「親が施設に入って空き家になる」「相続で実家を引き継いだ」など、ある日突然、実家の管理をしなればならなくなるケースは多いものです。
自分が実家に住むならいいですが、すでにマイホームがある・遠方であるなどの理由で活用が難しい場合もあるでしょう。そのような場合は、実家の売却を検討することになりますが、自分の名義でない実家の売却は通常の売却よりも複雑になりがちです。とはいえ、売却できないわけではないので、ポイントを押さえておけばスムーズな売却も目指せます。
そこで、この記事では親の家を売る方法や、かかる税金、売れない場合の対処法について分かりやすく解説します。親の家の処遇に悩んでいる人は、ぜひこの記事を参考にしてください。
親の実家を売るというと、相続で所有して売却することをイメージする人も多いでしょう。しかし、親の家を売却するのは親の死後だけとは限りません。「親が施設に入所する」「自分の家で同居する」「老後資金のために売却しなければならない」など、親の生存中でも家の売却が必要になるケースもあるのです。
ここでは、親の家を売る方法として、次の3つを解説します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
親が亡くなり、相続によって実家を所有するケースは多いでしょう。自分が住むなら問題ありませんが、住まない場合は空き家を所有することになります。空き家の状態でも、固定資産税の負担や維持管理の費用・手間がかかってくるため、活用しない空き家はマイナスの財産になりかねません。
親の家を活用する見込みがないなら、売却してしまう方がよいでしょう。この場合は、相続後に親の名義から自分の名義に変更することで、通常の売却手順で売却が可能です。
大まかな相続から売却までの流れは次のようになります。
相続が発生したら、遺言を確認して相続人や相続財産を明確にします。相続財産がマイナスしかないといった場合では、相続放棄や限定承認を選択することになりますが、申請できるのは相続開始から3ヵ月以内なので注意しましょう。
相続を選択する場合は、遺言書に従うか、相続人の遺産分割協議で相続割合を決めていきます。遺産分割協議の結果、実家を相続することになれば相続登記をします。
相続登記とは、被相続人(親)から相続人に家の名義を変更する登記のことです。相続登記することで、実家を自分の名義にでき、その後は通常の物件と同様の売却で進められます。
相続登記は、法務局に相続登記申請書を作成して申請することで手続きできます。ただし、次のような書類も必要なので注意しましょう。
相続登記は司法書士にも依頼できます。書類作成や収集・手続きの時間が取れない場合は、依頼を検討することがおすすめです。
親の生存中に売却する方法として「代理人として売却する」方法があります。これは、親に売却の意思はあるものの高齢や病気などで手続きが困難な場合に取る方法です。
また、親が施設に入る・同居するなどの理由で、親の家が空き家になる場合もあるでしょう。この場合、たとえ親子であっても子どもが親の家を勝手に判断して売却することはできません。子どもが親の家を売却する場合、「代理人」という手続きを踏む必要があるのです。
代理人として売却する場合、売却までの大まかな流れは次のようになります。
代理人として家を売却するには、代理人であることを客観的に証明できる「委任状」が必要です。委任状が無ければ親子であっても売却はできません。委任状なしで別の人の名義の物件を売却してしまうと、契約が無効になるなどトラブルに発展する可能性も高く、不動産会社も対応してくれないのです。
委任状は明確な書式はありませんが、下記の内容を記載しておく必要があります。
委任の範囲は、代理人の金額交渉権の有無や交渉できる金額の幅など細かく定めておくとよいでしょう。「売却を一任する」というように、大まかな委任にしてしまうと、名義人が望まない金額や条件などでの売却になってしまう恐れもあります。委任状については、不動産会社が用意してくれることもあるので一度相談してみるとよいでしょう。
また、委任状を不動産会社に提出した後は、委任状の偽造防止のため不動産会社から本人(名義人)に売却の意志の確認をされるのが一般的です。不動産会社が委任状を受理すれば、委任状の内容に沿って売却を進められます。
親の代理人となって売却できるのは、親が売却の意志を示せる場合です。認知症や障害などで判断能力が不十分といった場合は、代理人となって売却することはできません。
親が売却の意志の表示が困難な場合、売却するには成年後見制度を利用することになります。成年後見制度とは、認知症など判断能力が不十分な人が不利益を被らないように、代わりに管理する後見人を定める制度のことです。家庭裁判所に申立て、後見人に選任してもらうことで、後見人の判断で不動産の売却が可能になります。
ただし、後見人だからといって勝手に売却できるわけではなく、家庭裁判所の許可が必要です。また、必ずしも子どもが後見人になれるわけではない点にも注意しましょう。
