障害者グループホームとは、国の定めた規定を満たした一軒家もしくはアパートなどの施設に障害者が集まり、日常生活の支援を受けながら共同生活を送る社会福祉施設です。
さまざまな困難や不安を抱えて生活している障害者は少なからずいます。障害者グループホームに入所することにより、日々の入浴・食事等の生活上の補助を受けられるので、不安を解消することができ、快適に過ごせるようになるでしょう。
ときには職員が仕事の相談を受けることもあり、障害者の生活上のトータルサポートをおこないます。
障害者の生活を支援する障害者グループホームですが、なぜそこまでLTVが高く儲かるといえるのでしょうか。結論から言うと、高齢者が増えている実情がある日本では、障害者グループホームの市場規模が年々拡大傾向にあるからです。
平成31年度障害保健福祉関係予算案の概要を参考にすると、障害福祉サービス等の予算の推移は、この12年間で約2.8倍になっています。下記グラフを参考にしてみてください。
※単位は億円
(参照:厚生労働省「平成31年度障害保健福祉関係予算案」)
上記の表からもわかるように、障害者福祉関連の予算は年々増加しており、市場規模の拡大が伺えます。また、厚生労働省が発表している「障害者の居住支援について(第113回)」では、グループホームの利用者もここ10年で約3倍に増加しているという事実もあります。
しかし、現状ではグループホームが圧倒的に不足しており、需要と供給のバランスが取れていません。社会がまさに求めているサービスであり、社会全体への貢献度の高い事業です。また、障害者グループホームは景気に左右されないのも特徴で、今後不景気に陥っても長期的に安定した収益が見込めるでしょう。
これらの理由から障害者グループホームは地域社会に貢献できる事業であり、かつ継続的に収益性が高い事業であると言えます。
一口に障害者グループホームと言っても、さまざまな事業形態が存在します。下記に代表的なグループホームの種類をまとめたので、参考にしてください。
【障害者グループホームの種類】
それぞれの施設の特徴を詳しく解説していきます。
介護サービス包括型とは、食事・入浴・トイレの介助などの日常生活における支援をおこなう事業形態です。 一般的には、夜間や休日にも介助が必要な障害者や重度の障害を抱えた方が利用します。
外部サービス利用型とは、介護サービス包括型にあるような日常生活の支援をおこなうだけではなく、外部のヘルパー事務所などからの支援も受ける事業形態です。 介護サービス包括型とは異なり、比較的障害が軽度な方が利用する傾向にあります。
最後に挙げられる事業形態は、日中支援型です。日中支援型では障害者の短期入所を提供しており、日中を含めた24時間体制で介助をおこないます。 日常生活の支援をはじめ、介護などの幅広いサービスを提供しています。
次に、障害者グループホーム経営の仕組みについてみていきましょう。下記に大まかな経営の仕組みをまとめたので、参考にしてください。
【障害者グループホーム経営の仕組み】
上記からもわかるように、障害者グループホームでは売上の9割は国保連合会(国民健康保険団体連合会)が負担し、残り1割を利用者が負担する形になっています。このため、利用料が未収になるリスクは低く、常に安定した経営がおこなえるでしょう。
障害者グループホームは年々市場規模が拡大している注目の事業ですが、その一方で「経営の落とし穴」と呼ばれることがあります。経営の落とし穴と呼ばれる理由には、障害者グループホームの経営の難しさが挙げられるでしょう。
しかし、障害者グループホーム事業のメリット・デメリットについて理解を深めておけば、リスクを最小限に抑えた経営が可能です。
障害者グループホームのメリット・デメリットを詳しく解説していきます。
障害者グループホーム経営には、下記のメリットがあります。
それぞれ詳しくみていきます。
1点目のメリットは、退去リスクが低く安定した収入を得られることです。障害者グループホームの最大のメリットと言っても過言ではないのが、「収入の安定性」です。
一般的に、障害者グループホームの利用は長期的といわれています。大きな問題がない限り、利用者の大半は退去しません。 工夫次第ではさらに利用期間を長くできるので、長期的な安定収入が得られるでしょう。
障害者グループホーム経営は、社会貢献につながります。障害者向けの福祉支援施設の数は、私たちが思っているほど多くありません。
今この瞬間にも、介助を必要としている障害者やその家族は多くいます。そのため、障害者グループホームを立ち上げると多くの人を救うことができ、社会貢献につながるでしょう。
