建物買取請求権を3つのポイントでわかりやすく解説!4つの要件や例外となるケースも紹介

借地契約の満了が近づき、地主から「契約は更新しない。更地にして返してほしい」と言われて途方に暮れてしまうケースがあります。長年住み慣れた家を解体するには数百万円もの費用がかかり、何より愛着のある家を壊すのは心が痛むものです。

実は、法律には借地人が建物を地主に買い取ってもらえる「建物買取請求権」という強力な権利が存在します。この権利を正しく使えば、解体費用を負担するどころか、建物を「資産」として現金化できる可能性があります。

この記事では、建物買取請求権の仕組みや認められるための要件、逆に認められないケースまでをわかりやすく解説します。

建物買取請求権とは?

建物買取請求権とは、借地契約の期間が満了し、契約が更新されずに終了する際に、借地人が地主に対して「この建物を時価で買い取ってください」と請求できる権利のことです(借地借家法第13条)。

通常、人の土地を借りて建物を建てていた場合、契約が終われば建物を壊して「更地」に戻して返すのが原則です(原状回復義務)。しかし、建物買取請求権を行使すれば、建物の解体費用(更地戻し費用)を負担せずに済み、逆に建物を「資産」として現金化できます。

【通常の終了と買取請求権を行使した場合の違い】

項目 通常の契約終了(原則) 建物買取請求権を行使した場合
建物の扱い 解体して更地にする そのまま地主に引き渡す
費用の負担 借地人が解体費を払う 地主が買取金を払う
経済的効果 マイナス(数百万円の出費) プラス(売却益が入る)

借地人にとっては、マイナス(解体費)がプラス(売却益)に変わるため、経済的なメリットが非常に大きい制度です。

参照元:e-GOV法令検索|借地借家法(平成三年法律第九十号)

地主は原則拒否できない「形成権」がある

建物買取請求権の特徴は、法的に非常に強力な「形成権(けいせいけん)」であるという点です。形成権とは、権利を持つ人(借地人)が「買い取ってください」と一方的に意思表示をした瞬間に、相手(地主)の承諾に関わらず売買契約が成立してしまう権利のことです。

つまり、地主が「その建物はいらない」「買い取るお金がない」と拒否したとしても、法的には借地人が意思表示をした時点で売買契約は成立しており、地主には代金の支払い義務が発生します。

これは「契約はお互いの合意で決める」という契約自由の原則の例外となる、借地人を守るための特別なルールです。

3. 制度の目的は社会経済的損失の防止と借地人保護

借地人に有利な権利が認められている理由は、大きく分けて以下の2つが挙げられます。

  • 社会的損失の防止
  • 借地人の保護

まだ十分に住める建物を取り壊すことは、資源の無駄遣いであり社会全体で見ても経済的な損失となります。また、立場の弱い借地人が、契約終了によって住居を失い、さらに解体費用の負担で路頭に迷うことがないよう、生活再建のための資金を確保させることが狙いです。

この権利は「強行規定(きょうこうきてい)」と呼ばれ、たとえ契約書で「借地人は建物買取請求権を放棄する」という特約を結んでいたとしても、その特約は無効となります。法律は、どんな約束よりも優先して借地人の権利を守ってくれるのです。

建物買取請求権が認められる4つの要件

建物買取請求権は強力な権利ですが、いつでも使えるわけではありません。以下の4つの要件をすべて満たしている必要があります。

1. 借地契約の期間が満了していること

第一の要件は、あくまで「契約期間の満了」に伴って契約が終了することです。当初定められた契約期間(または更新後の期間)を全うしていることが前提となります。そのため、以下のようなケースでは原則として対象外となります。

  • 期間の途中で、借地人の都合で「解約したい」と申し出た場合
  • 地主の都合による中途解約の場合

「期間満了まで住み続けた」という事実が、権利行使のスタートラインになります。

2. 契約の更新が行われておらず終了すること

期間が満了しても、契約が「更新」されればそのまま住み続けられるため、買取請求の必要はありません。この権利が発生するのは、更新が認められずに契約が終了する場合に限られます。

具体的には、借地人が「更新したい」と求めたのに対し、地主が「正当事由(せいとうじゆう)」をもって更新を拒絶したケースです。

単に地主が「土地を返してほしい」と言うだけでは正当事由は認められません。「地主自身が住む家がない」「老朽化で危険」など、裁判所が認めるレベルの正当な理由があって初めて「更新拒絶=契約終了」となります。

3. 土地の上に借地人所有の建物が存在していること

当然ですが買取を請求する時点で、その土地の上に建物が現存していなければなりません。火災で焼失していたり、既に取り壊してしまったりした場合は請求できません。ここで最も注意すべきなのは「借地権者」と「建物所有者」の名義が一致していることです。

