住宅ローンの一括返済ができなくても家は売却できる?状況別の3つの対処法と注意点を解説

急な転勤や離婚、経済的な理由などで家の売却を考えているものの、住宅ローンの残債が売却価格を上回る「オーバーローン」で悩んでいませんか?

「ローンを一括返済できないと家は売れないのでは…」と不安に思うかもしれませんが、適切な手順を踏めば売却は可能です

この記事では、あなたの状況に合わせた最適な解決策とリスクを徹底解説します。

この記事でわかること
  • オーバーローン状態でも家を売却できる3つの具体的な方法
  • 各対処法のメリットとデメリット
  • 売却を成功させるために今すぐやるべきこと

なぜ家の売却に「ローンの一括返済」が必須なのか?

家を売却しようと考えた時、多くの方が「なぜローンを完済しないといけないの?」という疑問にぶつかります。

その答えは、あなたの不動産に設定されている「抵当権」という権利にあります。この章では、売却の前提となるこの重要な仕組みについて、わかりやすく解説します。

売却の障壁となる「抵当権」とは?

住宅ローンを組む際、金融機関は万が一返済が滞った場合に備えて、購入した家と土地を担保に取ります。この担保のために設定される権利が「抵当権」です。

買主からすると、抵当権が付いたままの不動産は、いつ金融機関に差し押さえられるかわからない非常に不安定な物件なので、誰も買ってくれます。

そのため、売却を完了させるには、売買代金の決済と同時にローンを完済し、抵当権を抹消する手続きが不可欠なのです。

「アンダーローン」と「オーバーローン」の違い

ご自身の状況が売却しやすいかどうかは、「アンダーローン」か「オーバーローン」かによって決まります。これは、売却価格とローン残債のどちらが大きいかを示す言葉です。

状態 説明 売却時の対応
アンダーローン 売却価格 > ローン残債 売却代金でローンを完済し、手元に利益が残る
オーバーローン 売却価格 < ローン残債 売却代金だけではローンを完済できないため、差額を埋めるための対策が必要

今回のテーマである「住宅ローンを一括返済できない」状況は、「オーバーローン」の状態を指します。

オーバーローン状態でも家を売却できる方法については、次の章から解説していきます。

【状況別】あなたに最適な解決策は?簡単診断フローチャート

オーバーローン状態でも家を売却する方法は主に3つありますが、ご自身の状況によって選ぶべき道は大きく異なります。

この章では、簡単な質問に答えるだけであなたの最適な解決策がわかるフローチャートをご用意しました。まずは現状を整理してみましょう。

フローチャートで最適な方法を見つけよう

Q1. 新しい家に住み替える予定はありますか?

  • はい → Q2へ
  • いいえ → Q3へ

Q2. ローン残債と売却価格の差額を、預貯金などの自己資金で十分に補えますか?

  • はい → あなたの最適な解決策は 対処法①:自己資金+売却代金で完済 です。
  • いいえ → あなたの最適な解決策は 対処法②:住み替えローンを利用 です。

Q3. ローン残債と売却価格の差額を、預貯金などの自己資金で十分に補えますか?

  • はい → あなたの最適な解決策は 対処法①:自己資金+売却代金で完済 です。
  • いいえ → あなたの最適な解決策は 対処法③:任意売却を検討 です。

それぞれの解決策については、次の章でくわしく見ていきましょう。

対処法①:自己資金を充当してローンを完済する

対処法①は、売却代金で足りない分を自己資金(預貯金など)で補い、ローンを完済する方法です。診断でこの方法にたどり着いた方は、最もスムーズに売却を進められる可能性が高いです。

この方法のメリットとデメリットは以下の点です。

メリット デメリット
・売却手続きがシンプルで迅速に進む
・売却後に負債が残らず、精神的に安心
・金融機関との複雑な交渉が不要
・追加借り入れが無いので、金利負担の心配がない
・信用情報に傷がつかない
・まとまった自己資金が必要になる
・無理をすると、新生活や将来の資金計画に影響が出る
・査定価格通りに売れないリスクを考慮する必要がある
・一括返済する際に手数料がかかるケースもある

