不動産査定は、不動産の「売却予想価格」を算出するものです。実際に不動産を売却して収支が発生したわけではないので、不動産査定をしただけでは年末調整に影響はありません。
また、不動産売却で必要なのは、年末調整ではなく「確定申告」になります。
まずは、よく耳にする「年末調整」と「確定申告」の違いや特徴について見ていきましょう。「いつ・誰がおこなうものなのか」や「おこなわないとどうなるのか」という疑問についても解説しますので、よく覚えておいてください。
年末調整とは、年間所得に対する所得税の過不足を正しく清算しなおすための手続きのことです。企業によって多少前後しますが、一般的には10月下旬から11月頃に開始され、1月下旬までの期間におこなわれます。
企業に勤めている場合は、毎月の給与から所得税が天引きされ、企業がまとめて納める仕組みになっています。給与から、この所得税や住民税・社会保険料などが天引きされた金額が、手取りとして支給されているのです。
しかし、この所得税は実際の所得に対する税額ではなく「概算された金額」で支払われています。そのため、その年の所得が確定したタイミングで年末調整をおこない、正しい課税金額を算出しなければなりません。
つまり、年末調整によって判明した納税額が過徴収であれば返還され、不足している場合は追加徴収される仕組みです。
また、年末調整は「所得税法」により、雇い主に対応義務が課せられています。年末調整を正しくおこなわなかった場合は、企業が以下の罰則を受けることになるでしょう。
一方、確定申告とは、年間所得を算出して所得税を計算し、税務署に納税額を申告する手続きのことです。年間所得は「その年の1月1日~12月31日までの売り上げから、諸経費を差し引いたもの」を指します。
日本では「申告制納税方式」という税制を採用しているため、個人が得た収入を正しく申告し、税を納めることが義務付けられています。
そのため、年間の所得金額から所得控除を差し引いた金額がプラスになる場合は、確定申告をおこなわなければならないのです。
確定申告は年に1回おこなう必要があり、原則翌年の2月16日~3月15日の間に報告・納税まで完了させる必要があります。
確定申告が必要なのは、以下に該当する場合です。
【確定申告が必要な人】
給与所得とは別に副業で事業所得を得ている場合や上記の条件に該当する場合は、企業勤めであっても確定申告が必要になるので注意しましょう。当然、不動産を売却した場合は上記の条件に当てはまるため、確定申告が必要となります。
確定申告が必要な人が期限内に申告しなかった場合、以下の罰則・ペナルティを受けることになります。
【確定申告をしなかった場合のペナルティ】
延滞税などが追加徴収されるだけでなく、青色申告における控除も受けられなくなるため、確定申告は正しく・期限内におこなう必要があるのです。
本来、会社勤めをしている人であれば会社で年末調整をおこなってくれるため、確定申告をする必要はありません。ただし、給与所得以外の所得がない場合に限ります。
不動産売却をおこなった年は給与以外の所得が発生しているため、自分で確定申告をしなければなりません。
不動産売却によって得た所得は「譲渡所得」に分類され、他の所得と分離して税額計算する「分離課税」の扱いとなります。
そのため、普段は確定申告していない人であっても、税務署から届いた申告書に譲渡所得を記入し、提出する必要があるのです。
不動産を売却した場合は、利益の有無にかかわらず確定申告をする必要があります。
まずは、不動産売買で利益が出たかどうかを把握しましょう。売却益は、不動産を売却した金額から、不動産購入時の「取得費」と、売却にかかった「譲渡費用」を差し引くことで求められます。
詳しくは後述しますが、この金額がプラスになれば利益が発生し、マイナスであれば譲渡損失が発生していることになるのです。税法上では、売却益が出なければ確定申告の必要はないとされています。
しかし、確定申告をすることで減税措置や還付金を受けられる可能性があります。そのため、不動産売却で利益が出ていないケースであっても、確定申告することをおすすめします。
不動産を売却して利益が発生した場合は、確定申告をおこない「譲渡所得税」を納める必要があります。
