災害救助法による住宅の応急処理の要件】
前年度の世帯収入額は、世帯主の年齢によっても基準が異なります。
半壊の度合いが大規模の場合は、救済のため、年齢・世帯収入などの要件はなくなります。
各自治体による被災者生活再建支援制度は、自然災害によって家が全壊・半壊の被害を受けた際に利用できるものです。損害の度合い・再建方法によって、以下の2種類の支援が用意されています。
支援制度は、被害に応じて、基礎支援金・加算支援金の「合計額」が支給されるというものです。
【基礎支援金】
【加算支援金】
上記の支給額は、一人暮らし世帯の場合は、それぞれ支給額が4分の3となります。ただし、罹災証明書があれば必ず補償を受けられるわけではありません。自治体の窓口で、必要書類・要件を確認してください。
住宅が被害を受けた世帯は、修繕・新生活による経済的負担が大きくなります。負担軽減のために用意されているのが、複数の減免措置です。
【確定申告・納税の減免措置】
減免措置の適用は、被害の度合いと世帯収入によって変わります。詳しくは最寄りの税務署窓口で確認してください。
自宅が被災した場合、経済的にも心理的にも大きなダメージとなります。「この家は手放して、災害のリスクの少ない場所で新生活を送りたい」と希望する人もいることでしょう。被災したからといってあきらめることはありません。台風被害を受けた住宅でも、売却は可能です。
【台風で壊れた家を売るときの5つのコツ】
この章では、台風被害にあった家を売却するためのポイントについて解説します。
被災した家を「もう手がつけられない…」と放置していると、空き家対策特別措置法による「特定空き家」と判断される可能性があります。
特定空き家とは、そのまま放置しておくと倒壊の危険や衛生上の問題があり、周囲に被害が及ぶと見なされた状態の家です。
特定空き家に指定された場合は、自治体からの勧告・罰金や固定資産税が高くなるなどのペナルティがあります。行政代執行で自治体が強制取り壊しに踏み切ると、強制徴収は逃れられません。費用が1,000万以上かかることもあるので、特定空き家とならないように措置を取りましょう。
家を売る際に、不利になりそうな情報はできるだけ伏せておきたくなりますが、不動産売買ではNGです。被災にあった事実やその箇所は隠さず、具体的に報告する義務があります。
台風による被害は、床下浸水や屋根の被害などのわかりにくい箇所もあり、後々基礎部分の欠陥や雨漏りなどの被害が出てくるかもしれません。「売れてしまえば責任なし」ではなく、売る際にリスク報告は必要です。後になって、損害賠償請求のトラブルに発展するケースも多々あります。
被害状況によっては、欠陥のある場所を契約書に記載して、双方が納得したうえで売買契約を結ぶことになります。
台風による被害が大きい場合は、解体工事で更地化して売る方法もあります。損壊の程度によっては、公的機関の助成金を利用して、家を修繕してから売却するのもよいでしょう。
【利用できる助成金】
上記の制度を利用する場合は、世帯主の年齢・年収や仮設住宅を利用しないなどの要件を満たしている必要があります。助成制度を利用するのが得策か否かは、被害状況と将来の生活設計も合わせて、まずは自治体の窓口担当者と十分に相談を重ねてください。
ホームインスペクションとは、住宅の専門家が第三者として住宅を評価するものです。どこにどんな不具合・劣化があるのか、あとどれくらい維持できるのか、修繕は必要かなど、専門家の目線でコンディションを診断してくれます。
専門家の診断を受け、欠陥とリスクがはっきりしていれば、買う側も安心です。欠陥について具体的に説明できる分、交渉もしやすくなります。
住宅診断士を試験に合格したJSHI公認ホームインスペクターに依頼したい場合は、「日本ホームインスペクターズ協会」のホームページで検索してみてください。
被災した住宅をそのまま売りに出しても、リスクがある分、買い手がつきにくい傾向にあります。「安くてもいいから、すぐにでも売りに出したい、手放したい」という場合は、不動産会社に買い取ってもらうことも可能です。
訳あり物件の扱いに特化した、専門の買い取り業者もいます。
台風などの災害によって、予期せぬ被害を受けてしまった場合は、苦い経験から「災害の少ない地域に転居しよう」と考える人も少なくありません。被害を受けた家は、査定額が下がる可能性はあるものの、売却はできます。
大きな災害被害を受けたエリアは、その後に重点的に防災対策が取られて、被害を未然に防ぐ環境に生まれ変わる可能性もあるためです。
売却を検討するのであれば、修繕・建て直しをするかどうかなど、まずは不動産会社との相談をおすすめします。訳あり物件の扱いに実績のある不動産会社や、専門に扱う業者にあたってみましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。