故人名義の土地は売却できる?売却のために知っておくべきこととは

故人名義の土地は売却できる?売却のために知っておくべきこととは

「親名義の土地を売却したい場合はどうしたらいい?」「故人名義のままの土地って売却できないの?」。

故人の残した土地の処分に困っている人の中には、上記のような疑問を抱えている人が多いのではないでしょうか。名義変更をするべきなのか、せずともそのまま手放せるものなのかがわからず、売却を躊躇しているという人もいるかもしれません。

結論からいうと、故人名義の土地を売却することは可能です。ただし、そのままでは売却できないため、正しい手順を踏んで名義変更をおこなう必要があります。

この記事では、故人名義の土地を売却するために必要な手続き方法について、詳しく解説していきます。故人名義の土地売却を検討している人は、ぜひ参考にしてください。

故人名義の土地でも売却可能!

「故人名義」とは、譲り受けた土地などの不動産の名義が、亡くなった人の名前のまま残っていることです。不動産の売却は原則名義人しかおこなうことができないので、そのままでは売却することができません。

故人名義の土地を売却したい際は、以下の2つのことをおこなう必要があります。

  1. 相続登記をおこなう
  2. 単独名義に変更する

相続登記をおこなえば、名義人の名前を自分に変更できるため、相続した土地でも売却できるようになります。また、その際は「共同名義」ではなく「単独名義」にすることも重要です。まずは相続登記と単独名義について詳しく解説します。

「相続登記」をおこなう必要がある

他人名義の土地を、許可なく売却できません。相続した土地を売却するためには、まず相続登記をおこない、故人から自分に名義を移す必要があります。

相続登記とは、被相続人(相続する側の人)が所有していた建物・土地などの不動産の名義を、相続人(される側)へと変更する手続きのことです。

実は、故人名義の土地は相続人全員の「共有財産」の扱いになります。登記上の名義人でない限りは、自分の所有物として第三者に主張できないのです。

下記は、民法第177条の「不動産に関する物権の変動の対抗要件」を引用したものになります。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

引用:e-Gov法令検索「第百七十七条」

たとえば、故人名義の土地を相続手続きせずに放置していて、相続人も亡くなってしまった場合は、共有者となる相続人がどんどん増えていってしまうのです。後述しますが、相続人が多ければ多いほど、名義変更の手間がかかります。

必ず放置せず、早めに相続手続きをするよう心がけてください。

単独名義に変更しておくことがおすすめ

相続登記をする際には、あわせて「単独名義」への変更をしておくことをおすすめします。

家族や兄弟がいるケースなど、ほとんどの場合で相続人は1人ではありません。相続人が複数である場合は「共有名義」にするのか「単独名義」にするのか選択する必要があります。

遺言で共有名義が指定されていない限りは、単独名義に変更しておきましょう。2つの名義の違いは以下の通りです。

種類 共有名義 単独名義
特徴 1つの不動産を複数人で所有している状態

(権利は共有持分に応じて分配)

個人所有している状態

(すべての権利を独占)

メリット 維持管理コスト・税金の支払いは持分に応じた割合のみ負担 土地の使い道や売却など自由に決定できる
デメリット ほかの相続人とトラブルになりやすい

(権利関係が複雑)

税金の支払いや土地の維持管理を単独でしなければならない

共有名義は「共有持分」の割合に応じて土地を分割して所有します。共有名義人は、土地を自由にする権利を単独で持っていないため、名義人全員の承諾がないと不動産を売却できません。

一方で、単独名義は不動産の権利を独占している状態のため、売買も自由にできるのが特徴です。

故人名義の土地を売却する際の「登記」の移し方

故人名義の土地を売却する際は、土地の名義変更が必要になります。名義変更をおこなう手順は、以下の通りです。

  1. 遺産分割協議をおこなう(相続人が自分のみであれば不要)
  2. 相続登記をおこなう

自分以外にも相続人がいるケースでは、先に「遺産分割協議」をおこない、土地の分配方法を決めておかなければなりません。しかし、相続人が自分のみであれば必要ないので、手続きは相続登記のみでOKです。