立地や周辺環境に集客を左右されないのも、障害者グループホームのメリットと言えるでしょう。障害者グループホームの数は、その需要の多さに対して圧倒的に不足しています。
このため、居住用アパート経営やテナント経営では立地条件が悪く通常の事業なら集客を見込めないような場所でも人が集まりやすいです。
最後に挙げられるメリットは、人材確保をしやすいことです。障害者グループホームには、管理者・サービス管理者・世話人といった人員配置が義務づけられています。
管理者やサービス管理者は資格が必要となりますが、障害者の介助をおこなう世話人には資格要件がありません。そのため、他の事業よりも比較的人員の確保がしやすいと言えます。
極端な話をすると、世話人に限って言えば未経験の主婦もパートとして働ける仕事なので、人件費に必要以上のコストを割く必要もありません。
多くのメリットがある一方で、障害者グループホームにはデメリットも存在します。メリットばかりに目を向けず、デメリットへの理解も深めておきましょう。
下記に主なデメリットをまとめたので、ご覧ください。
それぞれ詳しくみていきましょう。
障害者グループホームの経営は、誰でもできるものではありません。開設のためには、行政への申請や運営基準を満たす必要があります。
身体障害者、知的障害者、精神障害者、難病患者など、障害者総合支援法が定める「障害者」は幅広く、接し方や対応は簡単ではありません。管理者やサービス管理者は資格が必要となり、知識だけでなく経験やノウハウも必要です。
専門的な知識やノウハウが求められるため専門家に依頼する必要があるでしょう。運営は、すでに事業をおこなっている事業者に委託し、自身は土地・物件の活用に徹するという方法も考えておきましょう。
加えて、近隣周辺の理解と説明も必要です。社会的には必要不可欠な事業ですが、近隣住民のなかには、理解不足などから事業そのものに対する反対運動などが起こるケースも考えられます。丁寧な説明をおこない、地域社会・近隣から歓迎されてこそのビジネスにしていきましょう。
2点目に挙げられるデメリットは、他のビジネスに転用しにくいことです。障害者グループホームには、各自治体が定めている厳格な指定基準が存在します。
具体例を挙げると、1つの居室スペースの広さを収納スペースを除いて7.43平方メートル以上にしなければならないという基準があります。また、人数に応じて複数のキッチンやトイレの配置も求められ、交流スペースの設置も必要です。
これらの指定基準により、障害者グループホームは他の事業に転用しにくい設計を余儀なくされてしまうでしょう。ビジネスを始めたものの、なかなか軌道に乗らず通常の居住用物件として再スタートするときには、リフォームコストなどの大きな負荷がかかってしまいます。
最後に挙げられるデメリットは、利用者の行動によっては管理体制を問われるという点です。障害者グループホームは国から給付金を受け取るため、厳格な基準を守る必要があります。
このため、管理者が基準を厳守するのはもちろんですが、利用者の行動についても気を付ける必要があるでしょう。場合によっては監査が入る事態にもなりかねないので、定期的に管理体制の見直しをおこなう必要があります。
障害者グループホームを設立するためには多額の初期費用がかかります。下記にゼロから障害者グループホームを設立した場合の費用をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
上記の表からもわかるように、ゼロから障害者グループホームを設立すると約800~1,000万円の初期費用がかかります。施設を建設する場合には別途建物の建設費が必要になるので、予算に追加しておきましょう。
障害者グループホームの給付金は、施設に入所している利用者の人数に応じて支給されます。利用者1名あたり「基本単価×日数」で計算され、基本単価は障害者区分に応じて異なります。
下記に障害者区分ごとの基本単価をまとめたので、ご覧ください。
※1単位=10円
上記の表を参考にすると、区分2の障害者が1ヶ月グループホームを利用した場合、(292単位+192単位)×10円×30日=14万5,200円となり、月に14万5,200円の給付金を受け取れることになります。
続いて、障害者グループホームを設立する流れについて、解説していきます。障害者グループホームの設立は、大きく分けて下記の4ステップで進んでいきます。
それぞれの工程を詳しくみていきましょう。
