土地・建物などの不動産を売って得た売却金額から譲渡費用や取得費を引いたものが、譲渡所得です。「譲渡所得=売れた金額」ということではありません。計算式にすると、下記の通りです。
売却金額-譲渡費用-取得費=譲渡所得
譲渡費用や取得費には、下記が含まれます。
不動産を売却して得た譲渡所得には、「所得税」と「住民税」の2つの税金がかかります。これらをまとめて「譲渡所得税」と呼ぶのが一般的です。
譲渡所得税は分離課税となり、給与取得や事業所得とは切り離して計算されます。そのため、管轄の税務署で確定申告をして納税しなければいけません。
先ほど紹介した計算式で「譲渡所得」として出た金額に対して、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税は、下記の計算式で求めることが可能です。
課税譲渡所得×税率=譲渡所得税
課税譲渡所得とは、先にお伝えした「譲渡費用」と「取得費」を差し引いて算出された金額のことです。
計算に用いる税率は、売却した不動産を所有していた期間により異なるため、正しく把握しておくことが大切になります。
譲渡所得税の計算で用いる税率は、以下のように不動産の所有期間により異なります。
※どちらも2037年までは所得税に対して2.1%の復興特別所得税が加算
所有期間は、不動産を売却した年の1月1日時点で判断されます。たとえば、2015年5月に購入した不動産を2020年11月に売却した場合、実際には所有期間は5年を超えていますが、1月1日時点で判断されるので短期譲渡所得になります。
短期譲渡所得と長期譲渡所得では10%以上も税率が異なるので、しっかりと所有期間の計算をしてください。
ここからは、短期譲渡所得と長期譲渡所得のそれぞれについて詳しく確認していきましょう。
不動産の所有期間が5年を超えた場合は「長期譲渡所得」となり、税率は下記の通りです。
この3つの税率を合わせた20.315%が長期譲渡所得の税率となります。課税譲渡所得に20.315%をかけて出された金額が税額です。
所有年数が5年以下の場合は、「短期譲渡所得」になります。税率を下記で確認してみましょう。
3つを合わせた39.63%が、短期譲渡所得の税率になります。
このように、所有期間が5年以下では税率が高くなることが特徴です。たとえば、譲渡所得が800万円の場合、短期譲渡所得と長期譲渡所得では、下記のように税額に差が生じます。
所得税・住民税を計算式に当てはめると、倍ほどの差が生じる結果となりました。売却活動を始める際は初めに所有期間の確認をしておきましょう。
不動産の売却では、少しでも税額を減らすために利用できる控除・特例があります。それぞれに条件はありますが、クリアできればよりお得に売却が可能です。
ここでは、主となる5つの控除・特例について詳しく紹介します。
どのような内容でどういった条件があるのかを把握し、利用できるものは積極的に活用していきましょう。
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」では、不動産の所有期間に関係なく、発生する譲渡所得のうち3,000万円までが非課税となります。主な条件は、下記の通りです。
売却時に住んでいない不動産だったとしても、居住しなくなってから3年を経過する日が属する年の年末までであれば使えます。
そのほかの詳しい要件や内容については、国税庁の「No.3302 マイホームを売ったときの特例」を参照してください。
2023年の12月31日時点までにマイホームを売り、新しい家に買い替えた際に課税を将来へ繰りのべられる特例です。非課税になるわけではないため、誤認しないよう注意しておきましょう。
新しい家の購入額が住んでいた住居の売却価格と同額以上の場合は、すべての金額に対して適用されます。反対に、購入した金額の方が低ければその差額分に税金がかかるので、よく比較しておきましょう。
「特定のマイホームを買い換えたときの特例」の主な条件は、下記の通りです。
特定のマイホームを買い替えたときの特例を受けるためには、売却する不動産の居住期間・所有期間がどちらも10年以上であることが条件となります。
細かな要件は、国税庁の「No.3355 特定のマイホームを買い替えたときの特例」を参照してください。
「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」では、住んでいたマイホームを売り、要件をクリアできれば長期譲渡所得を通常よりも低い税率で計算することが可能です。主な条件を以下にまとめました。
