固定資産税評価額から売却相場は計算できる?計算方法と注意点を解説

不動産の売却を考えた時、「まずは、ざっくりとでいいから、いくらくらいで売れるのか知りたい」と思いますよね。手元にある固定資産税の納税通知書を見て、「この評価額から売却相場を計算できないか?」と考える方も多いのではないでしょうか。

結論から言うと、固定資産税評価額を使って売却相場の目安を自分で計算することは可能です。ただし、あくまで概算であり、正確な価格を知るためにはいくつかの注意点を理解しておく必要があります。

この記事では、固定資産税評価額から売却相場を計算する方法、計算の精度を高めるポイント、最も正確な価格を知るためのステップまで、わかりやすく解説します。

この記事でわかること
  • 固定資産税評価額から売却相場の目安を計算する方法
  • 計算に使う「公示価格」と、他の公的な土地価格との違い
  • 計算結果と実際の売却価格がずれる理由と、精度を高めるチェックポイント
  • 専門家による正確な査定を受けることの重要性

結論:固定資産税評価額から売却相場は「約1.4倍」で概算できる

固定資産税の納税通知書に記載されている「評価額」がわかれば、簡単な計算式で売却相場の目安(実勢価格)を算出できます。

まずはこの計算方法を理解し、ご自身の不動産がいくらくらいになりそうか、シミュレーションしてみましょう。

【簡単シミュレーション】評価額1,500万円の土地の売却相場は?

売却相場の目安は、以下の3ステップで計算します。

  • 固定資産税評価額 ÷ 0.7 = 公示価格の目安
  • 公示価格の目安 × 1.1 = 売却相場の目安(下限)
  • 公示価格の目安 × 1.2 = 売却相場の目安(上限)

この計算式をまとめると、売却相場の目安(下限)は「固定資産税評価額 ÷ 0.7 × 1.1」となり、これは「固定資産税評価額 × 約1.57」とほぼ同じ意味になります。

多くのウェブサイトで「評価額の1.4倍〜1.6倍」と紹介されているのは、この計算に基づいています。

▼評価額1,500万円の土地の場合の計算例

ステップ 計算式 計算結果 備考
1 1,500万円 ÷ 0.7 約2,143万円 公示価格の目安を算出
2 約2,143万円 × 1.1 約2,357万円 売却相場の目安(下限)
3 約2,143万円 × 1.2 約2,571万円 売却相場の目安(上限)

このように、固定資産税評価額が1,500万円の土地は、およそ2,357万円〜2,571万円が売却相場の目安となります。

なぜ「0.7」や「1.1」で計算するのか?公的価格との関係

この計算式は、固定資産税評価額と他の公的な土地価格との関係性に基づいています。

固定資産税評価額と公示価格の関係
固定資産税評価額は、地価公示価格(国が示す土地の正常な価格)の70%程度になるように調整されています。 そのため、評価額を「0.7」で割り戻すことで、おおよその公示価格を逆算できるのです。

公示価格と売却相場(実勢価格)の関係
実際の不動産取引価格である売却相場(実勢価格)は、公示価格の1.1倍〜1.2倍程度で取引されることが一般的です。 これは、売り手と買い手の交渉や、その時々の需要によって価格が上乗せされるためです。

これらの関係性を理解することで、単に計算式を覚えるだけでなく、なぜその計算で相場がわかるのかというロジックを掴むことができます。

そもそも固定資産税評価額とは?4つの公的価格との違い

なぜ、固定資産税評価額からさらに計算する必要があるのでしょうか。

それは、「固定資産税評価額」が売買のために設定された価格ではないからです。不動産の価格には、目的の異なる4つの公的な価格(一物四価)が存在するため、それぞれの違いを理解することが重要です。

4つの主要な公的価格の比較

これらの価格は、誰が、何のために決めるのかによって、基準となる金額が異なります。

種類 目的 決定機関 基準日 価格水準の目安
①公示価格 公共事業用地の取得価格算定や、一般の土地取引の指標 国土交通省 1月1日 実勢価格の90%程度
②基準地価 ①公示価格を補完し、地方の土地取引の指標となる 都道府県 7月1日 ①とほぼ同じ
③相続税路線価 相続税や贈与税の計算 国税庁 1月1日 ①の80%程度
④固定資産税評価額 固定資産税や都市計画税などの計算 市町村 1月1日(3年毎に評価替え) ①の70%程度
筆者からの一言アドバイス
「なぜこんなに公的価格の種類があるのか」と疑問に思うかもしれません。これは、それぞれの税金や取引の公平性を保つために、異なる目的で価格が設定されているためです。特に「固定資産税評価額」は、あくまで税金を計算するための基準値であり、市場での人気や需要は直接反映されていない、という点を覚えておきましょう。

売却相場の計算精度を高めるための3つのチェックポイント

ここまでの計算式は、あくまで「平均的な不動産」を想定したものです。実際の売却価格は、物件の持つ個別の事情やその時々の市場環境によって大きく変動します。

そのため、以下の3つのポイントを確認することで、より現実に近い価格をイメージできます。

① 建物・土地の個別的要因(築年数、形状など)

不動産は、以下のような個別の要因が価格に大きく影響します。

  • 建物の状態: 築年数、リフォーム履歴、設備の状況、耐震性など。建物の評価額は年々減少(減価償却)しますが、市場ではリフォームによって価値が維持・向上しているケースもあります。
  • 土地の条件: 土地の形状(整形地か不整形地か)、接道状況(どの方角の道路に何メートル接しているか)、日当たり、周辺環境(騒音、眺望)など。

