個人で農地を売買する方法は?購入条件や手続き方法をわかりやすく解説

親から相続した農地を、使わないまま放置していませんか?
あるいは、家庭菜園を始めるために小さな畑を手に入れたいと考えているかもしれません。

しかし、いざ「農地を個人で売買しよう」と思っても、専門家でなければ分からないことばかりで不安になりますよね。

実は、農地の売買は宅地などとは異なり、「農地法」という法律で厳しくルールが定められています。誰でも自由に売買できるわけではなく、原則として農業委員会の許可を得なければいけないため、知らずに話を進めてしまうと後々大きなトラブルに発展しかねません。

この記事では、農地の個人売買に必要な法律の知識から、具体的な手続きの流れ、費用や税金、そして失敗しないための注意点までをわかりやすく解説します。

そもそも農地は個人で自由に売買できるのか?

「土地の売買」は、不動産会社を介して自由に取引できるイメージがあるかもしれません。

しかし、農地(地目が「田」または「畑」)の場合は、宅地とは全く異なります。国の食料自給の根幹を支える農地が、投機目的で売買されたり、無計画に開発されたりするのを防ぐために、「農地法」という法律によって厳しく管理されています。

項目 農地 宅地
主な法律 農地法 なし
売買の自由度 制限あり(農業委員会の許可が必要) 原則自由
主な購入者 農業者、新規就農者 制限なし
目的 食料生産の維持・安定 居住、商業利用など

農地を個人間で売買するには、お住まいの市町村の農業委員会の許可が必要になる、という点をまず理解しておきましょう。

農地売買を制限する「農地法」とは

農地法により、農地を農地として売買する場合は「農地法第3条」、農地を宅地など他の用途に転用して売買する場合は「農地法第5条」の許可が必要となります。

個人間で農地を農地のまま売買するケースでは、主に「農地法第3条」の許可が関わってきます。この許可を得るためには、買い手が農業をしっかりと行う意思と能力があることを証明しなくてはなりません。

売買に必要な「農地法第3条許可」

農地法第3条の許可を得るためには、買い手が以下の要件をすべて満たしている必要があります。

  • 全部効率利用要件: 取得する農地のすべてを効率的に利用して耕作を行うこと。これには、適切な機械や労働力を持っているかどうかも含まれます。
  • 常時従事要件: 買い手本人またはその世帯員が、農作業に常時(原則として年間150日以上)従事すること。 週末だけの家庭菜園のような形は、原則認められません。
  • 地域との調和要件: 周辺の農地の利用に支障を与えないこと。たとえば、地域の水利組合のルールを守らなかったり、無農薬栽培地域で農薬を使ったりしないことなどが求められます。

これらの要件を満たしているかを農業委員会が厳しく審査し、許可が下りて初めて売買が成立します。

筆者からの一言アドバイス

「常時従事要件」は、会社員の方が副業で農業を、と考える際の大きなハードルになることが多いポイントです。申請前に、ご自身の状況で要件を満たせるか、必ず農業委員会に相談しましょう。

【5ステップ】個人の農地売買、手続きの全流れ

農地の個人売買は、思い立ってすぐにできるものではありません。買い手を見つけてから、実際に農地の引き渡しが完了するまでには、いくつかの段階を踏む必要があります。この章では、その一連の流れを5つのステップに分けて具体的に解説します。

ステップ1:売買相手(買い手)を探す

まず、農地を買ってくれる相手を見つけなければなりません。前述の通り、農地を購入できるのは農業委員会の許可を得られる農家や新規就農者に限られます。
探し方としては、以下のような方法があります。

  • 近隣の農家や知人に声をかける: 最も手軽な方法ですが、条件交渉がしにくい側面もあります。
  • 地域の農業委員会に相談する: 地域の担い手農家などを紹介してもらえる場合があります。
  • 農地バンク(農地中間管理機構)に登録する: 公的な機関が貸し手と借り手(または売り手と買い手)をマッチングしてくれます。
  • 農地売買に詳しい不動産会社に相談する: 専門の会社は少ないですが、有力な選択肢の一つです。

