【完全】賃借権とは?借地権や地上権との違い・期間などについて徹底解説!

【完全】賃借権とは?借地権や地上権との違い・期間などについて徹底解説!

不動産投資をおこなうなかで、賃借権という言葉を聞くことがあります。他に、賃借権に似た言葉に、地上権、賃貸などがあり、その違いや意味について、明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。難しい用語ですが、しっかりと理解していないと損してしまうこともあります。

今回は、賃借権の基礎と、類義語との違いを解説していきます。賃借権のメリット・デメリットも紹介するので、特に土地活用や土地査定をお考えの方はぜひ最後までお読みください。

賃借権とは

賃借権とは

賃借権(ちんしゃくけん)とは、賃貸借契約に基づき、賃料を払って不動産などの他人の所有物を使用して収益を得ることができる、借主の権利のことです。
不動産における賃借では、借主は地主に対して毎月地代を支払い、借地の上の建物を運用することになります。

また、賃借権の対になる言葉に、賃貸権(ちんたいけん)があります。賃貸権は貸借権とまったく逆の立場から表した言葉で、貸主の権利となることに注意しましょう。
国税庁:地上権、土地の賃借権、使用貸借権の区分

借地権との違い

賃借権に似た言葉に、借地権と地上権があります。借地権とは、地主から土地を借りる権利のことを指します。借主(借地人)は、借地の上に地代を払って建物を建てることができ、この場合、土地の所有者は地主ですが、土地の上にある建物の所有者は借主になります。
次章で説明する地上権、借地権、貸借権の3者の関係は、次の通りです。

借地権 賃借権(債権) 賃貸借契約に基づき他人の所有物を使用できる、人に対する権利
地上権(物権) 建物や工作物、竹木(ちくぼく:樹木や竹)を所有するために、他人の土地を使用する、物に対する権利

借地権は、賃借権と地上権の双方を包括した言葉です。
賃借権(債権)とは人に対して主張できる権利であることに対し、地上権(物権)は目的物に付随した権利ということです。

地上権との違い

前述にもありますが、地上権とは、借りている土地を使用する権利のことです。
地上権があれば、地主の許可がなくても借地の上の建物を売却したり、抵当権を設定したりすることができます。
賃借権と地上権の違いをまとめると、次のようになります。

項目 賃借権 地上権
権利の種類 債権 物権
登記の義務 なし あり
抵当権の設定 可能 建物は可能
譲渡(地主の承諾) 必要 不要
地代 あり なし(別途定めれば、あり)
存続期間 20年以内
土地は30年
30年以上

地上権のみ登記の義務があり、抵当権の登記もできます。
賃貸借と地上権のメリットは、地主と借主の立場によって異なります。
地主の立場では、借主が建物を売買したり建て替えたりするたびに、承諾料を得ることができるというメリットがあります。また、借主の立場では、地上権を設定しておけば、地主の承諾なしに売買や立て替えなど自由にできるという強みがあります。

賃貸との違い

また、賃借と似た言葉に賃貸があります。賃借とは、賃料を払って他人の所有物を借りることであることに対し、賃貸とは賃料を受け取って自己の所有物を貸すことです。
土地の賃貸借契約では、地主は借主に土地を使用してもらい収益を得られるようにすることで、対価である賃料を受け取ることになるのです。

この契約を、賃料を支払う借主(賃借人)から見たのが賃借、賃料を受け取る地主(賃貸人)から見たのが賃貸となります。

賃料 当事者 義務
賃借(ちんしゃく) 支払う 賃借人
  • 賃料を払わなければならない
  • 目的物を原状回復した上で返還しなくてはならない
賃貸(ちんたい) 受け取る 賃貸人
  • 賃借人に目的物を使用収益させる
  • 目的物が経年劣化等で故障した場合は修繕する