② エリアの市場動向(再開発、金利など)

不動産が所在するエリアの将来性や、経済全体の動向も価格を左右します。

  • 地域要因: 近隣での再開発計画、新駅の設置、商業施設の開業など、利便性が向上するニュースは価格上昇の要因になります。
  • 経済要因: 住宅ローン金利の動向や景気の状況は、購入希望者の数に直接影響します。金利が低い時期は購入者が増え、価格が上がりやすい傾向にあります。

③ 取引時期の需給バランス

最終的に価格を決めるのは、その不動産を「買いたい」と思う人がどれだけいるか、という需要と供給のバランスです。

  • 供給: 同じエリアで似たような物件が多数売りに出されていると、価格競争が起きやすくなります。
  • 需要: 特定の学区が人気であったり、都心へのアクセスが良いなど、そのエリアで物件を探している人が多ければ強気の価格設定でも売却できる可能性があります。

最も正確な売却相場を知る方法:不動産会社による査定

ここまでの内容である程度売却価格の目安はつけられますが、個別要因や市場動向を正確に価格へ反映させるのは専門家でなければ困難です。そのため、最終的に正確な売却相場を知るためには、不動産会社による専門的な査定が不可欠です。

机上査定と訪問査定の違いとは?

査定には、大きく分けて「机上査定」と「訪問査定」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に合わせて使い分けましょう。

査定方法 概要 メリット デメリット
机上査定(簡易査定) 住所、面積、築年数などの物件情報と、周辺の類似物件の取引事例や相場データをもとに、概算の査定額を算出する方法。 ・匿名で手軽に依頼できる
・短時間で結果がわかる
・あくまで概算であり、精度は低い
・物件の個別的な状況は反映されない
訪問査定(詳細査定) 不動産会社の担当者が実際に現地を訪れ、建物の状態、日当たり、周辺環境などを詳細に調査した上で、より正確な査定額を算出する方法。 ・精度の高い査定額がわかる
・売却に向けた具体的な相談ができる
・現地での立ち会いが必要
・査定結果が出るまでに時間がかかる

査定を依頼する際の不動産会社の選び方

査定は1社だけでなく、複数の会社に依頼する「一括査定」がおすすめです。

  • 複数の査定額を比較する: 1社だけの査定では、その金額が適正かどうか判断できません。複数の会社から査定額を取り付けることで、客観的な相場観を養うことができます。
  • 担当者の対応や提案力を見る: 査定額の根拠を明確に説明してくれるか、地域の市場動向に詳しいか、売却に向けた具体的な戦略を提案してくれるかなど、信頼できる担当者を見極める良い機会になります。
  • 会社の得意分野を確認する: 不動産会社には、マンション売却に強い会社、土地取引が得意な会社など、それぞれ得意分野があります。ご自身の物件種別に合った会社を選ぶことが、高値売却への近道です。

よくある質問

最後に、固定資産税評価額や売却相場に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. 自分の固定資産税評価額はどこで確認できますか?
A1. 以下の3つの方法で確認できます。

  • 課税明細書を見る: 毎年4月〜6月頃に市町村から送られてくる「固定資産税・都市計画税 納税通知書」に同封されている「課税明細書」の「価格」または「評価額」の欄に記載されています。
  • 固定資産評価証明書を取得する: 市町村の役所や都税事務所などで、手数料を支払うことで取得できます。
  • 固定資産課税台帳を閲覧する: 関係者(所有者、借地人など)であれば、役所の窓口で閲覧することができます。
Q2. マンションの売却相場も同じ方法で計算できますか?
A2. 目安として計算することは可能ですが、戸建てや土地に比べてずれが大きくなる傾向があります。 マンションの場合、同じ建物内での過去の取引事例が非常に有力な参考情報となります。不動産ポータルサイトで同じマンションの売り出し履歴を調べたり、不動産会社に直接問い合わせてみるのがおすすめです。
Q3. 評価額が低いのに売却価格が高いのはなぜですか?
A3. 固定資産税評価額が更新されるのは3年に一度であり、その間の市場の急激な変動(例:近隣に新駅ができて人気が急上昇したなど)が反映されていないためです。また、リフォームによって建物の価値が市場で高く評価されている場合や、購入希望者からの需要が非常に強い場合なども、評価額と売却価格の差が大きくなる要因となります。

まとめ

この記事では、固定資産税評価額から売却相場の目安を計算する方法について解説しました。

  • 売却相場の目安 = 固定資産税評価額 ÷ 0.7 × (1.1〜1.2)
  • この計算はあくまで概算であり、物件の個別性や市場動向によって価格は変動する
  • より正確な価格を知るためには、複数の不動産会社に査定を依頼することが不可欠

ご自身で計算した価格は、あくまで「あたりをつける」ためのものです。この目安を参考に、次のステップとして不動産会社に相談し、専門家の視点から具体的な売却戦略を立てていくことをおすすめします。

藤川和也
藤川和也

保有資格:行政書士試験合格/宅地建物取引士/工業英検3級
経歴:高専情報学科を卒業後、清涼飲料メーカーで製造・設計・品質保証に6年間従事。現場改善と品質管理の実務スキルを磨いた後、司法書士法人で不動産登記の補助者業務に約3年間携わり、提携先不動産会社では個人間取引・自社仕入物件の販売・自社購入など多様な売買仲介を担当。エンジニアリング視点と法務知識を掛け合わせ、登記手続きの正確性と取引リスク低減を実現している。

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