管理費とは、マンションやアパートなどの賃貸物件を維持・管理するために必要な経費のことです。主に、物件のオーナーや管理会社が、建物の共用部分を清掃・点検する専門業者へ依頼するときの費用に使われます。
不動産広告の正当性を審査している自主規制団体「不動産公正取引協議会連合会」は、管理費を以下のように定義しています。
(引用:不動産公正取引協議会連合会)
簡単に言うと、管理費は賃貸物件における共用部分を維持するために充てられる費用のことです。つまり、居住者が快適な暮らしを送るための必要経費なのです。マンション・アパートにおける共用部分の具体例は、以下の通りです。
さらに、管理費は一律料金ではない場合が多く、入居する部屋の床面積の割合に応じて支払うという特徴があります。なかには、床面積にかかわらず一律設定しているところもありますが、一般的には「管理費の負担割合は、専有部分の床面積割合による」と定めている物件が多いようです。
また、入居時期によって管理費が変動するケースもあります。不動産の繁忙期と呼ばれる1~3月は割引などの特典がなくても入居希望者が集まることが多いですが、閑散期にあたる8~10月は空室が目立つ傾向です。
管理会社や不動産は空室対策として管理費を安くしたり、家賃を下げた分を管理費に上乗せしたりして、魅力的な物件になるよう工夫するのです。
まずは、2つの費用の特徴について、詳しく比較していきましょう。
管理費・共益費に明確な違いはほぼありません。不動産や物件の所有者が独自で使い分けていることが多いため、物件情報には「管理費・共益費」として一括りにされていることもあります。不動産公正取引協議会連合会は、共益費について以下のように言及しています。
この「共用部分の維持・管理に関する費用」という点は、同連合会の管理費の定義と重なる部分があります。一般的には同様の意味で使われることが多いため、物件探しの際には「管理費と共益費はほぼ同じ」と捉えましょう。
実際に管理費はどのようなことに使われているのでしょうか。管理費に関する定義はありますが、使用先に関しては定められていません。そのため、賃貸物件の持ち主は特に制限なく自由に使うことができます。主な使い道は、以下の通りです。
また、住みやすさ・快適さに特化した物件は、管理費が高くなる傾向にあります。防犯対策やネット回線など、設備が充実している物件の実例についてもみていきましょう。
他にも、宅配ボックスや24時間持ち込みできるゴミ置き場の設置など、治安維持だけでなく利便性にこだわった物件は管理費が割高になるようです。設備の充実度に比例して、管理費も高くなっていくことを覚えておきましょう。
管理費や共益費に消費税はかかりません。国税庁は「集合住宅の家賃、共益費、管理費等の課税・非課税の判定」において、以下のように回答しています。
(引用:https://www.nta.go.jp)
居住目的である場合については非課税となるため、家賃にも税金はかかりません。しかし、事業目的である場合は家賃・管理費ともに課税対象となるので、注意してください。
管理費には明確な相場が定められていません。家賃と同様に決定権は大家・オーナーなどの物件の持ち主にあり、自由に設定できるものとされています。以下は、家賃と管理費の目安金額です。
一般的な賃貸マンション・アパートなどの管理費は、家賃の5~10%の割合で設定されています。エレベーター付属の物件や防犯システムが充実しているところは、7~10%の割合で設定しているケースが多いようです。さらに管理費が高額になる物件には、以下のようなケースがあります。
管理費は各戸に振り分けられるシステムなので、戸数が少ない物件はどうしても一戸あたりの負担が大きくなってしまいます。しかし、エレベーターを導入すると管理費が高くなるため、一概に戸数が多いほど安くなるとは言えません。なるべく管理費を抑えたい場合は、2~3階建てで一定数の戸数があり、エレベーターなしの物件をチェックしてみてください。
物件情報を見ていると、「管理費無料」と掲載されているものを見かけるかもしれません。一見お得なように見えますが、家賃に管理費が含まれているケースが多いのでしっかり確認するようにしましょう。