ここからは、それぞれの手続き方法と流れについて詳しくみていきましょう。

遺産分割協議の流れ

遺産分割協議とは、遺産のわけ方を決める話し合いのことです。相続人が複数いる場合や、土地のほかにも遺産があるケースでは、相続の内容を確定させるため、必ず相続人全員で協議しなければなりません。

遺産分割協議は以下の流れでおこなわれます。

  1. 相続人を確定させる
  2. 相続財産を確定させる
  3. 財産目録を作成する
  4. 遺産分割協議を作成する

1〜3までの手順は協議のために必要な下準備です。遺産分割協議は、のちにトラブルを起こさないためにも、速やかにおこなうことが大切になります。また、1人でも不参加の相続人がいると、せっかく協議で内容が決定したとしても無効となってしまうので注意が必要です。

相続人を確定させる

遺産分割協議をするにあたって、まずは相続人を確定させなければなりません。1人でも不参加がいるとやり直しが必要になってしまうので、漏れなく把握するためしっかり調査してからおこないましょう。

法定上の相続人は「配偶者」「親・子」「兄弟姉妹」に限定されます。ただし、以下のケースに該当する場合は、相続権を有していることもあるため注意が必要です。

  • 養子
  • 内縁の妻の子(認知済みの場合)
  • 離婚調停中・別居中の配偶者(婚姻関係が破棄されていない)

上記に該当する人は、法定相続人よりも被相続人との関わりが薄く感じられますが、相続権を有しています。相続人の調査は、「被相続人の出生から死亡までの戸籍情報を辿っていく方法」が最も確実でしょう。

相続財産を確定させる

遺産分割協議の前には、相続人を確定させるだけでなく財産を確定させることも重要です。

相続する財産というとプラスのイメージが強いかもしれませんが、同時にマイナスの財産も相続されてしまうので注意が必要です。相続財産の種類には以下のようなものがあります。

【相続される財産の種類】

プラスの財産 不動産 宅地・農地・建物・店舗・借地権・借家権
動産 自動車・家財・船舶・宝石・貴金属・骨董・美術品
現金・有価証券 現金・株券・預貯金・貸付金・売掛金・小切手
その他 慰謝料請求権・損害賠償請求権ほか
マイナスの財産 負債 借金・住宅ローン・小切手・買掛金
税金 未納のもの(所得税・住民税など)
その他 未納のもの(家賃・地代・医療費など)

ここで問題になりやすいのが、「マイナスの財産の分割」です。現金・不動産などのプラスの財産だけでなく、借金・負債などの負の財産も同様に分配しなければなりません。法定相続分に従って、そのマイナスの財産も公平に負担することが定められているためです。

被相続人に隠れた借金や負債などがあると、相続人が苦労することになるため、遺産分割協議はより慎重におこなわなければならないでしょう。

財産目録を作成する

相続人と相続財産が確定したあとは、相続財産のすべてを一覧にした「財産目録」を作成します。目録にはプラス・マイナス含むすべての財産を記載するため、総計でどちらが上回るのかが一目で判断できるようになるのです。

財産目録は、法律で定められているわけではないので、作成義務はありません。ただし、相続手続きをスムーズにおこなうためには作成しておくことをおすすめします。

財産目録で相続財産を一覧管理することにより、ほかの相続人による「財産隠し」が予防できる可能性があるのです。

被相続人の財産を把握していたのが一部の相続人のみであるケースでは、知らないままこっそり相続されてしまったり、のちに発覚した時に裁判沙汰に発展してしまったりする危険があります。

無用な争いを避けるためにも、財産目録の作成は必要な作業です。

遺産分割協議書を作成する

すべての準備が終わったら、相続人全員で話し合いを開始します。本来なら相続人全員が一度に集まっておこなうのが望ましいですが、必ずしも一堂に会する必要はありません。

多くの場合は、法事などのタイミングで話し合いがおこなわれ、各相続人に了承を得る形で少しずつ協議が進められます。代表者を選出し、選ばれた人が「遺産分割協議書」の作成を担当するという流れです。

