保有している不動産を売却する際の最初のステップは、不動産会社による査定を受けることです。そんな不動産会社でおこなわれる査定ですが、結論からいうとすべて無料で受けられます。
しかし、無料だからといって、何も調べず偶然見つけた不動産会社に査定を依頼してしまうのはおすすめしません。なぜなら、相場より安すぎる金額を提示されて、大変な損害が出るかもしれないためです。
無料だからといって、何も考えず査定を依頼するのではなく、なぜ不動産会社は無料でサービスを提供しているのか、無料の不動産査定ではどのように金額が査定されているのかを事前に理解しておきましょう。
不動産会社が無料で不動産査定をおこなっているのは、査定の依頼主であるあなたが新規の顧客候補となるためです。
そもそも不動産会社の主な業務は、買主と売主をマッチングさせて売買を成立させることです。まずは、自社に不動産の売却依頼がなければ、業務が成り立ちません。不動産の売却を依頼され、実際に買主を見つけて売買を成立させることにより、会社はその報酬として仲介手数料を受け取ることができるのです。
つまり、売主に無料で査定を受けてもらうことによって、新しい顧客を獲得することを不動産会社は考えています。そのため、不動産会社は新規顧客獲得の営業活動の一環として無料査定をおこなっているのです。
最近では、インターネットで住所などを入力すると、すぐに査定額がわかるサービスを提供する不動産会社も登場しているため、時間もお金もかけずに査定をおこなうことができるようになりました。
しかし、不動産の評価や値段は、土地・物件の状態や立地により常に変動しています。不動産を売却する際は、間違った査定金額を参考にしないように、市場を熟知した経験豊富な不動産会社の無料査定を受けるようにしましょう。
無料でできる不動産査定には大きく分けて4つの種類が存在します。
【無料の不動産査定一覧】
それぞれメリット・デメリットがあるので状況に応じて使い分けましょう。
AI査定は別名、自動シミュレーターとも呼ばれる、機械学習したAIが査定額を算出してくれる査定ツールです。
大体の場所や立地、不動産の特徴を入力するだけで、瞬時にその場で査定額を提示してくれます。
しかし、家のグレードや周辺環境などの要因は踏まえていないため、訪問査定をした場合と比べて、数百万円ほどの開きが出てしまう可能性があります。
査定アプリは、AI査定のアプリ版です。AIの機械学習による査定額が提示される仕組みで、基本情報として以下を入力することで査定額がわかります。
【代表的な査定アプリの入力項目】
アプリの場合、個人情報を入力する必要がないため、次の匿名査定のようにプライバシーの保護がなされています。
ただし、AI査定同様、訪問査定とは大きな金額の差が生まれることもあるので、使い方は注意が必要です。
アプリを入れて、定期的に査定をしたい人には向いているでしょう。
匿名査定は、個人情報の入力を行わずに査定するツールです。
基本的に査定はAIではなく専門知識を持ったプロが行うため、AI査定や査定アプリと比較すると金額の信憑性が高い特徴があります。
査定は、市況や経済状況やそのエリアの過去の売却データなども要素を参考にしています。
ただし、住所などの個人情報を提供していないため、訪問査定と比較すると査定額の根拠は曖昧であると言えます。
一括査定サイトは、不動産の情報を1度入力するだけで複数の不動産会社に査定依頼ができるサービスです。サイトによって、一度に依頼できる不動産会社数は異なりますが、6~10社ほどに申込ができます。
ただし、AI査定や査定アプリと違って、結果が分かるまでに数日かかることがあります。
また、不動産会社に対してあなたの情報が送られるので、後日営業電話がかかってくる可能性がある点には注意しましょう。
「媒介契約をする不動産会社を決めたい」「半年以内に不動産を売却したい」と考えている人におすすめのサービスです。
最初にも述べましたが、不動産会社がおこなう査定は、基本的に営業活動の一環であるためすべて無料です。一方で、不動産鑑定士に依頼して有料で不動産査定をおこなう方法も存在します。
不動産の無料査定と不動産鑑定士の有料査定の違いは、以下の通りです。
【無料の査定と不動産鑑定士による有料査定の違い】