この特例は3,000万円の特別控除との併用ができるため、ぜひ2つを組み合わせて節税をしてみましょう。
そのほかの詳しい要件などについては、国税庁の「No,3305 マイホームを打ったときの軽減税率の特例」を参照ください。
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、遺贈や相続などで不動産を定められた期間のうちに譲渡した場合、税額の一部の金額を取得費に加算できる特例です。
対象者となるには、下記3つの要件があります。
この特例は、3,000万円の特別控除・マイホームを買い替えたときの特例と併用が可能なため、組み合わせてよりお得に活用してください。
税額の計算や手続き方法、必要書類などについては国税庁の「No,3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を参照ください。
相続した不動産に誰も住む予定がなければ、そのまま空き家となってしまうケースも少なくありません。その場合、2023年12月31日までに売却し定められた要件をクリアすると、譲渡所得のうち3,000万円までが控除されます。
主な要件は、上記の通りです。詳しい内容については、国税庁の「No,3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を参照ください。
不動産を売却する際には、譲渡所得税以外にも必要な税金があります。譲渡所得税ももちろん大切ですが、そのほかの税に対する知識がなければ、大きな損をしてしまうことも少なくありません。
ここでは、譲渡所得税以外の3つの税金について詳しくお伝えします。それぞれの内容をしっかりと把握し、売却に関する知識を深めておきましょう。
印紙税は、不動産売買契約書に収入印紙を貼って消印をすることにより納税となります。印紙を貼らなかったり消印をしなかったりした場合、納税がされていないとみなされ、「過怠税」が課せられるケースもあるため注意しましょう。
印紙税は契約金額により異なるので、下記の一覧でご確認ください。電子契約の場合は不要です。
不動産を売却することにより、不動産登記上の名義が変わる際には、登録免許税が発生します。
土地と建物を同時に売却する場合の抵当権抹消では、それぞれは別として考えられているため、土地と建物分の2,000円が必要となります。
抵当権抹消の手続きは複雑で難しいため、司法書士に依頼しておこなうようにしましょう。
不動産会社を通して不動産の売却をした場合には仲介手数料がかかりますが、ここにも税金が課せられます。
仲介手数料の10%が消費税です。2022年11月現在では消費税が10%となっていますが、今後税率が変化することもあるため、売却のタイミングを見極めることも大切でしょう。
不動産の譲渡所得には、わからない部分や疑問に感じる項目が多くあり、売却したくても後回しにしてしまっている方も少なくありません。
ここでは、不動産の譲渡所得に関するよくある質問を2つピックアップしました。それぞれの内容をよく把握し、不動産売却に対する疑問を解消してください。
ふるさと納税の活用は有効です。譲渡所得が発生すると、それに対して所得税と住民税が課税されますが、ふるさと納税をすることでどちらも控除されます。
ただし、ほかの控除が受けられる場合は、ふるさと納税を活用しない方がお得なケースも少なくありません。また、売却価格が低く譲渡所得が得られない場合も控除すべき税金がないため、ふるさと納税を活用できません。
譲渡所得がマイナスの場合、原則として確定申告の必要はありません。しかし、売却損が出た際には所得税の還付対象となることもあるため、確定申告をすることをおすすめします。
また、特例を利用する場合も確定申告が必ず必要です。最近ではインターネットからも確定申告ができるので、忙しい方もぜひおこなっておきましょう。
今回は不動産の譲渡所得やそれにかかる税金、利用できる5つの控除・特例について解説しました。
譲渡所得とは、不動産を売って得た売却金額から譲渡費用や取得費を引いたものです。譲渡所得には譲渡所得税がかかりますが、特例・控除を利用すれば節税ができます。
正しい情報を持っていることは、それだけで1つの武器になります。不動産の売却で後悔や失敗を回避するためにも、ぜひ本記事で紹介した内容を参考にしてください。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。