空き家を解体して更地にした場合、固定資産税はなぜ高くなるのでしょうか。この章では、3つのケース別の固定資産税について解説します。
それぞれのケースについて、詳しく説明します。
家が建っている土地には、住宅用地の特例措置が適用されるため、固定資産税が減額されます。
住宅用地の特例措置とは、宅地として使用されている土地の課税標準額に設けられている、税負担の軽減制度です。
住宅用地には住宅やアパートなどの敷地に加え、住居と一体になっている庭や駐車場も含まれます。「住宅用地の特例措置」を適用した固定資産税の算出基準は、以下の表の通りです。
出典:固定資産税・都市計画税(土地・家屋) | 税金の種類 | 東京都主税局
たとえば、3,000万円の住宅用地の固定資産税はどのような額になるでしょうか。小規模住宅用地と一般住宅用地で比較してみましょう。
(1)小規模住宅用地の場合
土地の固定資産税は、課税標準額に1.4%の税率を乗じて算出します。よって、3,000万円の小規模住宅用地の固定資産税の計算方法は以下の通りです。
(3,000万円×1/6)×1.4%=7万円
(2)一般住宅用地の場合
一般住宅用地の固定資産税は、以下の金額です。
(3,000万円×1/3)×1.4%=14万円
以上のように、家が建っていると特例が利用できるので、固定資産税は安くなります。
土地を更地にすると、住宅用地の特例が適用されないため、建物が建っている土地よりも固定資産税が高くなります。
更地は住宅用地ではなく、商業地の敷地や貸駐車場などが含まれる、非住宅用地に分類されるためです。非住宅用地の固定資産税は、以下の方法で算出されます。
非住宅用地の固定資産税額=(価格×70%)×1.4%
すべての土地に公平な基準を設けるために、固定資産税の算出には負担軽減措置が導入されています。このため、土地の価格に70%の負担軽減措置を適用した額が、非住宅用地の課税標準額です。ただし、2023年度までの期限があるので注意してください。
たとえば、3,600万円の住宅用地と、非住宅用地の固定資産額を比べてみましょう。
(1)住宅用地の場合
小規模住宅用地と一般住宅用地の計算式は、以下の通りです。
小規模住宅用地:(3,600万円×1/6)×1.4%=8万4,000円
一般住宅用地:(3,600万円×1/3)×1.4%=16万8,000円
(2)非住宅用地の場合
(3,600万円×70%)×1.4%=35万2,800円
負担軽減はされているものの、住宅用地の特例措置と比べると固定資産額は高くなります。
空き家を放置すると、法律により「特定空き家」に指定され、さまざまなデメリットが発生します。
「特定空き家」に指定された家屋が建つ土地には、住宅用地の特例措置が適用されません。そのため、固定資産税の負担額が上がります。
「空家等対策の推進に関する特別措置法」では、以下の項目に一つでも当てはまる家屋は、「特定空き家」の対象です。
【特定空き家の指定条件】
出典:年々増え続ける空き家! 空き家にしないためのポイントは? | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
空き家は所有者側のデメリットだけでなく、近隣の環境や人間関係にも大きな影響を与えます。そのため、空き家を放置しない管理方法の検討が大切です。
更地の固定資産税を計算するには、まず課税標準額を求めます。
課税標準額とは、税額計算の基礎となる数値であり、1月1日現在の固定資産の評価が基準です。土地の場合は、固定資産課税台帳に記載された価格から算出されます。
2023年度までは負担軽減措置が実施されているため、土地の更地の課税標準額は、以下の通りです。
更地の課税標準額=価格×70%
この課税標準額に1.4%の税率を乗じた額が、固定資産税の税額です。
たとえば、2,000万円の更地の固定資産税は、次のように算出します。
(2,000万円×70%)×1.4%=19万6,000円
更地の税負担について計算してみたい方は、土地の評価額を市町村で閲覧できる固定資産課税台帳で確認し、算出してください。
