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土地改良区の相続で賦課金はどうなる?組合員資格の継承と相続放棄の影響を解説
土地改良区内の農地を相続すると、土地改良法により、相続人の意思や農業経験の有無にかかわらず、自動的に組合員資格が承継されます。それに伴い、農業用水路などの施設の維持管理費用である賦課金の支払い義務が発生します。
もし、農地や賦課金負担から逃れたい場合、相続放棄をすれば組合員資格は承継されず、賦課金の支払い義務も原則発生しません。しかし、相続放棄をしても、相続財産清算人が選任されるまでは農地の管理責任が残るため注意が必要です。
また、賦課金の支払いが必要な土地は、2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度の対象外となるため、国への引き渡しはできません。
賦課金の支払いを完全に終わらせる唯一の方法は、農地を宅地などに転用し、土地改良区から地区除外の承認を受けることです。
本記事では、組合員資格の承継・賦課金・相続放棄・国庫帰属制度・地区除外など、知っておくべきポイントを解説します。
相続で土地改良区内の農地を取得すると、その瞬間組合員として、施設の維持管理費用である賦課金を支払わなければいけません。
この章では、土地改良区の相続に関する基本情報を解説します。
土地改良区とは、農業用の用水路や排水路、ため池や揚水機場などの土地改良施設を維持管理し、農業生産基盤を支える公共的団体です。
名前に区を使っているとおり、特定の地域に根ざした活動をおこなっています。土地改良法に基づいて設立された法人組織で、農林水産省の監督下にあります。
農林水産省によると全国に約4,000の土地改良区が存在し、農地に水を供給するための灌漑排水施設の整備・管理が主な業務です。
土地改良区の受益地の所有者や耕作者は、自動的に組合員となり、施設の維持管理費用を賦課金として負担する仕組みです。
土地改良法第11条は、「土地改良区の地区内にある土地につき第3条に規定する資格を有する者は、その土地改良区の組合員とする」と定めています。
第3条資格者とは、農用地については所有権に基づき耕作又は養畜の業務を営む者、またはその土地について耕作又は養畜の業務を営む者がいない場合はその土地の所有者です。
つまり、相続により土地改良区内の農地を取得した場合、相続人の意思や農業経験の有無にかかわらず、自動的に組合員資格が承継される仕組みになっています。
土地改良区の設立時に同意していなくても、地区内の農地所有者は強制的に組合員となる点が特徴です。
組合員資格の承継により、相続発生直後から賦課金の支払い義務が生じます。
多くの土地改良区では、毎年4月1日時点の土地原簿に基づいて賦課金を算定し、7月または10月に納付通知書を送付する仕組みです。
そのため、相続による組合員資格の得喪通知書を提出していない場合、前の所有者(被相続人)の名義のまま賦課金が請求され続けることになります。
得喪通知書は土地改良区のホームページから取得できるため、必要な人はダウンロードをしてください。
賦課金の支払いは土地改良法に基づく法的義務であり、農業をしていない相続人であっても支払い義務は発生します。
相続放棄をした場合は、土地改良区の組合員資格は承継されませんが、すぐに管理責任がなくなるわけではありません。
この章では、相続放棄をした場合の賦課金や農地の管理責任について解説します。
相続放棄をした場合、相続人は被相続人の権利義務を一切承継しないため、土地改良区の組合員資格も承継されず、賦課金の支払い義務も原則として発生しません。
相続を放棄し相続人がいない土地については、賦課の対象となる組合員がいないため、新たな賦課金は発生しません。
ただし、相続放棄をする前に既に発生していた賦課金(被相続人の未納分)については、相続財産から支払われる可能性があります。
その場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の申し立てをして、相続財産管理人が未払賦課金を支払わなくてはいけません。
相続放棄をした場合でも、相続財産清算人が選任されるまでの間は、民法第940条により相続財産の保存義務が残ります。
つまり、相続放棄をしても、すぐに農地の管理責任から完全に解放されるわけではなく、次の管理者に引き渡すまでは適切な管理を続けなくてはいけません。
この期間中に農地が荒れ果てて近隣に迷惑をかけた場合、損害賠償責任を問われる可能性もあります。
管理責任を完全になくすには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、相続財産清算人に農地を引き渡す必要があります。裁判所によると相続財産清算人の選任には予納金が必要になるため、あわせて注意が必要です。
予納金の金額は裁判所によって異なりますが、札幌家庭裁判所では100万円、名古屋家庭裁判所では70万円ほどが相場です。
相続財産清算人が選任されると、相続財産清算人が相続財産の管理・清算を行うため、土地改良区は相続財産清算人に対して賦課金の未納分を請求します。
相続財産清算人が相続財産の中から未納賦課金を支払い、残余財産があれば最終的に国庫に帰属させる仕組みです。
ただし賦課金には時効があり、土地改良法第39条第7項により国税及び地方税の例によるとされているため、納付期限の翌日から起算して5年が経過すると消滅します。民法上の時効の援用は不要で、自動的に消滅する点が特徴です。
相続財産清算人への引継ぎ完了後は、相続放棄をした相続人に賦課金の支払い義務が生じることはありません。
賦課金の支払いは法的義務であり、滞納すると以下のような厳しいペナルティが課されます。
この章では、賦課金を支払わない場合のペナルティについて解説するので、土地改良区を相続する予定の人は参考にしてみてください。
賦課金を納期限までに納入しないと、翌日から延滞金が発生します。
延滞金の利率は土地改良区によって異なり、多くの土地改良区では年14.6%を適用しておりますが、年10.95%を適用しているところも少なくありません。
