不動産を売却した場合、どんな場合も確定申告が必要なのでしょうか。必要かどうかの判断基準は、不動産売却による利益の有無です。
以下の章では、確定申告が必要なケースと不要なケースに分けて説明します。
不動産の売却で利益がでたときは、確定申告が必要だと覚えておいてください。
確定申告が必要な理由は、2つあります。まず、所得税と住民税の納付義務を果たすためです。不動産を売却した際の利益は、譲渡所得として計上し納税金額を算出します。次に、さまざまな特別控除の特例を活用するためです。特例を使用すると、譲渡所得にかかる税金が節約でき、利益が増えるメリットがあります。
たとえば、譲渡所得が2,000万円あった場合、3,000万円の特別控除を活用すれば、所得はなくなり税金もかかりません。納税の義務を果たし、節税対策をするためにも、利益が出た場合は確定申告を忘れないようにしましょう。
一方、譲渡所得がマイナスになった時は、確定申告の必要はありません。譲渡所得の金額に応じて、不動産所得が発生するからです。
ただし、給与所得者や事業所得者は、譲渡所得がマイナスでも確定申告をすると還付が受けられる場合があります。
不動産売却の際、譲渡所得がマイナスになる場合は、特別控除の活用や確定申告の必要はありません。所得税や住民税は、譲渡所得の金額に応じて計算されるためです。
ただし、給与所得者や事業所得者は、確定申告をすると還付金が受け取れる可能性があります。還付ができるかどうかは個々の所得状況によって異なるので、迷った時は税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
不動産を売却して、譲渡所得が生じたにも関わらず確定申告をしないと、どうなるのでしょうか。結論から言うと、国税庁の調査対象となってしまいます。
具体的には、期限までに国税庁で内容を確認できていない個人や法人に関しては、「お尋ね」と呼ばれる手紙または電話でのアンケートがきます。ここでは、不動産所得の内訳や現在の不動産の利用状況などが問われます。
このお尋ねの結果、過少申告や無申告であった場合には、以下のような追加課税が課せられてしまうのです。
【追加課税一覧】
この2つのペナルティについてより詳しくみていきましょう。
無申告加算税とは、確定申告期間内に申告をしていない個人や法人に対して課される税金のことです。具体的な金額は以下の通りで、本来支払うべきであった金額が50万円を超えていると、税率も高くなります。
【無申告加算税の税率】
例えば、申告されていない金額が80万円であれば、16万円が無申告加算税として納めることになります。
延滞税も無申告加算税と同じく、期日までに申告がなされていない場合に課せられる追加税です。
先ほどの無申告加算税は、無申告であったことに対する「罰金」的な要素が強いのですが、延滞税は支払いが遅れている日数に応じて加算される仕組みなので、「利息」的な側面があると言われています。
具体的な税率は、期日から2ヶ月以上経っているかで変わります。
期日後すぐに自主的に申告した場合には、そこまで高額にはなりません。しかし、日が経つごとにどんどん追加されていくので注意が必要です。
確定申告には、さまざまな書類が必要です。漏れがないように準備をしておきましょう。不動産売却の確定申告で必要な書類は、以下の通りです。
【不動産売却の確定申告で必要な書類】
それぞれの書類について、詳しく説明します。
税務署で入手できる確定申告の書類は、以下の通りです。
不動産を取得してから数年経っていると、取得時の書類を揃えるのに苦労する場合があります。取得時の書類は見つからなくても確定申告はできますが、税額に影響を与えないためにも事前に整理して準備しておきましょう。
【不動産主時や売却時に入手している書類】
法務局では、登記事項証明書を入手できます。登記事項証明書とは、所有者や住所など不動産の情報が記載された書類です。
不動産売却をすると、名義の変更をする「所有者移転登記」をする必要があります。この所有者移転登記が正確におこなわれたかを証明する書類が、登記事項証明書です。
特例や各種控除を受けるための書類は、申請する特例や控除によって以下のように変わります。
【特例・控除別必要書類】
参考:国税庁
また、各種書類は以下の通り、入手場所や時期が異なるため注意しましょう。
【特例・控除の申請時に必要な書類一覧】
不動産売却時の確定申告は、売却をおこなった翌年の2月16日〜3月15日に管轄の税務署に申告する必要があります。その年ではないため、忘れないように注意しましょう。例えば、2023年1月に売却した場合には、2024年2月16日〜3月15日が確定申告の申告時期となります。
また、確定申告は書類を揃えたり、税理士を契約したりと直前は忙しくなってしまいがちです。そのため、遅くとも12月頃からは準備しておくことをおすすめします。
確定申告の手続きや流れに複雑なイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。順番に沿って準備をすれば、スケジュールも立てやすくなります。
不動産売却の確定申告の流れは、以下の6つのステップです。
【不動産売却時の確定申告の流れ】
順番にみていきましょう。
確定申告書類を作成する前に、まずは条件に合う特例や控除があるかを確認しておきましょう。控除には複数種類あり、それによって想定できる税額や必要書類が異なるため、最初に決めておくことが重要です。
また、控除額によって支払う譲渡所得税額も変わってくるので、あらかじめ計算するためにも最初に決めておきましょう。
不動産売却益が出た場合には、主に以下の特例が活用できます。
【不動産売却益が出た場合の特例】
また、上記の控除や特例以外にも、所有期間が10年を超えている不動産に関しては、譲渡所得税率約20%から14.21%となる軽減税率が適用されます。
これらを踏まえて、減税幅が最も多くなるように適切な控除や特例を活用していきましょう。
不動産売却によって損失が出た場合は、以下の特例が適用できます。
【売却益が出ていない場合の特例】
