マンション売却でかかる費用には、不動産会社に支払う仲介手数料や売買契約書に課せられる印紙税、登記費用、ローン繰上返済にかかる費用などがあります。また、売却によって得た利益は譲渡所得税の対象となるため、確定申告をして税金を納めなければなりません。
細かい費用としては、売買の手続きや契約の際に必要となる印鑑証明書や住民票、固定資産税評価証明書などの取得に、1通あたり数百円かかります。
その他、場合によっては引っ越し費用やハウスクリーニング代、売却するマンションのイノベーション費用がかかることもあるでしょう。
仲介手数料は、マンションの売却活動をお願いする不動産会社に対して支払う報酬です。マンション売却にかかる費用のうち、もっとも金額が大きいのは仲介手数料になるでしょう。
不動産会社の売却活動では、物件の情報をチラシに載せたり広告を掲載したり、情報サイトに登録するための費用がかかります。ほかにも契約時の書類作成や、購入希望者の内覧対応、価格交渉といった人件費もかかるので、発生する費用と売買成立の報酬として、仲介手数料は欠かせません。
仲介手数料は売買契約が成立した段階で、不動産会社に報酬請求権が発生します。
したがって、売却の相談や売却価格の査定をした段階では、仲介手数料は発生せず、売却するまでに時間がかかったからといって手数料を上乗せされることもありません。仲介手数料の支払いは、売買契約締結時と決済・引き渡し時の2回、各50%ずつに分割して支払うケースがほとんどです。
ただし、地域や不動産会社によっては、1度に全額請求されることもあるので、仲介手数料をいつ支払うのかは事前に確認しましょう。
契約書や受領書、証書などの書類のうち、課税文書に該当するものは印紙税がかかります。
マンションの売却時に取り交わす不動産売買契約書は、課税文書です。そのため、契約金額に応じた印紙税を納めなければなりません。
なお、2014年4月1日から2022年3月31日までの間に作成された不動産売買契約書は、軽減税率が適用されるため、印紙税の負担が下げられています。
【契約金額ごとの印紙税】
印紙税は収入印紙を購入して契約書に貼付、再利用できないよう消印を押すことで納付となります。
契約書への印紙貼付を忘れていたり、消印をしていなかったりすると納税とみなされず、過怠税が発生するので注意しましょう。
とはいえ、マンションをはじめとする不動産売却において、不動産売買契約書は不動産会社が作成し、印紙の貼付け・消印をしてくれるケースがほとんどです。売主は、自身が負担する印紙税相当の金額を不動産会社に支払え、印紙税を払い忘れることはないでしょう。
なお、課税文書にあたるのは、用紙に記載して交付された書類とされています。契約書類の交付を電子データで完結させる電子契約ならば、印紙税は不要です。
マンション売却時には、抵当権抹消や所有権移転登記が必要となるため、登録免許税や手続き費用がかかります。売却予定のマンションに住宅ローンが残っているなら、住宅購入資金を貸している金融機関が抵当権を設定しています。
これは、金融機関が貸したお金を回収できなくなるのを防ぐためです。もしも、ローンの返済ができなくなった場合、抵当権を持っている金融機関は裁判所に申し立てて強制的に売却し、売却代金からお金を回収できます。抵当権が残っている状態のマンションは売れにくいので、売却時には抵当権をなくすために、抵当権抹消登記が必要です。抵当権抹消登記は登録免許税を支払い、法務局で手続きをします。
この手続きは必要書類を準備する手間があるので、司法書士に依頼するケースが多いでしょう。その場合、登録免許税だけでなく、司法書士に支払う報酬も発生します。
また、不動産の所有者が変わった際は、所有権移転登記をします。この登記は新しく不動産を取得した買主側で実施するのが一般的です。そのため、特別な取り決めがない限りは、売主側で所有権移転登記をしたり、手続き費用を負担したりする必要はありません。
マンション売却によって利益が出ると、その利益は譲渡所得となり、譲渡所得税が課せられます。譲渡所得税を納めるには、売却した翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告が必要です。
【譲渡所得の求め方】
譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
【譲渡所得税の求め方】
譲渡所得税=譲渡所得金額×税率
譲渡所得は売却した不動産の所有期間により、長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けられ、適用される税率が変わります。
【譲渡所得税の税率】
譲渡所得税は所得税と住民税で構成されており、2037年12月31日までは所得税部分に2.1%の復興特別所得税が加算されます。
【復興特別所得税を含めた譲渡所得税の税率】
また、売却するマンションが自宅や、相続した不動産であれば、譲渡所得税を軽減する特例があるので活用しましょう。
譲渡所得税のうち、所得税については3月15日までに行う確定申告によって申告・納付しますが、住民税の納付は6月からです。
