不動産売却における路線価とは、何を指すのでしょうか。路線価についての知識がほとんどない方に向けて、基礎知識から順番に説明します。
路線価とは、路線(道路)に面する宅地の1㎡あたりの価額です。土地ごとではなく、道路ごとに価格が決まっており、路線価が定められている地域の土地の評価に使用されます。
土地価格の基になるのは、時価と呼ばれる市場価格です。しかし、専門家ではない個人が時価を把握するのは難しく、適正な土地価格を知りづらい実態があります。
そこで、公平さを保ち、税金の申告をしやすくするために、全国の路線価が国によって定められているのです。
国によって定められた路線価には、相続税路線価と、固定資産税路線価の2種類があります。路線価と表現されている場合は、国が定めている相続税路線価を指すのが一般的です。
(1)相続税路線価
国税庁が公表している路線価で、路線(道路を含む)に面した宅地の1㎡あたりの価額です。1月1日を評価時点とし、毎年7月1日に国税庁より公表され、相続税や贈与税の税額を算定する目的で使用されます。
国土交通省が公示する地価の8割程度に設定されており、全国の国税庁や税務署で閲覧が可能です。国税庁のホームページでも確認できます。
(2)固定資産税路線価
総務省と市町村が公表している路線価で、道路に面した宅地の1㎡あたりの価額です。固定資産税の課税をするために設定されています。
1月1日を評価時点とし、3年に一度見直され、市町村の固定資産税課で閲覧が可能です。
不動産売却の際には、土地の価値を知るために路線価を使う必要があります。主な使い方をまとめました。
(1)相続や贈与に関わる時
相続税や贈与税を計算する使い方が、最も一般的です。近年では就活やエンディングプランが注目を浴びており、相続や贈与への関心も高まっています。そのため、路線価の知識は、相続税や贈与税を算出するのに非常に役立ちます。
(2)土地価格の相場を把握する時
路線価を使うと、売却したい土地の価格相場を把握できます。
価格相場についての知識がないと、売却の際に適正価格より安く売ってしまったり、希望価格が通りにくかったりと、取引の際に損をしかねません。不動産売却における取引をスムーズに進めるためにも、路線価の知識を頭に入れておくのがおすすめです。
不動産売却の際、実勢価格は話題に上りやすい用語の1つではないでしょうか。この章では、実勢価格の基礎知識と路線価との違いについて説明します。
不動産を売却するとき、実際に現場で見積もられる価格を実勢価格といいます。注意したいのは、売り出した価格ではなく、売買が終わったときの最終的な価格である点です。
実勢価格の設定に法律的な決まりはなく、売買取引の話し合いの中で、当事者同士で設定されます。そのため、路線価や国土交通省による公示価格と、かけ離れた金額の実勢価格になることもめずらしくありません。
したがって、不動産売却の際には、路線価だけでなく実勢価格についても調べる必要があります。
路線価と実勢価格の明確な違いは、価格の決定方法です。
路線価は、さまざまな土地に関する情報を基に国税庁が決定し、毎年公表しています。いわば公的な価格です。
一方、実勢価格は、売買する当事者の間で自由に決められます。そのため、同じ土地や地域でも、取引ごとに価格が変わる点が特徴です。
不動産売却では、路線価と実勢価格の違いをしっかりと理解し、スムーズな取引をするのが大切です。
不動産売却の際には、土地の路線価を調べる作業が必要です。国税庁のホームページには豊富な資料が掲載されているので、簡単に計算ができます。
【路線価の調べ方と計算方法】
それぞれについて、順番に見ていきましょう。
まず、路線価の調べ方について説明します。
国税庁のホームページにある「路線価図・評価倍率表」のサイトにアクセスします。そこで、調べたい土地を見つけてクリックしましょう。
たとえば、東京都港区浜松町1を調べる場合
「東京都」をクリック
↓
「路線価図」をクリック
「港区」をクリック
「浜松町1」の欄にある路線価図から、調べたい土地を探します。地図は1〜4枚あるので、1枚ずつ確認が必要です。
調べたい土地の路線価図が見つかったら、隣接している路線の路線価を確認してください。「1000D」や「1770D」などと記載されている数字が路線価です。
路線価が設定されていない土地もあります。その場合は路線価ではなく「倍率方式」での計算になるので、注意してください。
実際に路線価を算出してみましょう。さらに、路線価から実勢価格の目安を計算する方法も紹介します。
路線価とは、路線に面する宅地の1㎡あたりの1,000円単位の価額です。計算式は、以下の通りです。
1㎡あたりの路線価=記載されている路線価×1,000
たとえば、調べたい土地の路線価図に「1770D」と記載されている場合は、以下のような計算式です。
1㎡あたりの路線価=1,770×1,000=177万円
売却する土地が100㎡とすると、土地全体の路線価は以下の価格になります。
177万円×100㎡=1億7,700万円
さらに、路線価から土地の評価額を算出することも可能です。計算式は、以下の通りです。
路線価による土地評価額=路線価×面積(㎡)×奥行価格補正率
