「故人名義」とは、譲り受けた土地などの不動産の名義が、亡くなった人の名前のまま残っていることです。不動産の売却は原則名義人しかおこなうことができないので、そのままでは売却することができません。
故人名義の土地を売却したい際は、以下の2つのことをおこなう必要があります。
相続登記をおこなえば、名義人の名前を自分に変更できるため、相続した土地でも売却できるようになります。また、その際は「共同名義」ではなく「単独名義」にすることも重要です。まずは相続登記と単独名義について詳しく解説します。
他人名義の土地を、許可なく売却できません。相続した土地を売却するためには、まず相続登記をおこない、故人から自分に名義を移す必要があります。
相続登記とは、被相続人(相続する側の人)が所有していた建物・土地などの不動産の名義を、相続人(される側)へと変更する手続きのことです。
実は、故人名義の土地は相続人全員の「共有財産」の扱いになります。登記上の名義人でない限りは、自分の所有物として第三者に主張できないのです。
下記は、民法第177条の「不動産に関する物権の変動の対抗要件」を引用したものになります。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
引用:e-Gov法令検索「第百七十七条」
たとえば、故人名義の土地を相続手続きせずに放置していて、相続人も亡くなってしまった場合は、共有者となる相続人がどんどん増えていってしまうのです。後述しますが、相続人が多ければ多いほど、名義変更の手間がかかります。
必ず放置せず、早めに相続手続きをするよう心がけてください。
相続登記をする際には、あわせて「単独名義」への変更をしておくことをおすすめします。
家族や兄弟がいるケースなど、ほとんどの場合で相続人は1人ではありません。相続人が複数である場合は「共有名義」にするのか「単独名義」にするのか選択する必要があります。
遺言で共有名義が指定されていない限りは、単独名義に変更しておきましょう。2つの名義の違いは以下の通りです。
(権利は共有持分に応じて分配)
(すべての権利を独占)
(権利関係が複雑)
共有名義は「共有持分」の割合に応じて土地を分割して所有します。共有名義人は、土地を自由にする権利を単独で持っていないため、名義人全員の承諾がないと不動産を売却できません。
一方で、単独名義は不動産の権利を独占している状態のため、売買も自由にできるのが特徴です。
故人名義の土地を売却する際は、土地の名義変更が必要になります。名義変更をおこなう手順は、以下の通りです。
自分以外にも相続人がいるケースでは、先に「遺産分割協議」をおこない、土地の分配方法を決めておかなければなりません。しかし、相続人が自分のみであれば必要ないので、手続きは相続登記のみでOKです。
ここからは、それぞれの手続き方法と流れについて詳しくみていきましょう。
遺産分割協議とは、遺産のわけ方を決める話し合いのことです。相続人が複数いる場合や、土地のほかにも遺産があるケースでは、相続の内容を確定させるため、必ず相続人全員で協議しなければなりません。
遺産分割協議は以下の流れでおこなわれます。
1〜3までの手順は協議のために必要な下準備です。遺産分割協議は、のちにトラブルを起こさないためにも、速やかにおこなうことが大切になります。また、1人でも不参加の相続人がいると、せっかく協議で内容が決定したとしても無効となってしまうので注意が必要です。
遺産分割協議をするにあたって、まずは相続人を確定させなければなりません。1人でも不参加がいるとやり直しが必要になってしまうので、漏れなく把握するためしっかり調査してからおこないましょう。
法定上の相続人は「配偶者」「親・子」「兄弟姉妹」に限定されます。ただし、以下のケースに該当する場合は、相続権を有していることもあるため注意が必要です。
上記に該当する人は、法定相続人よりも被相続人との関わりが薄く感じられますが、相続権を有しています。相続人の調査は、「被相続人の出生から死亡までの戸籍情報を辿っていく方法」が最も確実でしょう。
遺産分割協議の前には、相続人を確定させるだけでなく財産を確定させることも重要です。
相続する財産というとプラスのイメージが強いかもしれませんが、同時にマイナスの財産も相続されてしまうので注意が必要です。相続財産の種類には以下のようなものがあります。
【相続される財産の種類】
ここで問題になりやすいのが、「マイナスの財産の分割」です。現金・不動産などのプラスの財産だけでなく、借金・負債などの負の財産も同様に分配しなければなりません。法定相続分に従って、そのマイナスの財産も公平に負担することが定められているためです。
被相続人に隠れた借金や負債などがあると、相続人が苦労することになるため、遺産分割協議はより慎重におこなわなければならないでしょう。
相続人と相続財産が確定したあとは、相続財産のすべてを一覧にした「財産目録」を作成します。目録にはプラス・マイナス含むすべての財産を記載するため、総計でどちらが上回るのかが一目で判断できるようになるのです。
財産目録は、法律で定められているわけではないので、作成義務はありません。ただし、相続手続きをスムーズにおこなうためには作成しておくことをおすすめします。
財産目録で相続財産を一覧管理することにより、ほかの相続人による「財産隠し」が予防できる可能性があるのです。
被相続人の財産を把握していたのが一部の相続人のみであるケースでは、知らないままこっそり相続されてしまったり、のちに発覚した時に裁判沙汰に発展してしまったりする危険があります。
無用な争いを避けるためにも、財産目録の作成は必要な作業です。
すべての準備が終わったら、相続人全員で話し合いを開始します。本来なら相続人全員が一度に集まっておこなうのが望ましいですが、必ずしも一堂に会する必要はありません。
多くの場合は、法事などのタイミングで話し合いがおこなわれ、各相続人に了承を得る形で少しずつ協議が進められます。代表者を選出し、選ばれた人が「遺産分割協議書」の作成を担当するという流れです。
