任意売却とは?競売との違いや注意点をわかりやすく解説

何らかの理由で住宅ローンの返済が難しくなってしまった場合、どのような対処法を取れば良いでしょうか。もちろん家を手放さないのが一番ですが、自己破産や強制的な差し押さえで家を失うのはなんとしても避けたいところでしょう。
このような悩みを持つ方には任意売却がおすすめです。当記事では、任意売却のメリットや競売との違い、注意点などを解説していきます。住宅ローンの返済に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
- 任意売却とは
- 任意売却と競売の違い
- 任意売却の4つのメリット
- 物件所有者の情報を知られない
- 売却額から引っ越し代を捻出できる可能性がある
- 契約条件や引き渡し日などを相談できる
- 売却した家にそのまま住める可能性がある
- 任意売却をする際の注意点
- できるだけ早く売却活動をおこなう
- 任意売却に詳しい不動産会社に依頼する
- 任意売却の流れ
- ①金融機関から督促通知が来る
- ②現状を把握して金融機関と相談・協議
- ③不動産会社に価格の査定を依頼
- ④売却価格や時期を債権者に相談
- ⑤不動産会社と媒介契約を結んで売却活動を開始
- ⑥買主と売買契約を締結
- ⑦不動産の決済&引き渡し
- ⑧債権者と残債務の返済における契約を結ぶ
- 任意売却の際におこなうべきこと
- マンションの場合は管理費・修繕積立金を清算しておく
- 売却にかかる費用の確認・確保
- 売却後の引っ越し代や生活費について債権者に相談する
- 任意売却できない2つのケース
- 金融機関が任意売却を認めていない
- 名義人や連帯保証人が許可しない
- 残債額が大きい場合は自己破産もひとつの手段
- 任意売却に関するよくある質問
- 任意売却をおこなうと信用情報に登録される?
- 自己破産をしたら借入金は帳消しになる?
- 任意売却が不成立になる原因は?
- 連帯保証人がいても任意売却は可能?
- まとめ
任意売却とは
任意売却とは、簡単に言うと住宅ローンが返済できなくなってしまった場合などに金融機関の合意を得て不動産を売却する方法です。
任意売却は、別名「任売」とも呼ばれることがあります。金融機関の合意のもとで一般物件と同様の市場で販売できるので、ある程度所有者の希望やスケジュールに沿っての売却が可能です。
任意売却と競売の違い
住宅ローンの返済を3~6か月間滞納すると「競売」がおこなわれます。競売は、不動産を法的に差し押さえた後に強制的な売却をおこなうので、債務者のスケジュールや希望が考慮されない売却方法です。
不動産の売却で得られた資金は住宅ローンの残債回収に充てられますが、一般の不動産売買と比較すると低価格で取引される可能性が高く、債務者は不利な状態で残債を負担することとなります。また、スケジュールを加味しない競売は、精神的にも金銭的にも債務者を追い込むでしょう。
その一方で任意売却では、ある程度債務者の希望を反映させた売却が可能です。強制退去というよりも引っ越しに近い感覚で売却がおこなえるので、債務者の精神的・金銭的な負担は少ないと言えます。
任意売却の4つのメリット
続いて、任意売却のメリットについて見ていきましょう。任意売却には競売にない下記の4つのメリットが存在します。
【任意売却のメリット】
- 物件所有者の情報を知られない
- 売却額から引っ越し代を捻出できる可能性がある
- 契約条件や引き落とし日などを相談できる
- 売却した家にそのまま住める可能性がある
それぞれ詳しく解説していきます。
物件所有者の情報を知られない
1点目のメリットは、物件所有者の情報を知られないという点です。任意売却をおこなう場合、通常の物件売買と同じ方法で売り出すため、所有者の経済状況が周囲に知られることはありません。
競売の場合には、どうしても裁判所やインターネットで競売物件と告知されてしまいます。「近所の人にお金に困っていることを知られたくない」「周囲に金銭状況を知られずにこっそり引っ越したい」という方には任意売却がおすすめでしょう。
売却額から引っ越し代を捻出できる可能性がある
任意売却では、売却額の配分を債務者と債権者で相談をして決めます。そのため、債務者の今後の生活を加味したうえで、売却額から引っ越し代や生活費を捻出できる可能性があります。
しかし、100%負担してもらえる訳ではないので債権者とうまく交渉する必要があります。
契約条件や引き渡し日などを相談できる
