不動産は、大きな買い物です。それをわざわざ売るには、それなりの理由があります。結婚・離婚や相続、子育てにより良い環境に移り住みたい、移住をしたいなど、事情はさまざまです。
不動産(家)を売却する理由として、以下のものが挙げられます。
【不動産(家)を売却する理由ランキングTOP10選】
この章では、実際の住宅・不動産売却のよくある理由について、ランキング形式で解説します。
家を売却する理由の中で「より良い環境に住み替えたい」が、トップに挙げられます。住み替えのために持ち家を売却し、売れたお金で新しい家・マンションなどの購入費用に充てるパターンです。住み替えを行う主な理由には、以下の内容が挙げられます。
【ライフスタイルによる住み替えを行う理由】
たとえば、戸建てからマンションへ住み替える場合には、結婚当初は2LDKのマンションで暮らしていた夫婦が、子どもの成長とともに一戸建て住宅を希望するというケースも少なくありません。あるいは、子どもが成長し独立したため、部屋が余ってしまい、病院やショッピングモールにアクセスがよいマンションを希望するケースも見受けられます。前述のようなライフスタイルによる住み替えは、ネガティブな理由にはならないといえます。
一方で、ネガティブなことが原因となる理由としては、以下の内容が挙げられます。
【ネガティブなことが原因で住み替えを行う理由】
売却理由が、上述のように「実際住んでみないとわからないようなこと」や「ネガティブなもの」だと、売却査定に影響がある場合があります。しかし、買主には住み替えする理由を正しく伝えておかないと、後でわかった場合は不利な情報を隠してしまうことで起こる「契約不適合責任」を問われる場合があります。家を売却する際、できる限り問題が起きないように、「買主に売却理由を上手く伝えるコツ」は後の章でお伝えします。
家を売却する理由で、住み替えの次に多いのが、「相続した物件を処分したい」です。両親から実家を相続した場合、自分にすでに持ち家があったり、実家に戻る予定がなかったりする場合は、その家を処分し、資産運用費用に充てられます。
【相続した物件を売却する理由】
親が住んでいた実家のため、築年数が経っているでしょう。両親が他界して空き家になってしまうと管理が難しくなるため、処分しようと考えるのが自然な考え方といえます。実家で人が亡くなった場合は、ネガティブな理由になりそうですが、自然死の場合には売却時の告知義務の対象にはなりません。
ただし、自死の場合には告知義務の対象になり、ネガティブな理由と考えるべきでしょう。自死が出た物件は、心理的瑕疵(かし)物件と扱われ、相場の価格から20%から50%ほど下がってしまいます。
家を売却する理由の中で「離婚による財産分与したい」が、全体の8.7%を占めます。そのため、結婚した夫婦が購入した新居は共有財産として扱われますが、離婚の際には財産分与の対象です。
【離婚で物件を売却する理由】
離婚後に、お互いが新しい場所で新生活をスタートする場合は、共有財産の不動産を売って現金化し、半分にわけることになります。離婚の場合は、つながりをすぐに断ちたいという意識から、「共同財産である不動産はできるだけ早く現金化し、関係を終わらせたい」と、売却を急ぐことも少なくありません。
離婚という売却理由は、人によっては縁起が悪いと考える場合があります。一定の人にネガティブな理由ととらわれてしまいますが、プライベートな事項のため、必ずしも売却時に申告する必要がありません。ただし、売却を急ぐ場合には、査定額を安く見積もられてしまう可能性が高くなります。
「転勤や転職などの仕事の都合」という家を売却したい理由は、全体の9.1%になります。マイホームを購入したものの、転勤が決まって暮らせなくなり売却するケースです。
【転職・転職で物件を売買する理由】
転勤や転職による物件の売却するタイミングは、転勤・転職が決まった段階で売却する場合もあれば、単身赴任を何年かしたものの売却を検討する場合など、さまざまです。
売却理由が転勤の場合は、ネガティブな理由として考えられる場合が少なく、売却時も申告する義務がありません。マンションの場合、転勤中は賃貸にして副収入を得る方法もありますが、手続きや管理の面倒さから売却を選択するパターンもあるようです。
ローン返済が困難になる金銭的な理由で、物件を売買する場合は全体の5.5%になります。購入してローンを組んだ当時は問題なかったものの、健康面や勤務先の状況によってはローンの返済が困難になることもあるでしょう。
【ローン返済が困難になる事例】
長引く不況や物価高騰の影響でローン返済が難しくなり、売却を決断することも少なくありません。売却理由としては、ネガティブな理由としてとらわれる場合が少なく、申告義務はありません。
住み替えの理由の中に含まれますが、家族と同居によって物件を売却する場合もあります。離れて暮らしていた親・家族の高齢化をきっかけに、離れて暮らしていた家族と同居するケースです。
結婚している場合には、親と子が同居し三世帯になったり、年を取った兄弟が同居するようになったりする場合があります。それぞれの住みやすい住宅を残し、反対の物件を売却することになります。
売却理由が、家族と同居によるものはプライベートな事項のため、ネガティブな理由とされません。またあらかじめ申告しておく必要もなく、査定にも影響がない場合が多くあります。