ステップ2:農業委員会へ許可申請の準備

買い手が見つかったら、農業委員会への許可申請の準備に入ります。 申請に必要な書類は自治体によっても若干異なりますが、一般的には以下のような書類が必要です。

  • 農地法第3条許可申請書
  • 営農計画書(どのように農業を行うかの計画書)
  • 売買契約書の案(許可後に本契約を締結するためのもの)
  • 土地の登記事項証明書(全部事項証明書)
  • 現況の写真、公図、案内図 など

これらの書類を不備なく揃えるには、専門的な知識が必要です。個人で進めるのが不安な場合は、この段階で行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。

ステップ3:農業委員会による審査と許可

必要書類一式を農業委員会に提出すると、審査が始まります。農業委員会は、提出された書類の内容や現地調査に基づき、買い手が農地を取得するのにふさわしいかどうかを審査します。

審査期間は自治体によって異なりますが、通常は申請の締切日から1〜2ヶ月程度かかります。無事に許可基準を満たしていると判断されれば、農業委員会から「許可証」が交付されます。

ステップ4:売買契約の締結と代金決済

農業委員会から許可証が交付されたら、いよいよ正式な売買契約を結びます。 ステップ2で準備した売買契約書の案を元に、正式な売買契約書を作成し、売主・買主双方で署名・捺印します。

契約締結後、所有権移転登記(決済・引渡し)に向けて準備を始めます。

ステップ5:所有権移転登記

売買代金の決済が完了したら、最後に法務局で「所有権移転登記」を行います。登記手続きは複雑なため、一般的には司法書士に依頼します。

所有権移転登記により、土地の登記簿上の所有者が正式に売主から買主へと変更され、すべての手続きが完了します。

農地売買にかかる費用と税金

農地を売却して手元にお金が残ると思いきや、想定外の費用や税金がかかってしまった、というケースは少なくありません。

トラブルを避けるためにも、どのような費用が、誰に、どのくらいかかるのかを事前にしっかりと把握しておくことが大切です。

費用の種類 誰が負担することが多いか 費用の目安
仲介手数料 売主 売買価格の3%〜5% + 消費税(不動産会社に依頼した場合)
許可申請の代行費用 売主または買主 5万円〜10万円程度(行政書士に依頼した場合)
所有権移転登記費用 買主 登録免許税(固定資産税評価額の1.5%)+司法書士報酬

※2026年度末までに引渡しする場合

印紙税 売主・買主で分担 売買契約書に貼付。契約金額による
譲渡所得税・住民税 売主 売却益(譲渡所得)に対して課税

売主・買主それぞれにかかる費用一覧

【売主側の費用】

  • 仲介手数料: 不動産会社に仲介を依頼した場合に支払う成功報酬。個人間売買で直接相手を見つけた場合は不要
  • 行政書士への報酬: 農地法許可申請の手続きを代行してもらう場合の費用
  • 印紙税: 売買契約書に貼る印紙代。契約金額に応じて税額が変動

【買主側の費用】

  • 所有権移転登記費用: 登録免許税と、手続きを依頼する司法書士への報酬
  • 不動産取得税: 農地を取得したことに対して都道府県から課される税金。要件を満たせば減免される

【重要】農地売却でかかる税金(譲渡所得税)

農地を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税と住民税(合わせて譲渡所得税)が課税されます。

譲渡所得の計算式

譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)

  • 取得費: その農地を昔購入した際の代金など。不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費とすることができます。
  • 譲渡費用: 仲介手数料や測量費など、売却のために直接かかった費用。

この譲渡所得に対して、農地の所有期間に応じた税率がかけられます。

  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 39.63% (所得税30.63% + 住民税9%)
  • 長期譲渡所得(所有期間5年超): 20.315% (所得税15.315% + 住民税5%)

なお、所有期間は、農地を売却した年の1月1日現在で判定する点に注意が必要です。

税金の負担を軽減する特別控除

農地の売買では、税金の負担を軽減するための特例がいくつか用意されています。代表的なものが「800万円の特別控除」です。

これは、農業委員会の斡旋などにより、認定農業者などに農地を売却した場合に、譲渡所得から最大800万円を控除できるという制度です。この特例を使えれば、税金の負担を大幅に減らせる可能性があります。

