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袋地が売れない3つの理由|5つの売却方法も合わせて解説
親から相続した土地が、実は「袋地」だった。いざ売却しようとしても不動産会社に断られてしまい、どうすればいいか分からず困っている…。そんなお悩みをお持ちではないでしょうか。
「袋地」は、売却が難しい不動産の代表格です。しかし、売れないからといって諦める必要は全くありません。売れにくい不動産でも、納得して売却できる方法は必ずあります。
この記事では、袋地の売却に関する悩みを解決するために、以下のポイントを一つひとつ丁寧に解説します。
【この記事でわかること】
この記事を最後まで読めば、袋地が抱える問題が明確になり、具体的な売却計画が立てられます。
袋地(ふくろち)とは、四方を他人の土地に完全に囲まれ、公道に一切接していない土地のことです。
この状態では土地への出入りができないため、民法では、その土地を囲む「囲繞地(いにょうち)」の所有者に対して、公道へ出るための通行を認めるよう求める権利を保障しています。
なぜ袋地は「売れない」と言われてしまうのでしょうか。その背景には、法律やローン、そして人間関係に起因する3つの大きなハードルが存在します。
これらの理由を知ることで、これから何をすべきか、それぞれの原因に対してどう対処すべきかが分かります。
袋地が売れない最大の理由は、建物の新築や建て替えが法律上認められないケースがほとんどだからです。
これは、建築基準法で定められた「接道義務」というルールが関係しています。この法律では、建物を建てる敷地は「幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならない(建築基準法第43条第1項)」と定められています。
イメージしてみてください。もし火災が発生した際、消防車が家の近くまで入らなければ消火活動が遅れてしまいます。
接道義務は、こうした緊急時の安全を確保するために非常に重要な役割を果たしています。
袋地は他の土地に囲まれて道路に接していないため、この接道義務を満たせません。その結果、「再建築不可物件」となり、買い手が見つかりにくくなります。
買い手からすれば、将来的に家を建て替えたり、更地にして新築したりすることができない土地は、購入する魅力が大幅に下がってしまうのです。
袋地が売れない2つ目の理由は、購入を希望する人が現れても、その人が住宅ローンを利用できない可能性が非常に高いからです。
金融機関は、住宅ローンを融資する際に、購入対象の土地や建物を「担保」として設定します。万が一、ローンの返済が滞った場合、金融機関はこの担保物件を売却することで資金を回収します。
関連記事:抵当権とは?根抵当権や担保権との違いを分かりやすく解説
しかし、先ほどご説明したように、袋地は再建築ができないなど利用価値が著しく低いため、金融機関から「担保価値が低い」と判断されてしまいます。担保価値が低い不動産に対して、金融機関は融資を承認しません。
結果として、買い手は現金一括で購入するしかなくなり、購入できる人が極端に限られてしまうのです。これが、袋地の売却を一層難しくしている大きな要因です。
3つ目の理由は、日常生活を送るうえで、隣地の所有者との間でトラブルが発生するリスクを買い手が懸念するからです。
袋地から公道に出るためには、必ず周囲の土地のいずれかを通る必要があります。
民法では、袋地の所有者に「囲繞地(いにょうち)通行権」という、公道に出るために最低限、隣地を通行できる権利が認められています。
第210条【公道に至るための他の土地の通行権】
① 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
(民法 第210条)
しかし、この権利はあくまで「通行できる」というだけで、どこをどのように通るか、自動車の通行が認められるか、通行料(償金)をいくら支払うかといった具体的な内容は、隣地の所有者との話し合いで決めなければなりません。
買い手の立場からすれば、
