一般的に、戸建ての減価償却年数は22年、マンションは47年です。築20年が経過すると、戸建ての価値は、ほぼゼロになります。
戸建ての構造は木造あるいは軽量鉄骨がほとんどのため、マンションのような鉄筋コンクリート造と比較すると劣化が早いのが特徴です。そのため、資産価値が下落するスピードも早くなります。
では、築10年の地点では、戸建ての価値はどれくらいになるのでしょうか。
(出典:国土交通省「中古住宅流通、リフォーム 市場の状況」)
国土交通省が公開している中古住宅の価格グラフによると、築10年の戸建て住宅の市場価値は、新築の約半分の価値になっています。さらに、築20年地点の戸建て住宅の価値は、ほぼゼロです。
上記のグラフを参考にすると、新築2,000万円の戸建ての10年後の価値は、1,000万円となることが予想されます。また、新築時3,000万円の場合は、築10年ではおよそ1,500万円という計算になるでしょう。
戸建て住宅の価格は、土地価格と建物価格の合計です。土地の価格は築年数の影響を受けないため、ほぼ変動することはありません。
しかし、建物の価格は、築年数が経過するほど資産価値が下落します。
高い値段で戸建て住宅の売却を考えているのであれば、できる限り築年数の浅い時期に準備して売却するのがよいでしょう。
逆に、戸建て物件で築22年を超えると、税務的にも建物の資産価値はゼロとなり、売却価格はさほど変化しなくなります。築古物件になると、築年での売却価格の変動は大きくはありません。
築10年の家は、売却に最適なタイミングです。ただし、メリットやデメリットについて正しく把握しておかなければ、売却に失敗してしまうかもしれません。
特に、住宅ローンを返済中の場合は、築10年で家を売却する場合のデメリットについて理解しておく必要があります。場合によっては対策を取らなければならないでしょう。
築10年の家を売却する場合は、次の3つのメリットがあります。
【築10年の家を売却するメリット】
デメリットと比較してもメリットが大きくなるなら、築10年の時点で家を売却することをおすすめします。詳しく解説していきますので、ぜひ検討してみてください。
築10年の戸建てを売却する大きなメリットは、新築時の半分の建物価格で売却できることです。
築10年を過ぎると、戸建ての市場価値はどんどん下がっていきます。木造の耐用年数が22年であることから、建物の資産価値は22年でゼロになってしまうのです。
資産価値がなくなるだけであって、耐用年数が経過した戸建てには住めないというわけではありません。ただし、建物価格を左右する1つの目安であることは事実でしょう。
そのため、半分の建物価格で売却できる築10年で手放すのがお得なのです。
築年数が10年の家は、売主・買主ともに住宅ローン控除が受けられる点もメリットの一つです。
まず、売主のメリットとして、「住宅ローン控除」が挙げられます。住宅ローン控除とは、物件の購入時から10年間、所得税や住民税から住宅ローン残高の一部を控除できる制度のことです。
また、税制面で恩恵を受けるのは、売主だけではありません。買主も適用条件に当てはまれば、住宅ローン控除が受けられるメリットがあるのです。
そのため、新築よりも安く購入でき、一定期間ローン控除が受けられる築10年の家は、比較的需要が高くなる傾向があります。
不動産を売却して得た利益は、譲渡所得と呼ばれます。譲渡所得は課税対象となるため、発生した場合は税務署に申告して、「譲渡所得税」を納税しなければなりません。
譲渡所得税は、所有期間により税率が異なります。所有期間が10年を超えると、譲渡所得の軽減税率を受けられるメリットがあるのです。
【所有期間が10年以下の不動産売却時の税率】
(出典:nta.go.jp)
譲渡所得にかけられる税率は、所得税・住民税・復興特別所得税の合計です。5年以下で不動産を売却した場合は39.63%ですが、5年超~10年以下では20.315%まで軽減されます。
さらに、所有期間が10年を超えた売却の場合では、軽減税率により以下の税率が適用されるのです。
【所有期間が10年超の不動産売却時の税率】
6,000万円以下のケースでは14.21%まで軽減されます。築10年で家を売却すると、税金面において優遇される可能性が高くなるのです。
売主が住宅ローン返済中の場合は、築10年の戸建てを売却するために「ローンの完済」が必要になります。売却時に、金融機関が土地・建物に設定した抵当権を抹消する必要があるからです。