建物の賃貸借契約には、普通借地契約と定期借地契約があります。それぞれの詳しい内容については、定期借地権の項目で解説します。

賃借権の期間

賃借権の期間

民法では、賃貸借の存続期間は50年と定めています。「改正民法604条(賃貸借の存続期間)」では、以下のように明文されています。

(賃貸借の存続期間)
第六百四条 賃貸借の存続期間は、五十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする。
2 賃貸借の存続期間は、更新できる。ただし、その期間は、更新の時から五十年を超えることができない。

(引用:改正民法604条「貸借の存続期間」

一方、借地権の存続期間は、借地借家法第3条で最低30年と定めています。

(借地権の存続期間)
第三条 借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。

(引用:借地借家法第3条

借地借家法と旧借地法による借地権の種類

借地権の更新は、できるものとできないものがあり、それぞれ契約期間が異なります。
以下のように、1992年に成立した借地借家法に基づくものなのか、それ以前の旧借地法に基づくものなのかによって異なるのです。

借地借家法(1992年成立) 普通借地権
定期借地権
旧借地法 旧借地権

現在、この3種類の借地権が併存していますが、1992年7月31日以前に契約された旧借地法による借地権が多く残っているのが現状です。旧借地法による契約を更新しても、自動的に新法へ移行することはありませんので注意しましょう。

ちなみに、旧借地法での存続期間は堅固建物で30年以上、非堅固建物で20年以上です。これは、更新後の存続期間も同様となります。
【参考】旧借地法と新法の借地借家法の違い | 日本地主家主協会

借地権の存続期間

借地権の存続期間については、次章で解説する定期借地権の種類によって、以下のように異なります。

種類 存続期間
一般定期借地権 50年以上
事業用定期借地権 10年以上

50年未満

建物譲渡特約付定期借地権 30年以上
【参考】普通借地権 30年以上

また、存続期間が終わった後の更新については、旧借地権・普通借地権は原則として更新されますが、定期借地権は更新されません。
借地権の更新には、以下のような「請求」「合意」「法定」の3種類があります。

種類 概要 更新期間
請求更新
  • 借地人から地主に請求する更新の手続き
  • 地主に正当な事由がなければ拒否できない
  • 更新前と同じ条件で契約が更新される
  • 更新は建物がある場合に限られる
  • 初回の更新は20年、2度目以降は10年
合意更新
  • 地主と借地人が双方合意して進める
  • 更新料や更新後の地代は契約による
  • 最初の更新は20年以上
  • 2度目以降の更新は10年以上
法定更新
  • 更新手続きを忘れても、自動的に更新(ただし、次の条件あり)
  • 借地上に建物があり、借地人が現にこれを使用していること
  • 地主が正当な事由(土地の利用状況や地主が土地を必要とする事情等)に基づいて異議を申し立てていないこと
  • 最初の更新は20年以上
  • 2度目以降の更新は10年以上
  • 正当な事由が無い限り継続

定期借地権とは?

定期借地権とは?

定期借地権とは、1992年に施行された借地借家法によって登場した権利です。従来の借地権では自動更新が原則のため、借主の権利が大きくなっていました。これに対し、1992年施行の借地借家法で定められた定期借地権では、存続期間を明記し更新がないのが特徴です。

これにより、土地所有者は安心して土地を貸すことができ、借主は一般定期借地権では利用目的を制限されることなく活用可能となります。円滑に土地の賃貸借がおこなわれるので、土地の流動性が増すと期待されています。
また、借地借家法で定められている一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付定期借地権の違いは、以下の通りです。

存続期間 更新 契約 利用目的 契約終了後
一般定期借地権 50年以上 なし 書面 制限なし 原則、更地で返す
事業用定期借地権 10年以上50年未満 なし 公正証書 事業用のみ(居住は不可) 原則、更地で返す
建物譲渡特約付定期借地権 30年以上 なし 制限なし 制限なし 建物付きで返す
【参考】普通借地権 30年以上 最初の更新は20年以上2回目以降は10年以上 制限なし 制限なし 原則、更地で返す