続いて挙げられるメリットは、契約条件をある程度相談できるという点です。任意売却では、通常の売買とほぼ同じ条件で引き渡し日の相談ができます。
そのため、「子どもが卒業してから引き渡したい」「会社の繁忙期が落ち着いた段階で契約を進めたい」など、ある程度の主張ができるでしょう。
売却した家にそのまま住める可能性がある
住宅ローンの支払いが厳しく家を手放す方の多くは「住み慣れた今の家に住み続けたい」と思うのではないでしょうか。任意売却では、売却した家にそのまま住める可能性もあります。具体的な方法は以下の通りです。
【任意売却した家に住み続ける方法】
- 身内に家を買い取ってもらう「家族間売買」
- 投資家に家を買い取ってもらう「リースバック」
さらに、子どもが近い将来住宅ローンを組める場合、借家として住んだ後に住宅を子供名義で買い戻す仕組みもあります。もちろん、全てのケースで売却した家に住み続けられる訳ではありませんが、現在の家に住み続けたい方は任意売却を検討しましょう。
任意売却をする際の注意点
任意売却をおこなう際は、なるべく高く売却するために以下の2つに注意しましょう。
【任意売却をする際の注意点】
- できるだけ早く売却活動をおこなう
- 任意売却に詳しい不動産会社に依頼する
それぞれについて詳しく解説するので、少しでも高額で売るためにもぜひ参考にしてください。
できるだけ早く売却活動をおこなう
金融機関から任意売却の合意を得られた場合、なるべく迅速に売却活動をおこないましょう。売却できる期間が長ければ長いほど、有利な条件で販売できる可能性が高くなるからです。
売却金額が残債を下回れば、残ったローンのみを引き続き返済し続けることになります。このような状況に陥らないよう、できる限り売却活動を早くおこない、良い条件で購入してくれる買い手を見つけましょう。
任意売却に詳しい不動産会社に依頼する
任意売却に精通している不動産会社に仲介を依頼するのも大きなポイントです。
任意売却をおこなう場合には、一般的な物件と同様に不動産会社と媒介契約を結ぶ必要があります。しかし、任意物件に詳しくない不動産会社に依頼してしまった場合、「思ったように手続きが進まない」「金融機関との交渉をうまくおこなってくれない」等のデメリットが生じてしまうでしょう。
そのような事態に陥らないためには、下記のような不動産会社に依頼することをおすすめします。
【任意売却に詳しい不動産会社の特徴】
- 任意売却に関する経験実績が豊富である
- 弁護士や司法書士などが主体、もしくは連携している不動産会社
なるべく有利な条件で売却できるように不動産会社選びは慎重におこないましょう。
任意売却の流れ
それでは実際に任意売却をおこなう際の流れについて解説していきます。任意売却は下記の8つのステップで進んでいきます。
【任意売却の流れ】
- 金融機関から督促通知が来る
- 現状を把握して金融機関と相談・協議
- 不動産会社に価格の査定を依頼
- 売却価格や時期を債権者に相談
- 不動産会社と媒介契約を結んで売却活動を開始
- 買主と売買契約を締結
- 不動産の決済&引き渡し
- 債権者と残債務の返済における契約を結ぶ
それぞれ詳しく解説していきます。
①金融機関から督促通知が来る
住宅ローンを滞納すると、金融機関から督促に関する電話や督促状が届きます。督促通知が来るタイミングは金融機関によって異なりますが、一般的には滞納から1カ月~2カ月のタイミングで連絡が来ると思っておきましょう。
督促通知を受けて返済が厳しい場合は、債権者と相談して任意売却を検討してください。督促通知を無視した場合、競売の準備が開始されてしまうので注意しましょう。
②現状を把握して金融機関と相談・協議
返済が難しいと判断したら、できるだけ早く金融機関にその旨を相談しましょう。可能であれば、督促通知が来る前の早めの相談・協議が望ましいです。
任意売却という方向性に落ち着いた場合には、速やかに不動産会社に依頼をしましょう。
③不動産会社に価格の査定を依頼
任意売却が決まったら不動産会社に物件の査定を依頼します。物件の査定は複数の不動産会社に依頼できるため、いくつかの業者に見積もりを出してもらいましょう。
一社のみに依頼した場合、査定額が妥当か判断できないので損をする可能性があります。できるだけ多くの不動産会社に依頼をしてください。
④売却価格や時期を債権者に相談
売却価格やおおよその時期が決定したら、その旨を金融機関に相談しましょう。債権者からの同意が得られないと任意売却自体が開始できないので必ず相談する必要があります。