「もし隣地の所有者が気難しい人だったら…」
「将来、代替わりして関係性が悪化したら…」
「通行のたびに気を遣わなければならないのはストレスだ…」
といった、将来にわたる人間関係のリスクを抱えることになります。この心理的な負担が、購入をためらわせる大きな原因となるのです。
袋地が売れない理由を見て、不安が大きくなってしまったかもしれません。
しかし、売却を諦める必要はありません。こ
本章では、袋地の状況に合わせた5つの具体的な解決策を、メリット・デメリットと合わせて解説します。
解決策 | 内容 | メリット | デメリット | こんな人におすすめ |
---|---|---|---|---|
1. 隣地の所有者に買い取ってもらう | 隣接する土地の所有者に、あなたの袋地を直接売却する。 | ・最も現実的で交渉しやすい・隣地所有者には土地が広がるメリットがある | ・足元を見られ、安価な価格を提示される可能性がある・関係性によっては交渉が難しい | ・隣地所有者と良好な関係を築けている人 |
2. 隣地の一部を購入・交換する | 隣地の一部を買い取るか、自分の土地の一部と交換して接道義務を満たす。 | ・土地の価値が劇的に上がり、高値での売却が期待できる | ・交渉の難易度が高い・購入や測量、登記に費用がかかる | ・資金的に余裕があり、土地の価値を最大化したい人 |
3. 囲繞地通行権を設定する | 隣地所有者と通行に関する合意を書面で交わし、通行の権利を明確にする。 | ・通行の権利が保証され、売却しやすくなる可能性がある | ・通行できるだけで、再建築不可の問題は解決しないことが多い | ・隣地購入などの交渉が難しい場合の次善策として |
4. 袋地専門の不動産買取業者に売却 | 袋地など、訳あり物件を専門に扱う不動産会社に直接買い取ってもらう。 | ・スピーディーに現金化できる・隣地との交渉が不要・契約不適合責任が免責される | ・売却価格が市場価格の5〜7割程度になることが多い | ・とにかく早く手放したい、手間をかけたくない人 |
5. 複数の不動産会社に査定を依頼 | 不動産一括査定サイトなどを利用し、袋地の扱いに長けた会社を見つける。 | ・複数の選択肢を比較検討できる・思わぬ高値で売却できる可能性がある | ・不動産会社とのやり取りに手間がかかる | ・少しでも良い条件で売却したい、諦めたくない人 |
この表は、各解決策の要点をまとめたものです。どの方法が最適かは、あなたの状況や隣地所有者との関係性によって異なります。自分の状況に最も近いものから「最適な売却方法」を見つけましょう。
最も現実的で、まず検討すべきなのが隣地の所有者に直接買い取ってもらう方法です。
隣地の所有者にとって、あなたの袋地を購入することは、自身の土地が広がり、整形地(使いやすい形の土地)になるという大きなメリットがあります。
そのため、他の第三者が購入するよりも、交渉がスムーズに進む可能性が高いと言えます。
ただし、注意点もあります。相手は「こちらの土地を買ってくれるのは、あなたしかいない」という状況を知っているため、相場よりもかなり低い価格を提示してくるかもしれません。
感情的にならず、冷静に交渉を進めることが重要です。まずは不動産会社に査定を依頼し、客観的な土地の価値を把握したうえで、交渉に臨むのがよいでしょう。
もし資金的に余裕があれば、隣地の一部を買い取る、あるいは自分の土地の一部と交換することで接道義務を満たすという、非常に有効な方法があります。
この方法が成功すれば、「再建築不可」の袋地から、「いつでも家が建てられる」通常の土地へと生まれ変わります。土地の資産価値も向上し、一般的な市場価格での売却も現実的になります。
しかし、これは最も交渉難易度が高い方法でもあります。隣地の所有者にとっては、土地が削られることになり、メリットを感じにくい場合が多いからです。
また、土地の購入費用だけでなく、分筆登記や測量の費用も必要になります。
専門家である不動産会社や土地家屋調査士に相談しながら、慎重に進めることをおすすめします。