相続した物件の売却の項目に少し似ていますが、最近多い事例として不要な不動産の処分のため、売却する人が多くなっています。具体的には、別の世帯として暮らしている親が老人保健施設に入居し、残された家が空き家になるため売却する場合です。
親が、老人保健施設から戻ってくることはほぼないため、「固定資産税と空き家管理の負担をし続けるよりは、不要な不動産として処分しよう」という流れになります。不要な不動産を保有していると、固定資産税だけでなく、町内会費の支払いや家の管理も必要です。
上記のような場合、ネガティブな売却理由にならないので、申告する必要がありません。売却時の査定にも大きな影響になることはありません。
通勤・通学が理由で売却する場合も、先ほど紹介した住み替えの中に含まれます。自身の転勤や転職、子どもの進学を機に、今の家を売却し、より利便性の高い地域に転居したいということが売却理由になります。
バスや電車などの公共交通機関が利用しにくい地方の場合、自動車を持っていることがほとんどです。しかし、子どもは公共交通機関が移動の手段となるため、高校・大学などの進学先によって、大きく影響を受けます。そのため、「子どもが小学生・中学生の間に、通勤・通学に便利な場所へ転居」というタイミングで、売却を検討するケースが多くあります。
通勤・通学などは、プライベートな事項のため、ネガティブな理由にならず、査定への影響もあまりありません。
結婚はライフイベントでも大きな出来事で、住み替えをする大きなきっかけになります。1人で優雅に暮らす独身の会社員が、結婚を機に、それまで住んでいた物件を売却し、もう少し大きな新居を購入するパターンです。
また、晩婚化が進む昨今では、親から相続した家で一人暮らしをしている方も少なくありません。結婚というライフステージの変化によって、家の売却を選ぶ夫婦もいます。
売却理由としてはネガティブな理由ではなく、むしろポジティブな理由のため、買主側もほとんどの場合、納得してくれます。また売却時の査定にも、マイナスに働くことはありません。
家族の介護のために家を売却する場合も、住み替えの大きな理由の1つといえます。介護は、家庭の事情や家族構成によってさまざまあります。
【介護のために家を売却する事例】
介護には経済的・肉体的負担も大きいため、環境だけでなく資金も必要です。物件を売却した費用は、介護の環境を整える資金に充てます。
介護による売却理由もプライベートな事項のため、ネガティブな理由とはとらえられることがありません。売却の査定にも不利に働くことがほぼないでしょう。
不動産の売却価格は、理由次第によって影響してしまいます。たとえば、ネガティブな理由や売却を急ぐ理由の場合には、売却価格が下がってしまうこともあります。ここでは、売却価格が下がってしまいやすい理由を挙げ、どのように対応すればいいかを紹介します。
売却理由がネガティブな場合、売却価格が下がりやすくなります。売却価格が下がりやすい要因として、物理的・環境的・心理的・法律的なものがあります。ネガティブな理由は、環境的・心理的な要因に影響します。
以下に、具体的なネガティブな理由を紹介します。
【ネガティブな理由の例】
印象が悪くなるような理由は、できれば伝えたくないものです。しかし、その理由が「告知義務に該当する瑕疵」となる場合は、伝えなければならないので隠さずに報告しましょう。
交渉の結果、「その理由でも、少し安くしてくれれば買う」と言ってくれるケースもあります。
少しでも高く買ってくれる買い手が現れるのを待てず、「できるだけ早く売却して現金化したい」という事情の方もいることでしょう。売却を急ぐ場合は、相場よりも安くなることもあります。
売却を急ぐ理由として、以下のものが挙げられます。
住宅ローンの返済が滞っている場合は、裁判所の差し押さえで競売にかけられるとかなり安い価格になってしまいます。競売よりも高い金額で売りたいため、期限までに売却を急ぐケースです。
離婚で住んでいた住居を売却する際は、現金化して財産分与を早く終わらせたい・人間関係を解消したいという気持ちが背景にあります。できるだけ高値で売りたいのであれば、その地域の物件売買の実績豊富な不動産会社に仲介を依頼しましょう。
不動産を早く売りたい場合、近隣の物件相場に合わせて価格設定をする他にも、以下のようなポイントがあります。
【不動産を早く売るためのポイント】
不動産を早く売るポイントがあるように、高く売りたい場合にもコツがあります。不利になるようなネガティブな理由でも隠さずに、告知義務に該当する瑕疵(かし)を伝える必要があります。
以下のようなコツを知っておくだけで、高く売れたり、契約不適合責任を負ってしまったりせずに済みます。
住んでいる家の強み・弱みをしっかりと理解しておくことも大切なポイントです。
とくに、水回りが新しい場合や病院・ショッピングモールから近い場合には家の強みとして大きなアピールになります。対して、設備の故障や接道状況が悪い場合には、家の弱みとなってしまいがちです。
個人間の契約においても、契約不適合責任を負わないといけない場合があり、事実を正確に伝えておかなければなりません。売買契約書の作成時にも、「〇〇に関しての責任は一切負わない」と特記事項を記載しておくと契約成立時にもトラブルになりにくいでしょう。