種類により存続期間に違いがありますが、更新がなく安心して賃貸できるのが特徴です。

不動産投資をする際の賃借権のメリット・デメリット

不動産投資をする際の賃借権のメリット・デメリット

不動産投資をする際の賃借権のメリットとデメリットを紹介します。
以降で詳しく解説していきます。

メリット

賃借権は、不動産投資をする際、次のようなメリットがあります。

  • 土地は借りているため、固定資産税を払う必要がない
  • 「借地権が設定されている=好立地」と言える
  • 旧借地法の場合、実質無制限に更新ができる

1.土地は借りているため、固定資産税を払う必要がない

借主は、土地を借りているため、固定資産税を払うことなく、地上の建物を資産運用することが可能です。固定資産税だけでなく、都市計画税や不動産取得税も不要となるため、借主はその分のコストを削減できます。
このように、固定資産税などの税金のうち、土地にかかる税金が必要ない点は、不動産投資をおこなう上でのメリットになるでしょう。

2.「借地権が設定されている=好立地」と言える

地方や田舎などの人気が低いとされる土地に、借地権が設定されることはほぼありません。そのため、借地権が設定されていることは、好立地であることの証明になります。
そして、好立地であるということは、資産価値が高いと評価することができます。資産価値の下がりにくい物件は節税効果が高く、入居率も高い傾向があります。

3.旧借地法の場合、実質無制限に更新ができる

旧借地法では、借主の権利が強力に保護されていました。借主は実質無制限に更新できるため、権利が安定し、借地権を脅かされる心配がありません。

安心して不動産投資をおこなうことができるため、長期的な運用ができます。

デメリット

デメリットは、次の通りです。

  • 借地権つき物件は、融資を受けにくい
  • 借りている期間中、地代の負担が続く
  • 売却・増築・建て替えに地主の承諾が必要

1.借地権つき物件は、融資を受けにくい

借地権つきの土地は、地上の物件に権利者がいるため土地の活用が難しく、融資を受けにくい傾向があります。借地権のない土地と比べれば、活用方法に制限が出てしまうのは明らかです。

2.借りている期間中、地代の負担が続く

借地権を持っている期間中は、賃料を払い続ける必要があります。長期に賃借していると、負担している賃料額の合計も大きくなるでしょう。借主は。固定資産税を払う必要はないとはいえ、地代として賃料の支払いが続くことは負担になるので、場合によってはデメリットになる可能性があります。
できるだけ負担にならないような賃料の設定が、ポイントになるでしょう。

3.売却・増築・建て替えに地主の承諾が必要

借地の契約には、増改築禁止の特約がついていることが多いです。これにより、建物の売却や増築・建て替えの際には、地主の承諾が必要となります。ただ、あくまでも特約なので、こうした特約がついてなければ、自由に売却や増改築・立て替えが可能です。

契約に増改築検視特約がついているかどうかは、地主に確認しましょう。確認しないで増改築をおこなってしまうと、あとで地主から契約を解除されてしまう危険性があります。特約がないか、地主の承諾さえ得られれば、売却など投資の自由度が高まります。

まとめ

賃借権とは、賃料を払って不動産などの他人の所有物を使用し、収益を得ることができる借主の権利のことです。不動産における賃借では、借主は地主に対して毎月地代を支払い、借地の上の建物を運用することになります。

また、賃貸借に関する定めは、旧借地法と1992年施行の借地借家法の2つがあるため、更新契約はどちらが適用されるのか、わからない人もいるでしょう。この記事を読んで、しっかり整理してください。

賃借権は、借地権に含まれる権利のひとつです。借地権が設定されている物件は、好立地であることが多く、投資物件としての魅力的物件といわれています。賃借権についての知識を深め、効果的な投資をおこなっていきましょう。

プロフィール
上野典行(プリンシブル・コンサルティング・グループ株式会社)
上野典行(プリンシブル・コンサルティング・グループ株式会社)
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員
「プリンシプル 住まい総研」所長
住宅情報マンションズ初代編集長

1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。

プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。