農地を購入できるのは、地域の農業委員会に許可を受けた農家または農業従事者のみで、誰でも購入できるわけではありません。
これは、農地法という法律があるためで、農地の売買をおこなうには一定の条件を満たした上で許可や届出が必要とされています。一般的な宅地に比べて、農地の売買は難しいでしょう。
しかし、使っていない農地を持っておくのは、固定資産税がかかったり荒地になってしまったりとトラブルやデメリットが目立ちます。
売買は簡単ではありませんが、使用しないなら手放した方が良いので、しっかり検討しましょう。
では、実際にはどのように農地を売却するのでしょうか。農地を売却するには、以下の2つの方法があります。
どちらの方法も、農業委員会の許可が必要です。それぞれの方法について詳しく解説します。
1つ目は農地のまま売却する方法です。農地をそのまま売却するので、地目変更をおこなわずに済みます。近所に農地を広げたい農家の方がいたり、購入可能な農業従事者や法人が現れたりすれば、売却が可能です。
農地の購入者には、以下のような条件があります。
上記の条件を満たした方のみが農地を購入することが可能です。
しかし、タイミング良く条件に合った方が現れることは少なく、買い手を見つけるのが難しいのが現状です。
農地を他のことに使える土地にすることを、転用といいます。地目変更をおこなう必要があるので手間がかかりますが、購入者を農業関係者に限定することなく土地売却できるのがメリットです。
ただし、農地転用をおこなうには「立地基準」と「一般基準」という2つの基準を満たさなければなりません。
立地基準では、売却できる農地の区分を定めています。地域差があるので、詳しくは市町村の役場に問い合わせてみましょう。
【立地基準】
一般基準の項目は3つで、転用後の用途や周辺への影響などを審査されます。
【一般基準】
上記の立地基準・一般基準を満たした上で、初めて農地の転用が認められます。
ここからは、農地を売却する際の手続き・流れを2つのパターンに分けて紹介します。
それぞれの場合について詳しく解説するので、参考にしてください。
農地のまま売却する際の手続き・流れは、大きく4つのステップに分けられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
まずは、農地の買主を見つけます。先述した通り、購入可能なのは条件を満たした農業従事者のみなので、注意が必要です。
自分で購入者を探すのには限界があるので、なかなか見つからないときは農地中間管理機構の斡旋を受けたり、農地売買を強みとする不動産会社に相談することをおすすめします。
売買を成立させるには農業委員会の許可が必要になりますが、農地の買主が見つかったらまずは売買契約を締結します。
届出や許可書に買主の住所・氏名・利用用途等を書く必要があるため、先に契約をおこなわなければいけません。
ただし、申請後に何らかの理由によって許可が得られなかった場合、契約は解除されてしまうので気をつけてください。
買主と売買契約を締結したら、農業委員会に許可申請をおこないます。
必要な書類は、許可申請書・登記事項説明書・公図などさまざまです。代理で申請するには、委任状も必要になります。必要書類は各農業委員会によって異なるので、地域の市区町村役場で確認しましょう。
なお、売買が巨額になる場合は、正式な許可が下りる前に所有権移転の仮登記をします。これは、農地の所有権を間違いなく買主に移転するという意味合いでおこなうものです。
農業委員会から許可を得られると許可証が交付されるので、速やかに本登記になる所有権移転登記をおこないます。そして、買主から代金を受け取ると、農地売買は無事完了です。
ただし、許可が下りなかった場合は契約解除となるので、注意しましょう。
次に、農地を転用して売却する際の手続き・流れを紹介します。こちらもステップは4つです。
それぞれについて詳しく解説します。
まずは、農地売買を強みとする不動産会社を見つけて売却を依頼しましょう。
転用の際の諸々の手続きは一般的な土地取引ではおこなわないので、どの会社でも良いわけではありません。しっかりと申請をおこなうには、ノウハウをよく知る不動産会社に頼るのがベストです。
農業委員会の許可が得られるかは、不動産会社の腕によって差が出てしまうものです。しっかり吟味して、信頼できる会社を選びましょう。
農地として売買するときと同様に、農業委員会の許可が下りる前提で契約を結びます。
農業委員会に申請する際には、買主・転用目的・目的が果たせるのか等を明確に伝えなければなりません。曖昧な状態では契約を交わすことができないので、注意しましょう。