隣地との売買交渉が難しい場合、通行の権利を法的に明確にするアプローチも考えられます。
前述の通り、袋地の所有者には民法で「囲繞地通行権」が認められています。しかし、この権利は口約束のままであることが多く、買い手にとっては不安材料となります。
そこで、隣地の所有者と協議し、「通行する場所」「幅員」「通行料」などを具体的に定めた合意書を作成し、可能であれば地役権設定登記を行うのです。
”地役権設定登記(ちえきけんせっていとうき)とは、通行や日照確保など、特定の目的のために他人の土地を利用する権利「地役権」を、法務局の登記簿に公式に記録する手続きのことです。”
これにより、通行の権利が客観的に保証され、多少なりとも売却しやすくなる可能性があります。
ただし、これはあくまで通行を確保する手段であり、再建築不可の問題が解決するわけではない点には注意が必要です。
「隣地との交渉は精神的に避けたい」「とにかく早く、手間なく手放したい」という方には、袋地のような訳あり物件を専門に扱う不動産買取業者に直接売却する方法がおすすめです。
専門の買取業者は、袋地を買い取った後に隣地と交渉したり、周辺の土地とまとめて開発したりするノウハウを持っています。そのため、一般の不動産会社が扱えないような物件でも、現状のまま買い取ってくれるのです。
最大のメリットは、売却までのスピードが早く、面倒な手続きや交渉をすべて任せられる点です。
また、個人間売買と異なり、売却後に土地の欠陥が見つかっても責任を問われない「契約不適合責任免責」で契約できるのが一般的です。
ただし、売却価格は市場価格の5割〜7割程度になることが多く、価格面ではデメリットがあります。時間や手間をかけるか、価格を取るかのトレードオフになると言えるでしょう。
どの方法を選ぶにしても、まずは自分の袋地にどれくらいの価値があるのか、そしてどのような売却の可能性があるのかを知ることが不可欠です。
そのためには、1社の意見だけで判断せず、複数の不動産会社に査定を依頼することをおすすめします。特に、不動産一括査定サイトを利用すれば、一度の入力で複数の会社にアプローチできます。
重要なのは「袋地の取り扱い実績が豊富か」という視点で会社を選ぶことです。
実績のある会社であれば、あなた自身が思いつかなかったような解決策や、独自の販売ルートを持っている可能性があります。諦めずに複数の専門家の意見を聞くことが、最良の道を開く鍵となります。
様々な手を尽くしても、どうしても売却が難しいケースもあります。
しかし、所有し続ける場合でも、固定資産税の負担を軽減する方法はあります。ここでは、売却以外の選択肢として、袋地の活用方法を4つご紹介します。
建物が建てられない袋地でも、更地であれば駐車場として活用できます。特に、周辺に月極駐車場が少ないエリアや、駅が近い場所であれば、安定した需要が見込めるでしょう。
アスファルト舗装などの初期投資はかかりますが、大きな収益は期待できなくても、固定資産税をまかなう程度の収入を得ることは十分に可能です。
ただし、囲繞地通行権の条件を囲繞地の所有者と事前にしっかりと話しておかないと、通行人や車両の行き来でトラブルが生じるリスクが残ってしまいます。
あくまで「囲繞地の所有者と並走で進めること」をおすすめします。
日当たりが良い土地であれば、太陽光パネルを設置して、発電した電気を電力会社に売る(売電)という選択肢も考えられます。
一度設置すれば、長期間にわたって安定した収入が期待できるのが大きな魅力です。
ただし、設置には数百万円単位の初期投資が必要になるほか、定期的なメンテナンスも欠かせません。また、売電価格は年々下落傾向にあるため、投資を回収できるかどうかのシミュレーションを慎重に行う必要があります。
近年、需要が高まっているトランクルームやコンテナハウスを設置して、レンタルスペースとして貸し出す方法もあります。
建築基準法上の「建築物」に該当しないタイプのコンテナハウスであれば、接道義務を満たさない袋地でも設置が可能です。ただし、設置するコンテナが、自治体の条例等で「建築物」と見なされないかどうかは必ず確認を取りましょう。
