更地は、建物や駐車場にもできるため、不動産の中でも人気が高い物件です。家付きの土地は、更地にしたほうが高く売れるのか、そのまま売ったほうがよいのか迷いますよね。
【古家付き土地を更地にしたほうが良いケース】
古い家でもこれまで人が住んでいたのであれば、住宅としての資産価値があるのかもと迷うもの。この章では、更地にして売却したほうがよいケースを解説します。
実際、築20年・30年の住宅でも十分暮らせます。国土交通省の木造住宅期待耐用年数によると「フラット35基準程度で50年~60年、劣化対策等級3で75年~90年、長期優良住宅認定であれば100年超」です。
しかし、長寿命である木造住宅の「法定耐用年数」は22年です。住むことができても、不動産としての資産価値は異なります。
この法定耐用年数とは、「減価償却資産が利用に耐える年数」のことです。住宅などの建物だけでなく、機械・パソコンなどさまざまなものに設定されていて、法定耐用年数が過ぎると税務上の資産価値がゼロになります。
建物の構造による耐用年数の違いは、下記の通りです。
築年数20年以上でも家の状態が良ければ、お得感を感じる買い手もつくかもしれません。しかし、劣化が進んで住宅としても価値が低そうであれば、法的には資産価値がなく購入者は建物を取り壊して建て直すためのコスト負担を考え、買い手がつきにくくなります。そうした場合は更地にしたほうがよいでしょう。
30年以上の歴史を背負った木造家屋は、耐震基準を満たしていない場合もあり、強度に問題があるかもしれません。旧耐震基準(1981年6月より前)に設計された家は、安全面でも不安があるので更地にする目安と考えましょう。
駅近くや大型商業施設・繁華街・都心に近い場合は、更地のほうが、価値が高まります。マンション・アパートなどの大型賃貸や商業施設など、土地活用の幅も広がり高い収益を得る可能性があるためです。
査定価格0円の住宅がついているより、使いやすい更地のほうが売買価格も高値になります。更地にしたほうがよいケースといえるでしょう。
更地にするか、解体せずに売るかを迷う方は、不動産会社への相談をおすすめします。
周囲がオフィス街・商業エリアの場合、古い家付き土地より更地のほうが、その地域のニーズに合わせた土地活用ができます。更地のほうが、価値が高いといえるでしょう。
土地によっては、市街化調整区域内に該当することもあります。市街化調整区域とは、都市計画法で決められた「市街化抑制をするために指定された地域」のことです。基本的に新しく建築できず、すでに建物がある場合、建て替えや改築にも行政の許可が必要となります。
築年数・立地・周辺環境から「更地にしよう!」と決めたら、次は「更地化ってどこに依頼したらいいの?」「法律上、役所に申請や手続きって必要?」と迷う方もいるはず。
【更地にして売る7ステップ】
この章では、「建物つきの土地」を更地にして売却するための手順について、順を追って説明します。
まずは、解体業者を探し、見積もりを依頼しましょう。解体費用の見積もりは、解体を依頼する建物の大きさ・構造(木造・鉄骨・鉄筋コンクリート)によって上下します。
【解体費用の相場】
【見積もりのポイント】
インターネットでは、坪数・構造の種類を入力すると、簡単に見積もりを出してくれる業者もたくさんあります。また、家具・不用品があると、処分費用が上乗せされます。費用を抑えたい場合は自分で処理しておきましょう。
インターネットで見積もりを取っていても、現地調査は必須です。正確な見積もり金額は、現地調査をおこなわなければ算出できません。
広さや周辺の道路環境によっては、重機が入れない場所もあります。有害物質や産業廃棄物の有無・処分など、現地調査でしかわからない項目をチェックし、正確な金額を出してもらいましょう。
また、令和4年4月1日から、建築物等の解体・改修工事をおこなう施工業者は、大気汚染防止法に基づき、当該工事における石綿(アスベスト)含有建材の有無の事前調査結果を都道府県等に報告することが義務づけられれるようになりました。
報告は、厚生労働省が所管する石綿障害予防規則に基づき、労働基準監督署にもおこなう必要があります。
【報告対象となる工事】
石綿障害予防規則に基づき労働基準監督署にも報告する必要があります。
アスベストの有無を確認するための調査費用や、解体時に出たアスベストを産業廃棄物処理するなどのコストが上がっています。
解体工事は、業者に依頼してすぐにスタートではありません。建築リサイクル法の届け出や道路使用許可申請も必要となります。一般的に、解体業者が対応してくれるので、依頼する側は委任状を用意するだけです。
また、周辺環境・安全に配慮し、工事が始まる前までに電気・ガスの停止やインターネット回線の撤去といった準備もおこなわなければなりません。
解体時には、騒音や粉じんによって、近所に迷惑をかけることも少なくありません。トラブル防止のため、工事前に周辺への説明・挨拶は終わらせておきましょう。
実際の解体・更地工事は、以下の流れでおこないます。
養生作業とは、解体時の騒音や飛散する粉じん・廃材による被害を抑えるため、足場を組んで養生シートで覆うことです。養生作業後、内装・不要物・廃棄物を運び出し、撤去します。
細かい不要物まで撤去後は、重機を使って平らにする整地作業です。表面まで綺麗に均します。解体完了後は、建物滅失登記を法務局へ提出して完了です。手続きに手間がかかるため、解体業者や土地家屋調査士に委託をおすすめします。