よくあるNGケースには、以下のようなものがあります。

  • 借地契約の名義は「親」
  • 建物の登記名義は「子供」

このように名義が食い違っている場合、要件を満たさないため買取請求が認められない可能性が高いです。将来のトラブルを防ぐためにも、名義関係は必ず確認しておきましょう。

4. 借地人から買取請求の意思表示をすること

建物買取請求権は、期間満了と同時に自動的に発動するものではありません。借地人が自ら「建物を買い取ってください」と明確に請求(意思表示)する必要があります。

権利を行使できる期間(時効)は一般的に10年とされていますが、時間が経てば経つほど権利関係が曖昧になり、トラブルの原因となります。

契約終了後は「遅滞なく」手続きを行うのが望ましいでしょう。

また、もし地主から「土地を明け渡せ」という裁判を起こされた場合でも、裁判の中で「予備的」に買取請求権を主張することが可能です。これは自分の身を守るための重要な防御策となります。

建物買取請求権が「認められない」4つのケース

いくら借地人に有利な法律でも、例外は存在します。「請求できるケース」と「できないケース」を以下の表と解説で確認しましょう。

ケース 請求権の行使 理由・備考
地代滞納(債務不履行) × できない 借地人の契約違反による解除のため
円満な「合意解約」 × できない 話し合いで納得して終了しているため
定期借地権 × できない 契約当初の特約で排除されている場合
建物が朽廃(老朽化) × できない 経済的価値がないとみなされるため

1. 地代滞納などの「債務不履行」で契約解除された場合

借地人が契約上の義務を果たさなかった(債務不履行)ことによって契約解除された場合は、一切の保護を受けられません。

  • 地代の長期滞納
  • 地主に無断で他人に貸した(無断転貸)
  • 地主に無断で増改築した

このような「背信行為(はいしんこうい)」によって、信頼関係を破壊した借地人に対してまで法律は保護を与えません。この場合、借地人は自費で建物を解体して更地にし、直ちに出ていくことになります。

2. 円満に「合意解約」した場合

期間満了を待たずに、あるいは期間満了のタイミングであっても、地主と借地人が話し合って円満に「合意解約」した場合は、原則として買取請求権は発生しません。通常、合意解約をする際は以下のような条件を含めて話し合いが行われます。

  • 解決金
  • 立退料
  • 原状回復義務の有無(更地にするか、建物を残すか)
  • 明渡し期限

その合意書(解約書)には「これ以外の債権債務はない(清算条項)」という一文が入ることが一般的です。一度ハンコを押して合意してしまうと、後から「やっぱり建物を買い取って」と主張するのは困難です。ただし、実質的に地主が無理やり解約させたような場合は、例外的に認められる可能性もあります。

3. 「定期借地権」または「一時使用目的」の契約である場合

契約の種類によっては、最初から建物買取請求権が排除されていることがあります。

  • 定期借地権(一般定期借地権、事業用定期借地権など)
  • 一時使用目的の借地権

定期借地権では、契約時に「契約終了時は更地にして返す」「建物買取請求権を行使しない」という特約を公正証書などで定めています。この特約は有効となり、請求権は発生しません。また、工事現場の仮設事務所やイベント会場など、明らかに一時的な目的で土地を借りている場合も、保護の対象外となります。

4. 建物が著しく「老朽化」し経済的価値がない場合

地主側からよく出る反論として「こんなボロボロの家、価値がないから買い取らない」というものがあります。単に「古い」というだけなら請求は可能ですが、以下のように建物が著しく老朽化(朽廃)し、もはや建物としての効用を失っている場合は注意が必要です。

  • 雨漏りがひどく居住できない
  • 柱が腐食しており倒壊の危険がある

このように「経済的価値がない」と判断されると、請求自体が認められないか、あるいは買取価格が「ゼロ」や「マイナス(解体費用との相殺)」になる可能性があります。

建物買取請求権を行使する際の流れ

不動産買収請求権行使の4ステップの図いざ権利を行使しようと思ったとき、どのような手順で進めればよいのでしょうか。ここでは、トラブルを防ぐための確実な手順を解説します。

1. 内容証明郵便で意思表示を行う

最初のアクションは、地主への意思表示です。口頭や電話では「言った言わない」のトラブルになるため、必ず証拠が残る「配達証明付き内容証明郵便」を使いましょう。通知書には以下の内容を明記します。

  • 契約期間満了により借地契約が終了したこと
  • 借地借家法第13条に基づき、建物の買取を請求すること
  • 対象となる建物の詳細(所在地、家屋番号など)