成年後見制度には、「任意後見制度」と「法定後見制度」の2種類があります。
任意後見制度とは、あらかじめ本人が後見人を選んで契約しておく制度です。本人と、選んだ後見人で任意後見契約を結ぶことで、財産や生活の管理を委託できます。
任意後見制度は、本人の意思判断が十分なうちに、将来のために後見人を定めておく方法です。契約人は本人の希望に沿って、財産管理の方法や後見人を決められるので、本人が望めば子が後見人になることができます。
ただし、判断能力が不十分になってからはこの制度は利用できません。「まだ大丈夫」と後送りしていると、急に認知症を発症して任意後見制度を利用できなくなったというケースは少なくないので、早めに家族で話し合っておくとよいでしょう。
本人の判断能力が不十分な場合、家庭裁判所によって後見人が選ばれる制度が、法定後見制度です。家族などの申立てにより、家庭裁判所が後見人を選定します。
子を後見人として推薦することはできますが、親の資産状態などによっては推薦しても認められない可能性はあります。一般的には弁護士や司法書士などの第三者が選ばれるケースが多い点には注意しましょう。
ここでは、親の家を売る手段について解説します。
親の家であっても、先述した方法で問題なく売却を進めることが可能です。しかし、田舎の実家や築年数が経過しているなどの理由で、売却が難しい可能性があるので注意しましょう。
親の家を売る手段としては、次の2種類があります。
仲介による売却とは、不動産会社が間に入って買主を見つけて売却を進める方法です。一般的な不動産売却は、仲介になります。仲介での売却は、市場での売却になるため市場価格での売却が可能です。
ただし、売却までには時間がかかり、必ず買主が見つかるとは限らない点にも注意しましょう。田舎の空き家のように、売却が難しい物件ではなかなか売却できない可能性もあります。
また、売却に時間がかかるため、売却額で相続税を検討している場合には納税に間に合わない可能性がある点にも気を付けなければなりません。あらかじめ、不動産会社に売却額で納税を検討している旨を伝えておくとよいでしょう。
買取とは、不動産会社に直接買い取ってもらう方法です。
仲介では不動産会社が間に入るとはいえ、買い手はあくまで第三者となります。それに対し、買取は買い手が不動産会社となるのです。買取であれば、不動産会社との条件に合意できれば短期間で売却できます。また、仲介ではないため仲介手数料も発生しないというメリットもあるのです。
ただし、買取は市場価格の7〜8割ほどと、仲介よりも安値での売却になる点には注意しましょう。買取してもらえる物件や対応する不動産会社も多くはありません。納税までにどうしても間に合わせたい、多少安くてもすぐに家を売却したいという人なら、買取がおすすめです。
買取については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。
関連記事:不動産売却するならどこがいい?会社の選び方について解説!
親の家の売却では、さまざまな税金が発生します。税金について理解しておかなければ、後々納税に対応できないという可能性も出てくるので、きちんと把握しておくことが大切です。
主な税金には、次の3つがあります。
印紙税と登録免許税は、基本的に必ずかかる税金です。一方、譲渡所得税は売却で利益が出た場合にのみかかります。
譲渡所得税の計算は次の通りです。
売却額から購入にかかった費用と売却にかかった費用を差し引いた額が譲渡所得となります。
相続の場合、取得にかかった費用の証明が難しいケースが多いものです。取得時の仲介手数料の領収書などがない場合は、概算取得費として売却額の5%を計上します。利益を計算できれば、譲渡所得税の税率を乗じて税額を算出できます。
譲渡所得税の税率は、所有期間5年以下で39.63%、5年超えで20.315%です。相続の場合の所有期間は、被相続人が取得した日から算出します。
高額な取引になる不動産売却では、かかる税金も高額になる可能性があります。しかし、譲渡所得税ではさまざまな軽減措置が用意されており、適用することで節税が可能です。
相続での売却で利用できる主な特例には、次の2種類があります。
マイホームを売却した場合、最大3,000万円を譲渡所得から乗除できます。仮に、売却利益が3,000万円以下であれば、この特例を適用することで利益がゼロになり税金が発生しません。
この特例を利用するには、次のような要件を満たす必要があります。
また、次のような場合は対象外となります。
親の家の売却でこの特例を適用するなら、相続ではなく代理人や成年後見制度の利用時になるでしょう。
相続した空き家を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です。
この特例を適用するには、次のような要件を満たす必要があります。