また、不動産を売却しても残債がある場合には返済計画も併せて相談していきましょう。
⑤不動産会社と媒介契約を結んで売却活動を開始
金融機関の同意が得られたら、いよいよ売却活動をスタートしていきます。売却活動は原則として一般的な物件と変わりはありません。
内覧時には家主の立会いが求められ、場合によっては売れやすいように日々の清掃をおこなうことも必要です。できるだけ印象を良くするためにも、可能な限り綺麗な状態にしておきましょう。
⑥買主と売買契約を締結
買主が見つかったら、一般的な物件の売買と同様に売買契約を結びます。しかし、任意売却では売買契約をおこなう前に最終的な金融機関の合意が必要です。
また、任意売却では売主が不利な状態にならないよう、下記の特約を組み込むことが一般的なので覚えておきましょう。
【任意売却の特約】
- 債権者から抵当権抹消の合意が得られなかった場合、契約を白紙とする特約
- 不動産を売却した後に、契約内容にない欠陥や不備が見つかった際でも、売主が責任を負う必要のない「契約不適合責任の免責」による特約
⑦不動産の決済&引き渡し
金融機関の同意が得られ買主側の購入準備が整ったら、いよいよ不動産の決済と引き渡しをおこなっていきましょう。決済・引き渡し時には、抵当権の抹消手続きも並行しておこない所有権を買主に移転します。
売却した資金で残債を清算できれば任意売却の手続きは完了です。
⑧債権者と残債務の返済における契約を結ぶ
任意売却しても残債がある場合には、金融機関と協議し返済における契約を結びます。残債務の返済は金融機関とよく相談して、今度こそ滞ることのない無理のない計画を立てましょう。
任意売却の際におこなうべきこと
ここまでは、任意売却の流れについて解説してきました。任意売却は金融機関に相談する以外には一般的な物件売買とほぼ相違がありません。
しかし、任意売却をおこなうにはある程度の下準備が必要です。スムーズに任意売却を進めるために、下記の事項を確認しておきましょう。
【任意売却の際におこなうべきこと】
- マンションの場合は管理費・修繕積立金を清算しておく
- 売却にかかる費用の確認・確保
- 売却後の引越し代や生活費について債権者に相談する
それぞれの項目について詳しく解説します。
マンションの場合は管理費・修繕積立金を清算しておく
任意売却をしようと考えている物件がマンションである場合、売買手続きを進める前に管理費や修繕積立金を清算しておく必要があります。なぜなら管理費や修繕積立金を滞納したままの場合、その滞納分は新たな買主に引き継がれてしまうからです。
また、管理費や修繕積立金が完済していることを売買の条件としている場合がほとんどなので、必ず事前に清算しておきましょう。どうしても清算が難しい場合には、売却金額から管理費や修繕積立金を清算できないかを金融機関に相談してください。
売却にかかる費用の確認・確保
売却にかかる費用の確保も重要です。任意売却をおこなう際にも、通常の物件売却と同様に不動産会社への諸費用が発生します。具体的には下記の費用がかかるので覚えておきましょう。
項目 | 費用 |
---|---|
不動産会社に支払う仲介手数料 | 売却金額の3%+6万円及び消費税 ※法律上では最低基準に変更あり |
抵当権の抹消登記費用 | 12,000円前後 |
建物設備にかかる修繕費用や残置物の撤去費用 | 数万円~数十万円 |
土地や建物を売却する場合には測量費用 |
|
売却後の引っ越し代や生活費について債権者に相談する
無事に任意売却が完了しても、債務者にはその後の生活があります。
新しい生活には、引っ越し費用や物件の初期費用など何かと物入りになるので、これらの生活費の相談を金融機関にしておきましょう。
金融機関によっては、売却して得た代金の中から当面の生活費や引っ越し費用を出してくれる場合もあります。しかし、全ての金融機関が生活費を出してくれるわけではありません。売却後の生活に困ることのないよう、親族などからお金の工面をしておきましょう。
任意売却できない2つのケース
任意売却は競売よりもデメリットを抑えて物件を売却できます。しかし、いくら任意売却への準備を整えても、以下のケースに該当する場合には手続きをおこなえません。
【任意売却がおこなえないケース】
- 金融機関が任意売却を認めていない
- 名義人が許可しない
それぞれ詳しく解説していきます。
金融機関が任意売却を認めていない
