土地や家屋の不動産情報は、国民が持つ不動産の所在地や面積・所有者の情報などを法務局が公簿(登記簿)に記載して公開しています。この登記簿の内容を証明書として記載した書類が「登記簿謄本」です。
ただし、ごくまれに記載されている情報が誤っている場合があります。その場合、登記簿謄本の内容を信用して取引をおこない、損害を被ったとしても保護されません。不動産の登記には公示力はあっても公信力がないといわれるのはこのためです。あまり一般的なケースではありませんが、念のため知っておきましょう。
登記事項証明書が必要になるのは、次のようなときです。
土地や家屋の所在や所有者・抵当権者などを確認するときには、必ず登記事項証明書の内容を確認します。関係者が不動産取引などに関わる際に、安心して取引できるように信用される書類が登記簿謄本(登記事項証明書)なのです。
なお、登記には次の種類がありますが、今回は不動産登記に関するものに絞って解説します。
「登記簿謄本」と「登記事項証明書」は、同じ事項を証明する書類のため記載内容は同じになります。もともと、不動産の登記情報は紙媒体の登記簿謄本に記載され、証明書が必要な場合はそのコピー(写し)が交付されていました。現在では、登記簿謄本の内容はコンピューターで管理されており、その記載事項を証明するために発行される書類のことを「登記事項証明書」と呼んでいます。
紙の登記簿謄本の写しは原本を保管している登記所でないと発行できませんが、電子データにもとづく登記事項証明書は管轄外の登記所でも取得可能です。オンラインでも簡単に取り寄せられるのがメリットとなっています。
ちなみに、登記所とは登記業務を行っている法務局(本局および支局)のことです。ほぼ同一のものと考えて差し支えありません。
現在では、紙媒体の登記簿謄本の写しが発行されることはほぼなく、ほとんどの場合で電子データが印字された登記事項証明書が発行されます。ただし、記載事項には違いがないため、一般的に「登記簿謄本」と「登記事項証明書」は同一の書類として捉えている人が多いです。
登記事項証明書(登記簿謄本)には、次の5つの種類があります。
それぞれ記載されている内容が異なるため、違いを理解しておきましょう。また、金融機関などから登記事項証明書の提出を求められた場合は、どの証明書が必要なのか確認が必要です。
全部事項証明書は、登記所に備えつけられている「登記簿」に記載されている、ほぼすべての事項を証明する書類です。
記載されている情報とは、物件の地番や面積などの概要、所有者、所有権・抵当権などに関するものになります。共同担保があれば、その情報も含まれることに注意しましょう。ただし、このあと説明する「4.閉鎖事項証明書」に記載されている閉鎖事項は記載されていません。
ちなみに、金融機関や不動産業者から登記事項証明書(登記簿謄本)の提出を求められた場合は、この全部事項証明書を提出するのが無難です。
登記簿に記載のある情報のうち、現在の権利関係に関する事項のみが記載されています。現在の情報のみなので、過去の所有権や抵当権に関する情報は記載されていません。
現在事項証明書は記載事項が少なく、見た目もシンプルで見やすいですが、以前の所有者や抹消された抵当権に関する情報などは、記載されないことになります。
一部事項証明書は、全部事項証明書のうち必要な情報だけを抜粋して記載してある書類のことです。
例えば、マンションなどで権利を持つ関係者が多数存在し、全部事項証明書にすると膨大な量の書類となる場合には、必要な事項だけを表示できます。
なお、一部事項証明書はオンラインで取得できないため、登記所の窓口か郵送での請求が必要です。
閉鎖事項証明書は、土地の合筆や建物の取り壊しなど閉鎖された情報が記載されたものです。土地に関しては50年以内、建物は30年以内の情報が記載されています。
閉鎖事項はこの証明書にしか記載されていません。全部事項証明書にも記載されていないので注意しましょう。該当する不動産を管轄する登記所でしか取得できない点にも要注意です。
全部事項証明書の概要だけが記載された書類で、証明書としては使用できません。
概要だけなので、内容も全部事項証明書に比べて少なくなっています。土地や家屋の所在や権利関係の有無はわかりますが、権利の発生原因や発生年月日などは記載されていないので注意しましょう。
過去に登記簿の閲覧という制度があり、登記所に行けば誰でも閲覧できました。登記事項要約書は、その制度の名残といわれています。
登記簿謄本(登記事項証明書)を取得するには、次の3つの方法があります。
それぞれの方法で取得することには問題ありませんが、登記事項証明書の有効期限に定めがないことには注意が必要です。行政の証明書の有効期限は3ヶ月以内といわれていますが、実際に有効とするかどうかは提出先により異なります。
提出先の金融機関などが指定する期間内に発行された書類を提出しましょう。古い証明書を持って行くと、現在の状況と記載内容が異なっているケースがあるため注意が必要です。