確定申告後、6月初めごろに納税通知書が届くので、期日までに納付しましょう。期限は6月末・8月末・11月末・1月末の4回に分けられています。
確定申告の際に納めた金額だけで、マンション売却にかかる税金の納付が終わったわけではないので注意しましょう。
売却するマンションに住宅ローンの残債があるなら、繰上返済する必要があります。抵当権抹消登記をするためにも、ローンの返済を終えなければなりません。また、繰上返済には、手数料もかかります。
返済費用を準備するには、借入れしている金融機関への問い合わせ、または残高証明書を確認し、ローン残高を正確に把握することが必要です。
繰上返済の手数料は、金融機関や支払い方法により異なります。最近はインターネットから手続きすると手数料が安くなるものもあるので活用するとよいでしょう。
マンションの仲介手数料は法律により上限が決まっているので、それ以上の金額を請求されることはありません。ここからは仲介手数料の計算方法や目安について解説します。
仲介手数料は売却するマンションの金額によって決まりますが、法律により上限額が設定されています。
このように、仲介手数料の上限は、売却価格を200万円までの部分・400万円までの部分・400万円を超える部分と、3段階に分けて計算するようになっています。
手間がかかるようですが、400万円以下の不動産なら「売却価格額×4%+2万円+消費税」、400万円を超える不動産なら「売却価格額×3%+6万円+消費税」という速算式が使えます。
この計算式によって求められる以上の金額は、仲介手数料として請求されません。仲介手数料の目安となるので、マンション売却の際は覚えておきましょう。
仲介手数料は、多くの場合、法律で決められた上限額を請求されます。とくに大手不動産会社は一律で定めており、割引や値引き交渉をしていないケースが多いようです。
なお、売却価格が400万円以下の場合、仲介手数料を最大18万円まで請求できる特例があります。
物件の状態や立地が悪く、売却価格が400万円以下となる場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料に対して労力がかかりすぎるためです。
利益の出ない売却活動は不動産会社も引き受けたがりません。その結果、売却できない物件が地方の空き家として残ってしまう問題が生じる恐れがありますが、そうならないための対策として、この特例が設けられています。
実際にどの程度の費用がマンション売却でかかるのか、例を挙げてシミュレーションしてみましょう。
必要な金額を知っていれば、支払うタイミングで慌てることなく、お金の準備ができます。
築20年のマンションを3000万円で売却したものとして、仲介手数料をシミュレーションします。
税込1,056,000円(消費税10%)
このシミュレーションでは、売却価格の約3.5%の金額が費用としてかかる結果となりました。
今回の計算では必要最小限の項目で試算しましたが、築年数が20年を経過しているので、売却前にリノベーションが必要かもしれません。ほかにもローンの繰上返済や、引っ越し、ハウスクリーニングが必要ならば、さらに費用は増えます。
マンションの状態にもよりますが、最低でも売却価格の3.5%程度の費用がかかると考えておきましょう。
マンション売却でかかる費用のうち、仲介手数料は大きな割合を占めるので、金額を抑えたいところです。
仲介手数料を抑えるコツを解説します。
売却相談している不動産会社に交渉し、仲介手数料を値引きしてもらえれば、売却にかかる費用を抑えられます。築年数や立地といった不動産の条件によって、売却活動を行う不動産会社の負担は変化します。しかし、マンションの売却価格そのものは、不動産会社の負担に影響しません。
売却価格に応じて不動産会社が請求できる仲介手数料の上限は上がりますが、交渉材料にできる要素があるならば値引いてもらえる可能性もあるかもしれません。
売却活動を依頼する不動産会社と結ぶ媒介契約には、一般媒介契約・専任媒介契約・専属専任媒介契約の3種類があります。
【媒介契約の種類による違い】
(3か月が目安)
(契約した不動産会社に仲介してもらう)
専任媒介契約と専属専任媒介契約は、同時に複数の不動産会社と結べません。他社と競うことなく販売活動の成果として仲介手数料を確実に受け取れるため、不動産会社に好まれる媒介契約です。
媒介契約を一般媒介契約ではなく、専任媒介契約や専属専任媒介契約に変えることを条件にすれば、値引き交渉の材料になるかもしれません。
仲介手数料を値引きしてもらえれば、マンション売却にかかる費用負担を抑えられます。
しかし、値引き交渉にはデメリットもあります。
仲介手数料は不動産会社の利益です。得られる利益が少ないマンションを売却するために、不動産会社が熱心に働きかけてくれるとは思えません。利益の多い物件が優先され、自分のマンションへの対応は後回しにされる恐れもあるでしょう。
このように、仲介手数料の値引きには、不動産会社の意欲を失わせるリスクもあります。