奥行価格補正率とは、道路からの奥行による土地への影響をあらわした数値です。地域ごとに基準が決められており、国税庁のホームページで確認できます。
路線価から実勢価格の目安を算出するには、以下の計算式を使用します。
実勢価格の目安=路線価÷0.8×1.1(または1.2)
たとえば、路線価が1億7,700万円の土地の場合は、以下の実勢価格です。
1億7,700万÷0.8×1.1=2億4,337万5,000円
路線価は、国土交通省が公示する価格の8割程度に評価されています。その公示価格を1.1〜1.2倍した金額が、実勢価格の目安です。
ただし、人気の土地であったり、もとの価格が高かったりすると実勢価格が上がります。実勢価格はあくまで目安であり、実際の売買価格は取引の話し合いで決められる点に注意しましょう。
不動産売却において、路線価が重要視されるのはなぜでしょうか。主な理由についてまとめました。
【路線価が重要視される理由】
それぞれについて、詳しく説明します。
不動産売却では、土地の価格や相場についての情報を仕入れることが大変重要です。
まず、売却する側にとっては、路線価の調べ方を理解すれば土地の相場価格が推測できるメリットがあります。たとえば、売却を検討中だが、査定ではなく相場だけを知りたい場合にも、路線価の知識が必要です。
売却の際には、一般的には複数の不動産会社に査定を依頼します。各会社も路線価の価格を基にして、土地価格を決めているため、査定前に路線価を使い相場価格をつかんでおくのが大切です。
相場をつかむことは、各社の査定を比較する際の材料になり、冷静な判断につながります。実勢価格を決める取引の際にも、路線価の知識を生かした交渉をしていかなければなりません。
路線価が理解できると、相場とかけ離れた売買価格をチェックできます。
路線価とあまりにも違う土地価格が設定されていた場合、不明点が明確にわかるので、一方的な話し合いになりにくい点もメリットです。
たとえば、路線価よりもかなり低い価格での売却は「みなし贈与」と判断されます。相手に財産を与えたと同様にとらえられるため、贈与税が課税される可能性が高いです。
国も、不動産売却の実態には目を光らせています。売却する側にも、路線価とかけ離れた土地価格を見抜く意識が必要です。
路線価を算出し、参考にしながら取引を始めたい人もいるのではないでしょうか。不動産売却における路線価の活用には、おさえるべきポイントが3つあります。以下にまとめましたので、参考にしてください。
【路線価を活用するポイント】
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
路線価は、国土交通省が公表する地価の8割程で設定されています。
そのため、路線価と土地の売買価格は同じではありません。路線価から割り出した価格は、実勢価格よりも低くなるのが普通です。
路線価はもともと、相続税や贈与税の算出を目的に使用されます。実勢価格とは多少の差額があるのは、念頭に置くべきです。
路線価は実勢価格を設定する上での目安になりますが、あくまで参考値と考えましょう。実際の取引では、路線価の1.1〜1.2倍に設定されるケースが多いので、覚えておく必要があります。
路線価が定められている土地は、都市部に多い傾向があります。地方にある土地の多くは、路線価が定められていません。
そのため、都市部の土地を売却する場合は、価格の相場を知るために路線価の知識が役立ちます。しかし、地方の土地には路線価が設定されていないケースが多く、かわりに「倍率方式」による評価をおこなうのがポイントです。
倍率方式による計算は路線価よりも複雑になっているため、不動産鑑定士などの専門家に依頼する場合もあります。
地方の土地の売却を検討している人は、路線価が設定されているかの確認が必要です。路線価では土地価格の相場が把握できない可能性があることを覚えておいてください。
路線価を調べることで、ある程度の相場価格がわかったら、売却の前に不動産鑑定士に鑑定を依頼するのも大切なポイントです。
不動産鑑定士とは、不動産に関する国家資格で、地域環境や社会情勢を考慮した適正な地価などを判断します。不動産を売却するときに、専門家の分析による適正な価格を知った上で取引をしたい人におすすめです。
不動産鑑定の費用は、鑑定士によって幅はありますが、20〜30万円が相場になっています。鑑定結果が出るまでには1週間前後の日数が必要です。
路線価の計算によって、ある程度の土地価格の目安をつけるのは大切ですが、実際の取引では価格の差が発生します。大切な財産を後悔なく売却するためにも、不動産鑑定によって正確な土地価格を把握するのも大切です。
この記事では、路線価の調べ方や計算方法、実勢価格との違いについて解説しました。
路線価について「自分でも計算できるかもしれない」と思えるようになったのではないでしょうか。路線価の知識は不動産売却の取引をする上で非常に役立ち、大切な財産を守るための武器になります。
路線価についての知識を深め、不動産売却を成功させましょう。
関西学院大学法学部法律学科卒。
宅地建物取引士、管理業務主任者、2級FP技能士(AFP)、登録販売者など多岐にわたる資格を保有。 数々の保有資格を活かしながら、有限会社アローフィールド代表取締役社長として学習塾、不動産業務を行う。