土地を売却した翌年の2月〜3月には、確定申告をおこない所得に応じた税金を納めなければなりません。金額が大きい分、どのくらいの税額になりそうかを概算して、事前に資金準備をしておきたいものです。
結論から言うと、3,000万円の土地を売却する際にかかる税額は、条件によって1万円~1,200万円とかなりの幅があります。土地の所有期間や特別控除の利用により、課税金額が変動するためです。
まずは、土地売却にかかる税金の種類からみていきましょう。税額の算出方法についての詳細も後述しますので、確定申告に備えて計算しておけるようにしてください。
土地売却にかかる税金は3種類あります。以下は3つの税金の詳細を表にしたものです。
所得税・住民税は、土地の売却によって利益である「譲渡所得」が発生した際にかかる税金のことです。
この2つの税金を合算したものが「譲渡所得税」になります。そのため、譲渡所得税は土地売却で利益が出なかった際には課税されません。
一方で、印紙税は売買契約時に発生する税金です。利益の有無ではなく、売却する不動産の金額によって納税額は変動します。
まずはそれぞれの税金について詳しくみていきましょう。
「所得税」は、所得に応じて国へ納税する税金のことです。原則、土地を売却した翌年の確定申告の時期である2月16日〜3月15日までに納税することが義務付けられています。
また、不動産売却によって発生した所得税は「分離課税」と呼ばれる方法で課税されます。分離課税とは、給与所得などのその他の所得と合計せずに単体で課税するもので、「総合課税」との違いは以下の通りです。
所得税の納税タイミングは、確定申告と同時期になります。そのため、原則3月15日までが支払期限です。
「住民税」も所得税と同様に、所得金額に応じて課税額が変動する税金です。ただし、国ではなく居住地の所在する市区町村へと納めるものになります。
また、住民税は、土地を売却した翌年の6月に納めるものです。所得税とは納税タイミングが異なり、確定申告後に納税するものになるため、忘れないようにしましょう。
住民税は、所得を申告した年の5月以降に自治体から納付書が送付されます。一括払いまたは4回の分割払いが選択可能です。
「印紙税」とは、印紙税法で定められている契約書に課税される税金のことです。土地の売買契約を締結する際に必要となる「売買契約書」も、印紙税が発生する契約書類になります。
印紙税の金額は、売却する土地の価格によって変動します。金額については以下を参考にしてください。
また、2014年4月1日から2024年3月31日までの間は軽減税率が適用されるため、右欄の税率となります。
印紙税は、契約書に収入印紙を貼り付けて納税する税金です。コンビニや郵便局などで購入できますが、金額が大きい場合は郵便局・法務局の利用をおすすめします。
では、実際に3,000万円の土地を売却したと仮定した場合に、いくら税金がかかるのかシミュレーションしてみましょう。たとえば「土地を売却した際の譲渡所得が3,000万円」であったとします。
譲渡所得は、土地の売却金額がそのまま課税対象となるのではありません。諸経費を引いた残りの金額が課税される仕組みとなるため、以下の計算式を用いて算出します。
売却益(課税譲渡所得)=売却金額-取得費用-譲渡費用
つまり、実際に土地を売却して得た利益から、土地の取得にかかった購入費用・売却準備にかかった譲渡費用などの経費を差し引いたものが譲渡所得となるのです。
ここでは割愛しますが、上記計算式を用いて算出された譲渡所得が3,000万円であったと仮定しましょう。それぞれ以下のように算出されますので、参考にしてください。
長期・短期譲渡所得の税率や、3,000万円特別控除については後述して詳しく解説します。しっかり理解して、税額把握に役立ててください。
土地を売却した際には、税金控除などの特例が適用できる場合があります。なかでも「3,000万円特別控除」が受けられる特例は、適用条件に該当すれば大きな節税効果が得られるのがメリットです。
3,000万円特別控除が受けられる特例には、以下のようなものがあります。
ここからは、上記2つの特例の適用条件や必要書類について解説していきます。計算方法についても紹介しますので、自分の売却した土地が適用条件に該当するかどうかぜひチェックしてみてください。
不動産を売却した際に得られる利益のことを譲渡所得と言います。通常であれば、この譲渡所得の金額に応じた「譲渡所得税」が課せられますが、「3,000万円特別控除」を利用すれば減税措置が受けられるのです。