適用には細かい要件があるため、税務署や税理士に確認しましょう。

【注意点】個人の農地売買で失敗しないためのチェックリスト

手続きが複雑な農地の個人売買では、思わぬ落とし穴にはまってしまう場合があります。この章では、よくある失敗例とその対策をチェックリスト形式で確認しましょう。

チェック項目 確認するべきポイント
許可の見通しは立っているか 買い手の営農計画は現実的か、常時従事要件を満たせるか、事前に農業委員会に相談したか
契約内容は明確か 売買代金、支払い時期、引き渡し日、固定資産税の精算方法などが明記されているか
許可が下りなかった場合の取り決めはあるか 「許可が得られなかった場合は、契約の効力が発生しない」という停止条件付き契約になっているか
土地の境界は確定しているか 隣地との境界が曖昧な場合は後々トラブルになるため、必要であれば測量を行う
隠れた瑕疵(かし)はないか 土壌汚染や、地中に廃棄物が埋まっているなど、外から見えない問題がないか確認する

許可が下りない代表的なケース

一番のトラブルは、売買契約を進めたにもかかわらず、農業委員会の許可が下りないケースです。特に以下のような場合は注意が必要です。

  • 買い手の営農計画に具体性がない: 「週末に少し野菜を作る」といった趣味レベルの計画では、許可はまず下りません。
  • 買い手が遠方に住んでいる: 農地を適切に管理できる距離に住んでいない(通作距離が長すぎる)と判断されると、許可されないことがあります。
  • 無断で農地を転用しようとしている: 許可なく資材置き場にしたり、駐車場にしたりすることは違法です。

契約内容の不備によるトラブル

個人間の口約束だけで済ませてしまうと、後で「言った、言わない」のトラブルになりがちです

特に、代金の支払いや土地の引き渡し時期、その年の固定資産税を誰がどの割合で負担するかなど、金銭に関わることは必ず書面(売買契約書)で明確に定めておきましょう。

筆者からの一言アドバイス

農地売買の契約書は、必ず「農地法第3条の許可が得られた場合に効力が発生する」という内容の停止条件付き契約にしてください。これを定めておかないと、万が一許可が下りなかった場合に、契約を解除できず代金の支払い義務だけが残ってしまう、といった最悪の事態になりかねません。

隠れた瑕疵(かし)に注意

売買が成立した後に、土地に隠れた問題(瑕疵)が見つかることがあります。たとえば、過去に廃棄物が不法投棄されていて土壌が汚染されていた、といったケースです。

こうした問題が発覚すると、買主から損害賠償を請求される可能性があります。売主は、自分が知っている土地の問題点については、必ず事前に買主に告知する義務があります。

まとめ:まずは農業委員会への相談から始めよう

農地の個人売買は、宅地の売買とは全く異なる、専門知識が求められる手続きです。

もしあなたが農地の売却や購入を少しでも考えているなら、最初の一歩として、まずはお住まいの市町村の農業委員会の窓口に相談することから始めてみてください。

あなたの農地の状況や、地域での買い手の見つけ方など、具体的なアドバイスをもらえるはずです。

この記事が、あなたの農地売買に関する不安を解消し、次の一歩を踏み出すための助けとなれば幸いです。

八木友之
八木友之

保有資格:行政書士/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士(登録失効中・更新手続き可能)
経歴:大手不動産仲介会社にて18年間、売買仲介の最前線で活躍し、契約書作成から引き渡しまでの一連業務を担当。豊富な実務経験と交渉力を強みに、顧客満足度の高い取引を多数実現してきた。2022年3月より専業Webライターとして活動を開始し、不動産・金融分野の記事を中心に執筆。現場で培った法律・税務の知見を反映させた解説と、ユーザーニーズを踏まえた構成により、専門メディアや不動産ポータルで高い評価を得ている。

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