家を売却して得た利益が住宅ローンの残債より多い「アンダーローン」であれば、ローンが完済でき、抵当権も抹消できます。
しかし、売却利益が住宅ローンの残債より少ない「オーバーローン」である場合は、家を売ったお金だけではローンが完済できません。
どうしても家を売却したい場合は、別途、自己資金から調達するなどの対策が必要です。
不動産を売却する場合は、以下の流れで進めていくのが一般的です。
【築10年の家を売却する流れ】
築10年の家を売却する場合は、まずしっかりと準備を整えておく必要があります。また、売却が完了したあとも、忘れずに確定申告をおこない、税を納めなければなりません。
売却を検討する場合、事前に準備すべき点は、次の4つです。
【事前準備で確認しておくこと】
築10年の家を売却する際は、ローン残債額がネックになります。そのため、本格的に売却活動をおこなう前に、家を売却したお金でローンが完済できるかしっかり確認する必要があるのです。
まずは、住宅ローンの残債を確認しましょう。住宅ローンを完済しないと抵当権が抹消されず、売却できないためです。住宅ローンの残債を確認する方法としては、以下が挙げられます。
【住宅ローン残債の確認方法】
返済予定表は、借り入れ後に発行されるものです。
また、残高証明書は毎年金融機関から年末調整の時期に郵送されます。すぐに取得したい場合は、発行手数料がかかりますが、金融機関の窓口で請求可能です。
売りたい戸建て住宅が、どれくらいの価格で売買されているのかを把握しましょう。
希望する価格が相場からかけ離れていると、買い手が見つからなかったり、売主が損をしたりするため、相場感の把握は重要です。
不動産相場をチェックする場合は、次の2つの検索サイトを利用するのがおすすめです。
【不動産相場を把握するのに役立つ検索サイト】
レインズ・マーケット・インフォメーションは、国土交通大臣が指定する不動産住宅機構が保有する不動産の成約情報が公開されているサイトです。
また、土地情報システムは、国土交通省が運営するサイトで、不動産の取引価格や公示地価や都道府県地価といった土地の価格が閲覧できます。
売主が、おおまかな相場観を把握するのに役立つでしょう。
住宅ローンの残債・不動産の売買相場を把握したあとは、実際に戸建てを売却したお金で住宅ローンが完済できるのかどうかを確認します。
売却金で住宅ローンが完済できるアンダーローンの場合は、そのまま売却準備をすすめましょう。
しかし、売却金で住宅ローンが完済できないオーバーローンの状態である場合は、まずローン残債を完済する手段を講じる必要があるでしょう。
不足金を自己資金や借入などで資金調達しなければなりません。
不動産を売却する場合は、さまざまな費用が必要になります。主な費用は、以下の4点です。
【不動産売却に必要な費用】
仲介手数料は、不動産会社に売買成立した報酬として支払う費用です。印紙代は売買契約書に貼って納税する「印紙税」(電子契約では不要)で、登記費用は抵当権抹消費用や司法書士報酬を含みます。
また、引っ越し費用は新居転宅に伴い引越業者に支払う費用です。
事前準備ができたら、不動産会社に売却物件の査定を依頼します。不動産の査定方法には、「机上査定」「訪問査定」の2種類があります。
【査定の種類、および内容・特徴】
まず、机上査定を複数社に依頼し、不動産会社の選定をおこないましょう。机上査定を依頼した業者の中から信頼できそうな業者をピックアップし、訪問査定をしてもらう流れです。
訪問査定は手間がかかりますが、より正確な査定額を算出してもらえるため、一度売買契約前に依頼しておくとよいでしょう。
見積もりを比較したのちに、信頼できる不動産会社と媒介契約を締結します。媒介契約とは不動産売却の仲介を依頼するときに交わす契約のことです。
媒介契約には、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3つの種類があります。それぞれの特徴を以下の表にまとめました。
【媒介契約の種類、および特徴】
どの契約方法が適しているかは、売主のニーズによって異なります。自分に合った媒介契約を締結するよう心掛けましょう。
不動産会社と媒介契約を交わしたら、売却活動をおこないます。主な売却活動は、次の2つです。
【売却活動の種類】
不動産会社は、Webサイトやチラシに物件情報を掲載します。売主も、不動産会社に売却活動を任せっきりにするのではなく、内覧準備や内覧対応が必要です。