なお、今回は事業主として一から障害者グループホームを設立する際の流れを解説していきます。障害者グループホームを運営する方法には、実際にサービスをおこなっているグループホーム法人に物件を貸す、共同運営する、またはノウハウのあるフランチャイズに入るなどの方法もあります。必ずしも今回紹介する方法でなければいけないというわけではないので、覚えておきましょう。
障害者グループホームの設立を決めたら、はじめに資金調達から開始しましょう。施設は賃貸で考えている場合でも、運転資金を含めて用意しておく必要があります。
調達する資金の目安は800~1,000万円です。自己資金が足りない場合には、調達する資金の3分の1〜4分の1を用意し、残りは融資を受けましょう。
資金の調達が完了したら法人を設立します。障害者グループホームは、個人では運営できません。 グループホームの運営は、法人格を持った株式会社や社会福祉法人でなければならないというルールがあるので、必ず法人化しておきましょう。
次に、厚生労働省の定める「設置基準」「人員配置基準」「運営基準」の3つの基準を満たしましょう。
下記に、厚生労働省令第34号「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(第五章:認知症対応型共同生活介護)」に記載されている内容をまとめたので、参考にしてください。
【設置基準】
(複数の建物でおこなう場合には、1つの建物につき2名以上)
【人員配置基準】
【運営基準】
運営基準は、上記に基づいて具体的に決定していく必要があります。
最後に、グループホームの指定申請をおこないます。障害者グループホームで事業者指定を受けるためには、都道府県に対して指定申請手続きが必要です。
下記に、指定申請の際に必要な書類をまとめたので、参考にしてください。
最後に、障害者グループホーム経営を成功させるコツを解説します。障害者グループホームは設立して終わりではありません。成功させるためには、下記のようなコツを押さえておきましょう。
すべて大切なことなので、それぞれ詳しく解説していきます。
グループホーム運営に関連する法律は、時代や状況に応じて日々変化しています。そのため、常に適した運営をするためにも、法律に関する知識を日々更新しておく必要があるでしょう。
法律が改正された場合、以前は適した運営として認められていたことでも法律違反になるケースがあります。法律違反にならないためにも、常に法に関する知識を更新しておきましょう。
障害者グループホームは需要が高いと先述しましたが、何もしなくとも利用者が増えるほど甘い世界ではありません。そのため、集客に力を入れることも大切です。
具体的には、地域の事前調査・建物の選定・広告を打つなどの方法が挙げられます。また、集客には、医療施設や介護施設、地域のケアマネージャーとの連携も欠かせません。
障害者グループホームを運営するためには、支援員や世話人と呼ばれるスタッフの存在が欠かせず、高いレベルのサービスを提供するには職員の教育が欠かせません。
具体的には、障害者のことを深く理解した人材が必要です。障害者も1人の意思のある人間であることを理解し、気持ちを通わせたコミュニケーションの取れる人材に教育しましょう。
一口に障害者と言っても、精神・知的・身体などさまざまな障害者区分があります。また、障害の重さも個人によって異なるため、それぞれの特性をよく理解し、状況に応じた支援方法を取る必要があるでしょう。
それぞれの特性を理解するためには、入所の段階でのヒアリングが重要です。1人1人の障害者と向き合い、個々に合った支援をおこなえるようにしてください。
万全な体制を取っていても、トラブルが起きることはあるでしょう。思わぬ事故やトラブルを完全にゼロにすることはできないので、被害を最小限に抑えるために対応マニュアルを作成する必要があります。
マニュアルは作成して満足しがちですが、机上の空論ではなりません。スタッフ全員にマニュアルの指導をおこない、現場の声も取り入れながら、いざという時に迅速に対応できるようにしておきましょう。
当記事では、障害者グループホームが儲かると言われる理由や事業成功のコツについて解説しました。障害者グループホーム経営は社会に役立つ事業です。
経営は決して簡単なものではありませんが、メリット・デメリットをしっかりと理解しておけば、長期的に安定した収益が見込めます。また、集客に立地を選ばないのも大きな利点です。
現在土地活用・土地売却を検討されている方や儲かる事業を探している方は、障害者グループホームの設立を候補に入れてみてください。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。