この郵便が地主に到達した日が、法的な「売買契約成立日」となります。

2. 買取価格の協議・決定

売買契約は成立しましたが、金額はまだ決まっていません。通常は、地主と借地人の間で価格についての協議(話し合い)が行われます。

お互いに不動産会社の査定書などを出し合い、妥協点を探ります。もし話し合いが決裂した場合は、裁判所に調停を申し立てるか建物代金請求訴訟を起こし、裁判所が選任した鑑定人に価格を決めてもらうことになります。

3. 代金の支払いと建物の引き渡し

価格が合意に至れば、いよいよ決済です。ここで重要なのは「代金の支払い」と「建物の引き渡し」は同時に行うという点です。

地主から代金を受け取ると同時に、建物の鍵を渡し、所有権移転登記に必要な書類(権利証など)を交付します。これを法律用語で「同時履行(どうじりこう)」と呼びます。

代金支払いと物件引き渡しの同時履行の図

もし地主が「後で払うから、先に家を明け渡して出ていけ」と言ってきても、借地人は「お金をもらうまでは、鍵も渡さないし、家からも出ていかない」と主張する権利(同時履行の抗弁権)があります。

さらに、代金をもらうためにその建物を占有し続ける権利(留置権)があるため、お金を受け取るまで安心して今の家に住み続けることができます。

ただし、実際に引き渡すまでの期間については、地主に対して土地の使用料(地代相当額)を支払う義務があります(不当利得の返還)。トラブルを避けるためにも、代金決済が完了するまでは、これまで通りの地代を支払い続けることが重要です。

参照元:住宅金融普及協会|1. 同時履行の抗弁権

建物買取請求権を行使した場合の価格の決め方

「買い取ってもらえる権利があることはわかった。では、いくらで売れるのか?」これが最も気になるポイントなのではないでしょうか。

実は、買取価格は単に「建物の築年数」だけで決まるわけではありません。ここでは、ベースとなる「時価」の考え方と、金額を大きく左右する「場所的利益」という要素について解説します。

1. 買取価格は建物の「時価」で算定される

買取価格は、借地人が買取請求の意思表示をした時点における、建物の「時価」で算定されます。基本的には「再調達原価(今同じ建物を建てたらかかる費用)」から、築年数に応じた「減価償却(経年劣化分)」を差し引いて計算されます。

「築年数が古い木造住宅だと、価値はほとんどないのでは?」と思うかもしれません。ここで重要になるのが、次に解説する「場所的利益」です。

2. 場所的利益や借地権価格も含まれる

判例や通説では、建物買取請求権における時価には、その建物がその場所にあり、土地を利用できることによる「場所的利益」も含まれるとされています。建物を取り壊して廃材にするわけではなく、地主はそのまま建物を利用できるため、建物単体の価格(スクラップ価格)よりも高い価値が認められるのです。

  • 借地権価格(更地価格の6〜7割など)がそのまま上乗せされるわけではない
  • 場所的利益が加味されることで、古い建物であっても数十万円〜数百万円の価格がつくケースがある

地主から「古いから価値はない」と言われても、すぐに鵜呑みにせず、場所的利益を含めた適正な価格を主張することが大切です。そのためには、交渉前に自分の建物の客観的な価値(査定額)を知っておくことが重要です。

まとめ

建物買取請求権は、借地人の生活と資産を守るための非常に強力な権利です。地主に「更地にして出ていけ」と言われても、泣き寝入りする必要はありません。この権利は、契約更新の拒絶によって行き場を失う借地人を救済し、解体費用という経済的な負担から守ってくれます。

ただし、この権利を最大限に活かすためには、地主からの不当な要求を拒否できる法的な根拠と、適正な買取価格を主張するための準備が不可欠です。特に「いくらで売れるか」という価格交渉は、客観的なデータがなければ地主の言いなりになってしまうリスクがあります。

交渉のテーブルに着く前に、まずは自分が所有する建物にどれくらいの価値があるのか、無料一括査定を利用して把握しておきましょう。それが、あなたの大切な資産を守るための確実な第一歩となります。

西山雄介
西山雄介

肩書:不動産ライター / ディレクター

保有資格:宅地建物取引士 / マンション管理士 / 管理業務主任者 / 賃貸不動産経営管理士 / 日商簿記2級 ※多い場合は後ろから削ってください。

プロフィール:
不動産業界歴15年。新卒で東証プライム上場のマンションデベロッパーに入社後、計2社で新築・中古販売および管理業務に従事。実務現場を経て管理職も歴任し組織運営にも携わる。現在はその多角的な視点を活かし、実務解説から不動産投資、法律事務所案件まで、専門性の高いコンテンツ制作・ディレクションを行っている。

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