解体業者によっては、次の売却のために除草剤散布をしてくれるところもあります。空き地にしておくと、不法侵入や遊び場に使われることもあるため、ロープを張ってもらえないかも相談してみましょう。
建物滅失登記が終わり、更地化を証明できたら、不動産会社に査定を受けます。解体工事の見積もりと同様に、不動産査定も複数社に依頼してください。
また、査定を受ける前に、事前にその土地の相場を知っておきましょう。相場はインターネットで簡単にチェック可能です。国土交通省が提供する「土地総合情報システム」や、不動産会社提供のポータルサイトで調べておきます。
売買価格は、不動産会社と相談して決定します。最初の売り出し価格は、スムーズに売るために重要です。周辺の物件の価格を見ながら、値下げ交渉にも対応できるように余裕をもって設定してください。
「どうせ値切られるなら高く設定しよう!」と強気の値段でいくと、最初からチャンスを逃してしまう可能性もあります。不動産会社の意見を聞きながら、妥当な価格でスタートしましょう。
購入希望者が見つかった場合、土地の見学や説明などは不動産会社の対応となります。見学前には、念のため雑草やゴミが落ちてないかを確認しておくと、印象が良くなるかもしれません。
買い手が決まれば、売買契約締結です。不動産業者に確認し、必要な書類を準備しておきます。契約書で決められた日付に、更地の引き渡し・代金の精算をして完了です。
汎用性の高い更地にすると、資産価値も高く、査定金額も期待できます。しかし、良いことばかりではありません。注意点も知っておきましょう。
【更地にして売るときの注意点】
この章では、更地にする前に知っておきたいポイントを解説します。更地化に迷っている方は、これを読んで再検討してください。
古家付きの土地を更地にすると、家があった状態よりも資産価値が上がり、その結果、土地にかかる固定資産税も高くなります。仮に、売却が実現しないと、解体コストがかかった上に、今後の固定資産税も増えるという、泣きっ面に蜂とでもいう状態になります。
だとすれば、「古家付き土地」としてのほうが売りやすいケースもあります。
更地で高く売るか、古家付き土地で固定資産税の負担を少なく売るかは、不動産会社と相談して決めても良いでしょう。
地価によっては、更地にしても高く売れない地域もあります。解体費用のほうが査定額より高い場合は、更地にせず、「古家付き土地」のままで売却を検討したほうが良いかもしれません。
解体業者に依頼する前に、土地の査定価格と解体工事の見積もりを取り、比較してください。
不動産会社に査定を依頼するのと同じく、解体業者も必ず複数業者から見積もりを取りましょう。
広告に掲載されている業者の中には、悪質なところも紛れ込んでいるかもしれません。複数で比較し、可能であればインターネットの口コミのチェックもしておくと安心です。
近所で解体作業中の現場があれば、養生シートを確認してみましょう。養生シートが破れておらず、社名ロゴが入っている業者は、安全でトラブルの少ない業者の指標でもあります。
家同士の境界は、ぱっと見はわからないもの。しかし、境界を明確にしておかなければ解体時のトラブルになりかねません。境界線は早めに確認してください。
目に見える敷地境界線が存在するわけではなく、法務局の地積測量図や登記簿謄本に記載されています。ただし、先祖代々の古い土地は情報が少なく、相続登記もされていない事例も少なくありません。登記・測量が必要な場合もあるので、先祖代々の土地は要注意です。
また、隣家の境界となるブロック塀やフェンスは、隣家の景観や生活に関わる可能性が大きいです。解体工事が始まる前に、必ず事情を伝えておきましょう。
不動産を売却すると、売れた利益に対して税金(譲渡所得税)が発生します。相続した不動産の売却の場合は、特例として確定申告で所得控除を受けることができるため、不動産会社に控除要件を確認しておきましょう。
【特別控除を受ける条件】
相続した不動産を売却したときは、条件に該当していれば、3,000万円の特別控除が受けられるという特例があります。
更地にすれば、何でも建物を建てて良いわけではありません。更地にしたものの、「実は建築に制限がある土地で何も建てられない」というケースもあります。更地化する前に、以下の要件に該当しないかを確認してください。
市街化調整区域は、都市計画法上、景観維持・市街化させたくないなどの事情で、それまで暮らしていた人の家族しか建築ができません。
接道義務(幅員4m以上である建築基準法上の道路に、建物の敷地が2m以上接すること)を満たしていない土地は、「再建築不可物件」となります。道路幅4mになるよう建て替えるときに土地を後退(セットバック)するなどの必要性があり、それだけ土地の価値が下がります。
更地化した土地は、資産価値は高いものの、場合によっては更地化しないほうが良いこともあります。相続した空き家を更地にするか、古家付き土地として売るかは、その家の築年数や周囲の環境によって判断してください。
また、売却希望の空き家が市街化調整区域や建築基準法の制限にかかっていないかは、不動産会社に相談すると調べてくれます。更地化したほうが売れるかどうかなど、不動産会社と十分に話し合い、慎重に進めましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。