遺産分割協議書に記載すべき事項には、以下のようなものがあります。
また、記載する際は、以下のポイントに留意しておこないましょう。
遺産分割協議書は、一種の契約書のようなものです。同意した全員分の署名と実印が必要になる正式な書類なので、正しい内容が記載されていないと無効になってしまうケースも存在します。正しく作成できるか不安な場合は、弁護士などに作成を依頼するのがよいでしょう。
晴れて相続が完了したら、相続登記で名義変更をおこないます。相続登記の流れは以下の通りです。
また、相続登記には以下の書類の取得が必要になります。
上記書類は、主に登記されている土地の相続人・被相続人の本人確認に必要なものです。そのため、相続人が複数いる場合は全員分の戸籍謄本を揃えなければなりません。
相続登記は自分でもおこなえる手続きですが、慣れない人にとっては時間や手間がかかる作業になります。費用に余裕があるなら専門家に依頼するのも1つの手です。
一般的な土地売却の流れは、以下の通りです。
【一般的な土地売却の手順】
ただし、故人名義の土地を相続した場合は、いくつか注意すべき点が存在します。特に、下記に該当する場合は、一般的な流れで売却できない土地のため対策が必要です。
【売却時に注意が必要なパターン】
ここからは上記4つの土地における注意点と売却方法について解説していきます。
共有持分とは、複数名で所有している土地において、それぞれが持っている部分的な所有権のことを指します。
共有持分で所有している不動産は、原則自分の裁量だけで売却できません。売却するためには、以下のいずれかの手順が必要になります。
【共有持分の売却方法】
共有名義人全員の同意があれば、不動産そのものを売却することも可能です。
また、共同名義の土地では、名義人はそれぞれ自分の持分を所持しています。持分に関しては所有権があるため、自分の持分だけを売却するのであればほかの人の同意は必要ありません。
ただし、土地の一部の権利だけを売却することになるので、一般利用が難しいことから、売却金額はかなり安くなってしまうでしょう。買い手も付きにくいためあまり現実的な方法ではありません。
また、持分をほかの名義人へ売って土地を手放す方法や、土地を丸ごと売るためにほかの人の持分も買い取ってしまうという手段も存在します。
「借地」とは地主から借りている土地のことです。借地人が土地を利用できる権利を「借地権」といい、被相続者が借地人だった場合は、その土地の借地権が相続されることになります。
相続する際は地主の許可は不要です。新たに契約し直す必要はありませんが、遺贈に該当するケースなど、場合によっては承諾料・更新料を支払うケースも存在します。念のため、地主へ相続した事実を報告しておけるといいでしょう。
また、借地の場合は、所有権が地主にあるため土地を売却できません。売却できるのは原則「借地権」のみになります。借地権の売却方法は、以下の通りです。
借地権は、個人・法人などの第三者に売却することができるものです。ただし、地主の許可なく売却できません。
独断で借地権を売却すると、地主から借地契約を解除されることもあります。さらに、地主によっては借地権を買い戻したいと思っている場合もあるので、一度相談してから売却方法を決めるのがよいでしょう。
「底地」とは、地主が貸している土地のことです。地主は、底地に対して「底地権」を持っています。底地権とは、借地人に対して借地権を与える代わりに、地代や契約更新料などを受け取れる権利のことです。
被相続人が地主、つまり借地人に土地を貸す側だった場合は、「底地」と「底地権」を相続することになります。
ただし、借地人と賃貸借契約をしている場合は、その期間中底地を自由に使うことができず、土地を売却することもできません。その際は、以下の方法で手放すことを検討してください。
まずは、借地人に土地を買い取ってもらえないか相談してみるのがいいでしょう。借地人にとってもメリットが大きいため、比較的高く売却できる傾向があり、更地価格の50%前後が相場だとされています。特に建て替え・増築の相談をされた時はベストタイミングです。
さらに、底地と借地権を交換し、土地を完全に分断する方法もあります。借地人と地主の所有部分を分けることにより、借地人はそのまま住めて土地の所有もでき、地主は持分を自由に活用できるようになるのです。
また、投資家などの第三者や底地専門の買取業者へ売却し、別の人に地主になってもらう方法もあります。なるべく早く手放したい・手間をかけたくない人におすすめです。
再建築不可物件は、新しく建物を建てることができない・現存する建物を取り壊してフルリフォームすることができないという物件のことです。
主に、建築基準法の改正により「接道義務」を満たしていない状態になってしまった古い家屋が再建築不可物件に該当します。
接道義務は「増員4m以上の道路に2m以上接していなければならない」という決まりのことで、接していない土地に新しく家を建てることは認められていません。
再建築不可物件は、以下の方法で売却してください。
再建築不可物件は敬遠されがちな物件です。そのため、一般的に通常の物件の50〜70%程度が相場となっています。
再建築不可物件は「新しい建物を建てる場合、接道義務を果たさなければならない」という内容です。そのため、現存する建物をリフォーム・リノベーションして住みやすくするぶんには問題ありません。
また、物理的に物件を移動させ、接道義務をクリアさせるという方法も存在します。
故人名義の土地を売却するためには、相続登記をおこない名義を自分に変更する必要があります。ただし、自分のほかにも相続人がいる場合は、のちのトラブルを防止するためにも、まず遺産分割協議をおこなわなければならないでしょう。
また、故人名義の土地の中には、共有名義や借地・底地など、通常の不動産の売却方法では取引できない特殊な状態のものも存在します。それぞれ対策が異なるため、注意して売却を進めてください。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。