先述したように、物件・土地などの不動産売却時の譲渡所得は、「分離課税」の対象です。給与所得などのその他所得とは分離し、単体で算出しなければなりません。
また、譲渡所得税は「所得税と住民税の総称」で、売却した不動産の所有期間によって徴収額が変動します。ただし、特例制度が適用される場合は、必ずしも課税対象になるというわけではありません。
譲渡所得税とその控除・特例については後述しますので、気になる人は併せて覚えておきましょう。
不動産の売却により譲渡損失が発生した場合は、「損益通算」のために確定申告をおこなうことをおすすめします。
損益通算とは、利益・損失を合算することで、申告する利益を少なくできる制度のことです。赤字所得を他の黒字所得(給与所得など)から差し引く損益通算をおこなえば、納税額が安くなる特別控除が受けられます。
さらに、1度で控除しきれない場合でも、譲渡損失が発生した翌年以降の3年間にわたって「繰越控除」することが可能です。
ただし、損益通算ができるのは、不動産・事業・譲渡・山林の4つの所得のみになります。すべての所得で損益換算できるわけではないので、注意しましょう。
先述した通り、不動産査定を受けただけで売却していない場合は、年末調整・確定申告ともに例年通りで問題ありません。また、不動産売却後の年末調整も特に影響がないものになります。
ただし、不動産売却後は確定申告が必要です。譲渡所得が発生した翌年の2月上旬~3月中旬にかけて、申告・納税をおこないます。このとき納める金額は、住民税以外の所得税・復興特別所得税などです。
その後、5月頃に住民税の上乗せ分を支払うための納付書が届きます。4期にわたって納付していきますが、上乗せされるのは売却した翌年のみです。
不動産売却後の年末調整は、例年通りおこなえば問題ないため、特別何か準備する必要はありません。しかし、確定申告はしなければならず、申告に向けていくつか準備しておくべきことがあります。
不動産売却後の確定申告に必要なことは、以下の通りです。
【不動産売却後の確定申告の準備】
確定申告の準備には、手間と時間がかかるものです。慣れていない場合は、申告に必要な書類準備にてこずってしまうかもしれません。申告期間には明確な期限があるため、早めに準備しておくことをおすすめします。
不動産売却の確定申告に必要な書類は、「行政施設で入手するもの」と「自分で用意するもの」の2種類があります。
必要書類とその取得場所の一覧は、以下をご覧ください。
また、企業に勤めている人や公的年金受給者は、源泉徴収票の原本も用意しておきましょう。源泉徴収票とは、「年間所得と納付した所得税額を記した書類」のことです。
給与所得者に発行され、基本的に年末~1月頃に勤務先から支給されるものになります。年金受給者の場合は、日本年金機構より1月下旬頃に送付されるので、紛失しないよう保管しておきましょう。
行政施設で入手できる書類の詳細は、以下の通りです。
上記書類は各行政施設で入手し、申告前に必要事項を記入しておかなければなりません。
確定申告書の用紙は、税務省で直接取得することもできますが、国税庁公式ホームページの「確定申告書等作成コーナー」からもダウンロード可能です。
ただし、マイナンバーカードがない場合は、税務省で直接本人確認をおこない、ID・パスワードを発行してもらう手間がかかるため、注意しましょう。確定申告は余裕を持っておこなうことをおすすめします。
自分で準備する書類は、主に売却した不動産に関するもので、契約書や領収証のコピーになります。
自分で準備する必要書類とその詳細については、以下をご覧ください。
上記書類は、確定申告の申請書類と一緒に提出するものになります。不動産売却時の書類だけでなく、取得時のものも必要になるため、紛失しないよう十分気をつけてください。
不動産を購入・取得した際の書類がなかった場合でも、確定申告自体をおこなうことは可能です。ただし、支払う税金が増えてしまう可能性があります。
不動産の売却金額にいくら課税されるのかを事前に概算しておくことも重要です。
不動産売却時に課税される「譲渡所得」の金額算出には、以下の計算式を利用します。
売却益(課税譲渡所得)=売却金額-取得費用-譲渡費用