なお、転用の場合も何らかの理由によって許可が得られなかったときは、申請後に契約が解除されてしまいます。
売買契約を締結した後は、市区町村役場で農業委員会に申請をおこないます。市街化区域内の届出や許可なら1〜2週間、その他の場合は1〜2ヶ月ほどかかると思っていてください。
申請時に提出する書類は、許可申請書・登記事項説明書・位置図などさまざまで、代理でおこなう場合には委任状も必要となります。
転用許可は、必ずしも得られるものではありません。市街化調整区域に農地がある場合は一定の条件を満たしている必要がある上に、農地面積が4ha以上なら農林水産大臣の許可が下りないと転用できません。不動産会社にしっかり確認しながら、慎重に準備を進めましょう。
また、転用できた場合は地目変更によって課せられる税金も変わってくるので、頭に入れておいてください。
無事に農業委員会からの許可を得られたら許可証が交付されるので、本登記となる所有権移転登記をおこないましょう。その後、買主から代金を受け取れば、売買は完了となります。
ただし、先ほども述べたように許可が下りなかった場合は、この時点で契約解除となってしまいます。
ここからは、農地の売却にかかる税金と費用について紹介します。思わぬ出費に焦らないように、あらかじめ必要な費用・税金を確認しておきましょう。
農地の売却にかかる税金は、以下の3つです。
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
印紙税は、売買契約を締結した際の契約書に貼る印紙に対してかかる税金です。農地の売却価格によって価格が変わります。売却金額ごとの印紙税額は、以下の通りです。
上記の印紙税額は、軽減税率措置適用時のものです。軽減税率措置は令和4年3月31日までとされていましたが、令和6年3月31日まで延長となりました。
それ以降の税額は変動の可能性があるので、確認してください。
譲渡所得税は土地売却した際に得た利益に対する税で、所得税と住民税が課されます。譲渡所得の求め方は、以下の通りです。
【譲渡所得の求め方】
譲渡所得=譲渡価格−(購入時の価格+手数料等の譲渡手数料)
譲渡価格とは、売却額を指します。また、購入時の価格からは減価償却費分を除いて計算してください。
譲渡所得が計算できたら、実際に納める税額を調べましょう。税額は農地を所有していた期間によって異なります。所有期間が5年以下なら所得税30.63%・住民税9%の合計39.63%です。所有期間が5年を超える場合は、所得税15.315%・住民税5%の合計20.315%になります。
さらに、所得税の2.1%である復興特別所得税も計算に含みます。最終的に税額を求める計算式は、以下の通りです。
【所有期間が5年以下の場合の譲渡所得税】
譲渡所得税=譲渡所得×39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
【所有期間が5年を超える場合の譲渡所得税】
譲渡所得税=譲渡所得×20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
最後に紹介するのが、登録免許税です。売却する農地に抵当権が設定されていた場合、抹消するための登録手続きが必要になります。
抵当権抹消手続きにかかる登録免許税は、物件1つに対して1,000円です。所有権移転登記の登録免許税にかかる費用は、原則買い手の負担とされています。
次に紹介するのは、税金以外の農地の売却にかかる費用です。農地売却に必要な費用は、主に以下の2つです。
それぞれの費用について、詳しく説明します。
売却の仲介業務を不動産会社に頼むと、仲介手数料がかかります。仲介手数料は農地の売買額に応じて計算され、不動産会社によっても異なるので依頼前に確認しておきましょう。
ただし、不動産会社が買主となる場合や仲介を依頼せず個人間で売買を成立させるケースでは、仲介手数料は発生しません。
行政書士に各許可申請を依頼すると、依頼費用がかかります。農地の転用許可申請の場合、市街化区域内なら約10万円、市街化調整区域なら15万円ほどです。
知識があって自分自身で申請できる場合は費用はかかりませんが、複雑な内容になるので無理はせず行政書士に依頼するのをおすすめします。
売却するにも労力が必要なので、使ってない農地を放置してしまっているという方もいるでしょう。しかし、使わない農地を放置しておくと、余計な費用やトラブルが発生しかねません。
ここでは、農地を放置しておく場合の主なデメリットを2つ紹介します。
それぞれの理由を以下で詳しく説明します。
農地に限らず、土地を所有している限り固定資産税を納めなければなりません。使っていない農地でも毎年支払い続ける必要があります。