建物が建っていたときよりも高額になる更地の固定資産税を、どうすれば安く抑えられるのでしょうか。主な4つの方法についてまとめました。
【更地の固定資産税を安くする方法】
それぞれの方法について、順番にみていきましょう。
建物を解体して更地にするなら、1月1日より後におこなうと固定資産税を安く抑えられます。なぜなら、固定資産税の基礎となる課税標準額は、1月1日現在の土地の評価額が基になるからです。
解体を1月1日以降におこない、翌年の1月1日までに竣工する方法が、最も効果的に節税できます。2つのケースを比べてみましょう。
(1)1月1日までに解体し、翌年の1月1日以降に竣工した場合
このケースでは1月1日の時点で更地なので、住宅用地の特例措置が適用されません。さらに翌年の1月1日も建設中のため、非住宅用地に分類され、特例の利用ができない状態です。
したがって、2年間にわたり高い固定資産税を納め続ける必要があります。
(2)1月1日以降に解体し、翌年の1月1日までに竣工した場合
1月1日の時点でまだ建物が残っており、住宅用地の特例措置が適用されます。翌年の1月1日にはすでに新しい建物が建築されているため、特例措置の適用期間が途切れません。
建物が残っている状態であれば、解体せずに売却するのをおすすめします。主な理由は、次の4つです。
(1)固定資産税が安くなるため
更地にするよりも、建物が建っているほうが固定資産税を安く抑えられます。いずれ売却予定であるなら、所有期間の税負担をできるだけ減らしたほうがお得です。
(2)買い取り金額に差がないため
不動産の売却では、更地でも空き家のままでも、買い取り金額に大きな差がありません。中古か更地のどちらでも検討できる売り出し方が一般的です。
(3)古い空き家に利用価値が見つかる可能性があるため
建物が古くても、近年の古民家ブームの中で利用価値が見つかる可能性があります。不動産業界でも「レトロ物件」のカテゴリーは人気です。住宅としてだけでなく、ビジネスや地域活性化としての需要が期待できます。
(4)解体費がかかるため
建物を解体するには費用がかかります。特に理由がなければ、解体せずに売却を検討したほうが固定資産税も安くなり、お得です。
更地の固定資産税を安くするために、貸アパートやマンションなどの共同住宅を建てるのは、非常に有効な方法です。特例が利用できるだけでなく、節税効果が高い小規模住宅用地の減額を受けられるメリットがあります。
住宅用地の特例措置のうち、小規模住宅用地の減額では、住宅一戸につき200㎡までが適用基準です。以下の2つのケースについて比較してみましょう。
(1)500㎡の土地に一戸建てを建てた場合
小規模住宅用地に分類される200㎡までは、価格の6分の1に減税されます。残り300㎡の土地は一般住宅用地のため、3分の1の減額しか受けられません。
つまり、500㎡の土地のうち200㎡分しか小規模住宅用地の特例が適用されず、300㎡分の土地については固定資産税の納税額が上がります。
(2)500㎡の土地に賃貸アパート(10戸)を建てた場合
一戸あたり200㎡までが小規模住宅用地の適用範囲です。つまり、200㎡×10戸の2,000㎡までの土地が価格の6分の1に減額されます。
よって、500㎡の土地全体に小規模住宅用地の特例が適用され、一戸建てよりも節税が可能です。
宅地を農地にすると、固定資産税を節約できます。なぜなら、農地は宅地に比べて税制面で優遇されるからです。
また、農地にすると固定資産税が免除になる可能性もあります。課税標準額が30万円に満たない土地は固定資産税が課税されません。この基準は免税点と呼ばれます。
ただし、住宅用地を農地にするには、かなりの労力を必要とします。木を一本植えたり、家庭菜園をしたりするだけでは農地と認定されるのは難しいです。
農地の中でも、固定資産税の優遇が受けられるのは、一般農地に限られています。町の中にある市街化区域農地に分類されると、宅地並みの課税額です。
まずは、土地を耕し、農地としてさまざまな作物を作れるようにしておかなければなりません。その後、農業委員会の農地証明を発行してもらい、自治体に農地への変更届(現況地目変更届)を提出します。
