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傾斜地付近の土地に家を建てたいと考えているものの、がけ条例でどんな制限や追加費用が発生するのか不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
実際、土地探しや中古住宅の購入の場面で、がけ条例の適用有無が分からずに手続きに迷ってしまうケースも少なくありません。
この記事では、がけ条例の基礎知識から自治体ごとの規制内容の違い、緩和措置、申請手順までをわかりやすく解説します。
がけ条例(崖条例)とは、建築基準法19条4項が定める「がけ崩れ等による被害のおそれがある場合の安全措置」を、建築基準法40条に基づき各自治体が具体化したものです。
自治体は地形・土質・災害履歴に応じ、離隔距離や擁壁の構造・排水、提出書類などを詳細に規定します。
実務では、該当敷地がどの定義・図面(上端/下端、がけの一体性等)に当たるかを、自治体様式の調査票や図面で確認します。
「がけ」の定義は、自治体によって異なります。多くの自治体では、がけの角度(例:30度超えまたは1/2勾配)と高さ(例:2mもしくは3m超え)の組み合わせで定義しています。
また、自治体ごとに例外規定や補強条件が追加されています。たとえば、千葉県では、がけの定義にあてはまる場合でも、「土質調査等により硬岩盤(風化の著しいものを除く。)であると確認された部分については、がけとはみなされない。」といった例外規定を設けています。
建築基準法19条4項は、がけ崩れなどの被害を受けるおそれがある場合に、擁壁の設置などの安全措置を求める抽象規定です。建築基準法40条では、各自治体が具体的な基準を付加できる旨が規定されています。
これにより、各自治体ごとに以下の基準を定めています。
各自治体のがけ条例・要綱に従わなければ建築確認は通りません。事前に自治体へ協議し、調査票や判定シートを提出することが実務上必要です。
がけ条例は、自治体が地域特性に応じて距離係数や構造基準を設定します。たとえば、同じ高さ2 mのがけでも、東京都は高さの2倍、千葉県は上端1.5倍・下端2倍などと基準が異なります。県境付近の土地を選定する場合は確認が欠かせません。
都道府県 | 離隔距離 | 条例 | |
---|---|---|---|
東京都 | 2倍 | 建築安全条例第6条 | |
千葉県 | がけの上:がけの下端から1.5 倍
がけの下:がけの上端から2倍 |
千葉県建築基準条例 | |
神奈川県 | 2倍 | 横浜市建築基準条例 |
こうした規定の違いによって、同じ敷地条件でも建築可能範囲や造成費用が変わるため、事前に各自治体の条例を確認することが不可欠です。
一部の自治体では、がけ対策に関する補助制度が設けられている場合があります。たとえば、東京都港区では、「がけ・擁壁改修工事等支援事業」を行っています。ただし、補助率や上限額は自治体ごとに異なり、毎年度見直されるため、必ず最新の募集要領を確認してください。
参照元:
がけ条例における離隔距離は、がけの高さを基準に設定され、自治体ごとに数値は異なります。
このように、がけの高さの2倍の範囲を制限する自治体もあれば、1.5倍とする自治体もあるなど、一律の基準は存在しません。
擁壁(ようへき)とは、がけ崩れを防ぐために建築基準法19条4項・施行令142条に基づいて設置が求められる主要な安全措置です。擁壁の素材としては、鉄筋コンクリート(RC)擁壁、石積み擁壁、ブロック擁壁がありますが、一般的には鉄筋コンクリート造が用いられます。
擁壁の耐久性は配筋や排水構造などに左右されます。不適切な施工では、排水機能不良やひび割れが早期に生じ、補修費が高額になる場合もあります。
一般的な鉄筋コンクリート擁壁の場合、1㎡あたり5万〜10万円程度が目安となります。自治体によっては、助成金を活用できるケースもあります。
高さ (m) | 延長 (m) | 単価 (万円/m²) | 概算費用 |
---|---|---|---|
2 | 10 | 5 | 約 100 万円 |