なお、厳密な意味での登記簿謄本(原本)は原本を紙で保存しているため、不動産の所在する登記所でのみ管理しています。そのためコピー(写し)が必要な場合は、管理しているその登記所での請求が必要です。
証明書の発行に必要な手数料は、次の通りになります。
証明書1通の枚数が50枚を超える場合は、それ以後50枚につき100円が加算されます。
請求対象の不動産を管轄している登記所、もしくは最寄りの登記所にて「登記簿謄本・抄本交付申請書(登記事項証明書交付申請書)」を入手し、必要事項を記入します。申請書の様式は、法務局のホームページをご覧ください。
記入項目は、次の通りです。
上記7点をすべて記入したら、手数料金額に相当する収入印紙を窓口で購入して交付申請書に貼付します。あとは窓口に提出すれば申請が完了し、即日取得が可能です。
窓口申請と同様に「登記簿謄本・抄本交付申請書(登記事項証明書交付申請書)」に必要な手数料金額分の収入印紙を貼付して、法務局へ送付します。収入印紙は郵便局や銀行・コンビニなどで購入可能です。なお、申請書は法務局が定めたフォーマットをダウンロードしてください。
登記事項証明書を取得するには不動産の地番や家屋番号が必要です。これは、固定資産税の課税明細書や売買契約書などに記載されています。不動産を管轄する登記所の窓口で申請する際には備えつけの公図などで調べることができますが、郵送請求の場合はそのような確認はできません。不明な場合は事前に登記所で調べるなど、準備しておく必要があります。
送付の際には返信用の封筒と切手も必要です。申請が受理されれば、数日中に登記事項証明書が送られてきます。郵送に必要な往復日数と登記所での事務処理日数がかかりますので、余裕を持って申請しましょう。
オンラインで取得するには、法務省の法務省「登記・供託オンライン申請システム」から申請しましょう。申請には、次の2種類の仕組みがあります。
いずれの方法でも登記・供託オンライン申請システムに登録をおこない、画面に表示される指示に従って必要事項を入力すれば、簡単に申請可能です。受付時間は平日の8時30分から21時までとなっています。オンライン申請の場合の受け取りは、郵送か法務局の窓口で可能です。
郵送の場合は、証明書が送られてくるのに数日かかります。すぐに証明書が必要な場合は、オンラインで申請して窓口に受け取りに行きましょう。ただし、オンライン申請では一部事項証明書を発行できない点に注意が必要です。
登記簿謄本(登記事項証明書)の読み方は、各部の構成ごとに捉えましょう。証明書の構成は次の4つから成ります。
それぞれの部ごとに記載内容が決まっているので、一度理解するとこれから見やすくなるでしょう。なお、全部事項証明書の様式例はこちらに記載されているので、参考にしてください。
表題部では、不動産の概要が記載されていますが、土地と建物とで違いがあるため、順に解説します。
【土地の場合】
土地の表題部には、次の内容が記載されています。
【建物の場合】
建物の表題部には、次の項目が記載されています。
(注)物置や倉庫など付属建物があれば、その情報も追記されます。
区分所有のマンションなどの登記事項証明書には追加事項があります。具体的には、建物とその専有部分の家屋番号・敷地権の表示です。
表題部の下に表示されるのが権利部(甲区)となります。権利部(甲区)に記載されるものは所有権に関する事項で、具体的には以下の通りです。
権利部(乙区)に記載される権利は、所有権以外の次のものです。
乙区には所有権以外の権利の種類と権利者・原因が記載されますが、記載すべき事項がない場合にはその旨が文言で示されています。
登記簿謄本(登記事項証明書)に「共同担保目録」という項目が、記載されることがあります。アパートやマンションなど共同で所有している建物において、抵当権が設定されている場合に記載されるものです。所有者など関係者が複数になると別々に表示するのがわかりにくいため、共同担保目録の項目でまとめて記載されると覚えておきましょう。
登記簿謄本(登記事項証明書)は、登記簿という公簿の内容を書類で証明することで、国民の権利を守り安心して取引するために必要な書類です。不動産の売買や抵当権の設定などで必要となることがあります。
登記事項証明書を取得したら、記載内容の確認をするようにしましょう。記載されている事項は不動産の権利に関する重要な事項なので、不明な点がないか確認し内容を理解しておくことが必要です。
登記事項証明書の取得は、オンラインで請求がおすすめの方法となります。申請のため登記所へ出向く手間が省け、手数料の支払いも収入印紙を購入する必要がないので簡単です。また、証明書にはいろいろ種類がありますが、金融機関など提出先から特に指定がない場合は全部事項証明書が無難と覚えておきましょう。
登記簿謄本(登記事項証明書)が必要になるタイミングは、人生においてそう多くはないでしょう。しかし、家を購入する時や不動産売却の時に必要になります。そのような時に慌てないよう、一度登記簿謄本について理解しておくと良いでしょう。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。