先ほども述べましたが、不動産会社が無料査定をおこなう理由は、依頼者が新規顧客になる可能性があり、売買が成立したときにその報酬として仲介手数料がもらえるからです。しかし、不動産会社の無料査定は公的効力を持たないので、相続や離婚調停などで、裁判所に不動産の価格を証明する際の証拠にはできません。無料査定は、「自身の不動産の売買価格の見積もりが欲しいとき」または「売り出しの値段を決める参考にしたいとき」など、売却に関連する場面で利用するようにしましょう。
一方で、有料の国家資格を有する不動産鑑定士に依頼する査定では、不動産の経済的な価格や評価を判定することを目的に、不動産評価額の算出をおこなっています。そのため、無料査定に比べるとかなり正確な査定額の算出が可能です。
この資格は国家資格なので、不動産鑑定士が作成した査定書は、公的な証明書としての提示が可能です。ただし、有料査定の費用は平均してすべてかなり高価になります。決して安価ではないので、公的に必要な場面があったときなどに利用しましょう。
例えば、遺産相続のとき、法人間の不動産の売買などがおこなわれるとき、不動産会社の無料査定で査定価格がわからない物件の取引がおこなわれるときなどです。
以下では、不動産鑑定士に有償査定を依頼した際の費用相場を紹介しているので、参考にしてください。
【不動産鑑定士での有償査定の相場】
この章では、不動産の無料査定で注意すべきポイントについて、解説していきます。具体的なポイントは、以下5点です。
【無料の不動産査定の注意ポイント】
それぞれの注意すべきポイントについて、解説していきます。
不動産会社は、営業活動の一環として無料査定をおこなっています。つまり、新規の顧客を獲得することが目的です。そのため、場合によっては何度も営業電話がかかってきます。
しかし、一部の一括査定サイトなどを利用すれば、独自の基準やルールで厳選した優良不動産会社のみだけ提携しているので、安心です。「しつこい営業電話などの迷惑行為」を規約違反としているサイトもあるので、調べてみると良いでしょう。
査定額は、不動産会社が集めたデータをもとに、3か月以内で売却したときの予想の値段を試算したものです。そのため、あくまで不動産の目安の値段であり、絶対的な指標ではないことを覚えておきましょう。
実際に売却する際の価格は、無料査定の金額より下がることも考えられます。また、不動産会社によっても金額にばらつきがあるのが現状です。
できるだけ信憑性がある金額が知りたい場合には、4~5社以上から査定を受け、相場を把握しておくべきでしょう。当然、高い査定価格を提示した会社が高い価格で売ってくれるかどうかもわかりません。あくまで査定です。
不動産を査定するときには、用意しなければいけない書類が4種類存在します。いずれも必須の書類なので、事前に準備しておきましょう。
【不動産査定をする際に抑えておくべき4種類の書類】
それぞれの取得方法や取得費用などは、以下の通りです。
【不動産査定の際に必要な書類の詳細】
他にも、不動産会社によって追加で求められる書類がある場合もあります。あらかじめ、聞いておいて準備することで、スムーズでトラブルのない査定が受けられるでしょう。
不動産の無料査定は、不動産会社を選定することも目的の1つです。そのため、ただ査定額を受け取るだけではなく、以下のようなポイントをチェックしておくことも必要となります。
【無料の不動産査定を依頼する際のチェックポイント】
上記のようなポイントを確認せずに、提示された価格だけで不動産会社を選ぶと、後々以下のようなトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
【金額だけで不動産会社を選んだ場合に起こること】
確認するべきことは、査定金額だけではありません。媒介契約を結ぶ候補の会社を選んでいるというつもりで、無料の査定を受けましょう。
WEB上で無料査定をする際は、土地の状況を正確に伝えましょう。まれに高い査定金額が欲しいために懸念事項などを共有しない方がいますが、売却時には不動産会社が実際に土地を訪れて確認するので、意味がありません。