金融機関の中には、そもそも任意売却を認めていない会社もあります。住宅ローンを借りている会社の方針として任意売却をおこなっていないのであれば、残念ですが手続きはできません。
なぜなら、そもそも任意売却は金融機関にとってリスクであり、未回収という最悪の選択肢を避けるための最低限の対処だからです。任意売却を認めていない金融機関から同意を得ることは困難なので、諦めるほかないでしょう。
名義人や連帯保証人が許可しない
任意売却は、金融機関だけでなく名義人や連帯保証人の同意を得る必要があります。例えば連盟契約をしている場合、加盟している人の全員の同意が必要です。
名義人や連帯保証人のうちの一人でも反対した場合は、任意売却をおこなえません。そのような事態にならないためにも、連盟契約者や連帯保証人との関係を維持し、合意を得られるようにしておきましょう。
残債額が大きい場合は自己破産もひとつの手段
任意売却をおこなっても多くの残債がある場合には、自己破産も選択肢の1つとして考えておく必要があります。
具体例を挙げてみましょう。
残債5,000万円の状態で任意売却をおこなったとして、売却額が4,000万円になった場合、残りの1,000万円は返済額として払い続ける必要があります。
月5万円ずつ返したとしても約17年間も返済を続けなければいけません。返済が長期化することは、債務者にとっても債権者にとってもメリットがありません。
このように、任意売却をおこなうことにメリットを感じない場合には、自己破産も選択肢として考えてみましょう。
任意売却に関するよくある質問
最後に、任意売却に関するよくある質問をまとめました。
【任意売却に関するよくある質問】
- 任意売却をおこなうと信用情報に登録される?
- 自己破産をしたら借入金は帳消しになる?
- 任意売却が不成立になる原因は?
- 連帯保証人がいても任意売却は可能?
わからないことを少しでも減らしておくことが大切です。それぞれ詳しく解説するのでチェックしておきましょう。
任意売却をおこなうと信用情報に登録される?
結論から先に申し上げると、任意売却をおこなっても信用情報に登録はされません。なぜなら、信用情報機関は借金の返済に関する情報を集めるだけの機関だからです。
任意売却に関する情報は収集していないので、「任意売却をおこなったらクレジットカードが作れない・新たにローンが組めない」という点は心配しなくて良いでしょう。
自己破産をしたら借入金は帳消しになる?
自己破産は借金の返済の義務を免責する制度なので、税金を除いた全ての借入金は帳消しになります。
しかし、自己破産をおこなうためには、返済能力がなく債務超過している等のいくつかの要件を満たす必要があります。借入金を帳消しにしたい全ての方が利用できるわけではないので注意しましょう。
また、自己破産をおこなうと家のみでなく、家財や車といった時価20万円以上のものが基本的には全て没収されてしまいます。さらに、信用情報にも登録されて最低7年間は現金で生活しなければならないので、自己破産はあくまでも最終手段であると考えておきましょう。
任意売却が不成立になる原因は?
任意売却が不成立になる原因は以下の通りです。
【任意売却が不成立になる原因】
- 債務者が非協力的である
- 債務者が想定するより売却金額が低かった
- 仲介する不動産会社の任意売却の経験不足
任意売却が不成立に終わる理由は、上記の原因がほとんどです。裏を返すと、債務者が任意売却に積極性を持ち適切な不動産会社を選べば、ほとんど成立するとも言い換えられます。
連帯保証人がいても任意売却は可能?
原則として連帯保証人がいても任意売却は可能です。しかし、連帯保証人の協力や理解は欠かせないでしょう。なぜなら、任意売却をおこなうためには連帯保証人の同意が必要なうえに、売却後に残債があれば今後も支払い義務が残り続けるからです。
連帯保証人の理解を得るには、債務者本人が任意売却についてよく知っておく必要があります。まずは、任意売却のプロに依頼して連帯保証人の理解を得られるようにしましょう。
まとめ
当記事では、任意売却の流れや競売との違いについて解説してきました。任意売却は家主の希望にも沿いながら売却をおこなう方法です。販売条件や時期などをある程度決められるのは、大きなメリットと言えるでしょう。
しかし、その一方で任意売却にはいくつかの注意点も存在します。競売や自己破産という最悪の選択肢を選ばないためにも、住宅ローンの返済が難しいと感じたらすぐに専門家に相談してみましょう。