この「3,000万円特別控除」は、最大3,000万円までの譲渡所得には課税されないという制度で、土地の所有期間の長短に関係なく適用できるという特徴があります。
つまり、この特例を適用すると、土地売却で得た利益が3,000万円以下であれば譲渡所得が発生していないことにできるのです。
譲渡所得税は、売却した土地の所有期間によって変動するものです。譲渡所得税の算出には以下の計算式を用います。
譲渡所得税=売却益(課税譲渡所得)×課税所得税の税率
譲渡した土地の所有期間が、譲渡した年の1月1日時点で5年以上である場合は「長期譲渡所得」・5年未満である場合は「短期譲渡所得」に分類されます。それぞれの税率は以下の通りです。
※2013年から2037年までは復興特別所得税として、各年分の基準所得税額に2.1%が上乗せされます
10年以上所有していた土地の売却に関しては、適用条件に該当すれば表右列の「住居用財産の軽減税率の特例」が受けられる可能性があります。
また、相続した土地を売却した場合は、被相続者が土地を購入した時点を始点として計算します。そのため、被相続者と相続者の所有期間を合算する形で算出することを覚えておきましょう。
3,000万円特別控除を適用するためには、複数の条件をすべてクリアしなければなりません。まずは先述した2つの特例について詳しくみていきましょう。
2つの特例には、それぞれ上記の前提条件が設定されています。条件の詳細を確認せずに思い込みで申請してしまうと、のちに適用されないことが発覚したときに困ってしまうので、しっかり条件をチェックしておいてください。
【居住用財産の3,000万円特別控除の適用条件】
上記の特例は、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却していることが前提条件となります。これは災害によりマイホームが滅失した場合も同様です。
また、土地や建物が共有財産であった場合には、対象者それぞれが確定申告しなければならず、特別控除が適用されるかどうかは対象者ごとに判断されるので注意してください。
さらに、別荘や仮住まいなどは居住用とは判断されないということも留意しましょう。もちろん特別控除を受けるためだけに住み始めたケースも対象外となります。
もう一つの特別控除である「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」の適用条件は以下の通りです。
被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除は、耐震性の低い古屋が増えるのを防止する目的で設定された特例です。
そのため、相続した空き家を売却した際に上記の適用条件に該当していれば、3,000万円の特別控除が受けられるというメリットがあります。
先述した2つの特別控除の特例を適用するためには、適用条件に該当しているだけでなく、確定申告で正しく申請をおこなわなければなりません。
まずは、2つの特例に共通する確定申告の必須書類について紹介していきます。必須書類と取得場所については、以下の表を参考にしてください。
土地の売却が完了した際に、安心して関連書類や領収書をつい処分してしまう人が一定数います。特に、確定申告まで期間が空く場合に起こりがちなミスなので、十分注意しましょう。
売却後はすぐ確定申告用の書類準備をするのがおすすめです。
さらに、それぞれの特例の適用においては、上記書類のほかに追加で必要となる書類が存在します。
【特例適用に必要な書類】
「戸籍の附票」は、その土地に居住していたことを証明するために必要な書類です。売買契約の前日時点で、売り主の住民票記載の住所と売却した土地の所在地が異なる場合には、取得・提出しなければなりません。
また「被相続人居住用家屋等確認書」は、相続した空き家の所在地を管轄する自治体役場で取得できる書類です。交付までに1週間程度時間がかかるため、早めの申請を心がけましょう。
さらに、相続した空き家を古家付きの土地としてそのまま売却した場合には、「建築基準法の耐震基準を満たしている」ことを証明する必要があります。ただし、更地で売却した場合には必要ありません。
3,000万円特別控除の特例が適用された場合の計算方法は以下の通りです。
譲渡所得税=【土地の売却金額-(取得費用+譲渡費用)-3,000万円の特別控除】×税率
1,000万円で購入した不動産を3,500万円で売却したとします。譲渡費用に200万円かかったとすると、諸経費は合計1,200万円なので、この場合の譲渡所得は2,300万円です。
通常であれば2,300万円分の譲渡所得税がかかるのですが、特別控除を適用することにより、課税対象となる譲渡所得は0円になります。