譲渡所得は、不動産の売却金額がそのまま課税対象となるのではありません。不動産を取得した時の費用や、譲渡するまでにかかった諸費用などの「経費」を差し引いて残ったものに課税されます。
この算出した譲渡所得の金額をもとにして、譲渡所得税を算出しましょう。計算式は、以下の通りです。
譲渡所得税=売却益(課税譲渡所得)×課税所得税の税率
課税所得税の税率は、売却した不動産の所有期間によって異なるのが特徴です。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を経過する場合は「長期譲渡所得」、5年未満の場合は「短期譲渡所得」に分類されます。
2つの譲渡所得にかかるそれぞれの税率は、以下の通りです。
売却した不動産の所有期間が10年を超えており、「住居用財産の軽減税率の特例」に該当する場合には、課税率が低くなるでしょう。
さらに、確定申告の前には、税金の控除や軽減税率の特例などが適用されるのかをチェックしておけると良いでしょう。不動産売却に関連する特例には、以下のようなものがあります。
【不動産売却に関して利用できる特別控除・特例】
特に、譲渡損出が出た場合は、この特例や控除を利用するメリットが大きいため、事前に確認しておくことが重要です。詳しく紹介していきますので、該当するかよくチェックしてみてください。
居住用財産、つまりマイホームを売却した際には、所有期間に関係なく特別控除となります。譲渡所得のうち「3,000万円までは課税されない」という措置が適用されるのです。
この特別控除が適用となるのは、以下の場合になります。
【3,000万円特別控除が適用される条件】
住んでいた物件を取り壊した場合でも適用可能ですが、その際は別途追加された条件もクリアしている必要があります。
また、売り手と買い手が夫婦・親子などの親族である場合には適用されないので、注意しましょう。別荘や娯楽目的など、居住目的でない家屋も適用外となっています。
「特定居住用財産の買換え特例」とは、住居の買換えにおいて、譲渡損失が発生してしまった際に活用できる特例のことです。
損失分を給与所得などから控除でき、一度ですべて控除しきれない場合には、翌年から3年間繰越控除されるメリットがあります。下記は、適用条件の例です。
【特定居住用財産の買換え特例が適用される条件例】
特定居住用財産の買換え特例は、2019年12月31日までに住居を買い替えた場合に適用されるものです。そのため、それ以降の買換えには適用されないものになるので、注意しましょう。
2019年12月31日までの不動産売却で、売却価格が住宅ローン残高よりも少なく、「譲渡損失」が発生してしまった場合に適用できるのが、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」です。
損失分を給与などほかの所得から控除でき、控除しきれない場合には翌年から3年間の繰越控除が認められています。特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用条件は、下記の通りです。
【特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除が適用される条件】
ただし、繰越控除は納税免除ではありません。あくまでも、支払期限の先延ばしができる特例であるということを覚えておきましょう。
相続した不動産の場合、相続税を取得費に加算できる特例があります。
そもそも取得費とは、不動産を購入するのにかかった費用で、譲渡所得から差し引かれる金額です。つまり、相続税の金額を取得費に加算できるということは、譲渡所得を削減できる=譲渡所得税の軽減につながるということです。
ただし、以下のような条件があります。
【相続税の取得費の条件】
上記の条件を満たしている場合には、積極的に活用していきましょう。
参考サイト:nta.go.jp
相続した空き家を売却して利益が出たら、譲渡所得から3,000万円の控除が適用されます。ただし、こちらには以下のような条件があります。
【空き家の特別控除の条件】
もし空き家にせずに、住居として利用している場合には、先ほどの譲渡所得のマイホーム特別控除を適用できます。そのため、どちらにしても譲渡所得の控除は適用されるため安心です。