遺産分割協議書に記載すべき事項には、以下のようなものがあります。

  • 「遺産分割協議書」のタイトル
  • 被相続人の名前・死亡した日付
  • 遺産分割協議の参加者
  • 誰がどの財産を取得するか
  • 相続の具体的な内容・割合
  • 協議の日付・相続人の住所(自筆署名)
  • 相続人全員の実印による押印
  • 預貯金・車・株式等の遺産・債務も漏れなく記載
  • 代償分割の場合は代償金額・支払い期限を記載

また、記載する際は、以下のポイントに留意しておこないましょう。

  • 不動産は「登記簿謄本」や「権利証」の内容を正しく記述する
  • 相続人全員が原本を保管すること

遺産分割協議書は、一種の契約書のようなものです。同意した全員分の署名と実印が必要になる正式な書類なので、正しい内容が記載されていないと無効になってしまうケースも存在します。正しく作成できるか不安な場合は、弁護士などに作成を依頼するのがよいでしょう。

相続登記の流れ

晴れて相続が完了したら、相続登記で名義変更をおこないます。相続登記の流れは以下の通りです。

  1. 必要書類の取得
  2. 登記申請書を作成
  3. 登録免許税を計算
  4. 登録免許税支払い用の収入印紙を用意
  5. 法務局へ必要書類・収入印紙を提出(持参または郵送)

また、相続登記には以下の書類の取得が必要になります。

  • 登記申請書
  • 被相続人の戸籍謄本
  • すべての相続人の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票(登記上住所と逝去時住所が異なる際に必要)
  • 土地を相続する人(申請者)の住民票
  • 固定資産評価証明書

上記書類は、主に登記されている土地の相続人・被相続人の本人確認に必要なものです。そのため、相続人が複数いる場合は全員分の戸籍謄本を揃えなければなりません。

相続登記は自分でもおこなえる手続きですが、慣れない人にとっては時間や手間がかかる作業になります。費用に余裕があるなら専門家に依頼するのも1つの手です。

故人から名義変更した土地の売却方法

一般的な土地売却の流れは、以下の通りです。

【一般的な土地売却の手順】

  1. 土地価格を査定する
  2. 販売価格を決定する
  3. 不動産会社と媒介契約を締結する
  4. 土地の売却活動をおこなう
  5. 買主と売買契約を締結する
  6. 買主へと土地を引き渡す

ただし、故人名義の土地を相続した場合は、いくつか注意すべき点が存在します。特に、下記に該当する場合は、一般的な流れで売却できない土地のため対策が必要です。

【売却時に注意が必要なパターン】

  • 共有持分の土地
  • 借地
  • 底地
  • 再建築不可物件

ここからは上記4つの土地における注意点と売却方法について解説していきます。

共有持分の場合

共有持分とは、複数名で所有している土地において、それぞれが持っている部分的な所有権のことを指します。

共有持分で所有している不動産は、原則自分の裁量だけで売却できません。売却するためには、以下のいずれかの手順が必要になります。

【共有持分の売却方法】

  1. 全員分の同意を得て、代表者が売却する
  2. 自分の持分のみを売却する
  3. ほかの共有名義人へ自分の持分を売却する
  4. 全員分の持分を買い取ってから売却する

共有名義人全員の同意があれば、不動産そのものを売却することも可能です。

また、共同名義の土地では、名義人はそれぞれ自分の持分を所持しています。持分に関しては所有権があるため、自分の持分だけを売却するのであればほかの人の同意は必要ありません。

ただし、土地の一部の権利だけを売却することになるので、一般利用が難しいことから、売却金額はかなり安くなってしまうでしょう。買い手も付きにくいためあまり現実的な方法ではありません。

また、持分をほかの名義人へ売って土地を手放す方法や、土地を丸ごと売るためにほかの人の持分も買い取ってしまうという手段も存在します。

借地の場合

「借地」とは地主から借りている土地のことです。借地人が土地を利用できる権利を「借地権」といい、被相続者が借地人だった場合は、その土地の借地権が相続されることになります。