納付が遅れるほど延滞金額が増加するので、支払額の増加に注意してください。また、督促状が発送されると督促手数料も徴収されます。
延滞金は日割り計算で増え続けるため、滞納期間が長くなるほど負担が重くなります。
督促状や催告書による納入の督促措置を行っても納入がない場合、土地改良区は、土地改良法第39条に基づき財産の差押えなどの滞納処分を実行できます。
差押えの対象となるのは、預貯金や給与・不動産や自動車などの財産で、裁判所の判決を経ることなく、土地改良区が自ら強制執行できる点が特徴です。
実際に、賦課金の滞納により銀行口座が差し押さえられたケースや、不動産に滞納処分による差押えの登記がされたケースも存在します。
賦課金は公租公課であるため、税金と同様の強制力を持っており、支払いを無視し続けることはできません。
土地改良法第39条第7項は時効については国税及び地方税の例によると定めているため、地方税法等の規定により、賦課金の消滅時効は納付期限の翌日から起算して5年となっています。
民法上の時効の援用(時効を主張すること)は賦課金には適用されず、組合員が主張することなく5年が経過すると、自動的に消滅する点が特徴です。
ただし、土地改良区が督促状を送付したり、差押えなどの滞納処分を行った場合は、時効が中断されるため、実際に時効により賦課金が消滅するケースは限定的です。
時効を期待して支払いを放置することは、延滞金の増加や強制徴収のリスクを高めるため推奨されません。
2023年4月に開始した相続土地国庫帰属制度ですが、土地改良区の賦課金支払いが必要な土地は原則として対象外です。
この章では、国庫帰属制度と土地改良区の関係について解説します。
法務省によれば、2023年4月に開始した相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈により取得した不要な土地を国に引き取ってもらう制度です。
しかし、土地改良法第36条第1項の規定により、組合員に金銭債務が賦課されている土地は、承認できない土地として除外されています。
つまり土地改良区に賦課金を支払っている土地は、法令の規定に基づき申請者の金銭債務を国が承継する土地に該当するため、相続土地国庫帰属制度を活用できません。
もし賦課金支払いが課されている土地を国庫に帰属させると、国が賦課金支払いなどの義務を追わなければいけなくなるためです。
土地改良区内の農地であっても、賦課金の支払いがない土地は国庫帰属の除外要件には該当しません。
つまり、過去に賦課金を完済し、今後新たな賦課金の支払いが発生しない土地であれば、相続土地国庫帰属制度の対象となる可能性があります。
ただし、近い将来賦課金の支払いが必要となる土地は認められないとされているため、経常賦課金が毎年継続的に発生する土地改良区の場合は、完済という概念自体が成立しない場合があります。
法務省によると、相続土地国庫帰属制度を利用する場合、申請時に土地1筆あたり14,000円の審査手数料を納付する必要があります。
承認後には国が引き取った土地を管理するための費用として、10年分の管理費用相当額を負担金として納付しなければなりません。
農地(田・畑)や雑種地や原野の場合は基本的には面積に関わらず20万円がかかり、都市計画法の市街化区域に指定されている宅地や農地、森林は面積に応じて計算されます。
つまり、無料で土地を国に引き渡せるわけではなく、数十万円単位の費用負担が発生する点に注意が必要です。
また、審査の結果、承認されない場合でも審査手数料は返還されません。
土地改良区の組合員資格と賦課金の支払い義務から解放されるには、地区除外申請を行うのが唯一の方法です。
この章では、土地改良区から脱退する手続きについて解説します。
土地改良区から脱退する唯一の方法は、農地転用により地区除外申請を行うことです。
農地がある限り、利用しているか、いないにかかわらず、原則として土地改良区から脱退することはできません。
地区除外とは、土地改良区の受益地を農地以外のものに転用し、賦課受益地から除外する手続きです。
地区除外が認められるのは、農地転用許可を受けて現実に転用する場合や市街化区域内で農地以外に転用する場合、公共事業の用地として買収された場合などです。
単に耕作しなくなった・賦課金を払いたくないという理由だけでは地区除外は認められません。
地区除外が認められる場合でも、土地改良法第43条第2項に基づき地区除外決済金の納付が必要になります。
地区除外決済金とは、農地転用等で受益地が減少して残りの組合員の負担が増加しないよう、転用する者が将来の負担相当分を一括精算するものです。
決済金の額は土地改良区によって異なりますが、一般的な相場は1㎡あたり100円〜200円程度です。例えば、500㎡の農地を転用する場合、5万円〜10万円の決済金が必要になります。
多くの土地改良区では25年分の賦課金を基準として決済金を算定しているため、整備事業の規模や賦課金の水準によって金額が変動します。
地区除外決済金を納付すれば終わりではなく、実際に農地を転用して利用しなくてはいけません。
農地転用が完了したら、法務局で地目変更登記を行い、農地から転用後の地目に変更します。
また既に荒廃して現況が農地でない場合は、農業委員会による非農地認定の手続きを行い、農地法の適用を受けない土地として扱われます。
農地転用には、土地の登記事項証明書が必要です。相続により取得した農地を転用する場合は、事前に相続登記を完了させておきましょう。
東京法務局によると、2024年4月から相続登記が義務化されるため、相続開始を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される点にも注意してください。
土地改良区内の農地を相続すると、組合員資格と賦課金の支払い義務が自動で承継されます。
賦課金を支払わないと延滞金が発生し、最終的には財産の差押えなどの滞納処分が実行されます。
賦課金の支払い義務をなくす唯一の確実な方法は、農地を転用し決済金を納めて土地改良区から正式に地区除外の承認を受けることです。
相続放棄をすれば賦課金債務から解放されますが、清算人選任までは管理責任が残ります。
また、賦課金支払い中の土地は相続土地国庫帰属制度の対象外となるため、相続放棄や地区除外の検討が重要です。