土地の売却に関する特例は、先述した「3,000万円特別控除」以外にも、以下のようなものが存在します。
上記の特例が適用されれば、最大5,000万円の特別控除を受けられるというメリットがあります。特例があることを知らずに納税してしまうのはもったいないことです。
ただし、上記の特例は適用条件が厳しく、対象となる不動産がかなり限定されるものになります。詳しく解説していきますので、念のため自分が売却した土地が該当するのかチェックしておいてください。
「平成21年度及び平成22年度に取得した国内にある土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除」は、リーマンショックの余波を受け、低迷していた不動産市場の再活性化を目的として施行された特例です。
この特例を適用するには、以下の条件に該当する必要があります。
上記の条件をすべて満たす場合には、譲渡所得にかかる税額が最大1,000万円控除となります。ただし、先述した3,000万円控除の特例との併用はできないので注意しましょう。
詳しくは国税庁のホームページを参照してみてください。
公共事業などのために所有地を手放した場合であれば「5,000万円の特別控除」が適用される可能性があります。この特例が適用されるのは以下の条件です。
上記の要件をすべて満たしている場合であれば、最大5,000万円までの譲渡所得税額が控除されます。ただし、土地売却に2年以上かかってしまうケースでは、初年度のみ適用されるため注意が必要です。
適用の可能性がある場合は、一度国税庁のホームページに目を通しておきましょう。
個人の所有地を、国・自治体が推進する「土地区画整理事業」や、市街地・まちづくり事業に協力するために売却した場合は、2,000万円の特別控除が受けられる可能性があります。
「特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合の2,000万円の特別控除」が適用される条件は、以下のケースです。
上記の特例は、先述した5,000万円特別控除と同様に、土地売却のあった初年度のみに適用されるものになります。そのため、土地売却が2年以上にまたがる場合は注意が必要です。
詳しくは国税庁のホームページをチェックしてください。
特定の民間宅地造成事業で土地を買い取られた場合には、「特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合の1,500万円の特別控除」が適用される可能性があります。
具体的には、地方公共団体や航空会社・地方住宅供給公社などによって土地を買い取られた場合や、土地収用法などに基づいた買収がおこなわれた場合などが対象です。
この特例を適用するためには、以下のいずれかに該当しなければなりません。
該当する可能性がある場合は、国税庁のホームページをチェックしてみてください。
個人で所有している土地を、農業委員会の斡旋や農地利用集積計画などによって売却した際には、譲渡所得から800万円までが控除される特例が利用できる可能性があります。
また、農地利用集積円滑化団体・農地中間管理機構などに売却した場合も同様に適用可能です。国内農業の維持は国や自治体の政策と大きく関わっているため、売却に協力すると税制面が優遇されるというメリットがあります。
適用条件の詳細については、国税庁のホームページを確認してください。
低未利用土地とは、常時利用されていない空き家や空き地のことです。また、別荘地などの活用頻度が低い土地も低未利用土地に分類されます。
「低未利用土地を売った場合の100万円の特別控除」は、少子高齢化・人口の減少によって空き地が放置されるのを防止する目的で施行された特例です。
そのため、以下の適用条件に該当すれば、譲渡所得のうち最大100万円までが控除されます。
控除の詳細については、国税庁のホームページをチェックしてみてください。
3,000万円の土地売却をした際には、最大で1,200万円・最小で1万円が課税されます。特例の適用や土地の所有期間により、課税金額が控除・軽減されるためです。
そのため、確定申告で納税額を確定する前に「土地売却における特別控除の特例」が適用可能か、一度チェックしておくことをおすすめします。
適用できる特例を把握した上で、自身の土地売却における譲渡所得税を概算し、資金準備を万全にしておきましょう。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。