不動産売却における交渉術とは?有利に進めるコツや値引き対策を伝授

不動産売却における交渉術とは?有利に進めるコツや値引き対策を伝授

家を売りに出して、買い手が見つかったと思っても、価格値下げを希望されることはよくあります。「こっちは高く売りたいけど下げるべき?」「でもここで断わって次に買い手が見つからなかったらどうしよう」という不安もありますよね。

この記事では、不動産を少しでも高く売るために、売買の値引き交渉を乗り切るコツや、損をしないための値引き対策を伝授します。気持ちよく取引できるように、ポイントを押さえておきましょう。

不動産売却の交渉を有利に進めるコツ

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不動産は高い買い物です。売る側は少しでも高く売りたい反面、買う側は少しでも安く買うために値下げ交渉をしてくるのは当然のことです。その前提をもとに、交渉を自分に有利に進めるための以下のコツを押さえて、準備しておきましょう。

  • 値引き交渉される前提で準備する
  • 買主が希望する条件を先に提示させる
  • 相場をベースに交渉をおこなう
  • 必ずしも値引き交渉に応じる必要はない
  • 端数を活用する
  • 値下げ価格を決めておく

この章では、値引き交渉に備えての対策を解説します。

値引き交渉される前提で準備する

「もっと高く買ってくれる人が現れるはず。値引きなんて絶対に応じない!」と一歩も譲らなければ、他の物件に買い手が流れてしまい、最悪の場合は長期間売れ残ってしまいます。

「いわくつきの物件なの?」と、買い手に避けられてしまうのも困るので、不動産を売却する際は値引き交渉される前提で準備しておきましょう。

買主が希望する条件を先に提示させる

不動産を高く売りたいのであれば、まずは相手の出方を見ましょう。買主の希望条件を先に出してもらい、その条件を一部受け入れながら交渉を進めるのがポイントです。

例えば、2,790万円で売りに出していた物件に対して、「2,600万円なら買いたい」という買手が現れたとします。駆け引きとしては、「安すぎるから売らない」ではなく、妥協点を探っていきましょう。売主が2,690万円で売ると提示しつつ、「希望に添えないものの、希望値下げ額190万の約半分にあたる100万円を減額します」という譲歩をみせることによって、相手も納得しやすくなります。

交渉が上手くいかない場合は、「いくらなら購入可能か」と上限額を確認するのも一つの手です。

相場をベースに交渉をおこなう

不動産売買において、値引き交渉は避けては通れない道です。しかし、相手の言いなりになって値下げに応じていては大損となってしまいます。

まずは、同じ地域・似たような間取りがどれくらいの価格で取引されているのか、「相場」を知っておきましょう。相場を前提にして価格交渉を進めれば、お互いに嫌な気持ちになることはありません。

相場よりも大幅に少ない金額を提示してきた場合は、交渉にも値しないので不動産会社に「最低額はこのくらい」と伝えておくのもよいでしょう。

例えば、近隣での最近の売買価格や、賃貸にしたときの賃料相場などの根拠をもとに、「実際にはこれぐらいで売られている」「賃貸で回しても利回りは〇%である」と根拠のある表現のほうがよいです。「こちらのローン返済額がまだ〇万残っているので、〇万で買ってくれないと困る」といった主張だけでは、買い手もなかなか納得しないものです。

また、あまり注目されていない魅力をさらに提示していくのもよいでしょう。「人気の学校区だから」「窓を開けると富士山が見える」といった付加価値情報は、それが事実であれば、価格を高く提示する根拠となります。

必ずしも値引き交渉に応じる必要はない

値引きの話は、一度は出てくるものですが、必ずしも交渉に応じる義務はありません。早く売りたいので、最初から相場より低めに設定している場合や、これ以上は下げられないというラインもあるでしょう。「相場より安く設定しているので」と、不動産会社に断ってもらっても問題ありません。

駅や商業施設に近い・築年数が新しいなどの良好な物件の場合、売り出しをスタートしてすぐに買い手が現れることもあります。購入する気が高い・他の人に取られる前に早く契約したいという相手の場合は、値引きをせずに話が進むこともあります。