それぞれ条件があるので、国税庁のホームページで詳細を確認しておきましょう。
不動産売却の確定申告には、さまざまな書類が必要です。以下の点に留意して、準備を始めましょう。
譲渡所得の内訳書は、不動産売却による譲渡所得を計算するために記入します。特例の活用状況によって、記入する書類が異なります。
参考:国税庁の譲渡所得の内訳書
(引用:nta.go.jp)
内訳書1面は特に難しい内容を記載する必要はなく、以下の通り基本事項を記載していきます。
【内訳書1面で記載する内容】
2面は以下の通り、今回の不動産売却における取引詳細を記載していきます。
3面は、以下の通り2面でも記載した不動産取引における取得費や譲渡費用などの金額面での詳細を記載していきます。
4面は、買い替えの特例を受ける場合に入力する内容です。
基本的には、2面〜3面の内容を踏まえた、特例における譲渡所得の金額を計算することが目的となります。
5面は、被相続人と相続人の現状を記載します。相続による取得でない場合には、5面は記載する必要がありません。
相続した不動産の詳細を正確に記載しましょう。
不動産売却の確定申告では、確定申告B様式(第一表)と第三表(分離課税用)の記入が必要です。
確定申告B様式では、所得税及び復興所得税の申告をします。給与や事業で収入を得ている人が、1年間の収入や所得について記入し、所得税の税額を計算する書類です。
第三表は、不動産の売却など分離課税の対象となる所得がある場合の申告をします。譲渡所得の内訳書に記入した、収入金額や所得金額、税額などの転記が必要です。
確定申告の書類の記入が終わったら、書類一式を税務署に提出します。確定申告は、毎年2月16日から3月15日までにおこなわなければならないと決められており、期限内の申告が大切です。
提出方法は、以下の3つです。
確定申告が終わり次第、申告期限の3月15日までに所得税を納めなければなりません。
納付方法は、以下の通りです。
確定申告では、自分で所得税の計算をしなければなりません。この章では、譲渡所得の内訳書3面に記入する項目について、詳しく説明します。
【不動産売却の所得税の計算方法】
それぞれの計算方法を、順番にみていきましょう。
不動産を売却した際の利益分に課税される税金を、譲渡所得といいます。計算方法は、以下の通りです。
<家の売却で得た利益(譲渡所得)の計算式>
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用) 取得費=土地代+(建物代-減価償却費)
家の売却により買い手から受け取った利益を、収入金額として記入します。
取得費とは、土地を購入するためにかかった費用全般を指します。具体的には、以下のような費用が対象です。
【取得費の例】
譲渡費用とは、不動産会社への仲介手数料や測量費など、家を売却するために支払った手数料などです。
不動産売却の際には、活用すべき特別控除の特例があります。代表的な特例は以下の通りです。
【特例や控除の例】
たとえば、譲渡所得が3,000万円の場合、3,000万円の控除を利用すれば税金はかかりません。活用しなければ、3,000万円に税率がかかるので利益面で損失が発生します。
それぞれの特例で、控除や税額の計算方法が異なるので、事前にしっかりと確認しましょう。
譲渡所得と活用する特例が決まったら、所得税額を計算します。計算式は、以下の通りです。
譲渡所得税=(譲渡所得-特別控除額)×税率
不動産の所有期間によって税率が大きく変わります。
【譲渡所得税の所有期間ごとの税率】
不動産売却をしたときの確定申告では、さまざまな金額や税率の計算をおこないます。複雑な手続きですが、ミスのない正しい計算をすれば、節税につながる大切なポイントです。
この章では、不動産売却の確定申告で注意する点をまとめました。
それぞれについて、詳しく説明します。
減価償却費とは、固定資産の価値の低下を使用期間にしたがって見積もった費用を指します。譲渡所得を記入する際に必要となる取得費の算出において、減価償却費の計算が必要です。
減価償却費=取得価額×0.9×償却率×経過年数
たとえば、3,000万円で購入した築20年の中古住宅の減価償却費を計算してみましょう。中古住宅の償却率は0.031です。
3,000万円×0.9×0.031×20=1,674万円
建物取得時の購入金額から減価償却費を差し引いた金額に、土地代を加えた金額が取得費です。
不動産売却の確定申告において、節税をするためにはどの特別控除を活用するかを自分で判断しなくてはなりません。
特例を利用すると、使わない場合に比べて納税額がかなりお得です。せっかくの利益を失わないためにも、どの特例を使えば節税できるかを見極める必要があります。
たとえば、譲渡所得が4,000万円の場合、3,000万円の特例を利用すれば、所得は1,000万円になり、税額が下がります。一方で、買い換え特例を使うと、新居を将来売却するまでの納税を繰り延べられる点がメリットです。
どちらが得かどうかは、それぞれのライフプランや経済状況によって異なります。売却利益をムダにしない特例を、選ぶ判断が大切です。
確定申告の計算方法や特例の活用に悩んだら、税理士に相談するのも選択肢の一つです。
税や法律についての専門知識を基にした節税のアドバイスを受ければ、一人で悩まずにベストな方法が見つかります。
税理士費用は個人の確定申告の相談依頼で5〜10万円が相場です。費用はかかりますが、一人で悩むよりも時間の短縮ができ、スムーズな確定申告ができます。
この記事では、不動産売却にかかわる確定申告に必要な書類や、手続きの流れ、税金の計算方法について解説しました。
確定申告の流れと計算方法を知り「これなら自分でもできそう」と、自信がついた方もいるのではないでしょうか。確定申告の計算方法や手続きは確かに複雑ですが、大切な資産の有効活用のためには欠かせない作業です。正しい確定申告の方法を知り、スムーズな手続きを目指しましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。