根抵当権とは?抵当権との違い・設定と抹消手続きなどをわかりやすく解説!

「根抵当権って何だろう?」と、抵当権との違いや設定・抹消の手続きが分からず戸惑っていませんか?

金融機関から根抵当権の契約を提案されても、メリットとリスクのバランスを判断しづらく、不安になる方も少なくありません。

この記事では、根抵当権の基礎知識から抵当権との違い、設定・抹消手続き、費用、注意点までをわかりやすく解説します。

【この記事でわかること】

  • 根抵当権の仕組みと抵当権との違い
  • 根抵当権の設定・抹消に必要な書類と手順
  • 極度額や費用を抑えるコツと注意点

根抵当権とは

根抵当権(ねていとうけん)は、民法が定める担保物権の一つで、一定の範囲に属する不特定の債権を、あらかじめ定めた「極度額」の限度で担保するために設定できる抵当権です。

抵当権が特定の債権を担保するのに対し、根抵当権は、継続的取引などから生じる複数・将来の債権をひとまとめに担保できる点が特徴です。

たとえば、金融機関による事業資金の継続的な貸付など、継続・反復的な資金需要が想定される場面で活用されます。

根抵当権の範囲と極度額

根抵当権を設定する際には、契約で「担保すべき債権の範囲」と「極度額」を定める必要があります。

  • 担保範囲:根抵当権で担保することができる債権の種類を指します。例として「銀行取引契約に基づく一切の貸付債権」などがあり、契約内容により決まります(民法398条の2、不動産登記法83条)。
  • 極度額:担保される元本・利息・損害金を含めた債務合計の上限額です。根抵当権者が実行できる範囲は、この極度額を超えることはできません(民法398条の3)。

適切に担保の範囲と極度額を設定しておけば、同一取引に基づく追加融資を受ける場合でも新たな抵当権設定登記をする必要がないため、登記費用の削減にもつながります。

ただし、担保範囲に含まれない債務には効力が及ばないため、契約内容を事前に確認することが重要です。

極度額は、不動産評価額を上限に金融機関の審査基準や将来の借入計画を踏まえて設定されますが、実際の貸出予定額は極度額の80%前後に抑えられるのが一般的です。たとえば極度額が5,000万円でも、実際に借りられるのは4,000万円程度になります。これは、金融機関がリスクヘッジとして、極度額いっぱいの貸し出しを避けているためです。

参照元:民法398条の2以下|e-GOV法令検索

被担保債権の考え方

根抵当権で実際に担保される債務群のことを、被担保債権といいます。担保されるのは契約で定めた一定の範囲に属する不特定の債権であり、包括的にすべての債務を担保することは認められていません。

取引中に追加融資が行われれば、その範囲に含まれる限り自動的に被担保債権に加わります。

ただし、元本が確定すると新たな債権は担保されなくなり、通常の抵当権と同様の扱いになります。

筆者からの一言アドバイス

被担保債権は「どの借入に根抵当権が及ぶのか」を示すもので、契約書に明確に記載されています。

事業ローンなどを根抵当権で担保している場合、自分の借入がどこまで被担保債権に含まれるのかを確認しておくことが大切です。

抵当権と根抵当権の違い

抵当権と根抵当権は、いずれも不動産を担保に融資を受けられる点では共通していますが、担保する対象債務の範囲や運用方法に違いがあります。

比較項目 抵当権 根抵当権
担保範囲 特定の債務 契約で定めた範囲内の継続的・将来の債務
登記変更 追加融資ごとに必要 原則不要。ただし、債務の範囲や極度額変更には登記が必要
元本確定 設定時に確定 債権者の請求などにより後日確定
実行手順 任意売却・競売 同左

抵当権は単発融資に向き、根抵当権は継続的な資金需要に対応できます。

根抵当権は、追加融資時の手続きの手間や登記費用を抑えられる一方で、債務者にとっては残高が見えにくい側面もあるため、利用目的に応じた選択が必要です。

抵当権は主に、住宅ローンや一度きりの借入などで活用されます。返済が終われば抹消できるため、個人の住宅購入では管理しやすいです。一方で、根抵当権は、会社などが継続的な資金需要(仕入れや運転資金など)に対応する際に活用されます。一度設定すればその後の追加融資も同じ枠内で担保でき、新たに登記をせずに済むため、手間とコストを省けます。

根抵当権のメリット

根抵当権の最大の利点は、極度額の範囲内で繰り返し融資を受けられる点です。抵当権のように新たな契約や登記をその都度行う必要がないため、金融機関は事務負担を減らせ、債務者は迅速な資金調達が可能になります。