「安くても早く売る」のか「時間がかかっても高い買い手が現れるのを待つ」のかは、売主としての戦略です。

端数を活用する

スーパーマーケットや量販店でも、298円や1,980円などの端数の価格を見かけます。実際は、ほぼ300円・2,000円ですが、8や9の端数にしただけで、なんとなく「安い」と感じてしまうものです。

この心理を利用して、3,000万ではなく2,980万、2,700万ではなく2,680万といった、数字のマジックを使ってみるのもおすすめです。

不動産会社としても、「3,000万円を切った条件で折り合いがつきそうです」と言いやすいのです。

値下げ価格を決めておく

不動産を売る際は、値下げありきで少し高めに価格設定をして売り出すのがセオリーです。ただし、言われるままに値下げするわけにはいかないので、限度となる値下げ価格を決めておくことも大切です。

「できるだけ高く売りたいけれど、相手に買う気があるのなら、この価格までなら値下げに対応できる」という旨を、不動産会社の担当者に伝えておきましょう。

不動産会社側も、値下げ幅がわかっていればその分交渉もしやすくなります。また、最低価格を決めておくと、不要な値下げによる損害も発生しません。

ローンの残債や、そのあとの購入予定金額、あるいは現状手元に残すべき現金など、売主としての事情をしっかりと精査して、どうしてもこの金額は譲れないというラインをしっかりと考えておくべきです。売却に時間がかかるほど、場合によっては築年数が増え、建物が劣化します。「できるだけ高い金額で売りたい」けど「最低でもこの金額は超えないと困る」というラインを戦略的に検討しましょう。

不動産の価格設定のポイント

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不動産売買の交渉で有利にことを運ぶには、最初の価格設定が重要です。

【不動産の価格設定のポイント】

  • 類似物件の相場を確認する
  • 売却したお金で住宅ローン残債の返済も見込んでおく
  • 売却期限によって価格を設定する
  • 複数の不動産会社に査定を依頼する

「家を売るときにいくらで売り出したらよいのかわからない」と迷っている方のために、この章では不動産の価格設定のポイントを解説します。入念な準備をして、適正価格で売却活動を進めましょう。

類似物件の相場を調べる

自分が売りたい家の相場は、類似物件の取引情報からある程度予測可能です。不動産会社が運営するポータルサイトで、「この地域のこの間取りは、これくらいの金額で売買されている」という類似物件の価格を調べることができます。

自分の家と似た物件の取引価格を見れば、だいたいどれくらいの価格で売れるのか・いくらで売りに出せばよいのかという見込み価格がわかるという流れです。

中古マンションであれば、同じマンション内で売りに出している物件や近所の類似物件が参考になります。戸建て住宅の場合は、似たような条件の物件を絞り込んでチェックしましょう。

また、同じマンションや近隣にある似たような物件が、賃貸ではどのくらいの家賃なのかも調べておくとよいでしょう。買い手側が、自分が住むためではなく投資用の不動産として考えている場合は、家賃収入×12か月÷購入金額を「表面利回り」として計算している場合もあります。

住宅ローン残債の返済を見据える

家を売ったお金で住宅ローンの残りを一括返済したい場合は、住宅ローンがいくら残っているのかを詳しく把握する必要があります。

住宅ローンの残りの金額をすべて返済するためには、売る価格はそれ以上に設定します。

また、貯蓄がない場合は、売った後の新生活の費用も必要です。売却後の生活のことも考慮し、不動産会社と相談しながら売り出し価格を決めましょう。

売却期限で価格を設定する

離婚や転勤などで「高く売れればもちろんうれしいけれど、できるだけ早く売りたい」という事情を抱えた人もいます。短期決戦の場合は、売り出し価格を高く設定せず、最初から売れそうな価格を狙っていきましょう。

値引き交渉をいたずらに長引かせるよりは、「これが適正価格なので」と相手が納得できる価格で進めたほうがスピーディーに話がまとまります。

複数の不動産会社に査定を依頼する

売り出し価格を決めるためには、まずは査定を依頼しましょう。しかし、不動産会社が出す査定額は、予想価格であり、確実にその価格で売れるという保証つきではありません。査定の基準も不動産会社ごとに違うため、できるだけ複数の不動産会社に依頼することも大切です。