自己資金+売却代金でローン返済する手順

売却代金の不足分を自己資本で補ってローンを完済する場合は、以下の手順で進めます。

  • 不動産会社に査定を依頼する: まずは複数の会社に査定を依頼し、ご自宅がいくらで売れそうか、おおよその売却価格を把握します。
  • ローン残債額を正確に確認する: 借入先の金融機関に連絡し、現時点での正確なローン残債額が記載された「残高証明書」などを取り寄せます。
  • 不足額を計算する: 「ローン残債額 ー 想定売却価格 + 諸費用(※)」で、自己資金で補うべき金額を算出します。※諸費用には仲介手数料や登記費用などがあり、売却価格の3%~6%が目安です。
  • 自己資金の準備: 不足額を自己資金で用意できるか、預貯金などを確認します。
  • 売却活動の開始: 不動産会社と媒介契約を結び、家の売却活動をスタートします。
  • 決済・引き渡し: 買主が見つかったら、売買契約を結びます。物件の引き渡し日に、買主から受け取った売買代金と準備した自己資金を合わせてローンを一括返済し、抵当権の抹消手続きを行います。
筆者からの一言アドバイス

「少し無理をすれば自己資金で何とかなる」と考える方はいます。しかし、お子様の進学費用や不測の事態に備える「生活防衛資金」まで切り崩すのは危険です。手元に残す資金も考慮した上で、余裕を持った計画を立てることが重要です。

対処法②:住み替えローンを利用する

住み替えを予定しているものの、自己資金はあまり使いたくない、という方に適したのが「住み替えローン」です。

住み替えローンは、今の家のローン残債と、新しい家の購入費用をまとめて借り入れられる特殊なローンです。便利な反面リスクも伴うため、仕組みを正しく理解しておきましょう。

住み替えローンの仕組み

住み替えローンは、オーバーローンで発生した赤字分を、新しく購入する家の住宅ローンに上乗せして借り入れる仕組みです。

【例】

  • 現在のローン残債:2,000万円
  • 家の売却価格:1,800万円 → 不足額(赤字)200万円
  • 新居の購入価格:3,000万円

この場合、不足額200万円 + 新居の価格3,000万円 = 3,200万円 を新しいローンとして借り入れることになります。

メリット・デメリット

メリット デメリット
・自己資金がなくても住み替えが可能になる
・家の売却と新居の購入を同時に進められる
・借入額が大きくなり、月々の返済負担が増える
・金利が通常の住宅ローンより高めに設定されることが多い
・審査基準が厳しく、誰でも利用できるわけではない
・売却活動と新居探しを並行して行う必要がある
筆者からの一言アドバイス

住み替えローンは非常に便利な制度ですが、金融機関から見れば「貸し倒れリスクの高い商品」です。そのため、審査は通常の住宅ローンより格段に厳しくなります。年収や勤務先はもちろん、過去のクレジットカードの支払い履歴など、個人の信用情報が厳しくチェックされることを覚えておきましょう。

対処法③:任意売却を検討する

自己資金がなく、住み替えの予定もない、あるいは既にローンの返済が苦しい…という状況で最終手段となるのが「任意売却」です。

任意売却は、債権者である金融機関の許可を得て、抵当権を外してもらい家を売却する方法です。ローンを滞納し続けると、最終的に家は「競売」にかけられてしまいますが、任意売却はそれを避けるための有効な手段です。

任意売却と競売の違い

任意売却は、競売に比べて多くのメリットがあります。両者の違いを理解しておくことが重要です。

項目 任意売却 競売
売却価格 市場価格に近い価格で売れる可能性が高い 市場価格の5〜7割程度になることが多い
プライバシー 通常の売却活動と同じで、周囲に知られにくい 情報がインターネットや新聞で公開され、周囲に知られる可能性が高い
残債の返済 金融機関と交渉し、無理のない範囲での分割返済が可能 一括での返済を求められることが多い
持ち出し費用 基本的になし(売却代金から清算される) 発生する場合がある
主導権 自分(と不動産会社)が主導で進められる 裁判所が主導で強制的に進められる