また、売主が「売る際に不利となる情報を知っていたのに隠していた」場合には、損害賠償責任を負うこととなります。隠し事は絶対にしてはいけません。
その中でも特に、以下のような特殊形状と呼ばれるものは、必ず伝えるようにしましょう。
【特殊形状の例】
特殊形状の影響で評価が悪い場合、土地自体の価格は安くなります。なぜなら、建物が建てづらいなどの理由で買い手が付きにくいためです。建ぺい率や容積率にも関わることなので、必ず事前に共有しておきましょう。
無料の不動産査定は訪問査定と比較して、提示される査定額が曖昧であることが多いです。しかし、以下のポイントを抑えておくことで、より適正な価格を提示してもらえます。
【無料の不動産査定でも適正価格を知るためのコツ】
それぞれ重要なポイントであるため、よく理解しておきましょう。
少しでも高い査定額が欲しいために、不動産のマイナス面を隠して依頼する方がいます。査定額が高くなるので、嬉しい気持ちは分かりますが、売却した際の成約価格との違いにガッカリしてしまうことになるでしょう。
より正確な査定額を知るためにも、以下のようなマイナス面も必ず伝えるようにしましょう。
【周辺環境のマイナス面】
【設備に関するマイナス面】
これらのマイナス面が査定額に影響しない可能性もありますが、伝えて損することはありません。
一括で無料査定を依頼できるサイトは複数ありますが、それぞれ登録されている不動産会社の数が異なります。
気にしていない人も多いのですが、この不動産会社の登録数は必ず確認するようにしましょう。
当然ですが、不動産会社の登録数が多いほど、幅広い選択肢の中から選ぶことができます。
例えば、訳あり物件などでは、大手の不動産会社が扱ってくれないケースなどがあります。そんな時に中小の不動産会社や地元密着型の不動産会社も登録している査定サイトであれば選択肢が増えるでしょう。
また、不動産会社に対する要望(例:老舗が良い、〇〇地方に強い会社が良い、大手が良いなど)にも対応できるようになります。
無料の一括サイトを利用する際には確認するようにしましょう。
不動産一括査定サイトは、それぞれ依頼できる最大数が定められています。サイトによっては、多いところで10社程度まで選べるサイトもあるようです。
「せっかくだから」と10社全てに依頼をしてしまうとそれぞれの不動産会社への対応が大変になってしまいます。また、参考にするべき価格が多くなりすぎるため、適正価格が判断しづらくなってしまうのです。
そこで、依頼する不動産会社の数は5社程度に絞っておきましょう。こうすることで、対応の手間も省けますし、価格も把握しやすくなります。
不動産の無料査定では、以下のような質問などが寄せられます。
【無料の不動産査定についてのよくある質問】
それぞれについて回答していきます。
結論、不動産の無料査定で査定書はもらうことができます。
ただし、無料で貰える査定書は公的な効力はないので、注意しましょう。以下のような状況では有償ではありますが、不動産鑑定士に正式な査定書をもらってください。
【不動産鑑定士に依頼するべき状況】
土地の査定は、不動産会社で算出してもらうことが可能です。しかし、その業者の経験・実績によっても査定額は変わってしまいます。そのため、査定をもらう前に自分でおおよその価格を調べ、相場の理解をしておきましょう。
土地の価格を調べるのは初心者には難しいように思えますが、以下の方法を利用すれば、比較的簡単に調べることができます。
【自分でおおよその査定額を調べる方法】
必ずではありませんが、自分で調べておくことで不動産会社の査定についての理解が深まり、適切金額を見極めることができます。余裕のある方は、一度調べてみましょう。
今回の記事では、無料の不動産査定について解説してきました。
不動産の査定には2種類の方法がありました。不動産会社が営業目的としておこなっている無料のものと、国家資格である不動産鑑定士がおこなう有償のものの2種類です。
基本的に公的効力が必要なければ、不動産会社の無料査定を活用することをおすすめします。しかし、その際に注意するポイントをしっかり確認し、トラブルにつながらないように気をつけて不動産や土地を売却しましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。