3 | 15 | 6 | 約 270 万円 |
設置費用は、擁壁の高さや延長距離によって変わります。また、擁壁の勾配や作業環境(現地までの道が狭く小さなトラックで何回も往復しないといけないなど)によっても費用は変わります。見積もり段階で、排水管敷設やフェンスの設置などの追加費用も含めて総額比較をしておくことで、予算オーバーを防げるでしょう。
擁壁工事には土木と建築の双方の知見が要るため、建設業許可を持ち、地盤保証に対応できる会社を選定すると安心です。
複数社の地盤解析レポートや見積書を比較することで、過剰設計や配筋の不足などを見抜ける可能性があります。保証内容を精査し、完成後のメンテナンス費まで視野に入れることが、長期的なコスト削減につながります。
擁壁工事で注意すべきトラブルとして、「排水計画の不備に起因する背面の水圧増加」「水抜き穴の欠如または詰まりによる滞水」「修繕責任範囲をめぐるトラブル」などが挙げられます。擁壁工事の依頼時には、施工内容に加えてメンテナンスについても、しっかりと確認することが重要です。
がけ条例は、原則としてがけ上・がけ下に一定の離隔距離や擁壁の設置を求めるものですが、地盤データや構造計算の裏付けがあれば、制限を緩和できる場合があります。
特に都市部の狭小地などでは、擁壁を新設せずに建物配置や構造設計の工夫で安全を確保することが認められる場合があり、コストと安全性を両立する選択肢となります。ただし、緩和の要件・手続きは自治体ごとに異なるため、事前協議が必要です。
適用除外は、「がけの安定が実証できる」「建物が崩壊荷重に耐える」のいずれかを満たすと認められます。申請時には裏付け資料を添付し、自治体との協議で可否が決まります。
たとえば、東京都の建築安全条例では、適用除外の条件として次のものが規定されています。
規制の緩和を受けるもう一つの方法は、建物自体の設計を変更して安全性を確保することです。
たとえば東京都、神奈川県、千葉県の建築安全条例や建築基準条例では、以下の規定があります。
また、神奈川県では、建築物とがけの間に適当な流土止めを設けた場合も適用外としています。
設計変更は初期コストとメンテナンス費のバランスを考慮し、複数案を比較して採用することが重要です。また、自治体によって規定が異なるケースがあるため、事前に確認するようにしましょう。
土地・中古住宅の売買時に、がけ条例の適用有無は、宅建業法35条に基づく重要事項説明の対象です。説明を怠ると、契約不適合責任や説明義務違反となり、契約解除や損害賠償請求につながるリスクがあります。
東京地裁平成28年11月18日判決では、裁判所は「がけ条例の制限は重要事項にあたり、説明を怠った仲介業者は損害賠償責任を負う」と判断し、擁壁築造費用約2,082万円の賠償を認定しました。
これは、中古住宅の売買において、仲介業者が東京都がけ条例6条に違反している事実を説明しなかったため、買主が後に擁壁工事が必要であることを知った事例です。
この事例は、がけ条例の適用有無を正しく説明しないと重大なトラブルに発展することを示しています 。
2024年の不動産業向け法務教材などでも、「がけ条例の説明不足による損害賠償リスク」の例として、擁壁工事費用請求の可能性があるとされ、業者に注意が喚起されています。
がけ条例が適用される敷地で建築を行う場合、建築確認申請の際に関連資料の提出が必要です。一般的には、以下の書類を揃えるよう求められます。
これらを調査段階から準備しておくと、審査がスムーズになり、審査期間の長期化を防げます。
建築確認申請の電子化率は2024年第一四半期時点で55.5%と、50%を超える水準まで進展しており、着実に実用化が進行しています。
参照元:
がけ条例は、斜面地における建物の安全を守り、土地と建物の資産価値を維持するための重要なルールです。
この流れを押さえることで、思わぬ費用負担や法的トラブルを防ぐことができます。
土地の購入前には必ず自治体の条例を確認し、最新の情報を把握したうえで判断しましょう。そのうえで、設計者や宅地建物取引士などの専門家のサポートを受けながら進めることが、安全・安心な家づくりの近道となります。