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「隣地斜線制限の計算が難しい」
「用途地域や天空率との関係がわからない」と困っていませんか?
設計を進めたいのに、どこから手を付ければいいのか分からず不安な方も多いでしょう。
この記事では、隣地斜線制限の基礎知識から、他の斜線制限との違い、緩和条件、計算手順までをわかりやすく解説します。
隣地斜線制限とは、隣地境界線からの水平距離に応じて建築物の各部分の高さを制限し、周辺の採光・通風の確保を図る規定です。適用範囲は、基準高さ(用途地域により20mまたは31m)を超える部分に及び、一定の勾配の斜線内に建物を収める必要があります。
区分 | 起算点 | 主な勾配 | 目的 |
---|---|---|---|
低層住居専用地域・田園住居地域以外の用途地域 | 敷地境界線 | 1.25/2.5 | 採光・通風の確保 |
隣地といっても、道路に接する部分の制限は、道路斜線制限があるため適用されません。
また、第1種・第2種低層住居専用地域や田園住居地域は、建物の高さが原則として10mもしくは12mに制限されるため、隣地斜線制限の適用はありません。
隣地斜線制限とよく混同される制限に「北側斜線制限」「道路斜線制限」「日影規制」があり、これらは目的と起算点が異なります。
規制名 | 起算点 | 設定目的 |
---|---|---|
北側斜線 | 敷地北側の境界線 | 低層住宅地の冬季の日照確保 |
道路斜線 | 前面道路の反対側境界線 | 道路空間の採光・通風確保、圧迫感緩和 |
日影規制 | 条例で制定する対象区域で、敷地境界線から一定の範囲の日影時間を規制 | 中高層建物の周辺日照の確保。対象区域や規制値は自治体の条例で制定 |
まずは各規制の位置づけを把握し、どの制限を優先的に満たすか整理しましょう。
北側斜線制限より日影規制の方が優先されるため、事前協議では双方の適用関係がわかる図面を提出しましょう。
隣地斜線制限は用途地域ごとに基準となる高さと勾配係数が異なり、住居系の用途地域の方が商業・工業系地域より厳しい基準が設定されています。
住宅系の用途地域では 、高さの基準は20m、斜線の勾配は1.25です。
ただし、中高層住居専用地域の場合は日影規制の対象区域に指定されることが多く、その場合、北側斜線は適用除外になります。
第1種低層住居専用地域および第2種低層住居専用地域、田園住居地域は、北側斜線制限や日影規制が厳しいため、20mを超える建物を建てることはなく、隣地斜線制限は適用対象外となります。
商業・工業系の用途地域では、高さの基準は31m、斜線の勾配が 2.5となっています。商業・工業活動の促進を目的とする用途地域であるため、住居系地域より制限が緩くなっています。
ただし、天空率によって同程度以上の環境が確保できることが判断できれば、隣地斜線制限は適用除外となります。
用途地域の指定がない地域の斜線制限は、特定行政庁が告示で定めるため、計画地の自治体の最新情報を確認しましょう。
隣地斜線制限には、法令などで定められた緩和規定が あります。代表的なものは次の4つです。
いずれも自治体が定める細則や告示によって運用は異なるため、計画当初から建築指導課などの担当者と協議することが重要です。
この章では、これらの4つの緩和規定について解説します。
敷地境界線から建物を一定距離を後退させると、本来より外側に隣地境界線があるものとして隣地斜線制限を適用できます。
後退した距離は、基準となる高さ(20mあるいは31m)を超える部分で算定し、後退した距離分と同じだけ、本来の敷地境界線より外側から隣地斜線制限を適用可能です。
基準点が外側に移動することにより、建物の高さに余裕を持たせられるようになります。
緩和を受けるには、確認申請図面で境界線と後退距離を明示する必要があります。また、後退部分も敷地面積に含まれるため、建ぺい率や容積率は通常通りに算入されます。
計画地の地盤が隣地より1m以上低い場合、隣地斜線制限が緩和されます。
この場合、隣地との高低差から1mを引き、残りの2分の1だけ、敷地が高いものとみなすことが可能です。
たとえば、隣地より地盤が2m低い場合、(2m-1m)×1/2=0.5m(50cm)だけ高い位置から、隣地斜線を起算することができます。基準点が高くなる分、建物の高さにも余裕ができます。
地盤の高さ(隣地のレベル)を測るのは簡単ではないので、ハウスメーカーやデベロッパーと相談しながら慎重に検討しましょう。
隣接地が将来的に建物が建つ可能性がない場合、日照への影響が小さいため、規制が緩和されます。
具体的には、隣接する公園や広場、水面の幅の2分の1だけ、隣地境界線が外にあるものとみなすことが可能です。
ただし、将来にわたって空地の空間が確保され、民間で所有する敷地などにならないことが条件となります。
緩和の適用を受けるうえで、自治体から隣接地の用途を示す公図や追加の資料などの添付を求められる場合があります。
隣地斜線・道路斜線は天空率を用いた評価で基準に適合すれば、斜線制限は適用されません。つまり、隣地斜線制限そのものの適用がなくなります。
天空率とは、ある地点から見た時に空が占める割合を指します。建物が高くなるほど空が見える割合は少なくなるため、この割合を基準として採光や圧迫感をどの程度確保できるかを評価する指標です。
建物の高さが、天空率を用いた評価基準に適合すれば、隣地斜線制限の適用は受けません。
天空率の計算は複雑なため、通常は天空率に対応している専用のソフトを使用して計算する必要があります。また、審査基準についても自治体に確認が必要です。
隣地斜線制限は、境界線の位置や基準高さの設定を誤ると、図面の修正や是正が必要になります。以下の手順を踏むことで、計算と申請をスムーズに進められます。
敷地形状が複雑な場合、境界線や基準点の判定は慎重に行いましょう。
隣地斜線の計算根拠は、建築基準法第56条および建築基準法施行令135条の3に基づき、自治体ごとに整理されています。申請に際しては所管自治体の資料や指導に従う必要があります。
隣地斜線制限は、隣地境界からの基準高と勾配で建物の高さを規制する制度です。適用の有無や勾配係数は、用途地域によって異なり、施行令や条例に基づく緩和制度や適用除外が設けられています。
これらの要点を押さえていれば、大幅な設計変更を回避しやすくなるでしょう。
不明点がある場合は、自治体との協議を早めに進めることが重要です。