ある地域においてマンション販売実績トップシェアの不動産会社もあれば、中古住宅に強い会社もあります。一社のみの査定では、その金額が適正であるかも判断できません。複数で比較して、妥当かどうかを確認しましょう。

複数の不動産会社に一括査定できるポータルサイトの利用もおすすめです。

買主からの値引き交渉における対応策

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多くの不動産売買でおこなわれる値引き交渉。お互い譲歩しあうことで気持ちよく売買を進められますが、損にならない程度には対応策を取っておきたいものです。

【値引き交渉における準備・対策】

  • 売り出し直後は最初から値下げ交渉に応じない
  • 値下げのタイミングを見極める
  • 買主が希望する値引き額を推しはかる
  • 交渉は不動産会社を介しておこなう

ここからは、家を売る際の値引き交渉の対策を解説します。譲れない一線と引き際を決めておき、賢く交渉を進めてください。

売り出し直後は値下げ交渉に応じない

売り出してすぐに購入希望者が現れ、内覧を希望してきた場合は、かなり購入意欲が高いと予想されます。内覧で印象が良ければ、値引き交渉がなくても話が決まる可能性もあるので、いきなり値下げには応じないほうがよいでしょう。

家を売りだしてから、広告で物件情報が広がるまでに1か月はかかります。より意欲の高い購入希望者が現れないとも限りません。購入希望者が複数現れている場合は、最初の3か月は値下げを待ったほうが得策です。

値下げのタイミングを見極める

物件の売り出し情報が広がるまでには、1か月ほどかかります。2か月が過ぎても購入希望者が現れない場合は、値下げを検討してもよい頃合いです。不動産会社にどのような販促活動をしているか、問い合わせ状況などを確認してください。

不動産会社の販促活動に不足を感じる場合は、不動産会社の変更を検討するのも一つの策です。販促活動に問題がなければ、不動産会社と相談して、値下げの検討を始めてください。

買主が希望する値引き額を見極める

自分の希望する価格よりかなり下回る金額を提示された場合は、「正直なところ、この築年数でこの間取りの物件なら、いくらでなら購入できますか?」と直球で限度額を聞いてもらう方法も有用です。

購入希望者から「希望は300万円値引きしてほしいけれど、200万円くらい引いてくれればなんとか…」という話があれば、別の部分で交渉の余地があるかもしれません。傷んだ部分を修繕しておく・設備を一部新しくするなど、金額以外の部分で交渉を続ける方法もあります。

不動産会社を介して回答する

実際の交渉では、トラブル防止のため、通常は本人同士ではなく不動産会社が仲介に入ります。お互いの譲歩を引き出し、気持ちよく取引をしてもらうために不動産会社の担当者が提案してくれるはずなので、信頼できる不動産会社・担当者選びも重要です。

「とにかく契約を成立させよう!」と急かしてくる場合は、不動産会社・担当の変更も検討しましょう。

不動産売買は、売るにも買うにも大きな金額です。信頼できる不動産会社を見極め、担当者とも十分に話し合って信頼関係を築くことが、スムーズな売却の近道といえます。

まとめ

不動産を売却する際は、かなりの確率で値引き交渉を持ちかけられます。いつから値下げに応じるか、値下げはいくらまで応じるのか、事前に決めておくためには、相場を十分に理解しておくことも重要です。

ローンが残っている場合は、ローンの返済とその後の生活資金も加味して、売り出し価格を決定しましょう。

適正な価格で、より満足のいく取引をするためには、不動産会社の協力は不可欠です。スムーズに売却できるよう、信頼できる不動産会社選びにも力を入れてください。複数社に査定を依頼し、納得いくまで説明に応じてくれる会社をおすすめします。

プロフィール
上野典行(プリンシブル・コンサルティング・グループ株式会社)
上野典行(プリンシブル・コンサルティング・グループ株式会社)
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員
「プリンシプル 住まい総研」所長
住宅情報マンションズ初代編集長

1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。

プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。