この特例を利用するには、家屋など細かい条件があるので注意しましょう。売却の仕方も、建物を解体して更地にするか、耐震補強する必要があります。
親の家を売る際に押さえておきたい注意点として、次の3つが挙げられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
古くからある家の場合、境界線が明確でないケースは珍しくありません。境界線が明確でない場合、売却後に敷地などを巡って隣地の人とトラブルになりかねません。また、敷地が明確でないことで買い手にも避けられやすくなります。
境界線は事前に確認し、明確でない場合は土地家屋調査士に依頼して、明確にしておくようにしましょう。
契約不適合責任とは、売却した家が契約内容を満たしていない場合に売主に問われる責任です。契約書に記載のないシロアリや水漏れ・土壌汚染・事故物件といったケースで、契約不適合責任が問われる可能性があります。
契約不適合責任が問われると、売主は補修費用の支払いや契約解除・損害賠償請求などを受ける可能性があり、リスクはかなり大きいです。特に相続した家の場合は、家の状態を把握せずに売却してしまうと問われやすくなるので注意しましょう。
売却前には、家の状態を正確に把握し、買主や不動産会社にしっかりと告知することが大切です。
売却で利益が出た場合、譲渡所得税が課せられるため確定申告が必要です。代理人や成年後見制度を利用した売却の場合、確定申告は本人がする必要がありますが、確定申告までサポートしてあげることが望ましいでしょう。相続した家の場合は、自分で確定申告する必要があります。
ちなみに、特例を利用して税金が発生しない場合でも、そもそも特例を適用するために確定申告が必要という点には注意が必要です。
確定申告は、売却した年の翌年2月16日から3月15日の間に申告・納税します。期間内に申告できるよう、早めに準備に取り掛かっておきましょう。
親の家を売却したいものの、築年数が古い・田舎にあるなどの理由で、売却を進めても買い手が付かない場合もあるでしょう。
買い手が見つからない場合、次のような方法を検討することをおすすめします。
売却することも所有し続けることも難しい場合、贈与という選択肢があります。親族などで必要な人がいないか声をかけて、受け取ってくれる相手を探すとよいでしょう。該当の家の隣地の人も、敷地の拡張などで必要な可能性もあるので、購入の意思がないか確認してみるのもおすすめです。
ただし、贈与の場合、贈与税が課せられる恐れがある点には注意が必要です。贈与税に関することまで相手としっかり合意したうえで、贈与を検討するようにしましょう。
売却ではなく、第三者に貸し付けて賃貸経営するのも一つの方法と言えるでしょう。立地や家の状態が良ければ、賃貸としての需要も見込めます。
賃貸経営の場合、入居者が見つかれば賃料が入るので固定資産税などの負担を軽減でき、賃料によっては収入にすることもできるでしょう。戸建てであれば、入居者が敷地や建物を管理してくれるので、維持管理の手間も必要ありません。
ただし、立地などによっては賃貸としての需要がない場合もあります。入居者が入らず空き家になると、コストもかかってしまうので、需要をしっかりと調べたうえで賃貸経営を検討することが大切です。
建物が古くて売れない場合でも、建物を解体して更地にすることで売れる可能性があります。
更地の場合、買主にとってさまざまな活用法があるため、買い手の幅を広げることができます。また、更地にしておけば建物の維持管理からは解放され、建物の倒壊の心配もなくなるでしょう。
ただし、更地にしてしまうと固定資産税の軽減措置を受けられなくなり、土地の固定資産税が高くなる点には注意が必要です。更地の期間が長いと、固定資産税の負担も大きくなるので更地にする時期は検討するようにしましょう。
建物は古くても古民家としての価値がある場合など、リフォームして活用したいという買い手も少なくありません。更地にするかどうかは、一度不動産会社に相談して検討することをおすすめします。
空き家バンクとは、自治体が運営する空き家を売りたい人と買いたい人を結び付けるサイトです。空き家バンクなら、空き家を探している人を見つけやすく購入につなげられる可能性があります。
しかし、空き家バンクでは不動産会社のように売却のサポートをしてくれるわけではありません。価格交渉や契約手続きなどは、売主と買主で進める必要があり、トラブルに発展しやすい点には注意しましょう。また、自治体によっては空き家バンクがない可能性もあります。
今回は、親の家を売る方法や注意点、売れない場合の対処方法をお伝えしました。
親の生前中に売却する場合は「代理人」「成年後見制度」、死後であれば「相続して売却」という方法があります。それぞれ通常の売却よりも手続きが増えるので、よく理解したうえで売却を進めるようにしましょう。また、親の家の売却には税金もかかるので、特例などを利用して節税を検討することが大切です。
この記事を参考に、親の家の売却を進めてみてはいかがでしょう。