固定資産税の課税を安く抑えるためにも、1月1日以降に変更届を出すのがおすすめです。
活用する予定のない土地は、すぐに売却してください。固定資産税は、所有している土地や家屋に課税される税金です。売却をすれば納税義務はなくなり、高い固定資産税を負担する必要はありません。
たとえば、3,000万円の土地を3年間所有していたとしましょう。3年間で支払う固定資産税の税額は以下の通りです。
土地の課税標準額=3,000万円×70%=2,100万円
固定資産税=2,100万円×1.4%=29万4,000円
3年間分の固定資産税=29万4,000円×3=88万2,000円
このように、3年間で90万円近くの固定資産税の納付が必要です。活用していない土地に、これだけの金額を支払うのはもったいないのではないでしょうか。
土地を売却すれば、評価額以上の売値がつく可能性が高いです。まとまった資金が手に入るため、大切な資産の有効活用につながります。
活用していない土地は、固定資産税分の節約のためにも、売却を検討しましょう。
空き家は放置せずに、活用方法を検討するか売却するかをおすすめします。
空き家は管理が行き届きにくく、周辺環境や近隣住民に迷惑がかかり、トラブルにつながります。さらに、自治体から「特定空き家」に指定されると、住宅用地の特例が適用されません。
誰も使っていなくても、数年間にわたって固定資産税が発生し、維持費のために大切な資金が失われます。空き家の放置はメリットがないので、活用か売却の検討が必要ではないでしょうか。
以下に、空き家の活用法をまとめました。
それぞれについて、詳しく説明します。
空き家の活用方法の一つとして、リノベーションが挙げられます。リノベーションにより、建物の外観や間取りを変更し、民泊にしたり賃貸アパートにしたりする方法です。
古民家カフェや美容室などのビジネスや、さまざまな用途に使えます。賃貸アパートであればシェアハウスにしたり、別荘のようなセカンドハウスを経営したりするのもおすすめです。
さらに、地域住民の交流の場として貸し出す方法など、空き家のリノベーションには多くの活用アイデアがあります。
所有者にとっても、リノベーションはメリットが多い方法です。
【リノベーションをするメリット】
(1)資産価値が上がる
骨組みや建具がしっかりとしている空き家の場合は、リノベーションによって資産価値がアップする可能性があります。
(2)倒壊や犯罪のリスクが減る
リノベーションによって空き家を改修すれば、倒壊の危険を回避できます。不法投棄や放火などの犯罪を防ぐためにも効果的です。
空き家の状態が比較的良い状態であれば、そのまま中古物件として売却するのも方法の一つです。
古い家や築年数が経っている建物には、思わぬ発見があるかもしれません。建物の木材や建具に貴重な建材が使われている場合もあります。立派な梁などが代表的です。
近年の古民家ブームや、古い物の再発見を楽しむ風潮もあり、古い家の内装や家具が高い評価を受ける可能性もあります。
高めの金額で買い取ってもらえれば、所有者にとっては非常にお得です。できるだけ高い値段で売却するには、空き家の現在の状況を見極め、不動産会社と適正な価格について取引する必要があります。
自分でも土地や家屋の評価額を調べ、できるだけ良い条件での売却を検討しましょう。
この記事では、更地の固定資産税が高い理由と、安く抑える4つの方法について解説しました。
更地の固定資産税が高い理由がわかると、どうしたら節税できるかがわかるようになります。更地の固定資産税を安く抑える方法は数多くあり、税金や土地、建物などの知識を身につけることによって節税が可能です。
建物を解体して更地にしようか迷っている方は、それぞれの固定資産税の比較ができたのではないでしょうか。更地にすることだけが解決法ではなく、空き家の活用などさまざまな節税方法があります。
賢く節税し、固定資産税を節約していきましょう。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。