任意売却の流れと注意点

任意売却は、以下の流れで進めます。

  1. 金融機関への相談: ローン返済が困難になった場合、滞納する前に借入先の金融機関に相談することが第一歩です。
  2. 専門の不動産会社へ相談: 任意売却は専門的な知識と交渉力が不可欠です。必ず任意売却の実績が豊富な不動産会社に相談し、査定を依頼しましょう。
  3. 金融機関の同意: 不動産会社が金融機関と交渉し、査定価格などを基に任意売却を行うことへの同意(許可)を得ます。
  4. 売却活動の開始: 同意が得られたら、通常の不動産と同じように売却活動を開始し、買主を探します。
  5. 売買契約と決済: 買主が見つかれば売買契約を結び、売却代金をローンの返済に充てます。
  6. 残債務の返済計画協議: 売却しても残ってしまった債務については、金融機関と協議の上、生活に支障のない範囲(例:月々1〜3万円など)で分割返済していくことになります。

【注意点】

  • 信用情報への影響: 任意売却を行うと、信用情報機関に事故情報が登録されます(いわゆるブラックリスト状態)。これにより、約5〜7年間は新たなローンを組んだり、クレジットカードを作成したりすることが難しくなります。
  • パートナー選びが最重要: 金融機関との交渉力や販売戦略など、不動産会社の能力によって結果が大きく左右されます。そのため、任意売却の実績が豊富な会社を選ぶことが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q. 離婚が理由で売却する場合、注意点はありますか?

A. 財産分与の問題が絡むため、夫婦間での合意形成が不可欠です。特に、家の名義人やローン契約者、連帯保証人が誰になっているかを確認し、売却の方針や売却後の残債の負担割合について、必ず書面に残しておくことが重要です。後々のトラブルを避けるためにも、弁護士などの専門家を交えて協議することをお勧めします。

Q. ローンが残ったまま、誰かに貸すことはできますか?

A. 原則としてできません。住宅ローンは、契約者本人が居住することを条件に低金利で融資されています。そのため、金融機関に無断で第三者に賃貸に出すことは契約違反となり、発覚した場合、ローンの一括返済を求められるリスクがあります。もし賃貸を検討する場合は、金利の高いアパートローンなどへの借り換えが必要になります。

Q. 売却してもローンが残った場合、自己破産するしかないのでしょうか?

A. 必ずしもそうではありません。任意売却の場合、前述の通り、残った債務は金融機関と交渉の上、月々1〜3万円程度の無理のない範囲で分割返済していくのが一般的です。自己破産は、他に多額の借金があるなど、どうしても返済の目処が立たない場合の最終的な選択肢と考えるべきです。

まとめ:ローンの一括返済ができなくても、慌てず専門家へ相談を

「ローンが返せないかもしれない」という状況は、誰にとっても大きな不安が伴います。しかし、一人で抱え込まず、正しい知識を持って行動すれば、必ず解決の道は見つかります。

まず、あなたが今すぐやるべきことは、複数の不動産会社に査定を依頼し、ご自宅の正確な価値を把握することです。それと並行して、金融機関に連絡し、現時点でのローン残高証明書を取り寄せましょう。

その2つの情報が揃った上で、どの方法が自分に合っているか、信頼できる不動産会社の担当者やファイナンシャルプランナーに相談することをお勧めします。特に任意売却を検討する場合は、専門知識を持つ不動産会社選びが成功の鍵を握ります。

あなたの状況がより良い方向へ進むことを心から願っております。

松倉弘道
松倉弘道

保有資格:1級FP技能士/CFP®認定者/宅地建物取引士
経歴:不動産業界歴20年。不動産賃貸の営業・管理を担当し、現場経験と資格に基づく専門知識で顧客の課題解決に取り組んでいる。

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