「トータルで支払う金額が同じなら問題ない」と思うかもしれませんが、家賃の金額は賃貸契約の初期費用である敷金・礼金に影響します。敷金・礼金は「家賃何ヶ月分」といった換算方法のため、請求額が家賃に比例して高くなってしまうのです。
例えば、「家賃(管理費込み)11万円」と「家賃10万円・管理費1万円」の賃貸物件では、前者の敷金・礼金が高くなるためトータルの初期費用に差額が生じます。物件の情報欄に管理費や共益費について記載されていないときは、家賃に含まれているかどうかを契約前に確認しておくと良いでしょう。
もし、家賃にも管理費が含まれない物件だった場合は、共用部分の維持・管理について事前に把握しておくことをおすすめします。大家住み込みの物件なら問題ないかもしれませんが、共用部分が荒れて放置されているようでは、安く済んでも快適さや治安の保証がないかもしれません。
最後に、管理費・共益費のよくある質問について解説していきます。
管理費・共益費は、一般物件だけにかかる費用ではありません。フリーレント物件やシェアハウス物件であっても、管理費を支払うケースが多いことを留意しておきましょう。
フリーレント物件とは、入居後の一定期間(通常1~2ヶ月間)において、家賃等が発生しない制度を導入したものです。借り手の初期費用負担を軽くすることで比較的早く空き部屋が埋まるため、不動産や物件の所有者にとってもメリットがあります。
しかし、特別記載がない限りはフリーレント物件にも管理費はかかると思っておいたほうが良いです。管理費も家賃に含まれていれば問題ないのですが、含まれていない場合は支払いが発生するため契約前にしっかり確認しておく必要があります。
また、新しい暮らしの形として近年注目されているシェアハウス物件の管理費相場は、一般物件より一層高くなる可能性があることも覚えておきましょう。管理に多くの手間が必要となるため、家賃の20%前後の管理費がかかるといわれています。
シェアハウスは、一般物件に比べて共用部分が多いです。清掃する場所や頻度などがあらゆる面で異なるため、維持管理のために必要な業務量が圧倒的に多くなることを考慮すると、妥当な金額でしょう。管理費のなかに電気代・水道代・ガス代などが含まれているケースもあります。
また、近年ではインターネットやセキュリティシステムなどの利便性だけでなく、ホームシアターや専用ジムなどの付加価値がある個性的なシェアハウスも存在します。プラスアルファのサービスが受けられるシェアハウスはその分維持費や使用料が加算されるため、管理費が割高になってしまうのです。
「1階に住んでいてエレベーターを使わないのに、同じ管理費を払う必要があるのか」と不公平に感じる人もいるかもしれませんが、基本的に管理費は建物全体の維持管理に必要な費用です。エレベーターは建物と一体の構造をしているため、切り離して考えることはできません。
マンションの法律である「区分所有法第19条」には、以下のように定義されています。
(引用: https://elaws.e-gov.go.jp)
つまり、管理費は「建物において自分が所有する床面積の割合に応じて負担するものである」と法律で定められているのです。その建物に住んでいる以上は、設備の利用有無や頻度に関係なく、管理費を支払う必要があります。
また、エレベーターに関してはアンテナや受水槽など建物全体のメンテナンスをする修理・点検業者が利用しているため、1階に住む人も間接的に利用していると考えられています。
自分自身は利用していなくても、同じ建物に住む上ではお世話になっているのです。エレベーターのおかげで、1階に住む人も快適に暮らせていると言っても過言ではないでしょう。
管理費は、マンションの管理・運営のために必要不可欠な経費です。建物内で所有する床面積に応じて支払う義務があり、管理者は徴収した管理費の使い道を自由に設定できます。しかし、管理費が高いからといって、それ相応の管理がなされていると思い込むのは危険です。
なかには共用部分のメンテナンスが行き届いていないにもかかわらず、しっかり管理費を徴収される物件もあります。管理費と管理のクオリティが比例するわけではないので注意しましょう。住んでから後悔することのないよう、内見時にしっかりチェックしておくことをおすすめします。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。