査定を依頼する場合には、複数の不動産会社で査定しておくことも大切なポイントです。
不動産一括査定ができるポータルサイトで調べれば、住んでいる土地や条件の物件価格の相場を把握できます。価格には、希望価格・売り出し価格・最低価格の3種類があり、相場をもとにこれらの金額を決めていきます。ポータルサイトで相場が把握したら、実際に何社か不動産会社に査定依頼をしてみましょう。
物件の相場を把握することで、売りに出す価格設定に検討がつけられます。
高く売るためには、タイミングを見計らうのも大切なポイントです。
自分の住んでいる家の相場を知っておくと、売却のタイミングが計りやすくなります。たとえば、近隣に同じような物件が売りに出ていない場合や、あるいは近隣が相場よりも高めで出している場合には、相場通りの価格で売りに出せば売却できる可能性が高くなります。
対して、近隣に相場よりも安い価格で売りに出されている物件がある場合には、価格競争になってしまいます。そのため、売りに出すタイミングを遅らせることで、高く売却できる可能性が高くなります。このように価格相場を知っておけば、売り出すときの価格設定や売り出し時期の判断基準に役立ちます。
買主に売却理由を伝える際、告知義務に相当するものでなければ、正直にすべて伝える必要はありません。伝えるべき内容と伝えなくていい内容を把握しておけば、損をせず、思わぬトラブルにもつながりにくくなります。
売却理由を聞かれたときに上手く伝えるには、以下のポイントがあります。
【買主に売却理由を伝える際に知っておきたいポイント】
ここでは「買主に売却理由を伝える際に知っておきたいポイント」を紹介します。
告知義務のある瑕疵とは、「土地や建物に何らかの不具合がある状態」のことです。その瑕疵が理由で不動産を売却するのであれば、買う側にとっても大きな判断材料です。
告知義務のある瑕疵には、以下の例があります。
購入後のトラブルを防ぐため、宅地建物取引業法の第47条において、「告知義務のある瑕疵は必ず報告しなければならない」と決められています。
ネガティブな理由でも、前述の「告知義務のある瑕疵」に該当しない「個人的な事情」の場合は、必ずしも伝える必要はありません。
個人的な事情には、例として以下の理由が挙げられます。
売主の個人的な事情は物件の質には影響しないため、伝えなくても大丈夫です。
買主から、売却理由は必ず聞かれます。伝えておくべきか迷う理由に関しては、仲介する不動産会社の担当者にあらかじめ相談してから判断しておきましょう。
担当者には正直な理由を伝えて、後は不動産会社の判断となります。不動産会社側は、さまざまなケースを多数経験しているため、双方に損のないように説明・仲介してくれるはずです。
不動産を売却する際のよくある質問について、紹介します。自分の状況と照らし合わせながら、確認しておきましょう。
築浅物件の注文住宅が売りに出る場合には、いくつか原因があります。
【築浅の注文住宅を売りに出す理由】
多くは、収入源によるローン支払いへの影響か、家族が減ったことで同じく支払いが負担になったり部屋が余ったりしてしまうなどの理由が考えられます。
不動産の売却理由は、嘘をついてしまうと売却後に大きな問題になる可能性があります。それは売主には契約不適合責任があり、構造上に問題がある建物や欠陥品である状態を買い手側に伝えなければいけません。
売却理由に嘘をついていると、「契約不適合責任」を負う必要があるため、後で大きなトラブルにつながり、弁償など思わぬ出費になる場合もあります。買い手側に理由を伝えるべきか迷う場合には、あらかじめ仲介してくれる不動産会社に相談しておき、トラブルにならないようにしましょう。
売却理由は、内容によってはマイナスになってしまう場合があります。たとえば、住宅の品質や近隣とのトラブル・事故や自殺があったかなどの理由は、買い手側が嫌がり制約に結び付きにくかったり、価格を下げなければ売却できなかったりします。
どのような売却理由であっても、仲介してくれる不動産会社には正直に伝え、買い手側に告知義務があるかどうかを判断してもらうとよいでしょう。
家を売る理由が離婚の場合、売却が困難になる可能性があります。買い手側には、離婚は縁起が悪いと考えてしまう場合があるからです。しかし、離婚はプライベートな事項のため、告知義務にはあたりません。離婚という言葉を直接伝えるのではなく、「新しい環境で生活したい」などと伝えても問題ありません。
あえて正直に話して、買い手側の判断に委ねるといった方法もあります。伝えるべきかどうか判断出来にくい場合には、不動産会社に相談してみましょう。
不動産売却の理由は、結婚・離婚・子育て・介護といったライフステージの変化や、転勤・移住・近隣トラブルなどのさまざまな事情があります。
売却理由がネガティブな場合は、「告知義務のある瑕疵」であれば、法律上の報告義務があります。しかし、離婚やローン返済が困難などのプライベートな理由であれば、説明する必要はありません。売却理由の説明に迷った場合は、仲介の不動産会社に相談しましょう。
売る側・買う側の双方が納得し、気持ち良く取引できるような不動産会社を選ぶことも大切です。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。