参考:nta.go.jp
不動産を売却した際の確定申告の流れも確認しておきましょう。
【不動産を売却した際の確定申告のステップ】
それぞれステップごとに解説していきます。
確定申告用の申請書を作成する前に、譲渡所得内訳書(別名:確定申告書付表兼計算明細書)を作成しましょう。この書類は1面〜4面(相続不動産の場合は5面まで)全てを記載していく必要があります。
以下の画像のようにそれぞれ記載するべき内容が指示されているので、フォームに沿って書き込んでいきましょう。
【譲渡所得内訳書1面の内容】
(参照:nta.go.jp)
【譲渡所得内訳書2面の内容】
【譲渡所得内訳書3面の内容】
【譲渡所得内訳書4面の内容】
続いて、申告書第一表、第二表を記入していきます。この時必ず、源泉徴収票を確認しながら記入を進めていきましょう。
具体的な申告書の記載内容は以下の通りです。
【申告書第一表の記載内容】
(出典:nta.go.jp)
【申告書第二表の記載内容】
源泉徴収票の中では、以下の内容を転記しましょう。
また、第一表の「配偶者の合計所得金額」が38万円以下である場合、配偶者控除を受けられます。必ずチェックしておきましょう。
続いて、申告書第三表(分離課税用)を記入していきます。最初に作成した譲渡所得内訳書の内容を見ながら記入していきましょう。
【申告書第三表(分離課税用)の内容】
譲渡所得内訳書の中で転記する内容は以下の通りです。
最後に、ここまでで作成した書類を提出して、確定申告は完了となります。
書類の提出は、直接窓口で提出するか郵送での提出です。初めて確定申告をするのであれば、窓口での申請がおすすめです。窓口申請をすれば、書類の不備にも直接職員が対応してくれますし、不安な点は全てその場で相談ができます。
もし、忙しくて税務署に訪れる時間がない場合には、e-Taxでも申請が可能です。e-Taxとは国税庁が運営する国税にかかる申告や申請・納税をオンラインで行えるサービスです。税務署までいく必要がないため、時間の短縮につながるでしょう。
最後に不動産を売却した時の年末調整や確定申告における注意点を解説していきます。
【不動産売却時の年末調整や確定申告の注意点】
それぞれ、確認していきましょう。
不動産を売却して譲渡益が出た場合は、確定申告は必ずおこないましょう。
もし、確定申告の期限に間に合わない・確定申告をしないと、延滞税と無申告税という追加納税が必要になります。
【延滞税と無申告課税について】
延滞税も無申告課税に関しても重いペナルティがかかってしまいます。忘れずに申告しておきましょう。
配偶者が不動産売却をした場合は、配偶者名義で年末調整も確定申告もおこないましょう。
ただし、その場合は「扶養から外れる」状態となり、配偶者控除が受けられない可能性がある点に注意してください。配偶者控除が外れた場合、税金や年金などの保険料を負担する必要があるので、事前に負担額を計算しておくことが重要です。
具体的な負担税額や保険料については、以下の表を参考にしてください。
売却益が出ていない場合は扶養控除から外れる心配はありませんが、上記の条件に合致している場合には、注意しましょう。
確定申告を税理士に依頼して見つける場合には、できるだけ早く税理士に依頼しておきましょう。毎年、年明けから3月半ばは税理士の繁忙期で、新規案件を断る人も多くなります。
自分で確定申告を行う場合には問題ありませんが、税理士に依頼する前提でスケジュールを組んでいた場合、「どこにも依頼できない」という事態に陥ってしまう可能性があります。
遅くとも12月には税理士を見つけ始めることがおすすめです。
不動産査定をした年の年末調整は、例年通りおこなえば問題ありません。ただし、不動産を売却した翌年は、2月上旬~3月中旬の期間内で確定申告をおこない、譲渡所得税を納める必要があります。
また、確定申告は不動産売却で利益が出た場合だけでなく、損失が出た場合であってもおこなうべきです。適用要件に該当すれば、特例による納税控除や減税措置などを受けられます。
期限内に確実に確定申告をおこなうためにも、早めに情報収集や必要書類の準備をしておきましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。