内覧希望者がいつ現れてもいいように、室内や水回りの掃除・庭の手入れなど、見栄えよく綺麗にしておくことをおすすめします。
買い手が見つかれば、売買契約を締結し、戸建ての引き渡しをおこないます。
売買契約と引き渡しは、売主・買主それぞれが契約している不動産仲介業者立ち合いのもとでおこなわれるものです。
売主は、買主より売却代金を受け取り、住宅ローンの残債がある場合は完済手続きをおこないます。金融機関がローン完済を確認すれば、抵当権の抹消書類が取得可能です。
売主は、不動産会社に仲介手数料を支払い、買主に鍵を渡して引き渡しが完了します。
戸建てを売却し、譲渡所得が発生した場合は、「確定申告」が必要です。家を売却した翌年の申告期間内に、所轄の税務署で譲渡所得を申告し、譲渡所得税を納税します。
確定申告の期間は、毎年2月16日〜3月15日までです。税金控除の特例を利用したい場合は、確定申告時に申し出が必要になるため、あわせて準備しておきましょう。
築10年の戸建てを高く売却するためのコツや注意点は次の5つです。
【築10年の家を高く売るコツと注意点】
築10年の家の売却に失敗しないためには事前準備も大切ですが、不動産会社選びも重要です。複数社を比較して、戸建ての売却が得意な業者に依頼しましょう。
不動産売却を検討する際は、複数の不動産会社に査定を依頼することが重要です。
査定価格は不動産会社ごとに異なるため、1社だけでの査定では相場からかけ離れているのかどうかがつかめない恐れがあります。高いと買い手がつかなかったり、低いと売主が損をしたりする場合があるかもしれません。
適切な価格で物件を売却するためには、最低3社の不動産会社に依頼し、査定結果を比較することを推奨します。
物件を高く売却するためには、媒介契約を結ぶ際に戸建ての売却実績が豊富な不動産会社に依頼することが重要です。
売却実績が豊富な不動産会社なら、戸建て売却のノウハウがある・戸建て購入を希望している顧客を多く抱えている傾向があります。
不動産会社のWebサイトで売却実績などをチェックして、戸建ての売却が得意な業者かどうかを見極めましょう。
価格を相場より少し高く設定して売り出すことも、高く売却できるコツの一つです。
公益財団法人東日本不動産流通機構の調査では、成約価格は新規登録価格の91%ほどとなっています。一般的に、売り出し時の価格よりも、値引きした金額で成約に至る傾向があるのです。
1割ほど低い金額で成約することを見越して、売り出し価格を1割ほど高く設定することをおすすめします。
戸建てを高く売るためには、内覧にも力を入れなければなりません。特に、掃除は欠かさずにおこないたいものです。
以下は、内覧者が必ずチェックする場所のため、念入りに清掃・配慮するよう心掛けましょう。
【内覧時に特にチェックされるポイント】
水回りの汚れがなかなか落ちない場合は、プロのクリーニング業者に依頼することを検討してもよいでしょう。
第一印象にかかわるため、玄関のホコリにも注意してください。また、カーテンなど変えて室内を明るくする工夫も大切です。
さらに、内覧希望者の中には、ペットやタバコの臭いに敏感な人もいるかもしれません。換気や消臭などをおこない、臭いにも配慮しましょう。
リフォームすると設備が改善され見栄えも良くなるので、住み心地がよくなるかもしれません。
しかし、リフォーム費用を売却価格に上乗せしなければならないため、築10年の戸建ての相場より割高となってしまいます。
さらに、リフォームのテイストは好みが分かれる可能性もあるので、買い手の好みと異なっていた場合は、売れにくくなってしまうのです。
買手がつかず値引きをすることになれば、売主にとって損失が大きくなってしまうでしょう。そのため、むやみにリフォームしないほうがよいのです。
築10年の戸建ての売却相場は、新築時のおよそ半分とされています。売主と買主のどちらも住宅ローン控除が受けられ、譲渡所得税の軽減措置が受けられるのがメリットです。
ただし、家の売却金額が住宅ローン残債以下になる場合は、まずローンを完済することが必要になります。その場合は、不足分を資金調達などで補わなければならないでしょう。
売却前にローン残債と売却予想価格を比較して、本当に売却できるのかチェックしておくことが大切です。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。