都市部や住宅密集地で、収納スペースに困っている人が多いエリアであれば、高い利回りも期待できます。ただし、これも太陽光パネルと同様に、ある程度の初期投資が必要となります。
ここまで様々な解決策を見てきましたが、どの方法を選択するにしても、成功のためには押さえておくべき共通のポイントがあります。
最後に3つの重要ポイントをしっかりと確認しておきましょう。
袋地の問題を解決する上で、最も重要と言っても過言ではないのが、隣地の所有者との関係性です。
売買であれ、通行権の設定であれ、隣地の所有者の協力なくしては話が進みません。交渉の際は、こちらの要求だけを一方的に伝えるのではなく、相手にとってのメリットも提示することが大切です。
例えば、「この土地を買い取っていただければ、お宅の土地が広くなり、資産価値も上がります」といった具合です。
日頃から挨拶を交わすなど、良好なコミュニケーションを心がけ、決して感情的にならず、誠実な姿勢で相談を持ちかけることが、交渉を成功に導く鍵となります。
袋地の売却は、一般的な不動産売却とは全く異なる特殊な知識と交渉力が求められます。そのため、パートナーとなる不動産会社選びが、結果を大きく左右します。
相談する際は、
「袋地の売却実績はありますか?」
「どのような解決策が考えられますか?」
といった質問を投げかけ、その反応を見てみましょう。明確な実績を提示し、複数の解決策を具体的に提案してくれるような会社であれば、信頼できるパートナーと言えるでしょう。
逆に、話が曖昧だったり、最初から「売れない」と決めつけたりするような会社は避けるべきです。
無事に売却の目処が立ったとしても、手元にいくら残るのかを把握しておかなければ、思わぬ誤算が生じる可能性があります。売却に際して必要となる費用や税金について、事前に確認しておくことが重要です。
主に必要となるのは、以下のような費用です。
特に、相続した土地の場合は取得費が不明なケースも多く、税額の計算が複雑になります。必ず不動産会社や税理士などの専門家に相談し、資金計画を立てておきましょう。
この記事では、袋地が売れない理由から、具体的な売却方法、そして活用法までを詳しく解説してきました。
袋地の売却は、法律や税金、隣地との交渉など、専門的な知識が必要となる場面が数多くあります。一人で抱え込んで悩んでいても、なかなか解決の糸口は見つからないかもしれません。
最も重要なことは、諦めずに、まずは行動を起こしてみることです。
その第一歩として、まずは複数の不動産会社から話を聞いてみることが非常に重要。一括査定サイトを利用すれば、手間をかけずに実績豊富な専門家を見つけることができます。
信頼できる専門家をパートナーにつけることができれば、あなたにとって最適な解決策がきっと見つかるはずです。
最後に、袋地の売却に関して多くの方が抱く疑問についてお答えします。
はい、支払う必要があります。
袋地であっても、土地を所有している限り、固定資産税の納税義務は発生します。利用価値が低いことは評価額に反映され、税額が低くなる傾向にはありますが、ゼロにはなりません。
だからこそ、所有し続ける場合は、固定資産税の負担を上回る活用法を見つけるか、早期に売却してしまうことが望ましいのです。
通行料(償金)に法律で定められた明確な金額や相場はありません。
基本的には、袋地の所有者と、通行を許可する隣地(囲繞地)の所有者との間の話し合いによって決定されます。
一般的には、近隣の土地の賃料や固定資産税額などを参考に、通行によって隣地所有者が受ける損害を補償する、という考え方で金額が算定されることが多いです。
まずは、慌てずに現状を正確に把握することから始めましょう。
法務局で登記簿謄本や公図を取得し、土地の正確な位置や面積、権利関係を確認します。
その上で、この記事でご紹介したような複数の解決策(隣地への売却交渉、専門業者への売却、活用など)の可能性を探るために、袋地の取り扱い実績が豊富な不動産会社に相談することをおすすめします。
相続税の申告期限などもあるため、なるべく早めに専門家の助けを借りて動き出すことが重要です。