  • 将来債務へ柔軟に対応できる
  • 複数債務を一本化し、管理を簡素化できる
  • 再登記が不要となり費用削減につながる

これらのメリットにより、運転資金を繰り返し借り入れる中小企業の事業融資や、不動産投資家が継続的な借り入れを行う場合などに活用されます。

そのため、継続的に融資を受ける場合には、根抵当権が適しているといえるでしょう。

根抵当権のデメリット

根抵当権には、注意すべきデメリットもあります。

根抵当権は、借り入れをすべて返済しても自動的に権利が消えるわけではないため、元本確定しなければ根抵当権の抹消登記ができず、売却は進められません。

また、融資先を変更したい場合も、債権者である金融機関の承諾が必要になります。

この点、抵当権の場合はローンを完済できれば融資先の変更は比較的容易ですが、根抵当権の場合は心理的な負担や時間的なロスにつながることもあります。

根抵当権の設定手続き

根抵当権の設定手続きは、以下の流れで行います。

  • 融資申し込み:金融機関に事業融資やローンを申し込みます。
  • 融資審査・決裁:金融機関の審査を経て承認されると契約準備が始まります。
  • 金銭消費貸借契約・根抵当権設定契約の締結:借入契約と同時に、根抵当権設定契約を交わします。ここで「極度額」と「担保範囲」が明示され、登記原因証明情報などの必要書類を準備します。
  • 融資実行:契約内容に基づき融資が実行されます。
  • 根抵当権設定登記の申請:通常は融資実行と同時に、対象不動産の所在地を管轄する法務局に登記申請します。申請は金融機関が指定する司法書士が行うのが一般的です。
  • 根抵当権設定登記の完了:不動産登記簿謄本の「権利部(乙区)」に、根抵当権が記録されます。極度額や債権の範囲、根抵当権者(金融機関)の名称などが登記事項として記録されます。
  • 登記事項証明書の取得:登記完了後、1〜2週間程度で登記が完了します。

根抵当権の設定手続きの流れは抵当権とほぼ同じですが、契約書に「担保すべき債権の範囲」と「極度額」を明記する点が特徴です。

参照元:登記申請書記載例(根抵当権)|法務局

根抵当権設定には、以下の書類が必要になります。

書類名 取得先
登記原因証明情報(根抵当権設定契約書) 金融機関
根抵当権者(金融機関など)の資格証明書(発行から3か月以内のもの) 金融機関など
印鑑証明書(発行より3か月以内のもの) 不動産の所有者
登記権利証または登記識別情報 不動産の所有者

書類に不備があると補正通知につながり、手続きが遅れる原因となります。

登記申請の流れ

根抵当権の登記申請は、以下の順序で進めるのが一般的です。

  • 司法書士が申請書類を作成する
  • 管轄の法務局へ書類を提出(窓口持参または郵送・オンライン申請)
  • 受付番号を取得※不備があると補正連絡がある
  • 登記完了証を受領する

申請後、補正連絡がなければ3〜5営業日で完了するケースが多いです。オンライン申請なら印紙代を電子納付でき、窓口に出向く手間を省けます。

設定費用の目安

根抵当権の設定費用は、登録免許税と司法書士報酬が中心です。

費目 金額目安 補足
登録免許税 極度額×0.4% 例:極度額1000万円の場合、4万円
司法書士報酬 3〜6万円 極度額や不動産の数、依頼先で変わる
登記事項証明書 600円/通 登記完了後に取得

費用を抑える場合は、極度額を実際の資金需要に見合った範囲に設定する、あるいは複数案件をまとめて同じ司法書士へ依頼し、手数料を調整してもらう方法があります。見積書は、複数の司法書士から取り寄せて比較すると安心です。

根抵当権の抹消手続き

不動産を売却したり、借換えを行うためには、根抵当権の抹消が必要です。根抵当権は、借り入れを完済しても自動的に消えないため、元本を確定させたうえで抹消登記を行う必要があります。

この章では、根抵当権の抹消手続きのタイミングや費用内訳を詳しく見ていきましょう

元本確定のタイミング

「元本確定」は、根抵当権の効力が及ぶ範囲を確定させる手続きです。元本確定という手続きを経て、初めて新しい債務を担保しなくなります。確定後は通常の抵当権と同じ扱いになり、抹消登記が可能となります。

元本が確定する主なケースは以下の3つです。

  • 当事者の合意で確定する
  • 当初契約の期限(元本確定期日)が到来する
  • 強制執行や破産手続開始が始まった。

元本を確定させないと抹消登記ができず、売却や借り換えは進められません。元本確定通知書を金融機関から受領したら、速やかに抹消登記の準備を進めましょう。

抹消登記の流れ

抹消登記は、以下の流れで行います。

  • 元本確定
  • 金融機関から抹消登記に必要な書類(根抵当権解除証書)を受け取る
  • 抹消登記申請書を作成し、管轄の法務局へ提出
  • 登記完了後に登記完了証を受領。識別情報が失効

手続きの費用

抹消登記の手続きの費用は、以下が目安になります。

区分 金額目安
登録免許税 登記申請する不動産1件につき1000円
司法書士報酬 1.5〜3万円
書類取得費 数千円

抹消登記は、 申請後1~2週間ほどで完了することが多いですが、書類準備や金融機関の手配が重なると 、全体では4〜6週間ほどかかる場合もあります。

まとめ

根抵当権は将来の借入も含めて一括で担保できる仕組みで、継続的な資金需要に対応する企業融資に適しています。

ただし、元本が確定しないと抹消できないため、不動産の売却や借換えを予定する場合は、資産の流動性が制約されるリスクがあります。

有効に活用するには専門的な知識が必要なので、司法書士や金融機関に早めに相談し、契約内容や費用を十分に理解してから手続きを進めましょう。

実務では、中小企業の継続的な資金調達で根抵当権が広く活用されています。根抵当権の設定は将来の取引を見据えた重要な判断なので、制度の仕組みを理解したうえで、資金計画と合わせて利用を検討してください。

吉満 博
吉満 博

保有資格:宅地建物取引士/2級ファイナンシャルプランニング技能士/住宅ローンアドバイザー
経歴:理工学部建築学科を卒業後、建設会社とハウスメーカーで7年間にわたり建築設計を担当し、意匠・法規への実践的理解を習得。その後、通信業界で15年間、営業・管理業務に従事し、プロジェクトマネジメントを経験。その後、自身の住宅購入をきっかけに不動産売買・コンサルティング事業で独立(8年間)。現在は、これまでの設計・不動産売買の実務経験を活かし、住宅不動産・金融・相続分野でライター・マーケターとして活動。

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