近年、日本では耕作放棄地や遊休農地が増加しており、農林水産省が農地の放置を防ぐために固定資産税の引き上げをおこなっています。
農地を所有しているだけでも費用がかかってしまうため、早めに手放すのがおすすめです。
長年放置された農地は、雑草が生えたり害虫が湧いたりします。その被害は放置された農地だけに留まらず、近隣の土地へと広がる可能性が高いです。
また、農地の管理が行き届いていないと見なされると、ゴミや廃棄物などを不法投棄する人が現れる可能性も高くなります。
このように、放置することで農地の状態が劣化すると、いざ売却するにもその状態では買い手は見つからないでしょう。復旧するのにも時間や手間、費用がかかってしまいます。
すぐに売却できる目処がたたなくても農地の管理は怠らずにおこない、なるべく早く不動産会社に相談しましょう。
ここでは、農地を売却する際に注意すべき点について解説します。
後悔することのないよう、気をつけるべきポイントを押さえておきましょう。
先ほども述べたように、農地を放置すると害獣の被害を受けたり、不法投棄されやすい場所になったりする恐れがあります。
一度荒れてしまった農地を復旧するには時間も手間もかかるので、しっかり手入れをしておきましょう。あまりに農地が荒れていると土地の価値が下がる上に、買い手が現れたとしても購入する気が失せてしまうかもしれません。
定期的に様子を確認し、できるだけすぐに運用できる農地環境を整えておくことが大切です。
不動産会社によって、一戸建て・マンション・土地など売買できる分野の強みは異なります。農地売却を成功させるには、きちんと実績がある不動産会社を選びましょう。
農地売却には複雑な手続きや書類が多く、専門的な知識が必要です。農地売買の経験がない不動産会社の場合、スムーズに売却まで漕ぎつけられない可能性もあります。
農地転用の多い地域では、近くに農地売買を得意とする不動産会社があるかもしれません。周囲に売却経験のある方がいれば、頼れる不動産会社を聞いてみるのも良いでしょう。
農地は固定資産税が優遇されているため、転用を検討している場合は注意が必要です。一般農地の場合、固定資産税評価額は作物の算出額から出されます。そして、そこに0.55をかけ、さらに1/3減額などの優遇を受けられます。
しかし、農地転用で地目変更をおこなうと農地ではなくなるため、そのような優遇は受けられません。
更地と同じように算出されるようになるため、固定資産税評価額は路線価から求められます。税額は数十倍から数百倍になることも覚悟しておきましょう。
最後に、農地の売買に関するよくある質問に答えます。以下のような疑問はありませんか。
これらの疑問を解決し、安心して農地の売却に取り組めるようにしましょう。
買い手を見つけるのは難しいものの、近所で農地を広げたい農家の方がいる場合などは、個人間で売買することも可能です。
個人間での売買は、不動産会社に仲介手数料を払わずに済むメリットがある一方で、価格交渉がまとまらない・権利関係がうやむやになってしまうなど、買主と売主の間でトラブルになることもあります。
さらに、個人間ですべてを済ませようと思うと、売買契約書や役所への提出書類も売主が準備することになり、かなり手間がかかります。
このようなトラブルや手間を避けるためにも、まずは不動産会社に相談するのがおすすめです。仲介をしてもらわないにしても、費用を払えば契約書の作成をお願いできます。
売却を考え始めると、実際にいくらで売れるのか気になるものです。参考になるよう、農地売買の価格相場を紹介します。
2021年の主な都市の農地の価格相場は、以下の通りです。
上記の表ではエリアごとの農地の価格相場を紹介しましたが、まったく同じ状態の農地はないので個別に相場を調べることが大切です。代表的な売却相場の調査方法は、以下の2つです。
各不動産ポータルサイトでは、実際に売り出している農地をチェックすることが可能なので、価格を参考にしてみるのが良いでしょう。
そして、実際に査定をしてみたいと思ったら、一括査定サイトを活用してください。複数の不動産会社に査定してもらえるので、価格を比較できます。
農地は許可がないと売却できないため、一般的な不動産取引に比べると難しいのが事実です。買主を見つけるのも簡単ではありません。
しかし、使ってない農地をそのまま放置しておくと、土地が荒れて近隣の農家に迷惑がかかる上に整備するのも大変になってしまうので、まさに百害あって一利なしです。
この記事を参考に、農地の価値が下がらないようにしっかりと管理しながら情報収集を進め、スムーズに売却できるようにしましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。