仲介手数料を抑えるには、値引き交渉も方法の一つです。しかし、マンションをより高く売却できるよう働きかけてもらうほうが、利益が増える可能性があります。値引き交渉は節度を考え、使える交渉材料がある場合だけにしておくのが無難です。
仲介手数料の上限は法律で決められていますが、下限については制限がありません。不動産会社のなかには、仲介手数料の安さで勝負しているところもあります。
とはいえ、安さだけで不動産会社を決めてしまうと、売却結果に不満が残る場合もあるでしょう。大手の不動産会社では、会社方針で仲介手数料を決めているため、個別の値下げ交渉は難しい傾向にあります。
しかし、中小規模の不動産会社では、大手にはできない個別の値下げ対応や、独自の手数料設定でサービスしている場合があります。地域に根ざした信頼できる不動産会社のなかに、仲介手数料を安くしているところがないか探してみましょう。
せっかくマンションを売却するなら、少しでも利益を多くしたいものです。
利益を増やすには、仲介手数料をいかに安くするかに注力するより、マンションの価値を高めて有利な条件で売却する努力をしたほうが良い結果を得やすいでしょう。
それには販売力のある不動産会社に依頼するだけでなく、売却価格の設定や売却時期、マンションの価値を高める方法などを考えるのも重要です。
マンションの売却価格が高くなれば、得られる利益も大きくなります。高値売却を叶えるには、査定額が適切な不動産会社に依頼し、相見積もりを取って決めるようにしましょう。
また、不動産会社任せにせず、提示された金額が適切であるか自身で情報収集し、相場を知っておくのも重要です。
マンション売却では、購入を希望する人が見つかってから価格を交渉する可能性があります。当初の設定額から値下げして売却するケースも珍しくないので、はじめから低い売却額にしていると高値で売れません。売却額の設定は弱気にならず、納得できる金額を提示しましょう。
マンションの購入希望者が増える、不動産の需要が高い時期を狙って売却するほうが、高値で売りやすくなります。
例年、4月からの新年度に向けて住み替えを考える人が増加するため、1月あたりから中古マンションの成約数が増えていきます。つまり、マンションの購入ニーズが高まる時期に合わせて売却すると、制約しやすく金額も高めに設定できるのです。
売却には数か月時間かかるものとして、売りたい時期から逆算し、不動産会社に相談しましょう。
売却前にマンションをリノベーションし、価値を高めておくのも売却益を増やすために有効です。リノベーションといっても、間取りを変えるような大がかりな工事はしません。むしろ、大がかりな工事をすると、売れにくくなる可能性もあります。
マンションの価値を高めるリノベーションは、内覧時の印象をアップさせる修繕や改修です。とくに、生活に支障が出そうな問題箇所や不潔な印象を与える以下のような部分は、優先的に直しておきましょう。
生活のなかで発生する、細かなキズ・汚れは中古マンションならば仕方のない要素です。しかし、何らかのアクシデントや故意に付けてしまったキズ・汚れがそのままでは悪い印象を与えます。
また、トイレや洗面などの水回り設備の汚れがひどかったり、古すぎたりするのも問題です。ハウスクリーニングをお願いしてきれいな状態にするか、使いやすいものに入れ替えるといったリノベーションを考えてみましょう。
不動産会社によっては、売却活動の一環として、リノベーションの相談や提案をしている場合があります。工事費用は仲介手数料と別に負担しなければなりませんが、不動産売却のプロからのアドバイスが得られれば、マンションの高値売却に近づくでしょう。
マンション売却では、不動産会社に支払う仲介手数料や印紙税、登記費用、ローンの残債返済費用といった負担があり、利益が出たら確定申告によって譲渡所得税を申告・納付します。
仲介手数料は「売却価格×3%+6万円+消費税」という速算式で求められ、この金額は法律で定められた仲介手数料の上限です。仲介手数料は値引き交渉もできますが、不動産会社の利益を減らす行為であるため、販売意欲をそぐ恐れもあります。
マンション売却での利益を増やすなら、仲介手数料を下げる努力よりも、マンションの価値を高め、高値で売れるように考えるほうがおすすめです。最適な売出価格や売却時期を見定め、必要ならリノベーションを実施して、納得できるマンション売却を実現しましょう。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会員 「プリンシプル 住まい総研」所長 住宅情報マンションズ初代編集長
1988年株式会社リクルート入社し、リクルートナビを開発。 2002年より住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長就任。 現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2011 年 12 月同社退職。
プリンシプル・コンサルティング・グループにて2012年1月より現職。 全国の不動産会社のコンサルティング、専門誌での執筆や全国で講演活動を実施。