相続する際は地主の許可は不要です。新たに契約し直す必要はありませんが、遺贈に該当するケースなど、場合によっては承諾料・更新料を支払うケースも存在します。念のため、地主へ相続した事実を報告しておけるといいでしょう。

また、借地の場合は、所有権が地主にあるため土地を売却できません。売却できるのは原則「借地権」のみになります。借地権の売却方法は、以下の通りです。

  1. 地主に借地権を売却する
  2. 第三者へ借地権を売却する
  3. 地主の同意を得て借地と借地権を同時に売却する
  4. 不動産買取業者に売却する

借地権は、個人・法人などの第三者に売却することができるものです。ただし、地主の許可なく売却できません。

独断で借地権を売却すると、地主から借地契約を解除されることもあります。さらに、地主によっては借地権を買い戻したいと思っている場合もあるので、一度相談してから売却方法を決めるのがよいでしょう。

底地の場合

「底地」とは、地主が貸している土地のことです。地主は、底地に対して「底地権」を持っています。底地権とは、借地人に対して借地権を与える代わりに、地代や契約更新料などを受け取れる権利のことです。

被相続人が地主、つまり借地人に土地を貸す側だった場合は、「底地」と「底地権」を相続することになります。

ただし、借地人と賃貸借契約をしている場合は、その期間中底地を自由に使うことができず、土地を売却することもできません。その際は、以下の方法で手放すことを検討してください。

  1. 借地人に売却する(土地も所有してもらう)
  2. 第三者に売却する(地主になってもらう)
  3. 借地人の同意を得て売却する
  4. 底地と借地権を等価交換してから売却する(広い土地に有効)
  5. 不動産買取業者に売却する(リースバック

まずは、借地人に土地を買い取ってもらえないか相談してみるのがいいでしょう。借地人にとってもメリットが大きいため、比較的高く売却できる傾向があり、更地価格の50%前後が相場だとされています。特に建て替え・増築の相談をされた時はベストタイミングです。

さらに、底地と借地権を交換し、土地を完全に分断する方法もあります。借地人と地主の所有部分を分けることにより、借地人はそのまま住めて土地の所有もでき、地主は持分を自由に活用できるようになるのです。

また、投資家などの第三者や底地専門の買取業者へ売却し、別の人に地主になってもらう方法もあります。なるべく早く手放したい・手間をかけたくない人におすすめです。

再建築不可物件の場合

再建築不可物件は、新しく建物を建てることができない・現存する建物を取り壊してフルリフォームすることができないという物件のことです。

主に、建築基準法の改正により「接道義務」を満たしていない状態になってしまった古い家屋が再建築不可物件に該当します。

接道義務は「増員4m以上の道路に2m以上接していなければならない」という決まりのことで、接していない土地に新しく家を建てることは認められていません。

再建築不可物件は、以下の方法で売却してください。

  1. 隣家の所有者に売却する
  2. 建築基準法を満たすよう工夫してから売却する
  3. 不動産買取業者に売却する

再建築不可物件は敬遠されがちな物件です。そのため、一般的に通常の物件の50〜70%程度が相場となっています。

再建築不可物件は「新しい建物を建てる場合、接道義務を果たさなければならない」という内容です。そのため、現存する建物をリフォーム・リノベーションして住みやすくするぶんには問題ありません。

また、物理的に物件を移動させ、接道義務をクリアさせるという方法も存在します。

まとめ

故人名義の土地を売却するためには、相続登記をおこない名義を自分に変更する必要があります。ただし、自分のほかにも相続人がいる場合は、のちのトラブルを防止するためにも、まず遺産分割協議をおこなわなければならないでしょう。

また、故人名義の土地の中には、共有名義や借地・底地など、通常の不動産の売却方法では取引できない特殊な状態のものも存在します。それぞれ対策が異なるため、注意して売却を進めてください。

プロフィール
矢野翔一(有限会社アローフィールド)
矢野翔一(有限会社アローフィールド)
関西学院大学法学部法律学科卒。

宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。
数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。